データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 首脳宣言「APEC共同体の連携強化」

[場所] ヴァンクーヴァー
[年月日] 1997年11月25日
[出典] 外交青書41号,346−355頁.
[備考] 
[全文]

1.われわれAPECの首脳は,地域的繁栄と安定を維持するという課題に協力して対応するとのコミットメントを再確認するため,本日,カナダのヴァンクーヴァーで会合を行った。この地域の活力と強靱性を確信しつつ,われわれは,持続可能な成長と衡平な開発を達成し,ここに住む人々のすべての潜在力を発揮させるとのわれわれの決意を強調する。われわれは,この地域における経済成長の見通しは力強く,またアジア太平洋は世界経済において引き続き指導的役割を果たすであろうことにつき意見の一致をみた。ボゴール宣言において設置された期日までにこの地域における自由で開かれた貿易及び投資を達成することを含め,われわれが設定した目標は,野心的なかつ揺るぎないものである。

2.われわれは,近年のAPECの活動が急速に拡大していること,及び APECが世界経済問題において果たしている指導的役割が増大していることに留意する。大阪行動指針及びマニラ行動計画において具体化されたコミットメントから,われわれは,1997年を「APECの行動の年」と名づけたことを歓迎する。われわれは,APECの協力がこの一年を通じて生み出した具体的な「成果」を検討し,われわれが将来においていかにしてこれら業績を積み上げていけるかという「ビジョン」を提示した。本年も終わりに近づき,われわれは,スービックでの前回の会合でわれわれ自身に課したすべての課題を満たし,かつ超えたことを満足の意をもって留意する。

3.APEC−共通の課題への取組み

 われわれは,この地域における最近の金融市場の情勢につき徹底した議論を行った。APECメンバー及び国際社会全体は,金融市場の安定の迅速で持続的な回復及び健全で持続可能な成長を実現することに強い関心を有している。これらの出来事は,新たな対応を必要とする国際金融システムにおける新たな課題を反映するものである。これらの問題のグローバルな側面は,こうした努力を補完し,支援する地域的なイニシアティブを伴う,グローバルな対応が必要であることを示唆している。われわれは,こうした共通の課題に取り組むため協力していく決意である。

 この地域の長期的な成長のためのファンダメンタルズと見通しが極めて力強いことについては疑いがない。われわれは,開かれた市場が大きな恩恵をもたらすことを確信しており,一層の成長を促進する貿易及び投資の自由化を引き続き追求していく。賢明かつ透明な政策,特に健全なマクロ経済及び構造政策,人材養成戦略並びに効果的な金融分野における規制は,金融市場の安定を回復し,この潜在的な成長力を実現するための鍵である。 

 しかしながら,われわれは更に進む必要がある。われわれは,この種の金融市場の危機を防止し,必要に応じ,これに対応するための国際システムの能力を強化するため,迅速に行動することが決定的に重要であると信じる。グローバルなレベルでは,IMFの役割が依然として中心的なものである。したがって,われわれは,金融市場の安定に向けた協力を強化する建設的な一歩として,マニラで意見の一致をみた次のようなフレームワークを歓迎し,強く支持する。

−域内サーベイランスの強化

− 国内金融システム及び規制に関する対応能力を改善するための経済・技術協力の強化

− 協力{前2文字ママ}な調整プログラムを適切な条件で支援するためのIMFによる新たなメカニズムの採用

−IMFの資金を必要な場合に補完するための協調支援アレンジメント

 われわれは,このマニラ・フレームワークの迅速な実施を要請する。われわれはまた,最近の金融危機における市場参加者の役割について既にIMFが 行っている研究の結論を期待する。

 われわれは,この地域の最も包括的な経済フォーラムとして,APECが,広範な諸政策につき行われているような対話と協力を促進する上で中心的な役割を果たすとともに,これらの努力を支援し,補完するイニシアティブを策定することに特に適していると認識している。われわれは,大蔵大臣に対し,中央銀行関係者と緊密に協力しつつ,金融・資本市場の発展を促進し,この地域におけるより自由で安定した資本フローを支援するための共同イニシアティブに関し4月にセブで打ち出された作業を加速することを求める。APECは,世銀,IMF及びアジア開発銀行と協力しつつ,金融システムの向上,規制・監督当局間の協力の強化及びその他の金融市場の一体性及び機能を改善する一助となる諸施策などを優先課題として,経済・技術協力を強化するための施策を探求する上で,特に有益な役割を果たし得る。これらの分野における官民 パートナーシップの良い例は,最近発表された金融分野監督者養成トロント・センターである。

 われわれは,新年早期に蔵相がこれらすべてのイニシアティブの進捗状況 につき報告すること及び次回蔵相会合における具体的成果を期待する。

4.APECは,このような課題に取り組む上で,より大きな役割を果たさなければならない。われわれは,対話と問題解決を通じて具体的な成果を達成すべく協力する決意である。メンバーの多様な関心と状況を認識しつつ,APECは,国際経済協力において全く新しいアプローチを与えた。貿易及び投資の自由化,ビジネスの円滑化,経済・技術協力という相互に支えあう3つの柱に基づき,すべてのメンバーがこの協力に完全に参画し,かつ恩恵を受ける能力を養成するため,APECのアプローチは,この地域の課題及び機会に統合された形で取り組んでいる。共同体の連携を強化することにより,APECは,市民の福利を向上させるため,われわれが関係を構築し,知見を共有することを助長してきた。これらのパートナーシップは,われわれの繁栄及び進歩を促進し,われわれの生活を豊かにし,並びにAPEC共同体の精神を育む。

行動の年−主要な成果{前10文字太字}

5.われわれは,スービック・ベイで提示した貿易及び投資の自由化のコミットメントの実施において,本年達成された具体的成果を歓迎する。われわれは,自らの個別行動計画におけるコミットメントを改善すべくメンバーにより払われた努力を認識する。これらの計画の同等性及び透明性を高める上でのAPECの共同の成果は,われわれの取組みが市場で十分に理解されることを確保する上で重要である。民間部門の見解は,APECの努力が焦点を絞ったもので的を得たものであることを確保する上で不可欠である。この点に関し,われわれは,APECビジネス諮問委員会により実施されたAPECマニラ行動計画のレビューを歓迎し,将来の計画の準備においてABACの見解を考慮するよう閣僚に指示する。個別行動計画は,依然としてAPECの貿易及び投資の自由化に関する活動の中心的なメカニズムであるため,われわれは,その毎年の改訂に対するコミットメントを再確認する。

6.APECの自由化は,首脳レベルで行われたコミットメントにより促進されながら,自主的に進展している。この点に関し,われわれは,早期自主的自由化に向けた分野の特定のタイム・テーブルを2年間前倒しするためにとられた行動,即ち,この地域及び全世界において自由化の速度を早めるというわれわれの決意を強調する決定を歓迎する。われわれは,15の分野における早期自主的自由化に関し行動がとられるべきであり,そのうちの9分野については,1999年に実施を開始することを目的として1998年を通じて進められるということにつき閣僚が意見の一致をみたことを支持する。われわれは,このパッケージが互恵的であり,かつ利害の均衡を示していると考える。われわれは,貿易担当大臣に対し,1998年6月の彼らの次回会合までに詳細な目標及び予定表を完成させるよう指示する。このモメンタムを維持するため,われわれは更に,本年,メンバーにより指定された追加的分野が,明年における追加的行動の検討のために提出されるよう指示する。われわれは,大阪行動指針で述べられているとおり,包括的自由化に対するわれわれのコミットメントを強調する。

7.国際的及び地域的なフォーラムの中で,APECは,貿易及び投資の円滑化の分野における先駆者である。ビジネス界は,これがAPECの活動の中で彼らにとって最も直接に関係する分野であることをわれわれに示している。コストを低減し,官僚主義及び遅延を除去し,規制改革を推進し,基準・適合性に関する相互承認取決めを策定し,並びに予測可能性を高めることは,特に中小企業経営者にとって明白な利益である。2000年までに通関を調和し,簡素化するとの包括的な計画を提示している「APEC税関近代化ブループリント」は,一つのモデルを提示するものである。われわれは,APECの共同行動計画を通じた貿易及び投資の円滑化の加速を求めるとともに,閣僚に対し,能力を向上し,手続を適合させ,及び新技術を導入するため,APECの経済・技術協力活動を活用するよう指示する。

8.GATT設立50周年を前に,われわれは,GATTが開かれた貿易体制を奨励することを通じて残した豊かな遺産について想起した。われわれは,WTOの下での開かれた,かつルールに基づいた多角的貿易体制の優越性を再確認し,APECの活動が開かれた地域主義に基づいて進むとのコミットメントを改めて表明する。われわれは,APEC域外の貿易パートナーがこれに続くことを求める。

 すべてのAPECメンバーが完全かつ積極的にWTOに参加し,WTOを支持することは,われわれが世界貿易体制を引き続き強化することを可能とする鍵である。われわれは,WTO加盟国を普遍的なものとするため,議定書に関する問題及び市場アクセスについての実質的な交渉の加速を奨励する。われわれは,既存のすべてのWTOコミットメント及びWTOのビルト・イン・アジェンダを合意されたタイムテーブルに従って完全に実施するということを再確認する。われわれはまた,WTOに対し,より広範な多角的自由化に向けたAPECの努力を積み上げることを求める。われわれは,情報技術合意(ITA)及び基本電気通信合意のWTOでの妥結を図る上で,APECが示した指導力に満足の意をもって留意する。われわれは,合意された期限である1997年12月12日までに,WTO金融サービス交渉の成功裡の妥結を達成するよう決意を持って取り組むこととする。われわれの大蔵大臣及び貿易担当大臣が意見の一致をみたように,成功裡の妥結は,大幅に改善されたコミットメントに基づくMFN合意を包含することになる。この成果は,われわれの金融システムの中での競争を促進し,地域的な資本市場の発展を助長し,金融市場の統合を促進し,地域的な貯蓄仲介能力を向上させ,及び対外的なショックに直面した際のわれわれの経済の強靱性を強化することとなる。

9.われわれは,1996年のAPECにおける「経済協力・開発の強化に向けた枠組み」を実施する上でなされた進展に満足しており,そこで特定された主要な課題への取組みに焦点を当てるよう閣僚及び実務者に要請する。われわれは,「枠組み」のすべての要素に同じ比重と関心を与え,APECの課 題全体にわたる調整と連絡が要求される統合された一連の目的としてのその不可分性に留意するよう閣僚に指示する。われわれは,インフラストラクチャー及び持続可能な開発というこの地域の二つの主要な課題に関するAPECの作業に対し,この「枠組み」のアプローチを適用するために1997年に払われた努力を賞賛する。

 われわれは,閣僚に対し,APEC共同体のすべてのメンバーが貿易自由化からの利益をより完全に享受できるようにするため,人材養成及び将来の技術の活用に関する作業を通じ,1998年において能力の向上に更なる努力の重点を置くよう指示する。

10.大蔵大臣会合及び貿易担当大臣会合は,1997年におけるAPECの活動に対して早期に弾みを与えた。われわれは,持続可能な成長及び衡平な開発のための目標に対する直接的な貢献として,彼らの活動を賞賛する。われわれはまた,環境,運輸,エネルギー,中小企業及び人材養成を担当する閣僚が,1997年にAPECの作業に対して行った多大な貢献に満足している。われわれは,ビジネス界,学界及びその他の専門家,並びに女性及び青年を1997年の活動に関与させる上で,APECのフォーラムの進展を歓迎し,これらの努力を継続するよう奨励する。

11.APECのメンバーは,成長と雇用に関する目的の達成への自由な市場の貢献に対する信念を共有する。政府は,経済の移行の影響に対処する上で明確な役割を有しているが,政府だけでは,相互に連関する世界がもたらす複雑な問題を解決することはできない。われわれは,本年,APECの活動のすべてのレベルにおいてビジネス界の関与が飛躍的に高まったことを満足の意をもって留意する。首脳として,APECビジネス諮問委員会との対話は有益であった。われわれは,閣僚及び高級実務者との意見交換を増加させる上での彼らのイニシアティブを賞賛する。われわれは,ABACの1997年の「今,行動の時」においてなされた提言について検討する。われわれはまた,「衡平な成長のためのパートナーシップ」を確立するとのABACの意図を歓迎し,基準,ビジネスの移動,資本市場の発展など多様で重要な問題についての提言に対する感謝の意を表明する。われわれは,APECがその対象範囲をビジネス界のより広範な層に拡大する必要性を強調する。

 1997年において特筆すべきことは,中小企業支援における充実したAPECの活動及びイニシアティブである。われわれの地域は,貿易地域であるにもかかわらず,多くの中小企業は,完全な参加に対する障害に直面している。われわれは,新たな企業の創出を刺激するビジネス環境を推進することにより,中小企業がつながりを活用してこの地域の貿易及び投資の機会に参画できるようにするため,中小企業部門の強化の重要性を強調する。われわれは,多くの専門化したAPECのフォーラムが中小企業のニーズに取り組むためのプログラムを策定した事実を賞賛する。われわれは,APECの1997年の「中小企業のための枠組み」に示された優先事項及びアプローチに留意し,閣僚に対し,これらの適用を確保するよう指示する。

21世紀へのビジョン

12.APECの政策手段の連携強化

 過去10年のアジア太平洋の諸経済における高度成長は,われわれの社会に非常に広範な影響を与えた。所得と生活の質の向上,及び成長と雇用は,歓迎すべき利益である。われわれの社会のすべてにおいて,これらの建設的な成果は,構造面及び環境面の圧力を伴ってきている。グローバル化は,現実に出現している。急速な都市化及び情報技術の進展は,われわれの相互の関わり方,及び都市景観を変化させている。新しい進展に適応する能力は,この地域における社会の持続可能で衡平な開発を達成する上での成功を決定することとなる。われわれは,出現しつつある課題に取り組む上で,自由化,円滑化及び経済・技術協力というAPECの政策手段を統合するために本年なされた努力を賞賛する。

13.国民との連携強化

 われわれは,現在行われている野心的な貿易及び投資の自由化が,経済の健全性にとって引き続き不可欠であるとの共通の信念を強調する。この努力を支えるためには,貿易及び投資の自由化を継続していくことに対するこの地域の人々の間の支持が不可欠である。われわれは,成長と雇用に対する建設的な効果を含む貿易自由化のあらゆる影響を評価し,及び関連した調整にメンバーが対処することを支援するためのAPEC全体にわたる作業計画を策定するとの閣僚の決定を歓迎する。

14.メンバー間の連携強化

 われわれの本日の議論は,経済的及び社会的な開発を支える地域的なインフラストラクチャーの必要性に焦点が当てられた。われわれは,都市生活をより持続可能なものとするためのインフラストラクチャーの適用に関して本年実施された作業,特に「持続可能な都市に関する行動計画」を支持する。都市中心部の急速な成長は,健康上及び環境上の懸念,ボトルネック,供給上の制約などの困難な問題を提起している。政府は,都市部,農村部を問わず,あらゆる生活面において,人々がインフラストラクチャーへ十分アクセスできるよう確保するための努力を払わなければならな

い。経済・技術協力を通じたキャパシティ・ビルディングは,すべてのメンバーがこれらの決定的に重要な課題に取り組むための能力を確保する上で不可欠である。

 インフラストラクチャーは,われわれが取り組んできた金融市場の安定に関する問題と密接に関連している。地域的なインフラストラクチャーに関する決定を行う上で,政府及びビジネス界は,長期的な金融市場の持続可能性が十分検討されることを確保するために協力しなければならない。ビジネス界,国際金融機関及び国際開発銀行との協力は,最適な計画策定を達成するために決定的に重要となり得る。われわれは,別添の「インフラ整備官民協力増進のためのヴァンクーヴァー・フレームワーク」を採択する。われわれはまた,情報の共有及び透明性を助長するための「インフ

ラストラクチャー促進センター・ ネットワーク」に関する実現可能性調査に着手することにつき意見の一致をみたこと,並びに地域的なインフラストラクチャー整備を支持する上での輸出信用機関及び輸出金融機関の間の協力を強化するための取決めに満足している。アジア太平洋情報社会を構築するための電気通信及び情報技術の重要性を認識しつつ,われわれは,アジア太平洋情報基盤が,21世紀におけるこの地域の競争力を確保するための不可欠な基礎であることにつき意見の一致をみた。(訳注:日本の場合,輸出信用機関とは貿易保険機関,輸出金融機関とは日本輸出入銀行を指す。)

15.電子的な連携強化

 われわれは,電子商取引が,1990年代における最も重要な技術的革新の一つであることにつき意見の一致をみた。われわれは,閣僚に対し,その他の国際的フォーラムの関連する活動を考慮に入れつつ,この地域の電子商取引に関する作業計画に着手し,クアラルンプールにおいてわれわれへ報告するよう指示する。このイニシアティブは,ビジネス部門の先駆的役割を認識するとともに,すべてのAPECメンバーが電子商取引の利益を得ることを可能とする予測可能で一貫した法的及び規制上の環境を促進すべきである。

16.科学技術の連携強化

 経済成長の促進における科学技術の増大する役割並びにその貿易及び投資のフローとの密接な結びつきに鑑み,われわれは,閣僚に対し「21世紀に向けたAPEC科学技術産業協力の指針」を作成の上,クアラルンプールにおいてわれわれへ提示するよう指示する。われわれはまた,「環太平洋大学連合 (APRU)」を含む,科学技術の結びつきを強化するためのその他の地域的ネットワークを歓迎する。

17.課題の連携強化

 持続可能な開発の達成は,引き続きAPECのマンデートの核心である。衡平, 貧困の軽減,及び生活の質は,中心的な検討事項であり,持続可能な開発の不可分の一部として取組みがなされなければならない。われわれは,われわれの作業計画のすべての分野にわたって,持続可能な開発を推進することをコミットした。われわれは,受領した中間報告とともに,急速な経済成長及び人口増大の圧力の下での食糧,エネルギー及び環境の関係についての多分野にわたるシンポジウムの成果を歓迎する。 われわれは,1998年に,より詳細なかつ行動に向けた報告を期待する。

18.気候変動に関する努力の連携強化

 われわれは,温室効果ガス排出に取り組む世界的規模での行動を加速することの重要性を認識する。われわれは,この問題は決定的に重要であり,共通に有しているが差異のある責任の原則に従い,国際社会による協調的努力を必要とすることを確認する。われわれは,国連気候変動枠組条約の目的を推進する上で,第三回締約国会合が成功を収めるようにわれわれの強い支持を強調する。われわれは,すべてのAPECメンバーがこの努力に対して重要な貢献を行うことができることに留意する。われわれはまた,エネルギー効率の向上が,気候変動に取り組む上で重要な役割を果たすことにつき意見の一致をみた。われわれは,温室効果ガス排出削減のため,有益な技術の開発及び普及の促進を含む,柔軟で費用対効果の高い協調的アプローチの重要性を確認する。われわれは,国連気候変動枠組条約の目的を推進する上で,持続可能な開発を促進するための開発途上メンバーの正当なニーズ,及び,この点に関し,有益な技術の入手可能性を向上することの重要性を認識する。

19.緊急事態への対応の連携強化

 われわれは,われわれの1メンバーに影響を与える不測の災害は,全メン バーに影響を与えうること,並びに緊急事態への準備及び対応に関して専門的知見を共有し,協力することから恩恵を受けることを認識する。われわれは,この点に関する閣僚のイニシアティブを歓迎する。

20.アジア太平洋の人々の連携強化

 この地域の持続的繁栄は,この地域の次世代の指導者へ彼らの必要とする技術及び知見を与えることについてのわれわれの意思及び能力に大きく依存している。われわれは,1997年のAPECの活動を通じて青年を参加させるためのイニシアティブを賞賛する。教育及び技術の習得は,依然としてわれわれの青年の長期的雇用へ向けた主要な目的であり,また,われわれは,閣僚に対し,学習環境から労働力への成功裡の移行についてのアプローチを共有すべく,青年,学界,労働者及びビジネス界と協力していくよう要請する。われわれは,この地域の労働,研究及び交流の機会に関する「電子資料集」,「APEC教育財団」の設置及び拡充,並びに1998年にいずれもソウルで開催される予定のAPEC「青年技能キャンプ」及び「APEC青年科学技術フェスティバル」を歓迎する。われわれは,APECメンバーの学生への奨学金付与を含む,シンガポールによる「APEC教育ハブ」設置のオファーを評価する。われわれは,この地域の学生に質の高いプログラムを提供するこのイニシアティブを拡大する可能性を検討する1999年のシンガポ ールでのAPEC教育大臣会合開催を歓迎する。

 われわれは,経済開発における女性の重要な役割の強化に向けてAPECが具体的ステップをとるべきであると確信する。われわれは,APECのアジェンダにおける女性の関与についての進展状況を評価し,及びAPECの活動中心に女性を統合するための次のステップを決定するため,1998年にマニラにおいて女性問題担当大臣会合を開催するとのフィリピンの申し出を歓迎する。

21.セント・ジョンズからスマトラまで12時間の時間帯にわたり,APECは,距離及び多様性の橋渡しをしている。具体的成果と新たなビジョンの組合せを通じ,われわれを結束させている共同体精神は,本年,強化され,幅が広げられた。この地域の人々は,依然としてその最も重要な資産である。首脳として,われわれは,彼らの経済的及び社会的な福利の保護及び改善につき責任を有する。人々は,APEC共同体が拠って立つ基礎である。われわれは,APECが彼らの関心に応え続けるよう確保することをコミットする。

APEC非公式首脳会議 インフラストラクチャー整備官民協力増進のためのヴァンクーヴァー・フレームワーク(仮訳) {前2行太字}

 経済面,環境面及び社会面の目標を満たすためにAPEC地域が必要としているインフラストラクチャーを整備し,管理するためには,公的部門と民間部門との間のパートナーシップの強化が必要である。この目的のため,われわれは,次のことを宣言する。

自主的原則

 われわれは,大蔵大臣によって策定された次に掲げる「インフラストラクチャー整備への民間部門の参加促進のための自主的原則」を再確認する。

(i)健全なマクロ経済環境を確立し,維持すること。

(ii)高水準の投資家保護を提供するための安定的かつ透明性の高い法的枠組み及び規制制度を確立すること。

(iii)インフラストラクチャー・サービスの競争的かつ効率的な提供を,適当な場合には,促進する部門別政策を採用すること。

(iv)国内の金融資本市場を拡充し,深化するための努力を加速することにより,インフラストラクチャー投資に必要な長期資本の利用可能性を増進すること。

 資金供与及び投資

(v,........)われわれは,技術協力を通じた健全なフレームワーク政策を助長すること,インフラストラクチャー整備のための直接的な金融支援の提供を継続しつつ,民間資金の流れを促進すること,並びにインフラストラクチャー・プロジェクトに関する長期の資金調達の必要性に対処するための革新的な金融メカニズムを開発することを含め,国際金融機関がインフラストラクチャー整備におけるメンバー自身の努力を触媒的役割を果たし,支援するよう大蔵大臣が要請したことを再確認する。

(vi)われわれは,大蔵大臣に対し,国際金融機関及び民間部門と協力して国内の金融・資本市場の発展を促進するためのセブで打ち出された具体的なイニシアティブを引き続き実施するよう奨励する。この点に関し,われわれは,ABACが留意したとおり, 大規模なインフラストラクチャー・プロジェクトへの民間投資を増進する資産担保証券のための市場を含む堅固で流動性の高い国内債券市場の整備を促進するため,民間部門の金融専門家並びにリスク保証及び投資格付の提供者と引き続き協力していくよう大蔵大臣に対して奨励する。

(vii)われわれは,民間部門の参加者にとってプロジェクト毎のインフラストラクチャー投資の魅力を高めるために参加輸出信用機関(訳注:日本の場合,貿易保険機関を指す。)・輸出金融機関により署名された相互協力取決めを歓迎する。

能力の向上

 能力の向上は,民間部門の支援することができる経済的に実現可能なインフラストラクチャー・プロジェクトの整備を加速するための鍵である。この目的のため,われわれは,次の分野における行動の必要性を確認する。

(viii)インフラストラクチャーの計画,開発,管理,利用及び廃棄のリサイクルの各段階における最新の手法の活用を促進すること。

(ix)民間投資家を取り扱う公的機関においてインフラストラクチャー整備に携わる政府関係者が適切な専門的知見及びインフラストラクチャー投資に対する商業的アプローチについての理解を得るため,並びに民間の間のパート ナーシップ及び官民パートナーシップを通じたものを含む技術面での協力の促進により,国内の能力を養成す

ること。

(X)民間部門及び公的部門の能力の最も効果的な利用を促進することを含め,リスクの低減及び管理における最新の手法の活用を促進すること。

(xi)入札及び評価の手続を含め,透明で,予測可能で説明がつく手続を促進するとともに,国際競争入札の活用を奨励すること。

(xii)インフラストラクチャー施設の設計及び運営に持続可能で衡平な開発の原則を盛り込むことにより,インフラストラクチャーが,経済面,環境面及び社会面の目標の達成を支援することを確保すること。

情報及び協議

 われわれは,民間部門,特に中小企業のインフラストラクチャー・プロジェクトへの参加を支援するに当たり,情報の重要性を認識するとともに,情報インフラストラクチャー,統合・インテリジェント運輸システム,経済面及び環境面で持続可能なエネルギー・インフラストラクチャー,持続可能な都市並びに地方の統合及び多様化を支援するためのインフラストラクチャーなどの主要部門において達成された成果に依拠して一般を幅広く関与させることにつきコミットする。

 これらの目的のため,われわれは,次のことを閣僚に要請する。

(xiii)中小企業を含む可能な限り広範囲の企業によるインフラストラクチャー投資への参加を支援するため,要請の有無にかかわらず,情報の入手可能性を改善すること。

(xiv)計画されたインフラストラクチャーがわれわれの共同体のニーズを満たすことを確保するための効果的な協議を助長すること。

 われわれは,APEC地域のインフラストラクチャー整備への民間部門の参加を実質的かつ明確に増進させるとともに,全体的な経済成長及び経済開発に係る目標を支える上でインフラストラクチャー整備を促進するという明白な目的を伴う意図に関するこれらの宣言を履行するために必要な措置をとるよう関係閣僚に対して指示する。