[文書名] 鈴木副大臣講演:Cyber Initiative Tokyo 2019
●皆様,おはようございます。ご紹介いただきました外務副大臣の鈴木馨祐です。本日は昨年に引き続きまして,この「Cyber Initiative Tokyo 2019」,開催されますこと,誠におめでとうございます。『迫る大変革,サイバーセキュア社会への挑戦』といったサブタイトルにもございますように,今,日進月歩の技術の中で大変大事なタイミングを迎えていると思っております。
●本日は世界中から,著名なサイバーセキュリティ関係者を集めた国際会議が日本で開催されるということを私も大変嬉しく思っております。主催者の皆様方におかれましては,イベントを成功裏に開催することができたことを,お祝い申し上げます。
●皆様,ご承知のとおり,スマートフォンの普及であったり,あるいはビッグデータ,クラウド,IoT技術の進展などに伴い,様々な新しいサービスが生み出されております。そして同時に,雇用を創出しているところでもあります。AIや第5世代移動通信システム等の新たな革新的な技術の登場によりまして,サイバー空間の重要性は,ますます高まるばかりです。一方,こうした技術によって社会があらゆる面でインターネットに依存をする新しい状況の中で,社会の脆弱性も大変高まっている傾向があります。IoT社会を実現する上でも極めて重要である第5世代の移動通信システム,いわゆる5Gネットワークにつきましては,従来の3Gあるいは4Gといったものと比較し超高速,超低遅延,多数同時接続を実装する等,革新的なとても期待をされた
技術です。一方,ネットワーク構造が従来と異なる,即ちハードウェアを中心に動かしてきた従来の構造からソフトウェアというもの,その脆弱性というものが非常に大きな致命傷となりうる状況となってきております。まさに安全性というものがそれぞれのソース構造,ソースコード,こういったものに大きく依ることにもなってきています。そして,そういった意味では,新たなセキュリティ対策が必要となることが今,喫緊の共通の課題となってきています。特に来年は,日本(東京)ではオリンピック,パラリンピックも開催されることで,大変大きな注目が集まることも予想されていますし,また,負荷ということでも大変大きなものがかかってくることが予測されている状況であります。
●まさにそうした中で,新たな脅威を生み出しているこのサイバー空間の広がりでありますけれども,例えば,2017年にはマルウェアにより病院のシステムがダウンして,多くの一般市民の方々の生命が脅かされた「ワナクライ」事案があります。当事案の背後には北朝鮮の関与があったと言われていますけれども,この事案以降も,今年2月にもオーストラリアの連邦議会等へのサイバーアタックが非常に注目をされたところです。まさにこうした形で,多くの事案が発生をしている状況にあります。そして,まさにこうしたサイバー攻撃は日本と無関係では全くなく,日本の企業あるいは銀行のウェブサイトに対する不正アクセスによる情報流出事案,あるいは巨額の仮想通貨等が奪われたサイバーアタック等々,皆様方の御記憶にも新しいところではないかと思っております。
●こうした脅威に一国のみで対応することは,現実的には容易ではありません。関係国との協力がきわめて大事になってくるところです。また,実際のサイバー空間が将来にわたりまして,イノベーションや繁栄を生み出し続けるためには,自由,公正そして安全な空間であることが極めて大事になってまいります。こうした状況を維持していくためには,ルールに基づいた国際秩序が不可欠であり,その国際秩序を形成をしていくためには国際社会全体との連携,そして産学官の垣根を越えた協力というものがきわめて大事になってまいります。こうした観点からも,本日の会議は,大変有意義なものと考えており,主催者の皆様方には改めて感謝を申し上げたいと思います。この機会を利用いたしまして,日本が進めている,「法の支配の推進」,「信頼醸成措置の推進」,「能力構築支援」,まさにこの三本柱が今,サイバー外交の柱ということでありますけれども,それぞれについて簡単にご紹介申し上げたいと思います。
●まず最初の柱であります,「法の支配の推進」についてです。「自由,公正かつ安全なサイバー空間」の実現と発展を促進するためには,既存の国際法がサイバー空間にも適用されることを明確にするとともに,サイバー空間における責任ある国家との行動に関する非拘束的で自発的な規範を形成をすることによって国際社会の安定性と予見可能性を確保することが極めて大事になってまいります。そして,政府による取組としましては,我が国が,国連における政府専門家会合(GGE)に第3会期から参加し,サイバー空間における規範の形成や既存の国際法のサイバー空間への適用など,議論に貢献してきております。日本の立場としては,サイバー空間にも自衛権,あるいは国際人道法を含む既存の国際法が適用されると共に,国際違法行為を構成するサイバー攻撃に対し,各国は国家責任の法理に基づいて国家責任を負う,その国の義務履行を促す目的で損なわれた法益と均衡のとれた様々な対抗措置を取りうるものです。我が国は本年に設置されました国連GGEの第6会期のメンバーでありますが,我が国は本年より開始されたサイバーに関する国連オープンエンド作業部会と併せまして,これまで蓄積をされてきた議論を後退させることなく,各国とも連携をしながら,両会合における議論に積極に貢献をしております。
●そして近年,国家あるいは国家から支援を受けた組織によるサイバー攻撃が増加していますが,サイバー空間における活動であっても,国家は当然,国際法に縛られるということです。そして,その行動には結果が伴っていかなくてはなりません。また,国家は自国の領域が悪意あるサイバー活動に利用されないように努めていかなければならないということです。そのような認識の下,我が国は,例えば昨年の12月,中国を拠点とするAPT10と呼ばれるサイバー攻撃グループを断固非難する声明を発出をしております。また,今年9月の米国主催のサイバーセキュリティに関する閣僚級会合にも我が国からも出席をいたしまして,サイバー空間における責任ある国家の行動の枠組みを支持をしていく,そしてそれに反して行動する国家に責任を負わせるために協力をする旨の共同声明に支持を表明したところです。
●そして第二の柱である「信頼醸成措置の推進」も極めて大事な柱です。サイバー空間における活動は,匿名性が高く,そして瞬時に国境を越えてしまうものです。サイバー空間を発端とした不測の事態を防ぐためには,お互いの法令,制度,政策,戦略や考え方についての理解を深め,そしてそれを共有して,相互に信頼性を高めていくことが極めて大事です。こうした考えの下,日本は米国を始めとして,イギリスや豪州,さらにはロシア,EU,ASEAN等と多くの国・地域との間で,サイバーに関する二国間協議を行ってまいります。
●そして,信頼醸成におきましては,地域的な枠組みで実践的な取組を行うことが非常に重要であります。日本は,ASEAN地域フォーラムにおきまして,シンガポールとマレーシアとの共同イニシアティブの下,サイバーセキュリティに関する会期間会合を立ち上げまして,具体的な信頼醸成措置を提案してきているところです。これまで各国のサイバーセキュリティ政策やベスト・プラクティス等の共有に関する信頼醸成措置など,我が国提案のものを含め4つの信頼醸成措置について合意をしてきています。このような流れの中で,日本として,来春開催予定の次回のARF会期間会合をホストすることになっております。
●そして三つ目の,最後の柱ですが,「能力構築支援」も欠かすことができないところです。世界中に繋がるサイバー空間におきましては,セキュリティ意識,さらには対処能力が十分ではない国々を経由をして,サイバー攻撃が行われる可能性は排除することができません。したがいまして,サイバー攻撃が行われる,こうしたサイバー空間における「セキュリティホール」を我が国を含む世界全体にとってのリスク要因として,国際的になくしていかなければならないといった状況にあります。そういったことからも,各国が同じスタンダードできちんと,様々なサイバー攻撃に対する,十分な対応能力を共有をしていくことが極めて大事になってまいります。
●その意味におきましては,開発途上国への能力構築支援や人材育成が我が国自体の安全性をしっかりと確保する上でもきわめて重要になってまいります。我が国といたしましては,ASEAN諸国を中心として様々な能力構築支援を行ってきているところであります。我々外務省におきましても,日本ASEANサイバー犯罪対策対話等の枠組みにおいて,サイバー犯罪対策に関する情報共有であったり,あるいは実務スキル等の強化等を実施しているところです。そして同時にJICA,NISC,総務省,経済産業省においても,それぞれ様々な取組を進めてきているところです。
●そして最後になりますけれども,「自由,公正,そして安全なサイバー空間」を実現するためには,当然,これは政府だけの取組では十分ではないことは皆さんにも共有いただいているところであろうと思います。サイバー空間の重要な一部であるインターネットは,政府だけではなく,企業あるいは学術機関,そして個人をも含む多くのステークホルダーが一緒に築き上げてきた空間であります。近年,一部の国においては,国家が優越的な地位からインターネット空間の管理や統制を重視をするという潮流が正直出てきているところは否定ができません。しかし,こうした国によるインターネット空間の過度な管理や統制というものは国際的なマルチステークホルダーの取組に対する対抗であるということであろうかと思います。こうしたサイバー空間は自律的でさらには持続的な発展は極めて大事でありますけれども,こうしたものを国による過度な介入は阻害をすることにもなりかねません。学術界あるいは民間の取組と政府の努力を有機的にしっかり結合することでこうした今の新しい潮流に対応していくことが極めて大事になってこようかと思います。その結果として,「自由で,公正かつ安全なサイバー空間」ということを実現をしていく,まさにこのことが,これからの,トッププライオリティーになっていくのではないかと思っております。
●こうした意味では,本日,「CyberInitiativeTokyo2019」が,本当に多くの方々のご協力の下で東京で開催されたのは大事なことだと思っておりますし,是非これからのセッションにおきましても多くの視野から是非知見の共有をいただきまして,新しい枠組みを創っていく,一つのキックオフとしていただければ大変ありがたいと思っています。改めまして,多くの皆様方の参加に,御参加に敬意を表しますと共に,今日主催をいただきました,あるいは共催をいただきました多くの皆様方に日本政府としても改めて心から感謝を申し上げまして,私からのご挨拶とさせていただきたいと思います。誠におめでとうございます。
(了)