[文書名] APEC首脳宣言:未来に向けたパートナーシップに関するバンコク宣言
平成15年10月21日
我々は、我々の地域が直面する課題に多様な力を合わせて立ち向かうために、バンコクにおける第11回APEC首脳会議に参集した。本年のAPECのテーマである「相違ある世界:未来に向けたパートナーシップ」及びそのサブ・テーマに沿って、相互作用的で有意義な意見交換を行った結果、我々は、ボゴールで定めた目標の達成のためには、力強いパートナーシップが極めて重要であるとの認識で一致した。急速に変化する国際環境の中で我々の展望を実現するためには、人々と社会が自由で開かれた貿易の恩恵を十分に享受できるように備える一方で、域内の貿易・投資を自由化し、円滑化するためのみならず、安全に対する脅威から人々と社会を保護するためにも、我々は、パートナーシップを強化することにつき合意した。このような措置をとることにより、我々は、1993年に首脳が確立した「人々のための安定、安全及び繁栄を達成する」というAPECの展望を実現することができる。
1.貿易と投資の自由化の促進
我々は、多角的貿易体制の優越性を再確認し、ドーハ開発アジェンダ(DDA)が農業改革、改善された物品及びサービスの市場アクセス、及び貿易の規律の明確化と改善の分野において、全てのメンバー、とりわけ途上メンバーに真の利益をもたらす可能性を提示しているとの認識で一致した。我々は、DDAを前進させるためにカンクン閣僚会議において行われた有益な作業の継続を強く支持する。我々は、グローバルな自由貿易が盛んになるためには、地域的及び二国間の自由貿易協定がWTOの諸原則と整合的であり、WTOの目的を促進し、ボゴール目標に資するものでなければならないとの認識でも一致した。
DDAと自由で開かれた貿易及び投資というボゴール目標及びそれらを支援する諸条件を促進するため、我々は以下の点につき合意した。
・開発の側面がその中枢をなしていることを改めて表明しつつ、DDAの野心的でバランスの取れた成果を強く求める。
・成功裏の妥結に向けて交渉を進めていくために、柔軟性と政治的意思が緊急に必要とされていることを認識し、2003年9月13日付デルベス議長テキストを基礎に議論を積み上げていくことにより、交渉プロセスを再活性化させる。
・あらゆる形態の農業輸出補助金、不当な輸出禁止・輸出制限の撤廃に向けて作業を行い、ドーハ閣僚宣言のマンデートに従って、ルール交渉グループで行われている作業にコミットする。
・多国間、地域的及び二国間の枠組みが補完的であり、かつ相互に補強し合うために、こうした枠組みが調和の取れた形で自由貿易を進める。
・ロシア連邦とベトナムのWTO早期加盟を引き続き支援する。
・APECが最も付加価値を提供できる分野におけるWTO関連キャパシティ・ビルディング及び信頼醸成に関するAPECの作業を継続するとともに、こうした作業の有効性の改善に向けた過去の成果を見直す。
・閣僚に対し、APECの貿易課題をWTOの作業をより支援するようなものとするための具体的な措置をとり、2004年にその進捗状況を報告するように指示する。
・APECビジネス諮問委員会(ABAC)及びビジネス界と協力し、2006年までに貿易取引費用を5%削減することを含め、APEC域内の事業活動を円滑化するための上海アコード及びロス・カボス指令を引き続き実施する。
・「食品に関するAPEC分野別相互承認取決め」、及び、例えば、海賊版光ディスクの阻止及びビジネスによる技術の選択を可能にする「デジタル経済に関する声明」等の全ての先遣隊イニシアティブを前進させていく。
・腐敗と闘うための具体的な国内措置を策定するため、2004年に作業を行うことにより、社会的経済的発展に対する主要な障害となっている腐敗と戦う。「2005年までの透明性戦略」を通して、透明性に関する一般基準及び分野別基準を実施することにより、透明性を促進する。
2.人間の安全保障の強化
我々は、国際的なテロと大量破壊兵器の拡散が自由で開かれ、繁栄した経済というAPECの展望に対して直接的かつ重大な挑戦を突き付けているとの認識で一致した。我々は、APECが経済の繁栄を促進することだけでなく、人々の安全を確保するという補完的使命にも貢献していくとの認識で一致した。
その結果、我々は、バンコクにおいて、以下の点につき全ての必要な行動をとることを確約した。
・APECメンバーを脅かす国際的なテログループを完全に、かつ遅滞なく解体する。
・国際的な不拡散体制を強化し、効果的な輸出管理の採用・執行、及び拡散を防止するその他の合法的かつ適切な方策を講じることにより、大量破壊兵器の拡散及びその運搬手段による深刻かつ増大する危険を除去する。
・我々の地域の安全に対するその他の直接的脅威に立ち向かう。
我々は、首脳会合の度に、これらの安全のための確約についての進捗状況につき議論し、それを追求するために具体的な行動をとることを約束した。
本年、我々は、以下につき合意した。
・大量輸送機関に対するテロリストの脅威を抑制するための共同の努力を強化し、テロリストによる携帯式地対空防衛システム(MANPADS)の獲得及び使用によりもたらされる国際航空に対する脅威に対し、次の措置を確約することにより立ち向かう。すなわち、各メンバーによるMANPADSの厳格な輸出規制の採用、貯蔵の安全強化、製造、移転及び仲介を規制する国内措置、国家以外の最終需要者に対する移転の禁止、及びこれらの努力を支援する情報の交換といった措置である。我々は、MANPADSに関する国内規制を強化する努力を継続し、来年チリにおいて進捗状況につき検討することに合意した。
・適当な場合には、APECテロ対策タスク・フォース、G8テロ対策行動グループ(CTAG)、国連安全保障理事会テロ対策委員会、及びその他の関連する国際的、地域的及び機能別機関の間の効果的な協調、技術支援及びキャパシティ・ビルディング活動、及び協力を通してテロ対策活動を増強し及びより良く調整を行う。
・APECが自然発生的感染症及び生物テロを含む域内の健康上の脅威を防止し、対応するのを支援するため、「SARSに関するAPEC行動計画」及び「健康安全保障イニシアティブ」を実施する。我々は、シンガポールとアメリカ合衆国による「地域的新興感染症対処センター」の設置を歓迎する。我々は、「生命科学革新フォーラム」が2004年までにその戦略計画を完成させることを奨励した。
・港湾施設の保安を強化する計画を支援し、テロリストへの資金供与対策、及びその他のテロ対策の目的を達成するため、アジア開発銀行内に、地域的貿易・金融安定化イニシアティブを設置する。
・「事前旅客情報システム」の先遣隊イニシアティブの実施及び航空旅客を保護する地域出入国警戒システムの開発を探求する努力を支持する。
・域内及び世界的なエネルギー安全保障を強化するために「実施計画」、及び適当な場合には、「新行動計画」を承認することにより、「エネルギー安全保障イニシアティブ」の実施を加速する。
3.人々と社会がグローバル化の恩恵を享受するためのAPECの活用
持続可能な経済発展には、グローバル化に対応するために人々に力を与え、社会を強化することが必要となる。この点に関し、我々は、APECの有効性を高め、その経済・技術協力の作業により重点を置き、かつ強化し、国際金融機関、民間部門、及びその他の外部組織との相互作用を増大させることによって、このプロセスへのAPECの貢献を高める努力を歓迎した。こうした努力により、先進メンバーと途上メンバーの間の格差を埋めるAPECの作業がより効果的になるだろう。
人々と社会がその可能性を最大限に発揮し、将来の課題に備えるための諸条件を創り出すために、我々は以下につき合意した。
・女性及び青年を含む人々と社会がグローバル経済に統合できるよう力を与える努力を強化する。我々は、中小企業、零細企業の強化、持続可能かつ衡平な経済発展を促進する上での社会的安全網、及び非公式部門の主流化が重要であることを強調した。この点に関し、我々は、APEC財務大臣会合及び中小企業大臣会合の結果を歓迎し、閣僚に対し、「零細企業行動計画」を2004年に実施するための資源投入が促進されるよう、国際金融機関及びその他の関係者と協同して、零細企業への融資やキャパシティ・ビルディングのイニシアティブに関し調整するよう指示した。
・知識集約型経済の構築への努力を強化する。我々は、閣僚に対し、関連する利害関係者とのパートナーシップの下で、インターネット・アクセスの拡大に関するブルネイ目標、知的財産権の促進、保護及び行使の改善並びに、e−APEC戦略の実施に向けた進展を加速するように指示した。我々はまた、科学技術の革新、インターネットの効果的利用のための労働人口の英語力及びコンピュータ能力の向上、及び中小・零細企業向けを含めた電子教育や情報通信技術のキャパシティ・ビルディングの推進に関し、支持を表明した。
・健全で効率的な金融のシステム及び基礎的な条件を促進するための地域レベルでの努力を強化する。我々は、国内及び地域債券市場の発展、及びこれらの市場の効率性を高めるための証券化及び信用保証市場の発展に関する協力を更に推進することを求めた。長期の現地通貨建ての債務、金融派生商品及び資産担保証券を含む新たな金融商品の発行を支持する。
・APEC地域における構造改革を加速する。我々は、アジア太平洋地域における持続可能な経済成長と開発を確保するため、構造改革を継続することに対するAPECの強い政治的コミットメントを再確認した。我々は、指針となる作業計画として、経済法制度の整備を含む、「APEC構造改革行動計画」の採択を歓迎し、閣僚に対し、この行動計画の実施状況を検討し、将来のイニシアティブを特定するよう指示した。
・APECを強化する。我々は、APECを全ての利害関係者にとってより効率的で対応のよいものとする必要性につき協議した。我々は、閣僚に対し、2004年のチリにおける首脳会議までに、本件を検討し、進捗状況につき報告するよう指示した。
我々は、第15回APEC閣僚会議において閣僚間で合意された結果及び共同声明を全面的に承認した。