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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ハノイ宣言(第14回APEC首脳会議)

[場所] ハノイ
[年月日] 2006年11月19日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々、アジア太平洋経済協力(APEC)メンバーの首脳は、2006年のAPECのテーマである「持続可能な開発と繁栄のための躍動的なコミュニティに向けて」の下、2006年11月18日及び19日、ベトナムのハノイにおける第14回APEC首脳会議に参集した。

 アジア太平洋地域の安定、安全及び繁栄のビジョンを達成するという強い約束と共に、我々は、自由で開かれた貿易及び投資というAPECの目標の達成に向け、あらゆる努力を行うことに合意した。我々は、持続可能な開発に対する脅威を防止し、安全で望ましいビジネス環境を構築し、人間の安全保障を強化することを誓った。我々は、人々の幸福のために力強い社会を構築することにより、躍動的かつ調和的なアジア太平洋コミュニティに向けての取組を継続することを誓約した。

1.自由貿易及び投資の推進

 我々は、ドーハ開発アジェンダ(DDA)への支持が引き続きAPECの最優先分野であることを再確認した。ドーハ・ラウンドの失敗による影響は、我々の経済及び世界的な多角的貿易体制にとりあまりにも深刻なものとなる。したがって、我々は、現在の膠着状態を打破し、開発的側面を中核におきつつ、野心的で全体としてバランスがとれた交渉の成果を達成する努力を惜しむべきではない。我々の意思と決意は、「第14回APEC首脳会議におけるWTOドーハ開発アジェンダに関する声明」に述べられている。

 我々は、質が高く、一貫性があり、透明性があり、包括的な地域貿易協定及び自由貿易協定(RTA/FTA)の貿易の自由化を前進させる上での役割、及びRTA/FTAがより大きな貿易の自由化及び貿易取引費用の真正な削減につながることを確保する必要性を認識した。我々は、6つのRTA/FTAの章へのモデル措置の完成を賞賛した。我々は、モデル措置が、APECメンバーが質の高いFTAを交渉するための参考として役立つことを再認識した。また、モデル措置が現存進行中の及び将来のRTA/FTA交渉におけるAPECメンバーの立場を予断するものではないことに留意しつつ、その非拘束的及び任意的性質を再確認した。我々は実務者に対し、2007年もモデル措置に関する作業を継続し、2005年に釜山で我々が呼びかけたとおり、一般に受け入れられているRTA/FTAの章において可能な限り多くの章のモデル措置が2008年までに策定されるよう指示した。

 我々は、アジア太平洋地域における未曾有の経済発展により、我々の経済がより緊密に結びつけられていくことを認識した。我々は、産業界が、アジア太平洋地域における多様なFTAの増加による影響と、さらに多くの地域取極が提示されつつある点を指摘したことに留意した。我々は、アジア太平洋地域におけるより大きな経済統合へのコミットメントに改めて言及し、この目的に向け一層の努力することを誓った。我々は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)による、現時点ではアジア太平洋の自由貿易圏につき交渉することには現実的な困難さがあるものの、APECとしてアジア太平洋地域における貿易と投資の自由化に向けた、より効果的な道筋を真剣に検討することは時宜を得ているとの見解を共有した。したがって、ボゴール目標及びWTO・DDA交渉の成功裡の終結へのコミットメントを確認しつつも、我々は、実務者に対し、長期的展望としてのアジア太平洋の自由貿易圏を含め、地域経済統合を促進する方法及び手段についてのさらなる研究を実施し、2007年に豪州で開催されるAPEC首脳会議に報告するよう指示した。

 我々は、アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易を達成するとのAPECの約束を表明しているボゴール目標に向けた「釜山ロードマップ」の実施におけるメンバーの進展について満足の意をもって留意した。我々は、具体的な措置、スケジュール及び能力構築のイニシアティブから成る「ボゴール目標に向けた釜山ロードマップ」実施のための「ハノイ行動計画」を歓迎し、承認した。これに関し、我々は、貿易取引費用の負担の緩和、及びより安全で望ましいビジネス環境の構築を目指す措置の重要性を強調した。我々は、今年、「釜山ロードマップのための釜山ビジネス・アジェンダ」を進展するために、以下を含む多くの措置が取られたことを強調した。

●2006年までに貿易取引費用を5%削減することを目標として、2001年に定められた上海目標を達成したと結論し、我々は、2010年までにAPEC地域において貿易取引費用をさらに5%削減することを目標とした、次回の「貿易円滑化行動計画」のための枠組を歓迎した。

●我々は、ABAC及びその他の関連国際機関との連携による、投資の自由化及び円滑化に関する拡大作業プログラムを歓迎した。

●アジア太平洋地域における経済成長及び貿易のためには、強固な知的財産権(IPR)の保護及び執行が重要であることを確認し、我々は、「APEC模倣品・海賊版対策イニシアティブ」の下で、IPR保護及び執行の重要性に関する公衆周知及び模倣品・海賊版製品に対するサプライ・チェーンの保護の確保についての2つの新たなモデル・ガイドラインを承認した。我々は、APECメンバーに対し、民間部門と緊密に協議しつつ、IPRの保護及び執行の課題に更に対処するための取組を継続するよう呼びかけた。

●我々は、官僚的形式主義を廃し、ビジネスに関する規則の質を高め、特に中小企業に利益をもたらす複数年度にわたる「民間部門開発作業計画」を歓迎した。我々は中小企業大臣に対し、APECにおける調整努力を主導するよう指示した。

 我々は、閣僚に対し、ABACと緊密に連携しつつ「ハノイ行動計画」の着実な実施を確保するよう指示した。我々はまた、ABACからの適切な提言に感謝し、APECのフォーラムに対し、この提言を作業プログラム作成に際して取り入れることを奨励した。

 我々は、構造改革の作業を強化する必要性を認識し、「2010年に向けた構造改革実施のための首脳の課題(LAISR2010)」の取組の進展に留意した。我々は、「APEC地域の社会・経済的不均衡に関する報告書」の完成を歓迎し、APEC地域における社会・経済的な不均衡と闘うためには、APECのフォーラムにおいて行われているすべての活動を向上させる重要性を強調した。

 我々は、財務大臣会合において指摘されたとおり、財政の安定、価格と為替レートの柔軟性、投資促進のための改革、金融市場の強化、より均衡のとれた国内需要、及びAPEC地域全体における企業統治と法的インフラの改善を通じた、開かれた活発な金融システム及びグローバルな不均衡の秩序ある調整の重要性につき留意した。我々は、クォータと投票権(ボイス)に関する改革を含むIMF改革の前進を歓迎し、IMFのメンバーに対し、時宜を得た結論へむけて努力することを要請した。地域の経済成長と発展の継続のためには、金融の安定性が重要であることに留意し、我々は、地域における金融危機の防止を助ける新たな流動性の手段を創設する可能性を検討する議論がIMFにおいて行われていることに留意した。

 我々は、2002年の「貿易及びデジタル・エコノミーに関するAPEC政策実施のためのパスファインダー首脳声明」を推進する継続作業の一貫として、イノベーション及び機会のサイクルを加速し、地域全体の経済発展を促進するための新たなパスファインダー・イニシアティブ「技術選択のための原則」を採択した。我々は、中央政府機関が合法なソフトウェア及び他の著作権物のみを使用し、それら機関において、著作権及び関連する権利に関する国際条約及び国内法令に従って、コンピューターシステムとネットワーク、特に、インターネット利用の著作権の侵害を防止する効果的な政策を実施し、請負人または受領団体により中央政府の資金が違法ソフトウェアまたは他の違法な著作権物の購入に使用されないようにするため、メンバーに対し、適切な監督の実施を要請した。加えて、我々は、異なる発展段階にある各エコノミーにおけるIPR保護及び執行の強化を援助するため、能力構築を増加させるための努力を継続する必要性を認識した。

2.人間の安全保障の強化

 我々は、世界中で深刻な脅威となっているテロ行為を非難した。地域の繁栄及び持続可能な開発を推進するという我々の約束を守り、人々のための安全を確保するという我々の補足的な使命を果たすため、我々は、あらゆる形態及び姿のテロと闘うための努力を継続すると決意している。我々は、テロと闘うために取られるいかなる措置も、我々の国際法上の義務を遵守しければならないことを再確認した。

 我々は、国際的なテログループを解体し、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散がもたらす危険を除去し、我々の地域の安全保障に対するその他の直接的な脅威と対決するとの、2003年、バンコクにおいて採択されたコミットメントの実施における進展を賞賛した。この目標に向けて、それぞれのメンバーの状況に応じ、正当な金融及び商業システムを濫用から保護する必要性を含むこれらのコミットメントを促進するために適切な個別及び共同行動をとる必要性を認識した。

 我々は、閣僚が承認した2006年のAPECのテロ対策イニシアティブを歓迎し、メンバーに対し、国際法に従い、それぞれのメンバーの状況と整合性をとりつつ、地域において安全な貿易を強化するとの観点から、既存のコミットメントを実施するために、適切な個別及び共同行動をとることを奨励した。

 自由な貿易及び投資というAPECの中核的な目標達成のためのAPECの努力においてテロ対策が有意義であることを認識し、我々は、APECにおけるテロ対策の取組の重要性を繰り返した。我々は、2007年の優先課題として、トータル・サプライ・チェーン・セキュリティーを強調し、テロ攻撃あるいはその他の災害による世界的なサプライ・チェーンの大規模な中断の際に貿易の回復を促進する手段を検討するAPECメンバーによる研究を歓迎した。我々は、2007年に、テロ資金に対処するための協力と能力構築活動を更に進めることに合意した。我々は、航空安全を改善する措置を歓迎し、メンバーに対し、食糧供給に対する意図的な汚染を防止する戦略の共有とベスト・プラクティスの開発を奨励した。我々は、地域出入国警報システム(RMAS)の拡大を歓迎し、本システムはさらなるメンバーの参加のために開放されていることに留意した。

 我々は、2006年5月に採択された「鳥・新型インフルエンザ予防・対処に関するAPEC行動計画」を承認し、我々はその実施に対するコミットメントを確認した。我々は、「新興感染症に関するAPECシンポジウム」の際に採択された北京合意を歓迎した。我々は、APECにおける保健・緊急事態に対する備えに関する協力を賞賛し、新型インフルエンザの緩和のために、引き続き政策及びインフラに関する分野横断的な地域・国際協力の継続を促した。我々は、メンバー間における能力構築及び技術協力の拡大を要請し、流行発生に際しては、ビジネス、貿易及び不可欠なサービスの継続の確保を助けるための民間部門の関係者による関与を深めるよう要請した。我々は、APECのその他のフォーラムと合同で、こうした課題に対処する方法を議論するとの生命科学革新フォーラムの計画を歓迎した。

 我々は、APEC内におけるHIV/エイズに関する協力の強化に合意し、HIV/エイズと共に生きる人々の権利保護を確保し、2010年までに包括的な予防プログラム、治療、看護及び支援への普遍的アクセスを達成するとの国連が宣言した目標の達成に向け、HIV/エイズの蔓延との闘いにおける努力を拡大することを決意した。

 我々は、緊急事態への備え及び災害への対応への取組における、APECの付加価値の高い役割及び協調的努力を評価した。我々のいずれか1つに影響を及ぼす大規模の自然災害は、我々すべてに影響を及ぼしうるということを認識し、我々は、メンバーに対し、災害及び災害後の復興と再建に対する地域のより良い備えを整備するために地域の入手可能な資源を最大化し、民間部門を含む協力を更に強化することを促した。我々はまた、自然災害が引き起こす被害を軽減するため、農業を含む新たな技術の育成及び共有と現存する技術の適応の重要性に留意した。

 我々は、エネルギー安全保障が持続可能な経済開発にとり死活的に重要であることを繰り返した。環境への影響を最小化する一方でエネルギー需要の急速な伸びに対応する課題に留意しつつ、我々は、エネルギー投資及び国境を越えるエネルギー貿易を円滑化し、新エネルギー源及び再生エネルギー源並びに化石燃料のよりクリーンな使用を確保する技術を開発し、エネルギー効率と省エネルギーを高め、緊急事態への備えを強化し、重要なエネルギー・インフラをより良く防護するよう、メンバーに対して促した。我々は、APECバイオ燃料タスク・フォースの設立を賞賛した。我々は、閣僚に対し、よりクリーンなエネルギーの開発を推進し、かつエネルギー効率を高める政策や技術を追求することにより、その結果として、環境への影響をより少なくしつつ増大するエネルギー需要に対応し、気候変動の目標に対処できるよう、こうした課題への対応にAPECが更に貢献する方策につき、2007年に我々に対し、報告するよう指示した。

3.より力強い社会及びより躍動的で調和的なコミュニティに向けて

 我々は、本年達成された重要な進展に満足をもって留意しつつ、より躍動的で調和的なコミュニティを構築するためには達成すべき多くの他の課題が残されていることを理解した。

 我々は、地域における衡平な成長と共有された繁栄、並びに貿易及び投資の自由化及び円滑化を推進するための基盤としての世界的な競争力を確保するための、経済・技術協力の重要性を認識した。我々は、APECのフォーラムを通じた経済・技術協力の優先付け及び効果的な実施の強化のための成果と努力を歓迎した。これらの成果は、より焦点を絞った経済・技術協力を確実にし、APECの能力構築及び技術支援に、より戦略的な視点をもたらす。我々は、教育と能力構築が、引き続きAPECの課題の中で優先度が高いことを再確認した。

 我々は、衡平かつ共有された繁栄を確保する経済・技術協力を推進するための「APEC支援基金」への中国、韓国、米国の拠出を歓迎した。我々は、それ以前のオーストラリア及びチャイニーズ・タイペイによる基金への拠出を歓迎した。我々はまた、「貿易及び投資の自由化及び円滑化(TILF)基金」に対する日本の継続的な拠出を評価した。我々は、メンバーに対し、今後貿易及び投資を促進し能力構築活動を実施する上で、より多くの資金を提供するとの観点から、APECTILF及びAPEC支援基金に更に拠出するよう奨励した。

 我々はまた、APECメンバーにおける港湾及び関連分野間での協力及びコミュニケーションを促進するための「APEC港湾サービス・ネットワーク・イニシアティブ」を承認した。

 我々は、中小企業の重要性を強調し、メンバーに対し、「中小企業の貿易・投資競争力強化に関するハノイ宣言」及び「中小企業の技術革新行動計画に関する大邱イニシアティブ」と整合性をとり、それぞれの競争力、技術革新、企業家精神を改善する具体的な措置を開発し、実施するようあらゆる努力を尽くすことを要請した。

 我々は、腐敗を経済及び社会開発に対する最大の障害のひとつとして特定し、腐敗と闘い、贈賄防止法の強化、訴追、法律強化、聖域の拒否を通じた「APEC腐敗防止及び透明性(ACT)タスク・フォース」のイニシアティブを効果的に実施することにより、誠実な社会を主導することに合意した。我々は、「腐敗の訴追、統治強化、及び市場の信頼性の促進に関する2006年のAPECの主要な具体的成果」を承認し、APECメンバーに対し、これらの成果に基づき本分野でのAPECの取組を強化すること及び2007年までにACT実施に関する進捗状況の報告書を完成することを奨励した。我々は、高級実務者に対し、更なる経済的機会及び繁栄を確実にする企業統治を強化するために、ABAC及びその他の経済界の指導者とともに作業するよう指示した。

 我々は、APECの発展のための情報通信技術(ICT)の重要性を強調した。我々はインターネットのアクセスに関する「ブルネイ目標」の達成に向けた努力を認識し、閣僚に対し、これらの目標の達成をさらに促進するよう指示した。我々は、アジア太平洋地域情報社会の実現の重要性を再確認した。我々は、不必要な障壁を生じさせることなく、国境を超える情報の流れの責任及び説明責任を確保することにおいて、国境を越えるプライバシー保護規則の概念の重要性を認識した。

 我々は、APECメンバー間のより良い理解と信頼の醸成を目指しコミュニティのつながりの促進をAPECが優先していることを大いに重視した。我々は、APEC観光大臣により採択された「観光の促進に関するホイ・アン宣言」を承認し、メンバーに対し、地域における観光協力のための機会を更に探求し、旅行・観光業界にとっての障害を特定するよう促した。我々は、大臣により承認された「APEC異文化・宗教間イニシアティブ」を歓迎し、経済成長を支え、健全な多文化環境を促進するためには、APEC地域において相互理解を深め、異文化及び宗教間の対話を通じた社会的交流を発展させることが重要であることを認識した。

 我々は、APECを一層効果的かつ結果指向型にする必要性を強調した。我々は、APEC改革の進展を賞賛し、2006年のAPEC改革に関するパッケージを承認した。我々は、改革の優先度が高く、急速に変化する環境の中で新たな課題及び機会に応えるためにAPECが引き続き進化しなければならないことを再確認した。我々は、閣僚及びAPEC高級実務者に対し、2007年及びそれ以降に、より多くの資金配分や、組織の合理化、評価と調整の改善、事務局の強化及び専門性の向上、政策イニシアティブのより効果的な実施メカニズムの策定における更なる措置を含めたAPEC改革に関する取組を継続することを指示した。

 我々は、第18回APEC閣僚会議において閣僚間で合意された共同声明を全面的に承認した。