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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回APEC閣僚会議共同声明

[場所] シンガポール
[年月日] 1990年7月31日
[出典] 通商産業省資料
[備考] 仮訳
[全文]

アジア・太平洋経済協力閣僚会議共同声明

1990.7.29〜31

於 シンガポール

 豪州、ブルネイ、カナダ、インドネシア、日本、マレイシア、ニュージーランド、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ及び米国の閣僚たちは、アジア・太平洋経済協力(APEC)の進捗について引き続き協議をするため、1990年7月30〜31日、シンガポールにて会合を行った。ASEAN中央事務局、太平洋経済協力会議(PECC)及び南太平洋フォーラム(SPF)がオブザーバーとして出席した。同会合に出席した閣僚及びオブザーバー全員のリストは別添の通りである。

2.本会合は、ウオン・カン・セン外務大臣兼社会開発大臣及びリ−・シェン・ロン商工大臣兼第二国防大臣が共同で議長を務めた。

3.閣僚は、2日間の会合の基調を決めることとなったリー・クアン・ユー首相の基調演説を想起した。

「本日参会している全ての国々は、GATT−IMFの多角的自由貿易体制により急速な成長を遂げてきた。この自由かつ公正な貿易システムを開かれたものとして維持していくことが我々全てにとり有益なことである。

 事実APEC諸国は世界においてGATTの良き遵守者の例として自らを確立すべきであり、また、貿易ブロックの形成に反対すべきである。かかる方向で我々は、世界経済の発展に貢献するであろう。」

4.閣僚は、更に、力強い経済活動なしに民主制度が繁栄しえず、また、社会正義も促進しえないことに留意した。それ故、力強い経済成長は地域の安全を促進することとなる。

5.閣僚は次の議題を含め一連の議題について討議を行った。

a 世界及び地域の経済発展/地域経済見通し

b 世界貿易の自由化−ガット・ウルグアイ・ラウンド

c APECワーク・プロジェクト

d 将来の参加

6.閣僚は、ASEAN及びその対話国が、APECの発展に継続して果たしている重要な貢献に敬意を再度表明し、アジア・太平洋経済協力の進展は、ASEANによる建設的な役割を補完し、強化するであろうことを強調した。閣僚は、APECが外に開かれたものであり貿易ブロックの形成を目指すものでないこと、またそれにより世界経済の更なる発展に貢献するものであることを再確認した。

世界及び地域の経済発展

7.閣僚は、世界及び地域の経済発展について意見を交換し、市場指向政策を取る経済が、国民の生活水準を向上させる上で最も成功した部類に属することに留意した。

8.閣僚は、世界経済及び国際貿易は、成長速度はやや鈍化しながらも、1990年及び1991年も引き続き拡大するであろうことに留意した。また、例えば日米構造協議のような、各国の構造調整を実現するに当たっての全ての貿易国による協調的な努力、及びこうした努力が第三国へもたらす対外的効果、すなわち、国内における健全な市場指向政策の重要性に対する自覚の高まり、主要な貿易国間の対外的不均衡の縮小を歓迎した。こうした建設的な発展が、保護主義圧力を後退させ、全ての人々に利益を与える、より活気に満ちた世界経済をもたらすために役立つことに留意した。国際的な協力の強化は、本地域における更なる発展を確保するのに役立つであろう旨合意した。

9.閣僚は、アジア・太平洋地域に新たに出現した貿易、投資及び分業の形態、並びにこうした変化によってもたらされる挑戦及び機会について検討した。本地域における力強い経済成長を背景として、依然存在するインフレ圧力について討議された。閣僚は、かかる圧力がいくらか減少したことに留意した。

10.閣僚は、アジア太平洋地域での国内資本形成及び外国の投資の増加が奨励されるべき旨合意した。また、資金流入の増加は債務関連の問題に対処する方法であるとともに持続的経済成長にとって重要な要因である旨合意した。更に技術移転は経済発展の中心的要素である旨合意するとともにアジア・太平洋地域の域内経済の生産技術に対するアクセスを改善するために努力する必要があることが認められた。

11.閣僚は、地域全体の発展を加速化するとの一般的目的を達成するために協力を行う必要性があることを考慮しつつ、アジア・太平洋地域の経済不均衡を縮小することの緊急性を認識した。

12.閣僚は、東欧・中欧経済が世界へ開かれたものになることに支持及び期待を表明した。また、これら諸国の中央計画経済から市場経済への移行が与える影響及びアジア・太平洋地域に対する意味あいについて討議した。欧州のこうした変化は、当該地域への商品、技術、資本及び投資の流入を増加させ、APEC経済にとって新しい輸出市場をもたらしうるものである。

13.閣僚は、貯蓄に対する世界的な需要増加は、慎重なマクロ経済運営が行われない限り世界の金利を押し上げうるであろう旨留意した。高金利は、債務国に否定的影響を与え、

世界的支払いメカニズムに否定的意味合いをもつであろうことを警告した。アジア・太平洋の途上国経済は、現在よりも更に強力な市場指向的な政策を取ることによって希少な資源に対し活発に競争する必要があろう。

14.閣僚は、西欧の諸国が単一の欧州市場の到来、及び東欧・中欧での展開に一層気を取られることになろう点に留意した。単一の欧州市場の創設がより制限的な貿易ブロックではなく外向きのダイナミックな経済の出現を導くものになることへの期待を表明した。

15.閣僚は、地域の政策担当者間の協議を行うことが、成長を維持し、調整を促進し、経済的不均衡を減少させるための共通の努力を行う上で貴重である旨合意した。

GATT

16.閣僚は、本年のAPECの第一の目標は、ウルグアイ・ラウンドが成功裡に終了することを確保することである旨合意した。このことは、この地域の経済全てが依存する開かれた多角的貿易体制を維持し向上させるために不可欠である。

17.閣僚は、7月にジュネーブで開催された貿易交渉委員会(TNC)の結果をレビューし、意見の相違が交渉の鍵となる分野で引き続き存在することに深刻な懸念を表明した。閣僚は、これらの意見の相違を克服するため緊急に努力するよう呼び掛け、TNCで設定された期限に従い交渉を前進させるとの決意を表明した。かかる決意に照らし、各閣僚は柔軟性を高め、90年8月27日に再開されるであろう交渉の中で突破口を作りやすくすることを自指して、全ての交渉ポジションを大至急レビューすることに合意した。閣僚は、APECに属さない全ウルグアイ・ラウンド参加国にも同様のレビューを行うよう促した。

18.閣僚は、ウルグアイ・ラウンドに関するシンガポールAPEC宣言(別添B)を発出し、ラウンドに関するAPEC代表間での協議を強化するよう指示した。閣僚は、本年9月11日及び12日ヴァンクーヴァーにおいて貿易政策に関するAPEC閣僚会議を開催するとのカナダの決定を歓迎した。彼らはヴァンクーヴァーでの会議においてアジア・太平洋の見解がより確固たるものになることを希望した。

地域貿易自由化

19.閣僚は、ウルグアイ・ラウンド終了後も、APECの中心的課題は依然としてより開かれた貿易体制の促進である旨合意した。この関連で、商品及びサービスの貿易に関する障壁を参加国間で削減することが、かかる自由化がGATTの諸原則に合致し、かつ、第三者を害することがない限りにおいて、望ましい旨合意した。閣僚は、高級実務者がかかる目的に向けての可能性を探求すべきであり、本件につき、ソウルでの会議においても更に議論すべきである旨合意した。

ワーク・プロジェクト

20.キャンベラ会合において、閣僚は、APECが目に見える成果を導きたいとすれば、一般原則に関する合意を超えて進展させる必要があることに合意した。閣僚は、ワーク・プログラムの策定のための基礎として、経済研究、貿易自由化、投資・技術移転及び人材養成、分野別協カといった幅広い協力分野を特定した。

21.閣僚は、1990年3月及び5月にシンガポールで行われた高級事務レベル会合において、ワーク・プログラムについて相当な進展があったことに満足の意を表明した。7つのワーク・プロジェクト候補が特定され、作業が既に開始された。ワーク・プロジェクトに関する数多くのシェパード会合及びワーキンググループ会合がAPEC各国で行われた。7つのワーク・プロジェクトは、以下の通りである。

a 貿易・投資データのレビュー

12のAPEC諸国間における信頼性のある比較可能な貿易及び投資フローに関するデータの開発。最初の重点は比較可能な商品・貿易データの改善におかれているが、サービスと投資フローのデータについても予備的な作業が進行中である。

b 貿易促進:協力のためのプログラムとメカニズム

国際分業と比較優位から生じるポテンシャルが十分に利用されるよう、APEC諸国間及び域外との貿易の拡大を助長・促進するため、第1回会合において5つのプログラムが提案された。これらのプログラムは、貿易・産業情報の交換、貿易・経済ミッション、貿易促進セミナー、貿易フェア、研修課程を含む。各プログラムにそれぞれ一国の調整国が指定された。また、この地域の民間セクターの積極的な関与が域内貿易の拡大に不可欠であること、民間セクターの代表が各プロジェクトに密接に関与すべきであることも合意された。

c アジア・太平洋地域内の投資・技術移転の拡大

アジア・太平洋地域における投資・技術移転の拡大を通じて、経済発展を促進させる。そのため、以下の2つのプロジェクトがとりあえず実施に移される。即ち、既存の情報源を考慮に入れたアジア・太平洋地域における投資・技術情報ネットワークの設立、及び投資拡大と技術移転にとり潜在的に効果的な手段であるテクノパークの設立と運営に関する経験の伝幡である。上記の2つのプロジェクトは、研究と開発分野の協力を含むものである。

d アジア・太平洋多国間人材養成構想

ASEAN諸国における国家開発政策の立案者・調整者及び民間部門の経営者・技術者の深刻な不足を特に考慮し、開発管理・計画、企業経営、産業技術、技術訓練等の分野でのAPEC地域における人的資源の開発活動を促進すること。この点に関して、閣僚は教育分野におけるAPEC協力に対する米国のイニシアティヴに積極的に留意した。

e 地域エネルギー協力

アジア・太平洋地域のエネルギー分野に影響を与える問題及び開発に関し、ハイレベルの政策決定者間で交流を行うための手段の提供。エネルギー趨勢に関する情報交換、需給見通し、エネルギー保存と効率性、研究開発、環境要因及びエネルギー技術の移転に関する情報交換、以上6つの特定のテーマが検討されることとなろう。各テーマの調整国は現在決定されつつある。また、エネルギー専門家会合は本年後半あるいは明年早々に開催されるであろう。

f 海洋資源保全:APEC域内における海洋汚染問題

持続可能な開発の経済的利益として認められる太平洋海洋環境に関する対話の場を設立することを目的とする。右対話の初期の焦点は、危険物質の海洋輸送、海洋汚染物質の投棄、海洋廃棄物の問題である。閣僚への勧告を検討するための専門家によるワークショップが1990年11月、ヴァンクーバーにおいて行われる。

g 通信

人材養成、技術移転と地域協力、施設の訪問・視察・提携の機会、及び(設備の互換性を含む)通信の規格の統一化を優先分野とすることに配慮した特定のプロトタイプ・プロジェクトの研究。

22.閣僚は、7つのワークプロジェクトがAPEC地域間のより密接な協力のための具体的分野であることをレビューし、是認した。閣僚は、高級実務者にこれらワークプログラムが最善の結果に達するよう推進することを奨励した。閣僚は、APECを進める上で、作業の重複を避けるため可能な限り既存の協力体制を利用すべきであることを再確認した。閣僚は、APECのワーク・プログラムすべてにつき民間セクターとの密接な共同作業が必要であることを認識し、特にPECC及びPBECによる価値ある作業に留意した。

23.閣僚は、漁業資源管理に関するPECCのタスクフォースによりて作成された報告に留意し、高級実務者に検討を委託した。また、閣僚は高級実務者に対し、運輸、観光及び漁業分野におい新たな作業計画をとり上げることの潜在的利益につき報告するよう要請した。

今後のAPEC会議の開催地

24.閣僚は、1991年10月中旬にソウルで第3回閣僚会議を開催するとの韓国の申し出を歓迎した。閣僚は、各国の高級実務者に対し、次の閣僚会議の準備のため、ASEAN中央事務局、PECC、SPFの代表と共に、本年後半に会合を行うよう要請した。

25.閣僚は、1992年の第4回閣僚会議を主催したいとのタイの申し出及び1993年に第5回閣僚会議を主催したいとの米国の申し出を歓迎した。

APECへの将来の参加

26.APECは、アジア・太平洋地域において力強いあるいは増大する経済的な結び付きを有する経済主体のハイレベル代表による協議のための非公式なフォーラムであるとの認識の下、閣僚は今後の会議において新規参加問題を引き続きレビューしていくことに合意した。

27.閣僚は、中国、台湾、香港の三経済主体が、現在の経済活動のみならずこの地域の将来の繁栄にとっても特に重要な役割を果たすことを認識した。閣僚は、1989年キャンベラで表明された通り、これらの三経済主体が将来のAPEC協議会合に参加することが望ましいことを再確認した。

28.閣僚は、これら三経済主体及び現在のAPECメンバーがソウルでの会議或いはそれ以後の出来るだけ早い時期にこの三者全てが同時にAPECに参加することを受け入れ得る合意に到達するために、この三者との協議が進められるべきである旨合意した。かかる協議の結果は閣僚に伝えられることとなろう。

その他

29.この第2回会議を締めくくるにあたって、閣僚は今回の討議によって、より緊密な域内協議及び相互に関心を有する事項についての経済協力の価値が再確認されたことに満足の意を表明した。

30.閣僚とその代表団は今次閣僚会議を組織したシンガポール共和国政府及び国民に対しその温かい歓迎及び今次会合の素晴らしい運営につき、感謝の意を表明した。