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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 経済協力・開発の強化に向けたアジア太平洋経済協力の枠組みに関する宣言

[場所] マニラ
[年月日] 1996年11月23日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/
[備考] 仮訳
[全文]

 オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中華人民共和国、香港、インドネシア、日本、大韓民国、マレイシア、メキシコ、ニュー・ジーランド、パプア・ニューギニア、フィリピン、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、タイ及びアメリカ合衆国は、1996年11月22日及び23日マニラで会合し、

1.地域の増進しつつある相互依存関係と協力の上に建てられたアジア太平洋地域社会という、ブレイク島において首脳により示された展望を回顧し、

2.地域の開発協力の強化にAPECが指導力を発揮するとのボゴールでの首脳の呼びかけに留意し、

3.アジア太平洋における地域社会の精神を深めるための三本柱の一つとして大阪行動指針に含まれている経済・技術協力の本質的要素を踏まえて、

4.経済・技術協力と貿易・投資の自由化・円滑化とが相互補完的で支持し合うものであることを認識し、

5.経済・技術協力分野の増加しつつある地域プログラムと活動に、より焦点を当て一貫性を与えるための経済協力・開発の新たな枠組みの必要性を認め、

6.APECがその創設からこれまでに経済・技術協力の分野で達成した業績を自覚し、

 この目的のため閣僚は、「経済・技術協力」との標題を有する大阪行動指針第二部の実施に当たってメンバーを導くために、以下の「経済協力・開発の強化に向けた枠組み」を採択することを共に決意する。

I.目標

 我々は、APECにおける経済・技術協力と開発の目標が以下の通りであることに合意する。

  ・アジア太平洋地域の持続可能な成長と衡平な発展の達成

  ・APECメンバー間の経済格差の減少

  ・人々の経済的・社会的福利の向上

  ・アジア太平洋における地域社会の精神の深化

II.指導原則

1.APECの根元的な諸原則に従い、以下に従って我々は地域に於ける経済協力・開発を遂行する。

  ・多様性とメンバーのおかれた様々な状況の尊重及びメンバーの長所に焦点を当てることを含む相互の尊重及び平等

  ・APECメンバーの多様で相互補完的な能力に基礎を置きつつ、持続可能な成長と衡平な発展という目標に向けて真の貢献をし、地域の経済的格差を減少させるとの確固たるコミットメントを伴った互恵及び相互支援

  ・先進メンバーと途上メンバー間及び夫々の間の互恵的な交流の機会を創造し、もって、地域の開発と経済のダイナミズムを促進する建設的で真のパートナーシップ。これは、協力が市場原理と整合的であることを確保するための、民間ビジネス部門、その他の適切な機関及び地域社会一般との実務的なパートナーシップを含む。このパートナーシップは、急速に統合されつつあるアジア太平洋地域社会の中の経済的格差の減少と資源の効率的な配分に向けた協力作業を生じさせよう。

  ・自主的参加を通じて各メンバーの自律性を尊重しつつ、APECの発展を通じて醸成された協議とコンセンサスに基づくアプローチに沿ったコンセンサスの形成

2.我々は、経済成長がもたらす恩恵への全ての男女の完全な参加を推進する経済・技術協力活動を共同で遂行する必要性を強調する。これらの活動を遂行するにあたり、我々の責任によって経済成長を環境の質と整合的なものとする。

III.APECの経済・技術協力の性格

1.我々の目標を達成するために、APECにおける経済・技術協力は結果志向であるべきであり、明確な目的、里程標及び実績評価基準を有する必要があることに我々は合意する。

2.APECにおいて民間部門がますます重要な役割を果たしていることに鑑み、民間部門が単に経済・技術協力活動に参加するだけではなく、APECの目標に沿ってイニシアチヴを取ることを慫慂する。このようにして、経済・技術活動は、政府による行動、民間部門のプロジェクト及び官民共同の活動を組み合わせることが可能であり、その中で公共部門は、直接又は間接に民間部門のイニシアチヴのための環境を作り実行し易いものとしていく。

3.醸成されつつある地域社会意識の形成を助け、また、我々の市民が協調の精神で共に作業し互いに学び合うよう企業家精神の推進を助長するために、経済・技術協力活動は、各メンバーの力量に見合った自主的貢献に基づき、その成果をメンバー間に広く直接的に行き渡らせることで地域内の経済格差を減少させて行くべきである。

IV.組織化のためのテーマと優先付け

1.持続可能な成長と衡平な開発を達成し、自由で開かれた貿易と投資に移行することから得られる利益を確保し、地域の福祉を推進するために、我々は、下記の共同協力行動に優先的に取り組む。

  ・経済成長の利益を広め、持続的な成長の基礎を深め、メンバー内及び地域内の社会的一体性を強めるために、経済発展における地域の主な資産である人材の養成を図る。

  ・真の経済的収益を生み出す資本のフローを促進し、大蔵大臣会合で議論されたように幅広く深い資本及び金融市場を通じて各メンバー内の貯蓄を動員し、更にインフラ整備のための民間投資の環境を強化するために、安定した安全で効率的な資本市場を発展させる。

  ・メンバーを一層地域経済に統合し、地域を世界経済に統合するために、特に電気通信、運輸及エネルギーといった分野において、経済成長のボトルネックを解消すべく経済インフラを強化する。

  ・APECの共同行動が、既存技術の流れを促進し、各メンバーによる既存の産業科学と技術の吸収能力や未来の新技術を開発する能力を増進させることを確保するために、未来技術を活用し、情報と技術の自由な往来を促進する。

  ・持続可能な開発への関心を考慮しつつ、健全な政策と慣行を推進することにより、環境的に健全な成長を通じて生活の質を確保する。

  ・より開かれた自由な経済発展における市場の変化に、より効率的かつ効果的に対応できるよう、中小企業のダイナミズムを強化する。

2.我々は、協力の過程において生じうる新たなテーマであって、この枠組みに規定された目標と指導原則と整合性のとれるものを支持する。

3.この宣言に規定された目標、原則及びテーマに基づき、ここに我々は、作業部会及びAPECフォーラムに対し、焦点の定まった成果を挙げてAPECの目標を前進させる上で大きな躍進を示すように、大阪行動指針の第二部と同部の第一パラグラフに言及されているテーマとに照らし合わせつつ、分野横断的な事項に対して互いに協力し、作業を統合するよう指示する。

4.我々の経済・技術協力に更なる一貫性と方向性を付加することにより、我々は、21世紀に向かって、繁栄するアジア太平洋地域社会という目標に実質的に貢献できると確信する。