データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ソウルAPEC宣言

[場所] ソウル
[年月日] 1991年11月14日
[出典] 通商産業省資料
[備考] 仮訳
[全文]

 豪州、ブルネイ、カナダ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、タイ及び米国の代表は、1991年11月12−14日、閣僚レベルでソウルに集い、

アジア・太平洋地域諸経済のダイナミックな成長が、経済的相互依存関係を増進し、地域の経済的ダイナミズムを維持することについての共通の利害関係を強めていることを認識し、

地域及び世界レベルでの自由貿易や投資の拡大について、アジア・太平洋の諸経済が共有する死活的利益及び保護主義が本来的に有している危険性に留意し、

開放性とパートナーシップ精神を基礎としたアジア・太平洋地域内での経済的相互依存関係の健全でかつ均衡のとれた発展が、地域全体の繁栄、安定及び進歩のために枢要であることを認識し、

アジア・太平洋の諸経済相互間の経済的不均衡を減少させる一方、域内諸経済の持続的な成長を達成し、かつ、地域住民の経済的、社会的厚生を改善するためには、地域内の人的資源と天然資源をより効率的に利用するためのより緊密な協力が必要であることを確信し、

1989年11月5−7日にキャンベラで、また、1990年7月29−31日にシンガポールで開催されたこれまでの2回の閣僚会議における建設的な成果、右2回の会合で明らかとなったアジア・太平洋経済協力の基本原則及びアジア・太平洋の参加諸経済間に発展してきた協議と協力のプロセスを想起し、

緊密な地域的繋がりや対話を強化する上で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が行ってきた重要な貢献と太平洋経済協力会議(PECC)が果たしてきた先駆的な役割を評価し、

健全で開かれた多角的貿易体制を強化し、貿易障壁を削減し、国際貿易上の差別待遇を排除する上で、GATTが演じてきた重要な役割を認識し、

アジア・太平洋経済協力は、開かれた地域協力の模範的なモデルたる役目を果たすべきであることを信じ、

ここに次のとおり宣言する。

目的

1.アジア・太平洋経済協力(以下「APEC」という。)の目的は、以下のとおりである。

(a)地域住民の共通の利益のために地域の成長と発展を持続し、もって世界経済の成長と発展に貢献すること

(b)地域経済と世界経済双方のために、財、サービス、資本及び技術のフローを奨励することを含め、経済的相互依存関係の進展に起因する積極的利益の増進を図ること

(c)アジア・太平洋及び他の全ての諸経済のために、開かれた多角的貿易体制を推進・強化すること

(d)適用すべきGATTの諸原則と合致し、かつ、他の諸経済を害することなく、財、サービスの貿易と投資における障壁を参加メンバー間で削減すること

活動の範囲

2.APECは、以下の活動を通じ、共通の利益を推進し、相互利益を達成する可能性のある経済分野に焦点を当てる。

(a)成長を持続し、調整を促進し、経済的不均衡を減少させるための、APEC諸経済の共通の努力に関連する政策や開発についての情報交換と協議

(b)世界及び域内における財、サービスのフロー及び投資に関する障壁を削減するための戦略の推進

(c)地域の貿易、投資、資金フロー、人材養成、技術移転、産業協力及びインフラストラクチャー開発の推進

(d)エネルギー、環境、漁業、観光、運輸及び電気通信のような特定のセクターにおける協力

3.これら各分野に関し、APECは以下の諸点について探求する。

(a)地域における共通の利益を認識し、明確化することを改善し、更に、適宜GATTのような多国間のフォーラムにおいてこれらの利益を増進していくこと

(b)経済的パートナーの政策関心、利害関係及び経験に対する理解、とりわけその国際的な意味合いに対する理解を向上させ、また、適当な分野での政策決定における整合性を助長すること

(c)この地域における経済的なダイナミズムと生活水準向上へ貢献するため、経済協力の実践的プログラムを推進すること

(d)地域協力の利益を極大化させるために、民間部門の役割と自由市場原則の適用を強化・推進すること

運営の方針

4.協力は、以下を基礎とする。

(a)経済の発展段階や社会政治制度の相違を勘案し、かつ、発展途上経済の必要性にしかるべく配慮した、相互利益の原則、及び

(b)全参加メンバーの意見を等しく尊重した、開かれた対話とコンセンサス作りへのコミットメント

5.APECは、参加諸経済のみならずASEAN及び南太平洋フォーラム(SPF)の事務局並びにPECCを含む他の関係機関による調査、分析及び政策的意見を参考にしつつ、APEC諸経済のハイレベルな代表者間での協議と意見交換のプロセスを通じて機能する。

6.APEC諸経済のダイナミズムに対する民間部門の重要な貢献を認識しつつ、APECは、適当なAPECの活動へ民間部門が活発に参加することを歓迎し、奨励する。

参加

7.APECへの参加は、原則としてアジア・太平洋地域に存在する以下の諸経済に対して開かれている。

(a)アジア・太平洋地域において強固な経済的繋がりを有していること、及び

(b)この宣言に具現化されているAPECの目的及び原則を受け入れること

8.将来のAPECへの参加に関する決定は、全ての参加メンバーのコンセンサスに基づくものとする。

9.APECに参加していない諸経済や機関は、全ての参加メンバーによって決定される条件のもとで、APECの会合に招請されることもあり得る。

体制

10.APEC参加メンバーによる閣僚会議は毎年開催され、この宣言の枠組みの範囲内でAPEC活動の方向性と性格を決定し、実施のための計画決定を行う。閣僚会議の主催を希望する参加メンバーは、そうする機会を与えられ、その場合会議の議長を提供する。

11.共通の関心事項に係る特定の問題を扱うため、必要に応じ、追加的な閣僚会議を開催することができる。

12.閣僚会議の決定に従ってAPECプロセスを進展させ、右会議において決定されたワークプログラムを進展させる責任は、参加メンバーからの代表からなる高級事務レベル会合が有する。高級事務レベル会合は、次回の年次閣僚会議の主催メンバーの代表が議長を務め、閣僚会議のための必要な準備を行う。

13.ワークプログラムに基づく各プロジェクトは、参加メンバーからの代表で構成され、一乃至複数の参加メンバーによって調整されるワーキンググループによって遂行される。ワーキンググループは、各プロジェクトに関係する協力の範囲と政策オプションの分野を確認する。

APECの将来

14.APECのプロセスの継続性とダイナミックな活力を認識しつつ、APECは、地域の経済状況や世界的な経済環境の変化に応じ、かつ、アジア・太平洋地域が直面する経済政策的な挑戦へ対応するための柔軟性を保持することとなる。

1991年11月14日 於ソウル