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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳会議後における小泉内閣総理大臣の内外記者会見

[場所] バンコク
[年月日] 2003年10月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 要旨
[全文]

平成15年10月21日

【冒頭発言】

【小泉総理】 まず今回のAPEC会合において、当地バンコックで開催されたが、タクシン首相はじめ政府関係者そしてタイ国民の皆さんから暖かいもてなしを頂いたことに対して篤くお礼申し上げる。今回の会議においては、各国首脳との率直な意見交換を行うことができた。また、その全体首脳会議の合間を縫って二国間の首脳との会談も行うことができた。

 まず第一に、APEC地域における貿易投資の一層の自由化・円滑化のためにWTO新ラウンド交渉を早急に活性化させようというメッセージをまとめることができた。これはカンクンでの交渉が初期の成果を上げることができなかったということは残念だが、今後、今までの実績をふまえて早急に交渉を進展させようという各国の強い意志の反映だと思っている。今後日本政府としても、WTO交渉を成功させるように努力を続けていきたいと思っている。

 第二に、我が国の提案により、APECの各国・地域首脳がそれぞれの国の構造改革に取り組むことの重要性、構造改革の必要性に対する決意が確認されたということである。

 第三に、各国の首脳がテロとの戦いは今後も長く続く、そのためのお互いの協力が必要である、大量破壊兵器、拡散等の防止あるいは安全保障面においてそれぞれ独自の国がやるべきこと、そして各国が協力してやるべきこと、またAPEC首脳それぞれが協力してやるべきこと、いろいろあると思うが、テロとの戦いについては協力して進むということ、これを確認し、今後とも強い決意をもってテロ防止のため、テロ撲滅のために努力しようという確認がなされた。

 北朝鮮の問題については、私から、APECの会合、それと二国間の首脳との会談において日本の立場を繰り返し説明し、理解と協力を得ることができたと思っている。特に8月に行われた六者協議を今後とも活用し、維持しながらこの六者協議を通じて北朝鮮側に対して、色々な働きかけを行っていこうと、日本政府としては核の問題だけでなく拉致の問題、核の問題を総合的に包括的に働きかけていかなければならないということを繰り返し説明した。いわば北朝鮮に対しアメリカも韓国も中国もロシアも、もちろん日本もそうであるが、いかに平和的解決、外交的解決に真剣に取り組んでいるかということを確認した場である。私はこれを北朝鮮はよく理解すべきだと思っている。私が昨年、北朝鮮を訪問し金正日総書記と会談した時にも話したことであるが、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることが北朝鮮にとって最も利益になるのだと、北朝鮮にとっては自らの安全保障、これについて最も関心があるのは私も承知している。しかし、日本も含めて六者協議の場においても平和的、外交的解決をこの六者協議のメンバーが真剣に考えていること、これこそが北朝鮮にとって安全保障を確保する道であることをよく北朝鮮は理解すべきである。そういう意味において六者協議の場で、この問題も日本としてはできるだけ北朝鮮側に働きかけていきたい、もちろん日本独自で北朝鮮側に働きかけを行うこともあるが、こういう今回の北朝鮮に対する対応についてもAPEC首脳の理解と協力を得ることができた。平和的、外交的解決を真剣に各国が求めていることだということを北朝鮮も理解すべきであると私は痛感している。

 今回のAPEC首脳会議の合間を縫って、ロシアのプーチン大統領、中国の胡錦濤主席、韓国の廬武鉉大統領ともそれぞれ二国間会談を行った。プーチン大統領とは、日露行動計画、これに沿って今後とも平和条約締結に向けてお互いの関係、協力関係を強化していこうと、これが領土問題の解決、平和条約の締結に向けての環境づくりに資する、そういう考え方の下にこれからも日本とロシアとの間に様々な分野の協力関係を深めていきたいと思う。今回の会談においては、日露の間に今後のあるべき日露関係について幅広く意見交換を行っていこうということで、日露の賢人会議を設立するということで合意した。日本側の座長としては森前総理を予定している。ロシア側も近く然るべき人を選出するということである。

 また、中国の胡錦濤主席とはこれからも日中関係というものはますます重要になってくると、お互い未来志向で日中関係を発展させていこうということで、新たに日中の友好のために21世紀委員会を発足させることで一致した。いわゆる新日中友好21世紀委員会を発足させたいということである。また、胡錦濤主席からも、北朝鮮問題について私から説明をし、拉致被害者および家族の思いを十分に理解しているとの発言もあり、これから中国の北朝鮮への影響も大きく、8月に行われた六者協議でも中国の役割は大きかった、そういった点も評価しながら中国と協力しながら北朝鮮に対し働きかけていきたいと思っている。

 韓国の廬武鉉大統領とは日韓FTA交渉を開始しようということを確認した。また社会保障協定の実質合意をみることができた。これは今後日韓両国のビジネスマンにとってもよりお互いの経済活動をする場合において大きな前進だと思っている。日韓関係の緊密化に向けてさらに一歩進めることができたと思う。

 今回のAPECにおいてアジア太平洋諸国の首脳が一堂に集まった、この国々との協力は世界の安全保障の面においても、あるいは経済発展の面においても大変重要な会議の場であるということを痛感した。大変それぞれ率直な建設的な意見交換ができ有意義であったと思っている。

 改めてタクシン首相はじめタイ国民の皆さんの暖かい歓迎に篤くお礼申し上げたいと思う。

【質疑応答】

【質問】 北朝鮮問題について、総理はエビアン・サミットを含む国際会議の場で、核と拉致の問題で、強いメッセージを出そうとされてきたと思うが、今回結果だけを見ると、議長の口頭でのサマリーということで、拉致問題についての直接的な表現は見あたらないが、この点について、背景と総理自身の評価如何。

【小泉総理】 拉致の問題は、日本にとっては最重要関心事であるが、他の諸国にとっては、どちらかと言えば、核の問題の方が大きな関心事であると思う。日本としては、核の問題のみならず拉致の問題等包括的に考えていかなければならない立場であるが、それぞれ北朝鮮に対する関係は日本と違う。日本はまだ北朝鮮と国交正常化を成していない。中国、あるいはロシア等は、北朝鮮と友好関係を持っている。そういうそれぞれの国の事情がある。そういう関係も配慮し、国際会議の場であるから、お互いの事情も考えながら、いろいろな対応をしようと、しかし、先ほども申し上げたが、北朝鮮に対しては、平和的解決を求めていくという強い意向を、これをやはり北朝鮮によく理解してもらわなければならない。六者協議を始め、各国の、この北朝鮮に対する日本の対応を、私は十分理解され、また協力するという各国の意志を確認することができたと思う。

【質問】 中国は自由貿易協定をASEANの加盟国と締結し、ASEANを戦略的パートナーと呼んでいる。では日本は、このチャレンジに対応して、何をしたのか。

【小泉総理】 日本とASEANとの関係は、今までの過去の実績がある。中国は中国としてASEAN諸国とさらに関係強化を進めたいという意向は、これは結構であると思う。日本としても歓迎したいと思う。日本は、今までの実績を考えながら、さらにASEAN重視、「共に歩み共に進む」というASEANとの関係を重視しているので、私はASEANとの関係においても、今までの実績を踏まえて日本として今後さらにASEANとの関係をどのように発展、強化していくか、ということを考えなければならない。そこに中国があらたに独自の考えを持ってASEANとの関係を重視していくことだと思っている。お互いがASEAN重視で進むことは、ASEANにとっても良いことではないか、そしてASEANと日中韓のプラス3の会合も毎年行われているわけで、それはそれで私はさらにこの地域の関係強化が進んでいくものだと思っているので、日本は、日本としてのASEAN重視の姿勢で揺るぎはない。今後ともそのような考え方のもとに、中国とは違ったASEAN重視の方法があるであろう。あるいは中国と協力してASEANとの関係を発展させていこうという考えもあるであろう。二国間、日本とASEANの関係、中国とASEANとの関係、あるいは日中共同してのASEANとの関係、いろいろあると思う。それはそれで良いと思う。日本としては、今後ともASEAN重視、これをさらに発展させていこうという考えで、これからもASEANとの会合に臨みたいと思っている。

【質問】 今回APEC首脳はWTOの新ラウンドについて、デルベス議長のテキストをもとに議論を積み上げていくことで合意したが、先日の日本とメキシコの間のFTA交渉が不調に終わったことでも明らかなとおり、日本にとっては農業問題が今後大きな課題になると思われるが、総理はこの点について、どのようにリーダーシップを発揮していく考えか。

【小泉総理】 今後、経済連携、あるいはFTA、自由貿易協定に関する各国間との交渉締結を視野に入れて考える場合には、農業問題を避けて通れない。農業の構造改革はもう待ったなしだと思っている。ご質問のメキシコとの関係だが、これは今回のAPEC会合においてもメキシコのフォックス大統領も出席されており、正式の会談ではないが、フォックス大統領とは二人で話し合う場もあった。東京で行われたメキシコと日本とのFTAの会合において、ほんのわずかなところで合意を見るに至らなかった。これは残念だったが、全体的に見れば大きな進展があったというのも事実であるので、今回のAPEC会合でも、今日も、フォックス大統領と二人で短時間であるが話し合いがあり、私としては、またすぐ交渉を始めよう、今日本は選挙中だが、選挙が終わるのを待ってということではなく、いつでも話す用意がある、また、話を進めていこう、ということでフォックス大統領との間で意見の一致をみた。私は、今回のメキシコとのFTAの問題で完全な合意をみることができないのは残念ではあったが、大きな前進を見られた部分もあったので、これを今後のFTA締結に向けての積み重ねととらえて、更に合意が見られるように努力したいと思う。できるだけ早く、メキシコとの間に交渉を再開したいと思う。それは私とフォックス大統領の間でも、合意を見て、関係閣僚に指示している。メキシコのフォックス大統領も早速指示するということである。

【質問】 APECの会合ではアウン・サン・スー・チーの釈放について議論があったが、特にミャンマーのロードマップに関して、日本は、独自に、また先般のバリでのASEANとの首脳会議の際に重要な役割を果たしたので、今後のロードマップの展開はどのようになると考えているか、日本はミャンマーに対していかなる政策をとるのか。

【小泉総理】 ミャンマーの問題について、私は先日インドネシアのバリ島でのASEANとの会合において、ミャンマーのキン・ニュン首相とも、立ち話だが会談をして、日本としても、ミャンマーの民主化の問題について懸念している、過去日本とミャンマーは友好的関係の中で色々と協力関係を維持発展させてきた、世界各国がミャンマーの民主化に大きな関心をもっているし、特にアウン・サン・スー・チー女史の解放、釈放の問題、民主化への問題についても、キン・ニュン首相に対してより強い指導力を発揮して欲しいということを求めた。今後、その面についてミャンマー側も、よくASEAN側の意向、また世界各国のミャンマーに向けて民主化の努力に大きな関心を持っているということを認識していると思うが、また、ミャンマーの民主化努力がミャンマーの発展にとっても非常に重要だということを認識していると思うので、日本としても引き続きミャンマーとの友好関係を発展させていきたいと思うので、日本がミャンマーに対して協力しやすいような、環境作りについて、より一層の民主化努力を求めたいと伝えてある。その方向でミャンマー側が努力されることを強く期待している。