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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 協力及び電子的証拠の開示の強化に関するサイバー犯罪に関する条約の第二追加議定書の説明書

[場所] 
[年月日] 2022年5月12日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

一 概説

1 議定書の成立経緯

 この議定書は、我が国が平成十三年(二千一年)に署名し、平成二十四年(二千十二年)に締結したサイバー犯罪に関する条約の追加議定書である。同条約委員会のクラウド証拠作業部会が、容易に国境を越えるサイバー犯罪への対策を一層強化するため、より迅速かつ円滑な手続による他の締約国からの電子的形態の証拠の収集を可能にするための追加議定書の策定を提言したことを受けて、平成二十九年(二千十七年)にこの議定書の起草交渉が開始され、令和三年(二千二十一年)十一月十七日に欧州評議会閣僚委員会において採択された。この議定書の署名式は、令和四年(二千二十二年)五月十二日にフランスのストラスブールにおいて行われ、我が国は、この議定書に署名した。

2 議定書締結の意義

 この議定書は、締約国間においてサイバー犯罪に関する協力及びあらゆる犯罪に関する電子的形態の証拠の収集を更に強化することを目的として、締約国の権限のある当局の間の協力、他の締約国の領域内に所在する団体等との直接の協力等に関する追加の手段について定めるものである。この議定書の締結は、容易に国境を越えるサイバー犯罪対策のための枠組みとして、他の締約国からより迅速かつ円滑な手続による電子的形態の証拠の収集を可能にするとともに、各国と協調したサイバー犯罪対策の一層の強化に向けた強い決意を国内外に示すとの見地から有意義であると認められる。

3 議定書の締結により我が国が負うこととなる義務

 この議定書の締結により、我が国は、締約国の権限のある当局の間の協力及び締約国と他の締約国の領域内に所在するドメイン名の登録サービスを提供する団体との間の直接の協力を可能にするために必要な立法その他の措置をとること、この議定書に基づく個人情報の移転や処理等について個人情報の保護のための適当な保障措置等をとること等の義務を負う。

4 早期国会承認が求められる理由

 この議定書は、サイバー犯罪に関する条約の五の締約国がこの議定書に拘束されることについての同意を表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。我が国は、これまで、サイバー犯罪に対処するための国際協力に積極的に参加するとともに、アジア地域において唯一の欧州評議会のオブザーバー国としてこの議定書の起草交渉に大きな役割を果たしてきた。一層深刻化するサイバー犯罪に対する国際的な取組に貢献するためには、我が国がこの議定書を早期に締結し、その早期発効及び効果的な実施のために引き続き主導的な役割を果たすことが望ましい。

5 我が国が行う宣言

 この議定書は、それぞれの締約国の国内事情を尊重するとの観点から、一部の規定を適用しないこと(留保)等につき宣言することを認めている。我が国は、この議定書の締結に当たり、第十九条の規定に従って次の内容の宣言を行う予定である。

 (1) 第七条9aの規定に基づき、同条の規定を適用しない権利を留保すること。

 (2)第八条 の規定に基づき、同条の規定に基づく他の締約国からの要請が、当該締約国の中央当局又は我が国と当該締約国との間の合意により決定されるその他の当局によって提出されることを要求すること。

二 議定書の内容

 この議定書は、前文、本文二十五箇条及び末文から成り、その概要は、次のとおりである。

 1 目的(第一条)

  この議定書がサイバー犯罪に関する条約及び第一追加議定書を補足することを目的とすることを規定している。

 2 適用範囲(第二条)

  この議定書に定める措置が適用される事項及び各締約国がこの議定書に定める義務を履行するために必要な立法その他の措置をとることを規定している。

 3 定義(第三条)

  サイバー犯罪に関する条約の一部の規定に定める定義はこの議定書について適用することを規定しつつ、追加の定義として「中央当局」、「権限のある当局」、「緊急事態」、「個人情報」及び「移転締約国」を規定している。

 4 言語(第四条)

  締約国に提出される要請及び命令等は、要請等を受ける締約国が受け入れることができる言語によるものとし、又はそのような言語による翻訳文を添付すること等を規定している。

 5 第二章(協力の強化のための措置)の規定について適用される一般原則(第五条)

  締約国は第二章の規定に従い、できる限り広範に協力すること、同章の規定と相互援助条約等との適用関係、同章の規定は他の適用可能な協定等を通じた締約国間の協力及び締約国とサービス・プロバイダその他の団体との間の協力を制限するものではないこと等を規定している。

 6 ドメイン名の登録情報の要請(第六条)

  各締約国は、自国の権限のある当局に対し、特定の捜査又は刑事訴訟を目的として、他の締約国の領域内に所在するドメイン名の登録サービスを提供する団体が保有し、又は管理しているドメイン名の登録者を特定等するための情報を提出するよう当該団体に要請を発する権限を与え、また、自国の領域内に所在する団体が、国内法令に定める合理的な条件に従い、他の締約国からの要請に応じて情報を開示することを認めるため、それぞれ必要な立法その他の措置をとること等を規定している。

 7 加入者情報の開示(第七条)

  各締約国は、自国の権限のある当局に対し、特定の捜査又は刑事訴訟のために必要な場合には、他の締約国の領域内に所在するサービス・プロバイダが保有し、又は管理している加入者情報を開示するよう当該サービス・プロバイダに直接命令を発する権限を与えるため、また、自国の領域内に所在するサービス・プロバイダが、他の締約国からの命令に応じて加入者情報を開示することができるようにするため、それぞれ必要な立法その他の措置をとること等を規定している。

 8 加入者情報及び通信記録の迅速な提出のための他の締約国からの命令の執行(第八条)

  各締約国は、自国の権限のある当局に対し、特定の捜査又は刑事訴訟のために必要な場合には、他の締約国への要請の一部として、要請を受ける締約国の領域内に所在するサービス・プロバイダが保有し、又は管理している加入者情報又は通信記録を提出することを当該サービス・プロバイダに強制するための命令を発する権限を与えるため、また、要請を行う締約国が提出した命令を執行するため、それぞれ必要な立法その他の措置をとること等を規定している。

 9 緊急事態における蔵置されたコンピュータ・データの迅速な開示(第九条)

  各締約国は、サイバー犯罪に関する条約第三十五条に規定する週七日かつ一日二十四時間利用可能な自国の連絡部局が、緊急事態において相互援助の要請なしに、他の締約国の領域内に所在するサービス・プロバイダが保有し、又は管理しているコンピュータ・データの迅速な開示を得るための即時の援助を求める要請を当該他の締約国の連絡部局に伝達し、及び同様の要請を他の締約国の連絡部局から受領することができるようにするため、また、自国の当局が、他の締約国からの要請を受けて、自国の領域内に所在するサービス・プロバイダに対してコンピュータ・データを求めること、要請を行う締約国に対し、要請されたコンピュータ・データを提供すること等を行うことを可能にするため、それぞれ必要な立法その他の措置をとること等を規定している。

 10 緊急事態における相互援助(第十条)

  各締約国は、緊急事態が存在すると認める場合には、特に迅速な相互援助を要請することができること、要請を受ける締約国は、緊急事態が存在し、かつ、相互援助のための他の要件が満たされたと認める場合には、特に迅速に要請に回答すること等を規定している。

 11 ビデオ会議(第十一条)

  締約国は、証人又は専門家からビデオ会議により証言及び供述を取得することを要請することができるものとし、要請を受ける締約国は、これを認めることができること等を規定している。

 12 共同捜査チーム及び共同捜査(第十二条)

  二以上の締約国の権限のある当局は、相互の合意により、捜査又は刑事訴訟を促進するため、共同捜査チームを設置し、及び運営することができること、共同捜査チームの運営を規律する手続及び条件は、権限のある当局の間で合意するところによること等を規定している。

 13 条件及び保障措置(第十三条)

  各締約国は、この議定書に定める権限及び手続の設定、実施及び適用が、自国の国内法令に定める条件及び保障措置であって人権

及び自由の適当な保護を規定するものに従うことを確保することを規定している。

 14 個人情報の保護(第十四条)

  個人情報を受領した締約国は、第二条に定める目的のために当該個人情報を処理すること、個人情報を受領する締約国は、自国の

法的枠組みの下で、自国が要請し、及び処理する個人情報が、その処理の目的と関連性を有しており、かつ、当該目的との関係において過度でないことを確保すること、各締約国は、個人情報について、その処理の目的を考慮しつつ、その適法な処理のために必要かつ適当な範囲内において、正確でありかつ不備のないことの維持等を確保するため、妥当な措置をとること、締約国は個人情報が個別の事案においてどのようにアクセスされ、使用され、及び開示されているかを示すため、記録を保持し、又は他の適当な手段をとること等を規定している。

 15 この議定書の効果(第十五条)

  サイバー犯罪に関する条約第三十九条3の規定(同条約のいかなる規定も、締約国が有する他の権利、制限、義務及び責任に影響を及ぼすものではないことを定める。)は、この議定書について適用すること等を規定している。

 16 署名及び効力発生(第十六条)

  この議定書は、サイバー犯罪に関する条約の締約国による署名のために開放しておくこと、この議定書に拘束されることについての同意を表明するための方法、効力発生の時期等を規定している。

 17 連邦条項(第十七条)

  連邦制の国がこの議定書に基づく義務を中央政府と州その他これに類する領域的主体との間の関係を規律する基本原則に適合する

範囲内において履行する権利を留保することができる条件等を規定している。

 18 適用領域(第十八条)

 締約国は、サイバー犯罪に関する条約第三十八条1又は2の規定に基づいて行った宣言において特定した領域について、この議定書を適用しない旨を宣言することができること等を規定している。

 19 留保及び宣言(第十九条)

  締約国は、この議定書の署名の際又は批准書、受諾書若しくは承認書の寄託の際に、第七条9a及びb、第八条 並びに第十七条に定める留保を付する旨を宣言することができること、その他のいかなる留保も、付することができないこと、第七条2b及び8、第八条 、第九条1b及び5、第十条9、第十二条3並びに第十八条2に規定する宣言を行うことができること等を規定している。

 20 留保の撤回(第二十条)

  留保を付した締約国は、状況が許す場合には、当該留保の全部又は一部を速やかに撤回すること等を規定している。

 21 改正(第二十一条)

  この議定書の改正の手続等を規定している。

 22 紛争の解決(第二十二条)

  サイバー犯罪に関する条約第四十五条の規定(同条約の解釈又は適用に関して締約国間で紛争が生じた場合には、交渉又は他の平和的手段により紛争の解決に努めること等を定める。)は、この議定書について適用することを規定している。

 23 締約国間の協議及び実施の評価(第二十三条)

  締約国は、この議定書の効果的な活用及び実施について定期的に評価すること等を規定している。

 24 廃棄(第二十四条)

  いずれの締約国も、欧州評議会事務局長に宛てた通告により、いつでもこの議定書を廃棄することができること等を規定している。

 25 通報(第二十五条)

  欧州評議会事務局長は、欧州評議会の加盟国、サイバー犯罪に関する条約の締約国等に対し、署名、批准書、受諾書又は承認書の寄託等を通報することを規定している。

三 議定書の実施のための国内措置

 この議定書の実施のためには、新たな立法措置及び予算措置を必要としない。


(参考)

1 採択 令和三年(二千二十一年)十一月十七日 ストラスブールにおいて採択

2 効力発生 令和五年(二千二十三年)二月十日現在 未発効(サイバー犯罪に関する条約の五の締約国がこの議定書に拘束されることについての同意を表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。)

3 署名国 令和五年(二千二十三年)二月十日現在 三十四箇国

 アンドラ、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チリ、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、ドミニカ共和国、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、イタリア、日本国、リトアニア、ルクセンブルク、モルドバ、モンテネグロ、モロッコ、オランダ、北マケドニア、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スロベニア、スペイン、スリランカ、スウェーデン、ウクライナ、英国、アメリカ合衆国

4 締約国 令和五年(二千二十三年)二月十日現在 一箇国

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