データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APECヴァンクーヴァー会合への出席における内外記者会見の冒頭発言(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1997年11月25日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),405頁.
[備考] 
[全文]

 この度のAPECのバンクーバー会合は、最近のアジア諸国の通貨、株式市場の動揺を受けて、現在の情勢にいかに対応するかが最大の関心事であった。私はアジア経済の基礎的な条件は基本的に良好で、なお高い成長力を維持しており、健全なマクロ経済運営や構造調整により更なる成長が可能であると確信している。その意味で、クレティエン首相、クリントン大統領との二国間会談でも、また、APEC首脳の間でもこうした認識を共有することができた。更に、先般マニラで合意された「金融・通貨の安定に向けたアジア域内協力強化のための新フレーム・ワーク」を支持すると同時に、APECとしてもアジアの金融・通貨問題への取組みを継続することで一致した。私からも、日本の金融システム安定化のための考え方を説明したし、同時に「開かれた地域協力」、具体的には現在の状況によって、貿易。投資の自由化・円滑化のモメンタムが損なわれてはならないこと、自由化・円滑化に向けて、APECとして更なる作業を展開すべきことを、首脳レベルで確認できたことも大きな成果であった。この点で、閣僚会議において九分野を早期自主的分野別自由化の最優先分野、六分野が優先分野になったが、これが特定されたことは非常に重要な進展だと思っている。また、地球温暖化防止のための京都会議を一週間後に控え、私から、議長国の日本として、会議の成功に向けてAPECメンバーの協力を求めた。排出削減目標については、我が国自身の提案を達成するために、日本がどれだけ、困難な努力をする覚悟があるかを具体的に説明し、先進メンバーが日本提案を基礎として歩み寄ることを求めた。また、途上メンバーに対しては、地球温暖化を自らの問題と受け止めてもらうように求めながら、同時に我が国の石油危機以来の経験について説明し、将来的取組みを呼びかけた。その結果、首脳間で京都会議の成功に向けた強い支持が強調されるとともに、気候変動という問題には先進国、途上国が双方ともに協調的に努力することが不可欠で、APECのメンバーがこの努力に対して重要な貢献ができることで認識が一致したことは大きな収穫だと思う。また、エネルギー効率の向上の重要性についても認識の一致をみた。これに関連し、私から、途上国の取組みを支援するために、三千人の人材育成、○・七五%金利、四十年という円借款の供与、温暖化に関するノウハウ移転を三本の柱とする「京都インシァティブ」を決定した旨を紹介した。もう一つの大きな懸案だった、新規参加問題では、明年のマレーシア会合からロシア、ベトナム、ペルーの三か国が新たに参加することで合意した。日本はこれらの国の参加を支持してきたところであり、APECがより完全にアジア・太平洋地域経済を代表する場となることを歓迎したい。なお、この三か国の参加をもってその後十年間、新規加盟を凍結するというのも合意されている。私なりに今回の評価をさせていただいたが、大変有意義かつ建設的な話し合いを行うことが出来たと思っている。これも議長として大変見事な采配をふるわれ、会議を成功に導かれたクレティエン首相の努力に改めて敬意を表すると同時に、大変暖かく私たちを迎え、もてなしていただいたカナダ政府、およびバンクーバーの皆様に心からありがとうと申し上げたい。