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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア太平洋経済協力閣僚会議フィリピン会合におけるAPEC経済首脳宣言(ビジョンから行動へ)

[場所] スービック
[年月日] 1996年11月25日
[出典] 外交青書40号,314−318頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.われわれアジア太平洋経済協力会議の経済首脳は,本日,フィリピンのスービックで4回目の会合を行った。われわれの共同の成果である持続的な経済成長,雇用増加及び地域的安定は,成長指向型の政策,地域経済及び世界経済への最も広範な参加並びに安定しかつ安全な環境に対するわれわれの共通のコミットメントの成果である。われわれは,スービックに参集してこのコミットメントを強化するとともに,われわれの個別又は共同の努力の究極の目的が,持続可能な形ですべての市民の生活を豊かにし,生活水準を向上させることである点を再確認した。

2.われわれは,3年前にブレーク島で,「国民のために安定,安全保障及び繁栄を実現するという共通の展望に基づいて,われわれの地域社会の精神を深めること」にコミットした。その1年後のボゴールでは,この地域の自由で開かれた貿易及び投資という目標にコミットすることにより,このビジョンを実現するためのプロセスを開始した。昨年の大阪では,貿易と投資の自由化,これらの円滑化並びに経済・技術協力を通じて築き上げられるわれわれの共通の目標へ到達するための将来の作業の枠組みについて合意した。

3.本日のスービックでは,われわれは,アジア太平洋地域のコミュニティの精神を深化させるとともに,持続的な成長と衡平な発展に対するコミットメントを確認した。

4.われわれは,

 ・自由で開かれた貿易及び投資に関する指針を実施段階に移し,

 ・ビジネス円滑化措置を打ち出し,

 ・世界貿易機関(WTO)における共通の目標を前進させることにつき意見の一致をみ,

 ・経済・技術協力の強化のための方策を策定し,また,

 ・ビジネス部門をAPECプロセスの完全なパートナーとして関与させた。

APECマニラ行動計画{前11文字下線}

5.われわれは,大阪行動指針を実施するとの自主的なコミットメントを履行するために,個別及び共同のイニシアティブをスービックに持ち寄った。われわれは,APECマニラ行動計画(MAPA)として提出されたこれらのイニシアティブを1997年1月1日から実施する。

6.APECマニラ行動計画(MAPA)は,大阪行動指針に従ってボゴールの目標を2010年/2020年までに達成することを目指した漸進的かつ包括的な貿易及び投資の自由化の発展的なプロセスの最初の措置を含んでいる。われわれは,レビューと協議という継続的プロセスを通じてこの計画のダイナミズムを維持する決意である。われわれは,MAPAを拡充していくこと及び個別行動計画をその同等性と包括性を含めて改善することにコミットする。

7.この目的のために,われわれは,閣僚が,個別行動計画を民間部門の意見も考慮しつつ見直すために1997年に会合するとの決定を行ったことを歓迎する。われわれは,来年,われわれが会合するときに閣僚がその結果を報告するよう要請する。

8.われわれは,更に,閣僚が,早期の自主的な自由化がそれぞれのAPECメンバー内及びこの地域の貿易,投資及び経済成長に建設的な影響をもたらすであろう部門を特定し,これがいかに達成され得るかについての提言を提出するよう指示する。

9.われわれは,また,われわれの市民に対しAPECによる共同行動に関する作業の成果を賞賛するものである。この成果は,ボゴールと大阪でまかれた種の初めての収穫であり,また,APECメンバー内及びメンバー間のビジネス活動を円滑化し,競争力を向上させ,取引費用を削減するものである。本年,われわれは,関税制度をより透明性が高いものにした。われわれは,関税分類を本年末までに,また,通関手続を1998年までに調和させることにつき意見の一致をみた。われわれは,われわれの規格を国際規格に整合化させ,相互の規格を認証することにつき意見の一致をみた。

10.われわれは,閣僚に対し,通関手続の簡素化,知的所有権に関するコミットメントの効果的な実施,関税評価の調和,包括的なサービス貿易の円滑化及び投資環境の強化のための作業を1997年に一層促進するよう指示する。

多角的貿易体制{前7文字下線}

11.われわれは,WTO協定に基づく開かれた多角的貿易体制の優越性を再確認する。われわれは,地域的及び多角的な貿易及び投資が相互に支持し合い,強化し合うことが不可欠であると考える。われわれは,サブ・リージョナルな取決めから得られる利益をすべてのメンバーに供与するとのAPECメンバーの努力を賞賛する。われわれは,APECにおいて自主的にコミットした広範な自由化措置及びすべてのメンバーが既に実施している大幅な開放を多角的貿易体制の一層の自由化に向けての触媒として機能させることを決意した。われわれは,WTOメンバーに対して,APECにおいて着手している漸進的な自由化及び透明性の向上のプロセスを更に前進させるよう呼びかける。

12.われわれは,APECのメンバー内において開催される第1回WTO閣僚会議で,多角的かつルールに基づいた貿易体制を強化するために必要な活力と目的が生み出されることを確保するとの決意を確認する。この努力のために不可欠な基礎の一つが,それぞれのWTOメンバーによるウルグァイ・ラウンドのコミットメントの効果的な実施である。われわれは,すべてのメンバーが,懸案になっている電気通信分野及び金融サービス分野の交渉の終結並びにWTOを前進させるための実質的かつバランスのとれた更なる作業計画の作成に向け,断固として努力することを促す。

13.われわれは,物品及びサービスのより自由かつ無差別な貿易のためのイニシアティブを支持する。APECの経済首脳は,21世紀における情報技術の重要性を認識し,2000年までに関税を大幅に撤廃する情報技術協定を,ジュネーブで交渉が進展するに従って柔軟性が必要であることを認識しつつ,WTO閣僚会議までにまとめるよう呼びかける。

14.われわれは,WTOを全世界的なものとするために,議定書に係る事項と市場アクセスに関する実質的な交渉を加速することを奨励する。

経済・技術協力{前7文字下線}

15.われわれのコミュニティのビジョンは,われわれの努力がすべての市民の利益となる場合にのみ強化されることを認識する。貿易及び投資の課題への不可欠な補完的要素である経済・技術協力は,APECメンバーが,開放的な世界貿易環境へより完全に参加し,かつ利益を得る上で有益である。これにより,自由貿易が,持続可能な成長及び衡平な発展並びに経済的格差の縮小に確実に寄与することとなる。

16.本年,われわれは,経済・技術協力に関する作業を大いに進展させた。これに一層の弾みを与えるために,われわれは,閣僚が採択したAPECにおける経済協力・開発の原則の枠組みに関する宣言を支持する。われわれは,閣僚に対し,関連するAPECのフォーラムの活動にこれらの原則を適用し,開発に人間らしさを与え,それにより以下のテーマを優先事項とするよう指示する。すなわち,人材の養成,安定しかつ効率的な資本市場の育成,経済インフラの強化,将来の技術の活用及び環境的に持続可能な成長の促進及び中小企業の育成である。

17.われわれの経済協力指針は,すべてのAPECメンバーが貢献をするという真のパートナーシップに基づき実施される。われわれは,閣僚に対し,民間部門と協力し,すべてのAPECメンバーによるこれへの参加を慫慂する方途を特定するよう指示する。さらに,われわれは,閣僚に対し,女性と若者が完全に参加できるよう特別な配慮を払うことを要請する。

18.健全な環境及びわれわれの市民の生活の質の向上を確保しつつ急速な経済成長を進めることは基本的な課題である。この観点から,われわれは,人材養成,中小企業,産業技術,電気通信,エネルギー及び持続可能な開発をそれぞれ担当する大臣会合を含む様々なAPECのフォーラムで行われている作業を歓迎する。

19.この課題に取り組むために,われわれは,閣僚が,持続可能な海洋環境,クリーン・テクノロジー及びクリーン・プロダクション並びに持続可能な都市を含むAPECにおける持続可能な開発に向けた当初の作業計画実施のため,民間部門と調整を行いつつ具体的なイニシアティブを策定するよう指示する。われわれは,閣僚が持続可能な成長に関する作業を強化し,1997年にバンクーバーで開催される次の首脳会議に進捗状況を報告するよう要請する。われわれは,相互に関連する食糧,エネルギー,環境,経済成長及び人口の問題について既に作業が進められていることに留意する。われわれは,これらの課題についての検討を行う様々な国際的フォーラムが来年開催されることにかんがみ,これらの重要課題につき一層の進展のための努力を行うことで意見の一致をみた。

20.われわれは,安定した資金フロー及び為替レートを維持する上での健全なマクロ経済政策,この地域における各メンバー内の金融・資本市場の発展の加速,並びにインフラ開発への民間部門の参加の促進の重要性を再確認する大蔵大臣会合の結論を支持する。われわれは,大蔵大臣に対し,これらの目的を達成するための具体的かつ実際的な措置を探求するよう要請する。

21.インフラの欠如は,持続的な成長を著しく制約する。公的資金は,この地域の膨大な需要に十分に対応することはできないので,民間部門による投資が動員されなければならない。金融,経済,商業及び規制に係る適切な環境を整備することが,このような投資を促進する際に鍵となる。

  われわれは,関連する閣僚に対し,民間部門の代表並びに輸出信用機関(*)を含む国内的及び国際的な金融機関と共に,この目的のための枠組みを策定するよう要請する。

 (*訳注:日本の場合,貿易保険機関を指す。)

ビジネス部門の役割{前9文字下線}

22.われわれは,APECプロセスにおいてビジネス部門が中心的な役割を果たすことを確認する。本年,APECビジネス諮問委員会(ABAC)がわれわれの求めに応じて組織され,招集された。われわれは,ここにABACが行った価値ある作業に謝意を表明するとともに,ABACの提言を実施する方法を検討するため,来年,ビジネス部門との緊密な作業を行うことを閣僚に対し求める。

23.特に,われわれは,ABACが求めているビジネス関係者の移動の円滑化,投資フローの促進,投資保護策,すなわち,透明性,予測可能性,仲裁及び契約の執行の面での強化,地域内の自由職業資格の整合化,インフラ整備計画への民間部門の参画,中小企業を援護する政策の策定並びに経済・技術協力へのビジネス部門の一層の参加について閣僚が検討することを求める。

24.われわれは,ビジネス部門との対話の機会を歓迎し,APECビジネス・フォーラムを召集したフィリピンのイニシアティブに感謝をもって留意した。

共有するビジョン{前8文字下線}

25.われわれは,APECの強さがその多様性に由来していること,また,われわれがアジア太平洋コミュニティというビジョンを共有することによって結ばれていることを認識する。したがって,APECのアプローチに則ったコミュニティの精神を深化させることが,APECが引き続きこの地域及び世界に積極的な影響を与える上で死活的重要性を有している。このコミュニティというビジョンが必要としているのは,社会のあらゆる分野においてAPECの成功とかかわり合いを強化することである。このため,われわれは,APECにおいて一層の官民間のパートナーシップを育むことにコミットする。また,われわれは,人と人との一層のつながり,特に教育及びビジネスに携わる人々の間のつながりを促進することをに大きな価値を置く。

26.最後に,われわれは,APECプロセスが,来世紀までにすべての市民が生活の改善を実感できるような,実質的,具体的,測定可能かつ持続可能な成果をもたらすことへの確信を表明する。