データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC貿易・投資枠組み宣言

[場所] シアトル
[年月日] 1993年11月19日
[出典] 外交青書37号,234ー236頁.
[備考] 仮訳
[全文]

豪州,ブルネイ,カナダ,中国,香港,インドネシア,日本,韓国,マレイシア,ニュージーランド,フィリピン,シンガポール,チャイニーズ・タイペイ,タイ及び米国(以下総称的に“メンバー”と呼ぶ)の閣僚は,1993年11月17−18日,シアトルにて会合を行い,

1.アジア・太平洋地域における開かれた地域主義と市場主導の経済的相互依存関係の更なる発展に向けて,APECを通じて活動することを決意し,

2.域内の貿易と投資の力強くかつダイナミックな成長を,一層の協力の強化と環境の整備を通じて活用したいとの各メンバーの期待を担い,

3.ガットの諸原則が,国際貿易体制の土台であり,APECの下での経済協力の基礎であることを認識し,かつこれらの原則に対するコミットを維持しつつ,

4.協議とコンセンサスによって運営され,開かれた地域主義により特徴づけられ,ガットに体現される多国的貿易体制の強化にコミットするフォーラムとしての,APECの国際的な役割を発展させることを互いに決意し,

5.ダイナミックな相互依存関係についてのAPECのヴィジョンと,国際的重要性をもつ貿易と投資の問題について積極的に共通の声でアジア・太平洋地域の共通の利益を代表できるAPECの能力を国際的に示し,

6.発展段階や社会政治体制の違いを認識し,開発途上にある諸経済のニーズに十分な考慮を払い,

7.貿易と投資と技術フローの間のリンクを認識し,

8.全ての参加メンバーの意見を尊重した開かれた対話とコンセンサスづくりにコミットし,

9.1992年9月11日にバンコックで確認された,以下の1991年11月14日のソウルAPEC宣言の目的を遂行することを決意し,

「・地域住民の共通の利益のために地域の成長と発展を維持し,もって世界経済の成長と発展に貢献すること

・地域経済と世界経済双方のために,財,サービス,資本及び技術のフローを奨励することを含め,経済的相互依存関係の進展に起因する積極的利益の増進を図ること,

・アジア・太平洋及び他の全ての諸経済のために,開かれた多角的貿易体制  を推進・強化すること,

・適用すべきガットの諸原則と合致し,かつ,他の諸経済を害することなく,財,サービスの貿易と投資における障壁を参加メンバー間で削減すること」

10.成長の促進,雇用の創出,貿易と投資の拡大,技術の改善及び経済発展の推進に果たしたAPEC民間部門の重要な役割を認識し,貿易を歪曲する保護主義,特定の投資措置及びその他の差別的で制限的な慣行がAPECの諸経済からそのような利益を奪い取ることを認識し,

11.参加メンバーのガットの下での権利と利益を侵害することなく,かつガットの諸原則と整合的な方法で,地域の貿易と投資の諸問題をできる限り友好的かつ迅速に協議し解決することを切望し,

12.貿易と投資の自由化を促すためのAPECのメカニズムを創設し,この地域で上記の諸目的の達成を支援するために貿易問題に関する作業を進展させることが,APEC諸経済の利益となることを確信し,

閣僚は共同で以下の通り決定する。

一.APEC貿易投資委員会の設立

 APECの閣僚の権威の下に,APEC貿易投資委員会(以下「委員会」と称する)が設立される。委員会は高級実務者会合(SOM)を通じて閣僚に報告を行う。

二.目的

委員会の目的は以下の通りとする,

1.国際貿易・投資問題に関し,APECとしての一貫性のある展望と発言を形成し,枢要な問題に関してメンバー間の協力の強化を図る。

2.貿易を自由化し拡大する機会を追及し,投資のためのより開かれた環境を整備し,域内の財,サービス,資本,技術のフローの促進のためのイニシアティブを発展させる。これらの流れを域内及び世界的に拡大強化し,それを阻害する歪曲要因をガットの諸原則に従い軽減もしくは除去するため,この関連で重要な問題について協議し,コンセンサスの形成を図る。

三.活動範囲

1.閣僚は,貿易投資の問題における進捗状況をレヴゥーし,年次会議で委員会の作業計画を決定する。

2.作業計画は以下のような諸問題への対応を含む。

(a)世界経済の中でのAPEC諸経済の変化する相互関係に関連した政策課題。

(b)APEC域内での財,サービス,投資及び技術の移動に影響を与える障壁や歪み。

(c)域内における貿易と投資のフローに影響を与える取引費用の削減。

(d)個々のAPECワーキンググループや諸活動から発生する貿易及び投資政策上の課題。

(e)貿易政策の展開,域内における貿易上の障壁の特定,及び地域に共通の利益をもたらす可能な解決策に対するAPECの民間部門の貢献を増進する方途。

3.今次シアトルでの閣僚会議において,閣僚は委員会に対し最初の1994年ワークプログラムに取りかかるよう命じた。

四.委員会の構成

1.委員会は,各メンバーの貿易投資問題に責任を有する政策担当者によって構成される。

2.委員会,委員会により決定される任期を務める,議長と副議長を選出する。

3.委員会は各メンバーの合意する回数だけ開かれる。

4.委員会は,明確に定義された任務を有し,委員会の作業を促進するために委員会と同時に又は別途開催される,臨時のもしくは常設の小委員会を設置することができる。