データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア太平洋経済協力(APEC)首脳宣言

[場所] クアラ・ルンプール、マレイシア
[年月日] 1998年11月18日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

成長のための基盤の強化

 我々APECの首脳は、1998年11月18日にクアラ・ルンプールにおいて会合を行い、成長のための我々の経済の基盤を強化し、貿易、投資及び技術の効率的な流れに必要な環境を提供し、我々の経済の、自由化に参加しその恩恵を十分に受けるキャパシティを強化することによって、人々の間の経済的不平等が縮小されるような、繁栄したアジア太平洋共同体を構築する決意を新たにするものである。

2.クアラ・ルンプールにおける我々の会合は、極めて重要な時期に開催された。我々は、APEC域外に拡大した金融危機に緊急に対処する必要がある。金融危機は広範囲の社会的コストをもたらし、影響を受けた経済は、失業率の上昇及び実質所得の下落を経験し、貧困の撲滅並びに、教育機会、基礎的健康へのアクセス及びインフラストラクチャー施設の拡大において成し遂げた何十年もの発展を後退させた。我々は、この地域の早期かつ持続的回復を支援し、伝播のリスクを封じ込め、世界的な景気後退の可能性を防止するため協力する決意である。

3.我々は、アジア太平洋地域の経済における力強い経済ファンダメンタルズと回復の見通しについての我々の自信を再確認する。我々は、節度ある成長指向的マクロ経済政策、強化された金融機関及び市場、貿易及び投資の自由化並びにキャパシティ・ビルディングを我々が強調することが、新たな持続可能な成長の礎石であると確信する。特に、本年の幅広いAPECの活動にわたって「キャパシティ・ビルディング」を我々が強調することが、この時期この地域が直面している課題に取り組む上で特に適切であると確信する。技能開発、技術向上、インフラストラクチャー改善、中小企業に対するより幅の広い活動を含む人材開発にAPECが重点をおくことは、これらの課題を克服し、この地域の安定及びコンフィデンスを回復する我々の弾力性及び能力を強化することとなろう。

APEC−主要な課題

金融危機への課題

4.我々が昨年11月にヴァンクーヴァーで会合を行って以降、世界経済の見通しは相当弱含みとなってきている。地域的な金融危機がもたらした経済的、社会的余波は当初予想していた以上に深刻であり、同様の問題が世界の他の地域にも現れてきている。

 にもかかわらず、我々メンバー及び国際金融システムにおいては、いくつかの勇気づけられる進展がここ数ヶ月の間にみられた。前例のない金融面での協調及び国際社会の支持に支えられたインドネシア、韓国、フィリピン及びタイによる強力な改革プログラムの進展の結果、金融の実質的な安定がもたらされ、最も直接的に金融危機の影響を受けたAPECメンバーが回復するための基盤が築かれた。これらのメンバーにおいては、

・為替レートは相対的に安定を保っており、多くのAPECメンバーにおいて、ここ数ヶ月間強含みで推移している。これは、いくつかの場合においては、名目金利を金融危機以前の水準まで実質的に押し下げることを可能としている。

・財政政策は、国際金融機関からの支援を得て需要及び雇用を支える支出の増加が可能となるよう調整されてきている。

・通貨の切り下げに伴うインフレの当初の加速は、多くのアジアの新興メンバーにおいて適度な水準まで抑えられてきており、この地域全体にわたってインフレ率は低下してきている。

・短期の対外債務は減少してきており、多くのメンバーにおいて外貨準備は再び補充され始めている。

・輸入の減少が主たる調整要因であるとはいえ、経常収支バランスは黒字に転換してきている。

・生産の減少は多くの予想を上回る広範なものであったが、その減少の程度も緩やかなものとなってきている。

・インドネシア、韓国、タイを含むその他いくつかのメンバーは、それぞれの企業及び金融部門を強化しリストラするための印象的な努力を行った。

5.中国においては、金利の引き下げが行われるとともに、経済成長を一層刺激するための拡張型の財政パッケージが実施されている。人民元の為替レートの維持は、地域的な金融安定の確保に貢献する重要なよりどころとなっている。

6.ここ数週間に、これらの進展は以下によりさらに補強された。

・多くの先進メンバーにおける短期金利の引き下げ。

・金融システムを強化するために公的資金を実質的に投入するとの日本のコミットメント。日本の政府当局は、緊急の課題として、適切な条件の下での銀行の資本増強を含め、速やかかつ効果的で必要不可欠な行動をとる意思を明確にしている。この行動は、持続的な内需拡大とともに、日本だけでなくアジア地域全体における市場のコンフィデンス及び成長回復の鍵となる。

・IMFに対する追加的資金提供に向けた進展。

・IMFの支持する健全な政策を行っているメンバーに対し、予防的なクレジットラインを提供することにより危機の伝播に対処するための新しいIMFの融資制度の創設を支持するG7の合意。

7.しかしながら、重要な課題は残されたままである。これらの課題に立ち向かうため、我々は、以下の側面を有する協調的な成長戦略を追求することにコミットする。

・我々メンバーそれぞれの個別条件に適した成長指向的な節度あるマクロ経済政策、

・雇用を創出し、貧困層及び社会的弱者に対するソーシャル・セーフティー・ネットを構築・強化するために国際社会からの金融支援を拡大すること、

・金融システムの強化、貿易金融の回復、及び企業部門のリストラの加速化のための努力を支持する包括的なプログラム、

・この地域に安定的かつ持続的な民間資本フローを回復させる上での触媒となるような新しいアプローチ、

・APECで自由かつ開かれた貿易及び投資を達成するというボゴール目標へのコミットメントを新たにすること、及び

・長期的な視野に立った、国際金融システムを強化する措置を作成し実施していくために我々の間及び他の経済・機関と共に行う緊急な作業。

 この文脈で、我々は、アジア地域における経済回復努力を支援する日本の300億ドルの金融パッケージ案を歓迎する。我々は、また、今週日本及び米国が、ADB及び世銀と共に発表した民間部門の成長を再活性化させるための多角的イニシアティヴを歓迎する。我々は、これらのイニシアティヴがこの地域の回復及び成長を促進するための共同努力に大きく資するものと確信し、それらの早期の実施を期待する。

成長指向的マクロ政策

8.APECの各メンバーは、強固な成長の維持又は達成、良好な対外的環境への貢献、及び市場の開放の継続を目的とした政策をとることにより、この地域の回復を加速化する役割を担う。

・主要先進メンバーは、力強い内需主導の成長のための環境を創り出し、維持する必要がある。

・金融危機の影響を最も直接的に受けたAPECメンバーにとっては、慎重な成長指向的マクロ経済政策のフレームワークの下、構造改革を継続かつ加速していくことが重要である。

・成長が緩やかな又は減速しているAPEC地域の他のメンバーにおいても、投資家のコンフィデンスを高めるような金融部門改革にも取り組みつつ、金融の安定及び健全な国内貯蓄レベルを維持する経済刺激効果をもつマクロ経済政策を適切に実施する努力を続けていく必要がある。

雇用及びソーシャル・セーフティー・ネットに対する国際的な支援

9.我々は、金融危機が広範囲の社会的なコストをもたらしたことに留意する。失業の増加及び実質所得の低下に加えて、危機の影響を最も深刻に受けたメンバーにおいては、金融危機は貧困層の実質的な増加につながり得る。我々は、それゆえ、IMFプログラムのより一層の柔軟性を支持するとともに、社会部門への融資を世銀が3倍に、ADBが2倍にするとの努力を歓迎する。

金融及び企業部門のリストラ

10.金融機関の資本増強に貢献することにより民間部門を再活性化すること、企業の重い債務問題に対応すること、これら企業の貿易金融、運転資本金融へのアクセスを回復させることは、金融危機により最も深刻な影響を受けたメンバーが新たな経済成長を達成するために極めて重要である。

 かかる観点から、我々は、金融及び企業部門のリストラを以下のメカニズムを通じて促進する。

・多国間の開発銀行による保証その他革新的なメカニズムの活用を通じることを含め、金融及び企業部門の加速的なリストラの実施を支援する機動的な追加的支援策。

・輸出信用機関と貿易保険機関との間、これら二国間機関と多国間の開発銀行との間の協調的な努力を通じることを含め、運転資本金融及び貿易金融の利用可能性の増大。

・APEC地域において困難に直面している企業及び金融機関が成功裡に金融面及び業務面のリストラを行うことに資する相当な民間の株式資本及び投資を動員する努力を支持。

・輸出信用機関及び貿易保険機関がかかるリストラの奨励に一層触媒的な役割を果たすことを奨励すると同時に、民間金融機関が民間の借り手の債務のリストラに建設的に参加することを妨げている制度的、法的障害をレビューし、個々の状況に応じ、除去。

民間の資本フローの誘因

11.この地域が危機から完全に回復するために、我々は、この地域に成長を高める、安定的な資本フローを引きつけることができなければならない。投資家及び主要民間金融機関によるリスク回避の拡大は、東アジア及び他の新興市場経済の見通しの多様性や長期的な潜在的成長力に関わりなく、これら経済への資本フローの急激な減少につながった。かかる課題に対応するに当たり、我々は、民間部門の資本フローの触媒及び梃子の役割を果たす革新的な金融手段を利用した多国間開発銀行による努力を支持する。

 国際的な格付け機関の最近のパフォーマンスの役割に関して表明された懸念に照らして、我々は、これら格付け機関の活動については、有効性の拡大を促進し、持続可能な資本フローに貢献するものとなるようレビューされることを要請する。

 特に、我々も、短期の資本フローの潜在的に不安定なインパクトを阻止し、長期資本の生産的利用への配分を確保するため、我々自身の国内の金融システムの備えを強化していく必要がある。

国際金融構造の強化

12.我々の喫緊の優先分野は、金融危機の社会的悪影響を緩和し、金融の安定及び経済成長を回復させることでなければならないが、同時に、我々は、将来の金融の不安定をより良く防止し、危機が起きた場合により効果的に解決を図っていくために、国際的な金融構造を強化していかなければならない。我々は、今や、破壊的な混乱のリスクを最小限にしつつ、国際的な資本フローとグローバルな市場がもたらす利益を十分に得るために、国際金融システムの強化を目的とした変化を実現させる時期であることに意見の一致をみた。我々は、強化されたグローバルなアレンジメントが、我々の多くのメンバーが現在直面している困難を回避すると同時に、一層のグローバリゼーションから我々が利益を得ることができるようにするために重要であることにつき完全に合意する。

 特に、我々は、IMFの支持する健全な政策をとっている危機の伝播に脅かされたメンバーに対して予防的なクレジットラインを提供する新しいIMF融資制度の創設を歓迎し、支持する。

 先進メンバー及び新興市場メンバーの緊密な協力及び参加は、国際金融システムを強化するためのこれらの努力の成功にとって極めて重要である。この関連で、IMFの補完的準備融資制度(SRF)といった手段を通じた、危機に対応する国際社会の対応力の向上に当たり、APECは、主要な役割を果たしてきた。我々は、かかる協力の継続を誓う。

貿易及び投資の自由化及び円滑化の課題

13.貿易及び投資の拡大は我々の経済回復に必要不可欠の要素であることは変わらず、我々は自由かつ開かれた市場と投資を可能とするような環境を維持する必要性を改めて表明する。我々は、現下の状況においては、すべてのメンバーにとっての全体的な利益のバランスを確保しつつ、WTOにおける幅広い多角的交渉に関し、早急な進展が図られることが特に重要であると考える。

 我々は、公正なルールと全メンバーにとっての利益を確保する多角的貿易システムを支持し強化するとの我々のコミットメントを再確認する。我々は、WTOのメンバーシップの普遍性を達成するため、WTOルールに従った加盟申請者の速やかな加盟を強く求める。

経済・技術協力の課題

14.APECの多様性及び発展レベルの相違を踏まえ、グローバリゼーション及び自由化は、所得と富の不平等を狭めるために、これらのプロセスから十分に利益を得るための信頼を構築しキャパシティを増加させるイニシアティヴによって補完されなければならない。このようなイニシアティヴは、全体的なキャパシティを強化するのみならず、APECの自由化及び円滑化努力を支えるものである。課題は、持続的経済成長及び開発を確保するためのAPECの協力の三つの柱におけるバランスを引き続き図ることであろう。経済・技術協力は、金融危機の結果、一層の緊急性を有してきている。

1998年の主要な成果

15.APECにおいて我々は、APECのアプローチを通じた結果指向的な個別及び共同の努力を一貫して強調してきた。我々は、スービック及びヴァンクーヴァーを経て実施の3年目に入るが、経済・技術協力に関するキャパシティ・ビルディングに関する努力における進展と共に、我々の貿易及び投資の自由化及び円滑化の課題においてAPECの協力を前進させる上で実質的な成果がもたらされたことに留意する。

16.我々は、我々の閣僚によって報告された、年間を通じて達成された進展と成果について考察し、我々が前回ヴァンクーヴァーで会合した際に我々自身が設定した課題を実行したことに満足の意を表明する。我々は、年間を通じて開催された種々の分野別大臣会合の成果を歓迎するとともに、APECのフォーラムに対し、提言のフォローアップを行うよう指示する。

17.我々は、大阪行動指針の原則に従ってこの地域における自由な貿易及び投資の目標を実現することに向け、我々の個別行動計画(IAP)の改善と実施を継続することを誓約する。

18.我々は、メンバー間におけるモノ、資源、資本及び技術のフローを促進するための我々の閣僚の作業を賞賛する。我々は、新技術の潜在能力を活用する政策を採用することを含め、メンバーのキャパシティを高めることによって、効率性と費用削減を促進する円滑化プロセスを改善する。

19.我々は、9分野の早期自主的分野別自由化(EVSL)パッケージに関し達成された進展を歓迎する。我々は、この地域が金融危機にある中で、自由化プロセスに対する我々のコミットメントを示すべく、参加するメンバーの閣僚に対し、これらの分野において到達した合意を実施するとともに、残る6分野の作業を更に前進させることを指示する。

20.我々は、APECにおける協力の三つの柱すべてを進展させることが一層の成長の基礎を強固にすることを確認する。我々は、人材養成及び将来の技術の活用という優先分野における進捗を賞賛する。我々は、インフラストラクチャー及び持続可能な開発の分野において進行中の作業を含む経済・技術協力プロセスの管理改善に留意する。我々は、閣僚に対し、経済・技術協力活動における調整の強化及び優先分野における作業の強化に対し更に焦点を当てるよう指示する。我々は、経済・技術協力活動におけるビジネス/民間部門の貢献は、我々の経済・技術協力に係る課題を推進するための努力を強化するものと確信し、「衡平な成長のためのパートナーシップ(PEG)」を通じたこの分野におけるABACのコミットメントを歓迎する。

21.APEC共同体がその協力の10年目を迎えるにあたり、我々は、APECが最も効果的かつ効率的な方法により、焦点を絞った結果指向の成果をもたらすことを確保するため、その活動、組織及びメカニズムをレビューする必要性があることを認識する。我々は、APECのフォーラム及び会合が拡散していることを認め、APECのマネージメント・プロセスを更に整理する作業を承認する。我々は、閣僚に対し、2000年に措置を実施すべく、APECプロセスのレビューを1999年までに終えることを指示する。

22.我々は、ビジネス/民間部門の関与がAPECの作業の重要な特色の一つであることを認識し、APECの活動へのビジネス/民間部門のより幅広い参加を承認する。我々は、閣僚に対し、既存のガイドラインに従い、関連するAPECの活動へのビジネス/民間部門の関与を強化するよう指示する。我々は、APECビジネス・トラベル・カード計画及びビジネス関係者に対して数次の査証又は入国許可の利用可能性を拡大するとの共同コミットメントを通じ、ビジネス関係者の移動を改善する努力を歓迎する。我々は、また、ABACの提言を歓迎し、閣僚に対し、APEC食糧システムを含むABACの提案を検討することを指示する。

21世紀に向けた持続的成長のための基盤の強化

23.我々は、21世紀に向けた持続的成長の基盤を提供するとともに範を垂れるため、ソーシャル・セーフティー・ネット、個別に及びグローバルに金融システム、貿易及び投資のフロー、科学技術基盤、人材養成、経済インフラストラクチャー並びにビジネス及び商業との関係を強化することを固く決意する。

ソーシャル・セーフティー・ネットの強化

24.金融危機の波及効果及び社会的な脆弱性への対応の重要性を踏まえて、我々は、優先順位の高い事項として、APECがこの危機の社会的影響に対処する努力を強化すべきことにつき意見の一致をみた。我々は特に、蔵相に対して、世銀、ADB、米州開発銀行及び適切な場合には官民の機関とともにソーシャル・セーフティー・ネットの強化を目指した具体的な行動戦略を策定する作業を行うよう指示する。我々は、次回の会合で報告を受けることを期待する。

金融システムの個別及びグローバルな強化

25.我々は、金融システムの発展及び強化は、2010年又は2020年までの自由かつ開かれた貿易及び投資の達成というAPECの目標を実現するための基盤であると認識する。

 我々は、国際金融システムを強化するためにさまざまなフオーラムで行われている作業を歓迎するとともに、特に、透明性とアカウンタビリティーの改善、国内金融システム及び市場のインフラストラクチャ一の強化、国際金融危機の予防と秩序ある解決における民間部門の関与と調整の改善に向けた提案に留意する。我々は、先進メンバー、新興市場メンバーがともに関与するプロセスを通じて、この作業を継続していくことは相当の価値があると信じている。我々は、拡大G22といったフォーラムがこの目的のために適切であろうことにつき意見の一致をみた。我々は、また、蔵相に対して、迅速に、これらの提案を実施するための措置を策定することを要請する。我々は、APEC内及びその他におけるかかる検討の結果を次回会合に報告することを要請する。

 我々は、安全かつ持続可能な資本フローを促進するために、先進メンバーにおける金融機関に対する強化されたプルーデンシャル規制の範囲を検討すること、健全な分析とリスク・マネージメントの改善を奨励すること、投資銀行、ヘッジファンドその他機関投資家といった国際的な資本フローに関与する民間部門の金融機関のための適切な透明性やディスクロジャーの基準の問題について検討すること、レバレッジの大きい金融機関やオフショアの金融機関のオペレーションの影響について検討することは、特に緊急であると考えている。我々は、これらの分野における、実践的な提案を策定するために、国際金融システム上重要なメンバーを含んだタスクフォースが早期に設立されることを要請する。我々は、また、民間部門との間の秩序立った債務整理アレンジメントを含む危機管理の改善について、適正に構成された国際的な作業部会において直ちに作業を進めることを要請する。これらの提案は、首脳レベルの承認及びその後の実施のため、そのフォーラムにおいて議論され得る。

26.アジアにおける金融の不安定は、安定した国際金融システムの枠組みの下で、強固かつ弾力的で、よく統制された国内金融市場を発展させていくことの重要性を強調している。我々は、それゆえ、銀行制度と証券市場の監督を高めるために国際的に認知された原則をメンバーが採択することを要請する。これらには、銀行の効果的な監督に関するバーゼルの原則や証券監督者国際機構によるものを含む。この観点から、我々は、国際的な基準/コード/ベスト・プラクティスの採用に関するAPECにおける進展を記録に残すための方策を明確にすることを含めて、メンバーにおける金融監督体制の適切性について評価しこれを強化するための努力に貢献する方途を探求するための作業を我々の蔵相及び中央銀行総裁が行うことを歓迎する。我々は、これらの指示双方について次回会合における報告を期待する。

 我々は、また、蔵相に対して、メンバー間のパートナーシップ、民間部門及び世銀、ADBその他の多国間の機関との共同努力を通じて、この地域への資本フローの回復を促進していくための革新的な方途を探求していくことを指示する。我々は、次回会合における具体的な成果を期待する。

27.我々は、この地域における強固かつ弾力的で安定した金融資本市場を発展させていくとのセブ共同イニシアティヴが、我々の蔵相によって進展してきたことに満足の意を表するとともに、個々の及び地域レベルでのこれらイニシアティヴの定期的な実施状況の更新に期待する。我々は、この地域におけるより自由かつ安定的な資本フローの必要性に取り組むための蔵相の行動を承認するとともに、かかる観点から、我々は、短期資本を含む資本フローのモニタリングのための適切なガイドラインの作成とともに、実践的な自主的行動計画を策定するための努力を払うに当たり、過去18ヶ月の有用な教訓を組み込んでいくことを蔵相に指示する。

28.我々は、危機の影響を受けた地域のメンバーが、その経済を復興し現在の困難を克服する十分なキャパシティを構築することを支援するための努力が拡大していることを賞賛する。我々は、経済ガヴァナンス・キャパシティ・ビルディングに関するオーストラリアのイニシアティヴを歓迎し、キャパシティ・ビルディングのための強化された共同行動として提案されている分野を歓迎する。我々は、また、他の関心を有するパートナー及び機関と協力しつつIMFシンガポール研修所において技術協力プログラムを提供するとのシンガポールのイニシアティヴを歓迎する。我々は、このようなキャパシティ・ビルディングのイニシアティヴを追求するようメンバーを奨励する。

29.我々は、国内及び国際的レベルで経済的透明性及び予見性を向上させることが重要であることにつき意見の一致をみた。我々は、このため、この地域におけるコーポレート・カヴァナンスを強化する方策を検討するとのカナナスキスで蔵相により合意された新しい共同イニシアティヴを歓迎する。我々は、また、国内債券市場の発展に関する新たなイニシアティヴを歓迎する。我々は、また、APEC地域全体にわたり金融関係者のために民間部門の訓練・教育プログラムを創設するとの民間金融家会合のイニシアティヴを賞賛すると共に、右がこの分野におけるメンバーの努力を補完するものであると信じる。我々は、これらすべてのイニシアティヴの進展を図るための努力に焦点を当てるよう我々の蔵相に指示するとともに、次回会合における具体的な報告を期待する。

貿易及び投資のフローの強化

30.我々は、この地域における貿易及び投資のフローを強化する一層の努力を歓迎する。これらには、競争政策及び規制改革に関する作業並びに貿易及び投資のフローを促す環境を一層強化する措置の速やかな実施を含む。この観点から、我々は、投資に関するオプションと措置のメニューの採択及び1999年6月にソウルにおいて「APEC対外直接投資(FDI)マート」を主催するとの韓国のイニシアティヴを歓迎する。

 我々は、知識に基礎を置く産業及び観光が次世紀における成長と発展に貢献する相当の潜在能力を持つことに留意する。我々は、APECメンバーの繁栄に対するこれら分野の貢献を最大とするような努力が必要であることを認識する。

科学技術の基礎強化

31.我々は、APECにおける将来に向けた技術の活用能力の強化のための我々のビジョンに資し、強力かつ持続可能な地域的科学技術ネットワーク及びパートナーシップの発展を促す「21世紀に向けた1998年APEC科学技術産業協力の指針」を承認する。我々は、指針で設定された原則、メカニズム及び共同行動のための分野に留意し、閣僚に対し、指針を実施するために適切な努力を払うよう指示する。我々は、中国・APEC科学技術産業協力基金の設立を歓迎する。

人材養成の強化

32.我々は、人材養成は、21世紀に向けたアジア太平洋のメンバーの持続的成長のキャパシティのためのあらゆる努力の実現にとって鍵となる不可欠な要素であるとの共通の信念を改めて表明する。我々は、我々の作業計画全域にわたって人材養成を推進するための枠組みにコミットした。我々は、このため、別添の<u>「1998年APECクアラ・ルンプール技能開発行動計画」</u>を、技能開発における官/ビジネス共同パートナーシップに重要なくさびを打ち込むものとして承認する。この計画は、ビジネス分野からの貢献の価値を認識し、ビジネス・コミュニティへのAPECのアウトリーチの継続的拡大を強調している。我々は、メンバーからのイニシアティヴを歓迎し、閣僚に対し、この行動計画の実施に向けた協調的努力を払うよう更に指示する。これに関し、我々は、この地域における保健・医療専門家の訓練のためのシンガポールによる技術協力を歓迎する。

 我々は、APECプロセスにおける女性の役割を促進するための継続的努力を支持する。この目的に向け、我々は、閣僚に対し、「APECにおける女性の統合のためのフレームワーク」の策定を指示する。

経済インフラストラクチャーの強化

33.我々は、我々の経済インフラストラクチャーのキャパシティ向上は、APEC共同体全般にわたる持続可能かつ衡平な成長及び発展という我々の目標の実現に向けての不可欠な要素であることを再確認する。我々は、1998年を通じ経済インフラストラクチャーの一層の強化及び発展に対してなされたコミットメントを特に賞賛する。我々は、沖縄におけるエネルギー大臣会合において承認された天然ガス・イニシアティヴを歓迎する。我々は、「インフラ整備官民協力増進のためのヴァンクーヴァー・フレームワーク」の実施において進展がみられていることを認識する。我々は、アジア太平洋情報社会を創設するとのイニシアティヴの推進において進展がみられていることを歓迎し、「アジア太平洋情報基盤(APII)」の整備を更に進めるための作業を承認する。

 我々は、クリーナー・プロダクション、海洋環境の保護及び持続可能な都市を含め、我々の作業計画の全域にわたり持続可能な開発を進めるとの我々のコミットメントを改めて表明する。我々は、APEC共同体の経済成長・人口増加に関連し、食糧、エネルギー及び環境分野においてとられる共同行動を承認する。我々は、閣僚がこれらの共同行動の実施を進めるために努力することを指示する。我々は、予期せぬ自然・緊急災害の予防・対応措置に係るより長期的なキャパシティ・ビルディングにおける協力を促進する「緊急事態準備のためのキャパシティ・ビルディング・イニシアティヴに向けたAPECフレームワーク」を設定した閣僚のイニシアティヴを賞賛する。

ビジネス及び商業との関係の強化

34.中小企業は、APECにおける全企業の95%以上を占め、80%に至る労働力を雇用し、APECメンバーのGNPに30%から60%貢献する主要な利害関係者である。我々は、この地域における成長と発展に貢献する中小企業の潜在能力の活用及び向上が重要であることを強調する。我々は、個別及び共同行動を通じ企業及び起業家双方の育成のための戦略的方向のブループリントを示した「中小企業育成統合行動計画(SPAN)」をとりまとめた閣僚を賞賛する。我々は、中小企業のダイナミズムの一層の伸長及び強化に焦点をあてること、SPANの共同行動の実施にプライオリティーを与えること及び中小企業の発展の強化のための個別的な行動をとるようメンバーに奨励することを閣僚に対し指示する。我々は、次回会合において、より具体的な成果を受けることを期待する。

35.我々は、この地域における電子商取引の促進のための幅広いテーマ及び協力行動を含む「APEC電子商取引に関する行動のためのブループリント」をまとめた閣僚を賞賛する。我々は、コンピューター2000年問題が甚大な経済、貿易、金融上の混乱をもたらす危険性があることを認識する。我々は、すべてのメンバーがこの問題を迅速に解決するため、問題意識を高め必要な措置を実施する必要があることにつき意見の一致をみた。

 我々は、我々の目標に向けたコミットメントと成長の基盤を強化するとの我々の決意により結束したAPECが、21世紀の課題に立ち向かうことを確信する。

クアラ・ルンプール、マレイシア

1998年11月18日