[文書名] Global Conference on Cyber Space 2017:堀井学外務大臣政務官スピーチ
議長,ご来席の皆様,
はじめに—マルチステークホルダーによる自由・公正・安全なサイバー空間を
今般,「サイバー空間に関するニューデリー会議」(GCCS)が,13億の国民を抱える世界最大の民主主義国そしてIT大国であるインドでこのように盛大に開催され,私自身が参加できることを大変光栄に思います。
これまでGCCSでは,マルチステークホルダー・アプローチという考え方の下,政府だけでなく,民間や学術界,市民社会から幅広い参加者を得て,より多くの人々に,自由,公正かつ安全なサイバー空間を創出・発展させるべく議論が重ねられてきました。
「みんなのためのサイバー空間(Cyber4All)」というテーマの下,会議を主催するナレンドラ・モディ首相そしてラビ・シャンカー・プラサド法務兼電子情報技術大臣をはじめとするインド政府のリーダーシップに,心より謝意を表します。
我が国の「Society5.0」は「みんなのためのサイバー空間(Cyber4All)」
皆さんもご承知のとおり,インターネットやスマートフォンの普及,そしてビッグデータやクラウドの発展は,これまでにない様々な新しいサービスを生み出し,雇用を創出しています。
我が国においては,GCCSの発展と同じくして2012年以降,アベノミクスの下でこれまで「できるはずがない」と思われてきた改革を様々に実現してまいりました。日本は今,IoT,ビッグデータ,人工知能(AI),ロボット,シェアリングエコノミーを含む第4次産業革命のイノベーションをあらゆる産業や社会生活に取り入れ,「必要なモノ・サービスを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供する」ことにより,様々な社会課題を解決する「Society5.0」を目指しています。眠っている様々な知恵・情報・技術・人材を「つなげ」るためには,自由,公正かつ安全なサイバー空間や官民間の協力が不可欠であり,我が国が目指す「Society5.0」は,今回の会議の主題である「みんなのためのサイバー空間(Cyber4All)」とも軌を一にするものであると考えています。
サイバーセキュリティの重要性
しかしながら,サイバー空間の広がりは,新たな課題も生み出しています。マルウェアによって病院のシステムがダウンし,多くの一般市民の生命の安全が脅かされたワナクライの事案について皆さんもご記憶にあるでしょう。また,政党制や選挙プロセスという民主主義の根幹に対する挑戦についても記憶に新しいところだと思います。もちろん,我が国もこうしたサイバー攻撃の例外ではありません。2015年5月には,国民の大切な年金を預かる日本年金機構から,サイバー攻撃により約125万人の情報が流出する事態が起こりました。
このことは,新しいイノベーションを生む孵化器としてのサイバー空間のセキュリティの重要性を明示しています。
サイバーセキュリティ強化のための日本の「サイバー外交」
そこで,広大なサイバー空間のセキュリティを確保していく方途について,ごく簡単に,我が国のサイバー外交の三つの柱についてご紹介したいと思います。
(サイバー空間における法の支配の推進)
第一の柱は,「サイバー空間における法の支配の推進」です。あらゆる紛争は,力や威圧ではなく「法」に基づいて未然に防止され,平和的に解決されなくてはなりません。日本は,従来の国際法がサイバー空間にも適用されるとの立場から,国際的なルールや規範を率先して実践し,もってサイバー空間における法の支配を確立させるとともに,国際社会の平和と安定を実現していきます。また,これまでサイバー空間が民間主導で発展し,今も実質的に運営されている事実を踏まえ,マルチステークホルダー・アプローチの下,すべての関係者の声を届けつつ,インターネット・ガバナンスのあり方について議論していきます。
(信頼醸成措置の推進)
第二の柱は,「信頼醸成措置の推進」です。サイバー空間における活動は,中々目に見えませんし,国境を容易に飛び越えます。サイバー活動を発端とした不測の事態を防ぐためには,お互いの法令,制度,政策,戦略及び考え方について理解を深め,共有し,相互に信頼性を高めることが必要です。
こうした考えの下,日本は,14の国・地域との間でサイバーに関する二国間協議や多国間協議を行っています。また,直近の取組として,ASEAN地域フォーラムにおいて,サイバーセキュリティに関する会期間会合を立ち上げました。この枠組みを通じ,アジア太平洋地域における信頼醸成,国際連携,能力構築,さらには国際法・規範の普遍化・履行の取組を促進していきたいと考えています。
(能力構築支援)
第三の柱は,「能力構築支援」です。世界中で繋がるサイバー空間においては,一国のみでサイバー攻撃に対応することは困難です。意識や能力が十分でない国々を経由して,サイバー攻撃が行われる可能性は排除できません。国際的にセキュリティホールをなくすためには,各国が様々なサイバー攻撃に対する十分な対応能力を有することが不可欠です。
2015年9月,国連で「持続可能な開発目標」が採択されました。我が国としては,内閣総理大臣を本部長とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」の下,「持続可能で強靱,そして誰一人取り残さない,経済,社会,環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ため,一層情報通信技術を活用して参ります。
結語
サイバー空間が将来にわたりイノベーションや繁栄を生み出し続けるためには,インド太平洋と同様に,自由,公正かつ安全な空間である必要があります。このような観点から,本日は,サイバー空間のセキュリティを確保するための取組として日本のサイバー外交についてご紹介しました。
最後に個人的なことを申し上げますが,私自身,1994年リレハンメル冬季オリンピックに出場した者として,日本が,2019年にラグビーワールドカップを,そして2020年に東京オリンピック・パラリンピックを主催することを大変喜ばしく思っています。日本は,これらのイベントの主催に当たり,サイバーセキュリティの観点からも万全の準備をする予定です。日本人として,そしてオリンピアンの一人として,是非一人でも多くの皆さんに,これらの機会に安心して訪日していただき,Society5.0を目指す国を体験していただくとともに,世界一級のスポーツのリアルな感動を共有できればと思います。
ご静聴いただき,ありがとうございました。
(了)