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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳宣言:新世紀における新たな挑戦への対応(小泉内閣総理大臣)

[場所] 上海
[年月日] 2001年10月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 仮訳
[全文]

1.我々APEC首脳は本日、上海にて、21世紀初めて会合した。我々は、我々が直面している新たな課題に対応するための方策を模索するために、ここに会合する。アジア太平洋地域の大きな可能性を確信し、我々は、より広範な参加及びより緊密な協力を通じて、共通の繁栄を達成することを決意した。

2.我々のこの会合は、決定的に重要な時期に開催された。世界の主要経済は予想よりも厳しい減速を経験している。アジア太平洋地域の多くの経済が経済的下降を経験しており、いくつかの新興経済は好ましくない外的な市場条件の影響を特に受けている。さらに、アメリカ合衆国に対するテロ攻撃は消費者及び投資家の信頼のみならず、いくつかの産業を損なうおそれがある。長期的には、アジア太平洋コミュニティに対する主要な挑戦は、グローバル化及びニュー・エコノミーによってもたらされる大きな変化に取り組むとともに豊富な機会から恩恵を受けることである。

3.アジア太平洋における最も重要な地域経済協力フォーラムとして、APECは、メンバー・エコノミーが、これらの機会及び挑戦を受け入れるのを支援する上で指導的役割を果たすのに適したものである。我々はまた、テロと戦うというアジア太平洋コミュニティの共同の決意に関する明確かつ強力なメッセージを送ることを望む。我々は、保護主義と戦い、かつ、来るWTO閣僚会議においてWTO新ラウンドの立ち上げにコミットすることにより、不確実な時代において、現在の経済的下降を逆行させるとともに、人々の信頼を維持する決意である。これらの努力は、平和、調和、及び共通の繁栄というAPECの展望の追求と調和するものであり、また貢献するものである。

4.このような展望を踏まえ、我々は、持続可能な経済成長を促進し、グローバル化とニュー・エコノミーによる恩恵を共有し、貿易及び投資の自由化及び円滑化(TILF)を推進することによって、新世紀におけるよりダイナミックで繁栄したアジア太平洋のために協力する決意である。このため我々は、アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資を、先進メンバーについては2010年までに、途上メンバーについては2020年までに達成するとのボゴール目標へのコミットメントを再確認する。我々はまた、上海アコードの採択により、第二の十年期及びその後のAPECの発展のための道筋をつけた。

持続可能な成長の促進

5.我々は、アジア太平洋地域のファンダメンタルズが引き続き健全であることから、アジア太平洋地域における中長期的な成長の見通しへの揺るぎない自信を確認する。1997年から1998年にかけての金融危機に続く改革と構造改革が実を結んだ結果、多くの新興経済が、今や経済の減速と予測外の衝撃の影響に耐えうる遙かに強靱な位置にある。

6.我々は、経済成長を高めるための適切な政策及び措置を採用することを約束し、成長を回復するためのみならず、持続可能な成長及び広範な発展のための、より強固な基盤を構築するために、マクロ経済政策対話及び協力を強化する決意である。すべてのメンバーが、市場を強化し、国際経済活動の早期回復を促進するための、時宜に合った政策行動をとることが重要である。

7.この関連で、我々は、地域全体における市場ファンダメンタルズを強化するために、能力を構築し構造改革を深めるための国内努力を加速することを確約する。この目的のため、我々は、健全な経済政策と企業ガヴァナンスの重要性、及び競争と革新を促進し、キャパシティ・ビルディングにより大きな重点をおいた法的及び規制の枠組みを形成する上で政府の重要な役割と責任を強調する。ソーシャル・セーフティー・ネットの開発は、経済的衝撃が脆弱なグループへ及ぼす悪影響を減ずる上で重要な役割を果たすことから、高い優先度を有する。2001年エコノミック・アウトルックで示されたように、成長促進のためには、金融の効率性を強化することも必要不可欠である。それ故我々は、経済法制度の強化、資本市場の監督、企業ガヴァナンス及び国際的金融基準の実施等、財務大臣プロセスを通じた作業に例示されるように、これらの分野におけるAPECの努力を歓迎する。我々はまた、これらの分野における太平洋経済協力会議(PECC)による貢献を歓迎する。我々は、担当閣僚と実務者に、その作業を踏まえるように指示する。

8.金融の安定性及び危機防止を促進することの重要性を認識し、我々は、国際金融システムを強化する必要性を強調する。我々は、金融危機の再発を防止するためのメカニズムの効果を強化するための継続的努力を要請する。我々は、例えば、オフショアー金融センター及び高レバレッジ機関に関する作業部会の提言の実施の効果及び進捗についての金融安定化フォーラムによるレビューを含む、国際金融アーキテクチャーを強化するために講じられてきた重要な措置を歓迎する。我々は、国際通貨基金(IMF)理事会の代表枠及びIMFの出資比率が現在の世界経済を適切に反映することを確保することの重要性を強調する。IMF及びその他の国際金融機関が中心的役割を果たす一方、これら機関による金融安定化促進のための努力を補完する上で、地域的協力もまた非常に有用である。この観点から、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国及び中国、日本、韓国の間の融資取極を強化するチェンマイ・イニシアティブの実施における実質的進捗を歓迎する。我々はまた、マニラ・フレームワーク・グループにおいて現在進行中の作業に留意する。我々は、これらすべての努力を支持するとともに、それらを更に強化するように要請する。

9.最近の経済の減速は、何よりも、より開かれた、かつより強力な経済に向けたAPECの作業の重要性を裏付けるものである。我々は、自由で開かれた貿易及び投資への確固たるコミットメントを再確認し、あらゆる形態の保護主義と戦うために協力することを決意する。我々は、世界的な経済成長を維持するために必要不可欠である開かれた、公平で、ルールに基づいた多角的貿易体制への、最大限の支持を表明する。APECもまた、貿易及び投資並びにキャパシティ・ビルディングに関するAPEC自身のアジェンダへの軌道を進み続けなければならない。

グローバル化とニュー・エコノミーがもたらす恩恵の共有

10.我々は、グローバル化が、経済成長を刺激し、人々により高い生活水準をもたらすこと及び我々のコミュニティにおける社会的福利を改善することを約束する強力な媒体であると確信している。我々は、ニュー・エコノミーが生産性を向上させ、経済的組織における革新や起業家精神を刺激し、知識と富を創造し普及させるための広範な潜在性を有すると認識している。しかしながら、これらの過程から生じる機会は、エコノミー間で、またエコノミー内においてさえも、十分に共有されていない。それ故に、我々のコミュニティにおけるすべての個人が、これらの機会から恩恵を得られるようにする必要がある。我々は、グローバル化とニュー・エコノミーのもたらす挑戦と機会への主要な回答として、人材及び組織のキャパシティ・ビルディングが重要であることを強調する。キャパシティ・ビルディングは、市場の開放及び完全な参加とともに、APECの成功のために不可欠なバランスの取れたアプローチの主要な要素を構成するものである。

11.この観点から、我々は、人材養成(HCB)が、本年及び今後の中心的な議題であり続けることを再確認する。我々は、人材養成ハイレベル会合の成功を賞賛し、ニュー・エコノミーにおける更なる作業に機会を提供する北京イニシアティブを人材養成のための包括的な原則として歓迎する。我々は、APECフォーラムとメンバー・エコノミーに対して、先進エコノミーと途上エコノミーが相互に補完するという精神に基づいて、それぞれが関心を持つ特定分野において、フォロー・アップ活動に着手するように要請する。我々は、域内のすべての主要な利害関係者の関与及び、特にこの目的のための政府、ビジネス界、学界、及び訓練機関のパートナーシップの確立を支持する。我々は、APEC教育基金、人材養成促進プログラム、及びAPEC金融研修・開発プログラムによって開始され、主催されたAPECサイバー教育協力コンソーシアムの立ち上げを歓迎する。我々はまた、第4回人材養成大臣会合の成果を歓迎し、社会的及び経済的発展並びに人々による繁栄の共有を促進するための基礎として、21世紀におけるAPEC人材養成活動に貢献する熊本声明を支持する。

12.公平な成長及び持続可能な開発を達成する上での経済・技術協力の重要性を再確認し、我々は、経済・技術協力の目標を進展させるためのAPECによる進捗を歓迎し、貿易及び投資の自由化及び円滑化と経済・技術協力とが相互に強化しあうべきでことを強調する。我々は、この目的のための努力がさらに強化されるよう要請する。我々は、個々のメンバー・エコノミーによる経済・技術協力行動計画の策定及び提出を、健全かつバランスの取れたAPECの発展に向けた主要な進捗として賞賛し、閣僚と実務者に対し、これまでの教訓を踏まえて、活動を発展させるよう要請する。

13.我々はまた、経済・技術協力のその他の分野における進捗を歓迎する。我々は、APEC感染症撲滅戦略を支持し、メンバー及び関連するフォーラムに対し、その勧告を実施するよう要請する。

14.中小企業及び零細企業の重要性に鑑み、我々は、閣僚及び実務者に対し、APECの中小企業のための活動に関する統合計画を策定し、零細企業に特に重点を置くよう指示する。この観点から、来年メキシコが主催する零細企業に関するハイレベル会合を歓迎する。

15.昨年のブルネイにおける成果に立脚し、我々は、地域における情報通信技術(ITC)の促進及び適用を通じ、長期的、先見的、且つより行動指向的なニュー・エコノミー発展のためのe−APEC戦略の実施により、更なる進捗を達成した。その目標は、高度で信頼の置ける、安全なICT及びネットワークの利用、及び普遍的なアクセスの促進によって、より高い成長率、より大きな教育及び雇用機会、より良い公共サービス並びにより高い生活水準をともなったデジタル社会にむけたAPECを構築することである。そのような社会は、女性、障害者及びその他の人々を含むすべてのメンバー・エコノミー及び個人に、平等な機会及び広く共有された恩恵をもたらすものでなければならない。我々は、e−APEC戦略の分野横断的性格を賞賛し、APECのフォーラム及びメンバー・エコノミーに対し、適切な場合に、この戦略で打ち出された、共同及び個別行動に向けたプログラムを実施するよう強く促す。現在の状況において、この戦略の早期実施は、ICTセクターの再生の助けにもなる。我々はまた、電子商取引の促進についての進捗を歓迎する。

16.2002年9月、我々の多くは、経済成長の促進、人類・社会の発展の促進及び環境の保護を、相互依存的な目的として追求する持続可能な開発に対する我々のコミットメントを再活性化させるために、ヨハネスブルグでの持続可能な開発に関する世界首脳会議に出席する。我々は、この地域における広大な範囲の活動に取り組んでいるAPECが、世界サミットの成功にどのように貢献できるかを考慮し、作業プログラムにおける成果を推進する。

17.我々は、グローバル化の便益と費用に関する議論が人々の間で進行中であることを認識する。このような議論は、グローバル化の影響についての厳密かつ包括的な分析に基づいている場合には、健全なものである。今こそ、APECが前面に出て、この人々の議論を建設的なものへと導く時である。我々は、実務者に対し、構造調整及びその影響に特に焦点を当てた、グローバル化と共有された繁栄に関するAPECダイアログを開催するよう指示する。それと同時に、APECは、ビジネス界及びその他の利害関係者に対して、彼らがAPECのプロセス及びグローバル化に広く参加し、そこから利益を得ることを確保するために、APECの目的、活動及び恩恵に関して意見交換を行うように働きかけて行くべきである。特に我々は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)の報告に感謝し、同委員会と他のビジネス界の代表との対話を評価する。我々はまた、閣僚と実務者に対し、APECのコミュニケーション及びアウトリーチに関する戦略及びAPECの相互作用に関するアド・ホック・グループの結果を実施するためのプログラムを発展させ、実施するよう指示する。

18.APEC域内における持続可能な成長もまた、増加し、かつ益々繁栄している人口を養う能力を必要としていることに留意し、首脳は、APEC食料システム・イニシアティブの加速的な実施を要請する。生産性の改善、栄養の向上、及び農産物が環境に与える影響の減少におけるバイオテクノロジーの恩恵を認識し、我々は、健全な科学に基づいたバイオテクノロジー生産物の安全な導入及び使用の重要性を再確認する。我々はまた、農業バイオテクノロジーに関する政策レベルの対話を開催するイニシアティブを歓迎し、関連するキャパシティ・ビルディング活動の増加を要請する。

19.我々は、APECがその作業においてジェンダーの公平性を取り扱う能力に関し、ジェンダー統合に関するアド・ホック・グループのリーダーシップを通じて成し遂げられた著しい進捗に満足する。我々の時代の経済的機会の幅広い分配に対する我々のコミットメントは、APECの作業にジェンダーの視点を取り入れることを必要とする。我々は、2002年にメキシコで第2回女性問題担当大臣会合を開催するという決定を、更なる進捗を達成する機会として歓迎する。

多角的貿易体制の支持

20.貿易・投資の自由化及び円滑化は、不均衡の縮小と共通の繁栄という我々の展望を実現するためのもう一つの鍵を握っており、急速な変化が世界市場を変貌させつつある現在、その重要性を増している。従って、我々は、域内及び世界全体において、貿易及び投資の自由化及び円滑化の推進のため一層努力することにコミットする。

21.11月、第4回WTO閣僚会議において重大な決定が行われる。その結果は、我々の将来に長期的な影響を持つ。我々の選択は、間違いなく、すべての人々に、より大きな機会をもたらす、より強固な多角的貿易体制のためのものである。我々は、世界経済の現在の減速によりWTO新ラウンドの立ち上げが一層の急務となっていることを認識し、閣僚会議におけるWTO新ラウンドの立ち上げを強く支持する。我々は、立ち上げの後は、新ラウンドは迅速に完了すべきであるという点で一致する。

22.我々は、バランスがとれ、かつ十分に広範で到達可能なアジェンダの必要性を強調する。これは、新ラウンドの成功裡の立ち上げ及び完了に欠かすことができないものである。我々は、新ラウンドのアジェンダに、一層の貿易自由化、WTOルールの強化及び実施問題が含まれるべきであり、また、すべてのメンバー、特に、途上メンバーや後発開発途上国の関心と懸念が反映されるべきであるという点で一致する。我々はまた、そのようなアジェンダが21世紀における課題に対処し、持続可能な開発という目標を支えるであろうという点で意見の一致をみる。これは、全ての人々が、貿易及び投資の拡大による繁栄の流れにアクセスし、かつ公正な分配を享受することを確実にする上での助けとなる。この関連で、我々はまた、新ラウンドがすべてのWTOメンバーにより支持されることが重要であり、そのため、特別かつ異なる待遇の効果的実施及びWTO内部の透明性の向上の必要性があることを強調する。

23.我々はAPEC全域における電子商取引との関税賦課に関するモラトリアムへのコミットメントを再確認し、電子商取引に関する関連のWTO協定の重要性に鑑み、モラトリアムが第5回WTO閣僚会議まで延長されることに意見の一致をみる。

24.我々は、戦略的APEC計画の目標を実現するAPECのWTOに関連する能力構築のための活動が、ユニークかつ多角的貿易体制を強化するための実質的な貢献として、重要であることを再確認する。また、WTO協定の実施に関し途上メンバーを支援するため、同計画の実施を加速するよう要請する。

25.我々は、中国のWTO加盟条件に関するすべての交渉が完了したことを賞賛する。これは、WTOを真に世界的な機構とならしめるのを促進するのみならず、世界的な経済協力の土台を強化する、歴史的進展である。我々は、来るWTO閣僚会議において中華人民共和国の加盟の最終的な承認が決定されること強く求める。我々はまた、同会合におけるチャイニーズ・タイペイの加盟の最終的な承認及びロシアとベトナムの加盟手続きの進展に対する強い支持を再度表明する。

26.我々は、地域貿易協定や二国間貿易協定がWTOにおける多角的貿易の自由化の踏み台(ビルディング・ブロック)となるべきであることを再確認する。それ故、既存の及び生まれつつある地域貿易協定が、WTOのルール及び規律に整合的であるべきことを確認する。我々はまた、これらの取極がAPECの構想に沿うものであり、APECの目標及び諸原則を支えるものであるべきと信じる。我々はこの関連の情報交換に関するイニシアティブに留意する。

将来のビジョンの明確化

27.APECは1989年に始まって以来長い道のりを歩んできた。これを取り巻く世界も同様である。これらの変化は、我々の地域におけるAPECのような協力促進の枠組みの必要性をいささかも減じていない。反対に、これらの変化は、APECプロセス、シアトルからブルネイにかけて進展した、多様ながらも相互依存するエコノミーの平和で繁栄したアジア太平洋コミュニティの展望、そしてとりわけ、ボゴール目標に、我々が完全にコミットし続けることを更により一層必要にした。我々はまた、自主性、コンセンサスの形成、個別及び共同行動の組み合わせ、柔軟性、包括性及び開かれた地域主義といった、我々の成功を鼓舞し、支える基本的原則に基づいたユニークなAPECのアプローチへの信頼を再確認する。

28.同時に、我々は、APECが世界経済及び地域経済の変化に対応し適応することにより時代と共に前進するダイナミズムを示さなければならないと認識する。第二の十年期に入るにあたり、APECにとって、その将来の展望を質的に高め、改訂し、より明確にすることが重要である。この点で、我々は、第二の十年期におけるAPECの目標は、ボゴール目標の達成に向け継続的に進展すること、成長の利益をより幅広くかつ衡平に共有することでコミュニティとしての精神を深めること、及びAPECを地域経済協力のより緊密で強いパートナーシップに組織することであると展望している。

29.この目的のため、我々は、本日、来るべき時代のAPECの発展のための戦略的かつ前進的なアジェンダとして上海アコードを発表する。このアコードは、我々のコミットメントを遂行する共通の決意を表明するのみならず、我々の目標及び目的を達成するために取るべき主要な手段を示すものでもある。上海アコードは、APECのメンバーの多様性を反映しつつ、二つの相互に支え合いかつ補強し合う要素として、貿易及び投資と経済・技術協力とを統合するものである。

30.上海アコードにおいて、我々は以下をコミットする:

● 新たな世紀におけるAPECを導く概念的及び、政策的枠組みを特定することにより、将来のAPECの展望を拡大する。そのような枠組みは、グローバル化とニュー・エコノミーに伴う変化を認識し、国内レベル及び国際的レベルの双方の改革及びキャパシティ・ビルディングをカバーするように、APECのアジェンダを拡大する必要性を反映させる。

● 2005年に全般的な進捗状況の中間評価を行い、期限までにボゴール目標を達成するためのAPECのロード・マップを明確にする。この作業には、大阪行動指針(OAA)の拡大・改訂、ボゴール目標達成に向て選ばれたAPECイニシアティブを推進する上でのパスファインダー・アプローチの採用、ニュー・エコノミーのための適切な貿易政策の採用の促進、APEC貿易円滑化原則のフォローアップ、経済ガバナンスのより一層の透明化の推進等を含むこととする。

● 経済・技術協力及びキャパシティ・ビルディングに関する努力を強化しつつ、個別行動計画のピア・レビューを強化することにより、APECの実施メカニズムを強化する。

31.我々は、閣僚及び実務者に対し、このアコードを積極的にフォローアップするよう指示する。我々の協調的努力により、ここに設定した展望が、時を経て実を結び、さらには、安定的で、安全かつ繁栄したアジア太平洋コミュニティを実現することを我々は確信する。

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付属書1

上海アコード

I.APECのヴィジョンの拡大

 ボゴール目標以降、グローバル化及びニュー・エコノミーは、類いまれなる機会と挑戦を提供しており、世界経済及び地域経済を著しく変化させてきた。APECのヴィジョンは、これらの変化を反映する必要がある。貿易の自由化はAPECのアジェンダの中核にある一方で、首脳は、域内のすべてのエコノミーの利益を最大化するため、貿易・投資の自由化及び円滑化と経済・技術協力とに一体的に取り組むという、改訂し、かつ、拡大されたヴィジョンの中にボゴール目標を位置付ける必要があることに同意する。各エコノミーが、国内及び国際的なレベルで行っている幅広い分野にわたる改革及びキャパシティ・ビルディングのための共同行動及び個別行動を強化することは、このようなヴィジョンを具体化する上での最大の課題の一つである。

健全なマクロ経済政策、良い経済ガバナンス、安定した金融システム及び一層の経済的相互作用が地域の繁栄を向上する上で果たす重要な役割に鑑みれば、財務大臣プロセスの戦略的目標もまた、APECのより広範なヴィジョンに反映されるべきである。

II.ボゴール目標へのロード・マップの明確化

●大阪行動指針(OAA)の拡大及び更新

 首脳は、大阪行動指針(OAA)に関する本年の作業を賞賛するとともに、APECの成果及び域内及び世界情勢の変化に対応する能力を反映させる上での同作業の重要性を認識する。首脳は、e−APEC戦略の関連する側面の実施や「市場機能の強化」を通じたものを含むニュー・エコノミーの発展といった、大阪会議以降の世界経済における根本的な変化を反映させるため、OAAを拡大すべきであることに同意する。首脳は、閣僚に対し、これをフォローアップするよう指示する。実務者は、OAAの拡大に関する提言について、2002年の貿易担当大臣(MRT)会合に中間報告を提出し、2002年の閣僚会議(AMM)に最終報告を提出すべきである。

●いくつかのAPECイニシアティブの推進におけるパスファインダー・アプローチの採用

 首脳は、準備ができているエコノミーは、ボゴール宣言に従って、共同の取り決めを開始することを再確認する。首脳は、そのような「パスファインダー・イニシアティブ」の発展を奨励し、そのようなアプローチを採択する上で、自主性、包括性、コンセンサスに基づく意思決定、柔軟性、透明性、開かれた地域主義及び先進メンバー及び途上メンバーの間での異なるタイム・テーブルといったAPECの諸原則が遵守されるべきであることに意見の一致をみる。イニシアティブを試験的に実施する複数のメンバーによる「パスファインダー・イニシアティブ」の活用は、ボゴール目標に向けた進展を再活性化し、強化されたキャパシティ・ビルディングのプログラムを通じてより広範な参加を奨励するための枠組みを提供するであろう。首脳は、また、これらのイニシアティブが透明で開かれたものであるべきであり、明確な目的及び後から準備ができた時に参加する他のAPECメンバーの可能な限り広範な参加を奨励するための実施枠組みを備えるべきであるということに意見の一致をみる。

●ニュー・エコノミーのための適切な貿易政策採用の促進

 首脳は、新たな状況を反映し、ニュー・エコノミーの発展を奨励するため、適切な貿易政策を採用することが重要であることを認識する。この努力の一環として、首脳は、実務者に対し、2002年の半ばまでに、サービスの自由化の状況、関税制度、知的所有権制度の遵守状況に関する情報等といった適切な貿易政策に関する情報を交換するよう指示する。これに基づいて、エコノミーは、2002年の閣僚会議までに目標を設定する。この作業においては、e−APEC戦略において承認された関連の勧告の実施が考慮されるべきである。メンバー・エコノミー間の多様性に鑑み、首脳は、ニュー・エコノミーの発展は、実績を上げるため具体的なキャパシティ・ビルディングのプログラムの策定及び実施に関わってくることに意見の一致をみる。

●貿易円滑化に関する原則のフォロー・アップ

 首脳は、閣僚に対し、2002年の閣僚会議までに、民間セクターと緊密な連携をとりつつ、貿易円滑化に関するAPEC原則を2006年までに実施するための具体的行動及び措置を特定するよう指示する。その目的は、今後5年間にAPEC域内における取引費用を5%削減することを目指すことにより、取引費用の大幅な削減を実現することである。首脳はまた、閣僚に対し、メンバー間の多様性及びこれまで各エコノミーにより達せられた進展を十分に考慮に入れた上で、貿易円滑化に関する客観的な基準を設定することの可能性を探求するよう指示する。首脳はまた、貿易円滑化の分野において途上メンバーのキャパシティ・ビルディングを支援するための援助プログラムが特に重要であることに同意する。

●透明性原則の採択

 首脳は、経済ガバナンスにおいて透明性が重要であることを認識する。この関連で、APECは透明性に関する条項を含む様々な分野におけるメニュー・オブ・オプションや原則を策定してきている。首脳は、閣僚に対し、各メンバーの個別の状況を考慮しつつ、APECにおいて合意された透明性原則の実施を遂行し、2002年及びその後も、個別行動計画(IAP)の進展に関し報告するよう指示する。首脳はまた、途上メンバーが、より一層の開放性と透明性に向け進展するのを助けるため、よく的が絞られた支援を行うことが重要であることを強調する。首脳は、この目標を達成する上で電子政府に関する協力が重要であることに留意する。

III.実施メカニズムの強化

●個別行動計画(IAP)ピア・レビュ−の強化

 首脳は、個別行動計画(IAP)ピア・レビューを強化するとの閣僚の決定を歓迎し、メンバーが自主的に新たなアプローチに基づくピア・レビューを実施するよう奨励する。首脳はまた、そのようなレビュー・サイクルの完了に際し、すべての自発的なエコノミーを関与させつつ、ボゴール目標に向けた全般的進捗の中間段階での現状把握を2005年に行うべきであるという意見の一致をみた。

●経済・技術協力及びキャパシティ・ビルディングに向けた努力の強化

 首脳は、経済・技術協力が、持続可能な成長を促進し、不均衡を縮小するのみならず、貿易・投資の自由化及び円滑化に対する直接的な支援及びエコノミーの競争力の強化を通じ、すべてのメンバー・エコノミーによる繁栄の達成を可能とすることに役立つことを認識する。首脳は、OAAの第2部を改訂するために本年とられた努力を賞賛し、経済・技術協力に関する努力とAPECにおけるすべての優先的目標とのより一層の統合を要請する。首脳は、様々な経済・技術協力イニシアティブ、特に人材養成のような分野横断的な事項の効果的な実施を確保することに対し、強い推進力を与える必要性を強調する。

 首脳は、経済・技術協力を十分に強化し、すべてのフォーラムにおける経済・技術協力活動の調整及び管理を改善することが重要であることを認識する。この関連で、首脳は、経済・技術協力小委員会(ESC)のマンデートと役割のレビューが行われることを歓迎し、早期の進展を期待する。首脳はまた、APECのアジェンダ全般にわたる中小及び零細企業に関する優先的事項の一体化の奨励が必要であることを認識する。

 首脳は、試行段階における経験と教訓を踏まえつつ、経済・技術協力活動を評価し、奨励する手段として、エコテク行動計画(EAPs)を更に発展させることに意見の一致をみた。首脳はまた、すべてのメンバーに対し、自主的にこの作業に参加するよう要請する。首脳は、作業の重複を最小化し、キャパシティ・ビルディングのプログラムを最大限に供給にするため、APECが二国間、多数国間及び民間の資金供給団体との関係を強化すべきであることに意見の一致をみた。首脳は、閣僚及び実務者に対し、経済・技術協力活動を強化し、明年の閣僚会議に進捗を報告するよう指示する。