データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC経済首脳の行動宣言

[場所] 大阪
[年月日] 1995年11月19日
[出典] 外交青書39号,240−246頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.われわれは,アジア太平洋における経済活力及びコミュニティ意識を更に高めるため大阪に参集した。アジア太平洋は,世界で最も顕著な経済成長及び深化して止まない相互依存関係を経験しており,世界の繁栄及び安定に大きく貢献している。

 われわれは,市場メカニズムを基礎としたわれわれの経済改革が人々の創造力及びエネルギーを解き放ち,また,この地域及び世界全体における繁栄及び市民の生活水準を向上させてきたと確信する。広大で多様なアジア太平洋地域の現在の環境において,APECはわれわれに21世紀に向けての絶好の機会を提供している。APECを通じて,われわれは,共同の利益に資するために,活力ある経済の流れを活用し,協調させ,導くことができる。

2.われわれは,ブレーク島において,アジア太平洋経済の地域社会というビジョンを確立し,ボゴールにおいて,持続可能な成長,衡平な開発及び社会の安定を達成するため,以下を含む多くの具体的な目標及び目的を設定した。

 − 先進工業メンバーについては遅くとも2010年までの,また,開発途上メンバーについては2020年までのアジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資

 − 貿易及び投資の円滑化プログラムの拡充及び促進

 − 開発協力の強化

  われわれは,大阪会合を契機に,これらのビジョン及び目標を現実のもとのする行動段階に入った。本日,われわれは,ボゴールにおけるコミットメントを実行するため,われわれの政治的意思の結晶である大阪行動指針を採択する。われわれは,行動指針を揺るぎない決意をもって実施する。

3.大阪行動指針は,われわれの共通の目標に向けたAPECの将来の活動を形づくるものである。この指針は,貿易及び投資の自由化,その円滑化並びに経済・技術協力の3本の柱からなる。APEC地域全体における持続的な経済発展の達成は,これらの各分野における行動を探求していくことにかかっている。

 われわれは,APECの多様性及びわれわれの広範な活動範囲を反映し,いくつかの方法により自由で開かれた貿易及び投資という長期的目標を達成する。われわれは,

 − 地域において進展しつつある自主的な自由化の努力を奨励し,協調させ,

 − われわれの自由化及び円滑化の目的を前進させるため共同の行動をとり,また,

 − グローバルな自由化のための一層のモメンタムを促進し,これに貢献する。

4.われわれは,世界的な自由貿易を追求することから逸脱するような内向きの貿易ブロックに対し断固たる反対を強調するとともに,開かれた地域協力を堅持していくことにコミットする。われわれは,APECが開かれた多角的貿易体制を率先して強化していくとの決意を再確認する。われわれは,APECメンバーのWTOへのより多くの参加は,一層の地域協力を促進するものと確信する。われわれは,シンガポールにおけるWTO閣僚会議のための準備を含め,WTOの下で共同のイニシアティブを探求する。われわれは,APECが引き続きWTO協定と整合的であることを確保しつつ,貿易及び投資の自由化を着実にかつ漸進的に達成する。

  APECメンバー間の貿易及び経済面での緊張が非対立的な方法により解決されることを希望し,貿易摩擦を改善する方法を探求することに強くコミットしている。われわれは,WTO協定及び他の国際協定に基づく権利及び義務に影響を及ぼすことなく,APECの紛争仲介サービスが望ましいことについて意見の一致をみた。

5.われわれは,行動指針の中で,自由化及び円滑化の達成を導く次の一連の基本原則につき意見の一致をみた。すなわち,包括性,WTO整合性,同等性,無差別,透明性,スタンドスティル,同時開始,継続的過程及び異なるタイムテーブル,柔軟性並びに協力である。われわれは,閣僚及び事務当局に対し,直ちに具体的かつ実質的な行動計画の策定に着手し,1996年のフィリピンにおける閣僚会議に評価のために提出するよう指示する。行動計画の全体としての実施は,1997年1月より開始され,毎年レビューされる。

  この過程に資するため,われわれは,閣僚及び事務当局に対して,情報交換を促進し,透明性を確保し及びそれぞれの行動計画の同等性の達成に向けて貢献する信頼醸成的性質の共同努力たる協議を行うよう指示する。

  行動指針は,変化する状況に応じて必要があれば改訂及び改善され得るものである。われわれは,メンバーによる自主性及び共同にイニシアティブに基づく協調的な自由化という独特のアプローチを行動指針の実施のための主要な手段として選択したが,その成功は,われわれ自信{前2文字ママ}の継続的努力,強力な自制及び緊密な協議にかかっている。

6.相互の尊敬及び平等,互恵及び相互支援,建設的で真のパートナーシップ並びにコンセンサスの形成という大阪行動指針の原則に従い,われわれは,広範な分野における行動指向の経済・技術協力を促進する。行動指針により,APECは,経済・技術協力のための新たなモメンタム及びより広い展望を得た。

  前進のためのパートナー(PFP)を含む様々な方途を通じて実施される経済・技術協力は,貿易及び投資の自由化及び円滑化の促進,域内の格差の縮小並びに地域全体の成長及び繁栄の達成に資するものである。したがって,われわれは,政策対話及び共同行動を通じて,われわれが関心を有するあらゆる分野において,域内協力を拡大し,深化していくように努める。

  マクロ経済,金融,為替及び資金の流れ,資本市場育成及びインフラ資金調達に関するその他の政策について閣僚レベルにおいて貴重な協議が行われてきた。われわれは,また,電気通信及び情報産業,運輸,中小企業並びに科学技術等の分野における閣僚レベルの貴重な貢献を賞賛する。われわれは,その良き努力が継続されること希望する。

7.われわれは、自由化及び円滑化を達成するとの確固たるコミットメントを示す当初の措置のパッケージを,それぞれが持ち寄ったことを満足の意をもって発表する。これらの自主的な行動は,APECにおける自由化に刺激を与え,鼓舞する。これらの行動は,また,例えば関税の引き下げの前倒し,WTO協定の早期実施及び規制緩和の追求を通じたウルグァイ・ラウンドのコミットメントの実施の前倒し並びにウルグァイ・ラウンドの成果の深化及び拡大のための最初の広範なイニシアティブである。これらの措置とあいまって,税関手続の調和及び効率性の向上,相互承認の促進並びに適合性評価能力の向上を含むわれわれの共同行動は,ビジネスに対し直ちに目に見える利益をもたらす。われわれは,非APECメンバーがその後に続き,世界の貿易及び投資の自由化の進展を助長するよう求める。

8.賢人会議及び太平洋ビジネス・フォーラムは,大阪行動指針の作成に重要な貢献を行った。われわれは,その過程に参加した人々の献身及び英知を高く評価するとともに,その任務が成功裡に完了したことを祝福する。

  われわれは,ビジネスがアジア太平洋にとって活力の源であり,また,地域の経済発展の原動力であることを認識し,APECの活動のために英知及び助言を提供するAPECビジネス諮問委員会のメンバーを任命する。

9.アジア太平洋における広範な地域協力を促進し,コミュニティの精神を育むわれわれの意欲的な試みは,われわれの経済成長にもかかわらず,あるいは,経済成長の故に,多くの新たな挑戦に疑いなく直面し,新たな責任を負うこととなる。アジア太平洋地域における急増する人口及び急速な経済成長により,食料及びエネルギーの需要並びに環境への負担が急激に増大すると予想される。我々は,この地域の経済的繁栄を持続可能なものとするため,長期的課題として,これらの相互に関連した広範な問題を取り上げることとし,共同作業に着手する方法について更に協議する必要性につき意見の一致をみた。

  われわれは,行動を通じて,APECの基礎である共通の利益の拡大及び強化並びにこの地域の人々の間の信頼関係の構築の決定的な重要性を確認する。われわれは,将来の挑戦を応えるため,ともに前進することを誓う。