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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC構造改革ハイレベル会合における川口外務大臣開会の挨拶

[場所] 
[年月日] 2004年9月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

本日、APEC構造改革ハイレベル会合に出席いただき、日本国政府を代表して皆様に心より歓迎の意を表します。

小泉総理は、就任以来、「改革なくして成長なし」「民間にできることは民間に」「地方に出来ることは地方に」という3つの基本理念の下、規制改革、金融システム改革、税制改革、歳出改革といった構造改革を推進しました。その結果、日本経済は構造改革の進展とともに回復を続けています。

構造改革によって、国内経済は活性化し、グローバル化の便益を最大限享受することも可能になります。構造改革には痛みが伴いますが、回復の足取りが一段と着実さを増してきている今なら、痛みを吸収しながら、改革の芽を大きな木に育てる好機になります。

我が国はこの自らの経験を踏まえ、APECが一丸となってこの地域における構造改革に取り組むことを提唱しました。私達は、構造改革こそが、アジア太平洋地域が、1997年のアジア経済危機や2003年のSARSの発生を克服してきたように、今後、様々な経済成長に対する挑戦を乗り越え、地域の持続可能な発展を確保するものであるとの信念をもっています。昨年10月、バンコクで開催されたAPEC首脳会議において、小泉総理は、APECの各参加国・地域が構造改革に取り組むことを提案し、これが各首脳により確約されました。このことは、私達の信念が共有された証左と考えています。現在、世界経済は着実な回復が続いており、アジア経済も景気が拡大しています。この機会にAPEC各メンバーが構造改革を進めることは、構造改革と成長の好循環を作り出す大きなチャンスに他なりません。

APECが1989年に創設されてから丁度15年が経過しました。私もAPECのSOMとして創設直後のAPECに関わりました。APECは発足当初より、アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易及び投資の実現に向け、とりわけ関税や輸出入手続きなど貿易・投資に関わる「国境措置」を中心に議論してきました。APECにおいて構造改革に取り組むことは、2つの点で、新たな付加価値を与えるものです。

第一に、APECにおける「構造改革」への取組みは従来の「国境措置」を超えて、「国内経済政策」にも焦点を向けるものです。国内の構造改革を進めることは、実施国のみならずAPECの目指す域内の貿易・投資の自由化・円滑化に大きく裨益します。さらに、APECの多様な活動を「構造改革」との切り口で把握することは、これまで長らくAPECが各分野において推進してきた規制緩和や競争政策の活動を横断的にとらえることです。その結果、異なる分野における良い経験を互いに活かすことが可能になり、APECの活動にシナジーが生まれることと期待しています。

第二に、現在APEC地域で多くのエコノミーが取り組んでいるFTAは、国内構造改革を忘れては進まず、アジア太平洋地域の巨大市場化を前提に構造改革を進めていくことは、将来の貿易と投資の自由化を先取りするものであります。本年のAPEC議長国であるチリは、FTAをAPEC地域における貿易投資の自由化の梃子にしようとしています。この発想は、WTOの交渉と同様、FTAの締結は、締結国内の産業の競争条件を変え、根本的な構造改革を経ずには完結しないものであるという点で正しいものです。

本日、明日と2日間にわたり開催するAPEC構造改革ハイレベル会合は、構造改革に関するAPECの取組みを牽引するものと認識しています。本会合には、APEC内外から政府高官、産業界、学界等から30名を超える著名なスピーカーをお招きしております。我が国の構造改革特区を始めとする規制改革の推進の具体例、企業再編・企業統治・銀行改革、構造改革活動に伴う経済・社会の調整、透明かつ公平な経済法制度の推進といった構造改革の有する多様な側面について議論が行われる予定です。APECの構造改革への取組みは、世界的な地域経済統合の流れの中で、アジア太平洋地域が、強靱かつ開かれた市場として、世界の経済成長の原動力となることを可能にします。11月にチリのサンティアゴで開かれるAPEC首脳会議においては、本会合の結果としてAPECエコノミーの首脳に対して明確な成果を示せるようにしたいと思います。

御清聴ありがとうございました。