データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第19回APEC閣僚会議共同声明

[場所] シドニー
[年月日] 2007年9月6日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々APEC閣僚*(注1)*は、9月5日〜6日、シドニーにおいて、第19回アジア太平洋経済協力(APEC)閣僚会議に参加した。

 本会議はオーストラリアのアレクサンダー・ダウナー外務大臣及びワレン・トラス貿易大臣が共同議長を務めた。我々はAPECビジネス諮問委員会(ABAC)及びAPEC公式オブザーバー*(注2)*の会議への参加を歓迎した。

 「我々の共同体のつながりを強化し、持続可能な未来を構築」というテーマの下、我々はこの地域における発展、今年達成された成果及び将来に向けた課題を再検討した。

 アジア太平洋地域は引き続き世界的成長の牽引役となっている。収入は増え、貧困は減り、雇用は伸び、投資は増え、貿易は拡大しつつある。過去1年間の成長はゆるぎないものであって、2008年も続くことが予想されている。しかしながらこの趨勢を維持するためには、国際的貿易不均衡、保護貿易主義、都市化現象、人口構造の変化、環境、エネルギー、食品の安全、テロ、犯罪、統治、女性の地位向上、感染症、及び21世紀的技術の分野において我々が直面する難問に取り組む必要がある。経済的成長を促進し、経済協力及び技術協力を活発化し、統合を強化し、我々の連帯感を深めることによって、この地域の一層の繁栄を築くため、我々は積極的にAPECにおける活動を推進させていくつもりである。

*(注1)*オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム国、カナダ、チリ、中国、中国香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、タイ、米国、ベトナム

*(注2)*太平洋経済協力会議、東南アジア諸国連合、太平洋諸島フォーラム

貿易及び経済改革へのコミットメントを通じた繁栄の推進

‐WTO及び多角的貿易体制の支持の継続

 世界貿易機構(WTO)の下での、開かれた、ルールに基づいた多角的貿易体制、及びドーハ開発アジェンダ(DDA)の野心的でバランスの取れた成果を伴った成功裡の妥結は、経済成長を持続させるための最良の手段をもたらす。

 我々は、パスカル・ラミーWTO事務局長とともに、DDAの見通しについて議論し、この議論を踏まえて、首脳が交渉に関する独立文書を採択するよう提言した。我々は、我々のジュネーブのWTO代表団に対し、APECコーカスを通じて、事務局長及び交渉グループ議長が合意を仲介し交渉を成功裡に妥結する努力を行うにあたり、彼らに積極的な支援を提供するよう指示した。

 我々はロシア連邦のWTO加盟交渉の進展を歓迎するとともに、この交渉を迅速に行うための努力の重要性を強調した。

 我々は、アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易と投資のボゴール目標の達成を追求する上で貿易投資委員会(CTI)の作業の概要を提供する、「2007年CTI(貿易投資委員会)閣僚への報告」を支持した。

‐地域経済統合

 我々は、地域の経済成長及び発展が、経済統合の過程を加速させることへ及ぼす影響について討議した。長期的展望としての「アジア太平洋自由貿易地域」に関するものを含め、地域経済統合の強化に関する包括的な報告書をまとめ、我々の首脳に提出した。この報告は、APECメンバーエコノミーがこの地域で行われる統合を推進し強化するために取り得る幅広い実際の行動を略述する。それは、技術援助及びキャパシティー・ビルディング・プログラムによって支援される具体的行動を通じた経済成長及び繁栄を達成するための共通のコミットメントに基づいている。

‐地域貿易協定/自由貿易協定(RTAs/FTAs)

 質の高い、包括的なRTAs/FTAsは、その地域における経済の開放を進め、地域経済統合を強化することができる。それらは、多角的貿易体制のより一層の発展と、APECのボゴール目標を実現するためのビルディング・ブロックとして利用することができる。我々は、キャパシティー・ビルディング・ツール及び非拘束的な参照としてのRTA/FTAの章のモデル措置の重要性を再確認し、新たに3つのRTA/FTAモデル措置の章を承認した。これまでに10章のRTA/FTAモデル措置が策定された。我々は来年この作業の完成を目指している。

 経済界の懸念に応え、我々はRTA/FTAの特恵的原産地規則や他の原産地規則関連規定の合理化の範囲を、ビジネス界とともに検討することに合意した。我々は、この問題に関して来年の貿易担当大臣会合(MRT)で報告するよう実務者に指示した。

‐個別行動計画(IAPs)及び共同行動計画(CAPs)

 我々は、「SOM議長によるIAP2007年概要報告:ボゴール目標達成に向け各エコノミーが実施している進展」を歓迎した。我々は、また、IAPピア・レビューの更なる改善とともに、2007年に完了した7つのIAPピア・レビュー(オーストラリア、中国、中国香港、日本、韓国、ニュージーランド及びチャイニーズ・タイペイ)を歓迎した。我々は、APECの自由な貿易と投資という目標の追求のため、全てのAPECメンバーエコノミーにより実施されている改訂されたCAPを承認した。

‐貿易の円滑化

 我々は7月のMRTで支持された「APEC第2次貿易円滑化行動計画」を歓迎した。この計画は、2010年までに貿易取引コストの更なる5%削減を達成するための枠組み及びタイムテーブルを打ち出すものである。この計画は通関手続き、基準認証、電子商取引及びビジネス関係者の移動に焦点を当てている。我々は、共同行動、キャパシティー・ビルディング及びそれとAPECのより幅広いビジネス円滑化アジェンダとの関連性に更に焦点を当てることを歓迎した。我々はその実施において、ABACを含むアジア太平洋の経済界と緊密に作業することで合意した。

 我々は、関係者(実務者、規制当局、産業界及び消費者ら)が、APEC地域における私的情報のより良い保護及び電子商取引の信用と信頼の確立のため共同で作業することを可能にすべく、データ・プライバシー・パスファインダー・イニシアティブを開始した。パスファインダーは、ビジネスのニーズを支援し、法令遵守費用を削減し、消費者に効果的な救済をもたらし、規制当局が効率的に活動できるようにし、規制の負担を最小化するだろう。13のAPECメンバー(オーストラリア、カナダ、チリ、中国香港、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、チャイニーズ・タイペイ、タイ、米国及びベトナム)は参加に合意し、その他のメンバーは、イニシアティブへの参加を積極的に検討している。

 認知された国際的措置及び基準の使用の結果としてのシステム間の相互運用を見込んで、APEC内における国際貿易の「窓口単一化」の実施を支援するための迅速な作業を行うことに合意した。「窓口単一化」によって、貿易及び輸送にかかわるビジネス関係者は、単一の受付窓口に、標準化された情報及び記録を電子的に提出すると、輸入・輸出・通過に関連するすべての規制上の必要事項を満たすことが出来るようになる。

 我々は、米国については暫定メンバーであるものの、米国とメキシコがAPECビジネス・トラベル・カード(ABTC)制度へ参加したことを歓迎する。現在、19のメンバーエコノミーが参加していることになる。我々はABTCがビジネスに多大な利益をもたらすことに留意し、この制度にまだ参加をしていないエコノミーに対し、可能な限り早い参加のための措置を講じるよう促した。

 我々は、「アジア太平洋における透明性及び貿易円滑化:改革による利益の評価」に関する、APECの委託を受けた世界銀行の研究の結論に留意した。この研究は、APECエコノミーの共同での貿易実績は、より一層の貿易政策の予測可能性及び簡素化によって、1480億米ドル増加するだろうと示唆している。APECの貿易円滑化及び透明性アジェンダのさらなる発展において、我々はこの研究成果を考慮するだろう。

 我々は、電子セキュリティの問題に取り組むための協力を拡大し、電子ネットワークの利用における信用を確立し、競争とネットワークの広がりの拡大を促進させる政策及び規制改革を支援するための継続的な努力を歓迎した。

‐知的財産権及びデジタル・エコノミー

 我々は、地域内における知的財産権(IPR)の保護及び執行を強化するための努力、すなわち、知識基盤型経済の発展を促進し、投資機会を拡大し、経済成長を促進しようとする努力を継続する。また、我々は、包括的でバランスの取れた知的財産制度、及びIPRの創造と革新を奨励し、IPRの成功した管理と利用のためのツールを提供するような環境構築の重要性を認識した。

 我々は、このIPR分野に関して、「特許取得手続における協力イニシアティブ」の立ち上げ、「知的財産権の水際取締まりに関する革新的技術ベスト・プラクティス・ペーパー」の開発、及び、「知的財産権に関する能力構築ガイドライン」の作成を含む、APECが今年達成した進展を歓迎した。我々は、衛星及びケーブル信号の窃盗に対するAPECの関心を歓迎し、各メンバーエコノミーの国際的義務及び法制度に従いつつ、著作権所有者、放送及びケーブル業界を侵害するこの問題に効果的に対処する方法を探求することを、APECに要請した。我々はまた、この活動に関わっている市場において模倣品及び海賊版の販売と闘い、世界においてIPR保護のため本件に代表される難題に対処するためのAPECエコノミーによる努力を継続することに合意した。我々は「APEC模倣品・海賊版対策イニシアティブ」及び一連の6つのIPRガイドラインの継続的実施を要請し、IPR保護及び執行を強化するため、更なる作業を進めていくことに合意した。

 我々は、競争を奨励し、効率を促進し、改革に拍車をかけるための方策として、貿易とデジタル・エコノミーに関する作業を継続することに合意した。我々は、「技術選択原則に関するパスファインダー」への更なる参加を奨励した。我々は、IT分野の貿易、仕事及び投資の促進における情報技術協定(ITA)の重要性を再確認し、すべてのITA対象品目の免税扱いが維持されることを保証するための緊密な協力を奨励した。

‐投資

 我々は、国内及び海外投資が更なる経済成長及び発展の促進に当たって果たすことができる決定的な重要性について議論し、この地域における投資の増大方法に関する最近のAPEC財務大臣会合での結論を留意した。

 我々は、投資に多大な影響を及ぼす地域内の障壁を特定するために、APECで実施された分析・調査作業及び、今年ABAC及び国際機関の協力で行われた政策対話を歓迎した。我々は、2008年のMRT会合での検討に向け、2008〜2010年の「投資円滑化行動計画」を準備するよう実務者に指示した。ボゴール目標を前進させ、地域経済統合を深化させるために、APECの投資作業に更なる一貫性をもたらし、健全な投資政策体制の要素のより良い理解を促進し、特定されたキャパシティー・ビルディングのニーズに対応するだろう。この計画は、更なる官民対話の重要性を認識するだろう。

‐腐敗防止及び透明性

 我々は腐敗と闘うことに高い優先度を設けた。腐敗は、法の原則を蝕み、市場を歪め、投資を抑制することによって経済成長の脅威となる。我々は「ビジネス行動規範」モデル、「公務員行動規範原則」モデル、そして補完的な「公的・民間部門の腐敗防止原則」を承認した。我々はすべてのエコノミーにこれらの規範を実行するよう奨励し、中小企業(SME)部門において「ビジネス行動規範」を試験的に実施するというオーストラリア、チリ、ベトナムによる合意を歓迎した。また、国連腐敗防止条約未批准のエコノミーに対し、必要に応じて速やかに批准するように促した。

我々は、汚職関連法を遂行するため、また、逃亡犯罪人引渡し、司法共助及び汚職利益の回収及び返還に関する国際協力を強化するための強いコミットメントを再確認する「国際司法協力向上を通じた腐敗撲滅行動」を支持した。

 我々は、APECエコノミーの「APEC透明性基準」実施に関する報告を歓迎し、焦点を絞ったキャパシティー・ビルディング活動及びその他のイニシアティブによるものを含め、実施程度の格差を埋めることを約束した。

‐ビジネス環境の改善及び構造改革

 我々は、貿易及び投資の自由化による十分な利益の実現及びこの地域におけるビジネス環境の改善における構造改革の重要性を議論した。我々は、「構造改革実施のための首脳の課題」において確認された5つのテーマ‐規制改革、競争政策、企業統治、公共部門管理、並びに経済法制度整備‐のそれぞれが含まれている詳細且つ意欲的な先進的な作業工程表を支持した。我々は、この作業がこの地域における投資環境を改善し、地域経済統合を促進し、持続可能な経済成長を支えるために構造改革を継続すべきとのAPEC財務大臣の要請を強力に補完するものであることに留意する。我々は、構造改革の手段は各エコノミーの状況に応じて講ずるべきであることに更に同意した。我々は、2008年に構造改革に関する閣僚級会合を開催するというオーストラリアによる提案を歓迎した。

 我々は、「2007年APEC経済政策報告」を支持し、公共部門管理及び構造改革を支援するための機関の利用に焦点を当てたことを歓迎した。我々は、APECが、構造改革を促進し実行する既存の機関の強化を支援出来るということ、また、改革を実行するためのメンバーエコノミーの努力を支援するための能力を開発するべきであり、それにより競争力が向上することに合意した。我々はこの問題に関し、地域における関連調査ネットワークとの協力を含め、2008年にさらに作業をするよう要請した。

 中小企業(SME)部門は、我々エコノミーすべてにとり成長の重要な原動力であり、我々は、SMEの競争力及び民間部門開発の促進のための更なる作業の重要性を再確認した。この観点から、我々は、SME部門の発展を支援するためにSME作業部会によって今年立ち上げられた「民間部門開発アジェンダ」を歓迎した。このアジェンダは、ベスト・プラクティスへの指針として、世界銀行の「ビジネス活動簡易化のための指標」を用いることにより、よりよい規制及びビジネスの実践を促進する。我々は、この重要な作業を加速させるため他のAPECフォーラムの参加を歓迎した。

‐経済・技術協力(ECOTECH)及びキャパシティー・ビルディング

 経済・技術協力は依然としてAPECの極めて重要な柱である。我々は、各作業部会及びタスクフォースの優先事項及び成果を強調した「経済・技術協力に関する2007年APEC高級実務者報告」を承認した。我々は、エコノミー間の発展の格差解消という我々の目標を実現するのに役立つであろうAPECにおける広範囲にわたる経済的・技術的キャパシティー・ビルディング活動の成果に留意した。我々は中小企業の競争力強化、民間部門開発、及び人材育成の分野を含むAPECアジェンダに対するキャパシティー・ビルディング活動継続の重要性を再確認した。

 我々は、経済・技術協力運営委員会(SCE)の政策アジェンダを再活性化させるための作業を賞賛し、APECの経済的・技術的キャパシティー・ビルディング活動への戦略的ガイダンスの継続を奨励した。我々はAPECの各フォーラム間の調整強化及び、APEC改革の幅広いプログラムの一部としての運営プロセス合理化のための現在継続中の努力を認識した。この様な状況において、我々は「APEC作業部会及びSOMタスクフォースの議長に関する新ガイドライン」及び、「新しいAPECフォーラム設立のためのガイドライン」を支持した。

 我々は、希少資源のより効率的な利用を保証するであろう、「2006年APECフォーラムのレビュー」の実施を歓迎した。「保健作業部会」及び「鉱業タスクフォース」の設立及び、「貿易推進作業部会」の「中小企業作業部会」への併合、並びに「社会的セーフティーネット・キャパシティー・ビルディング・ネットワーク」の「人的資源開発作業部会」への併合を支持した。我々はAPECフォーラムが戦略的且つ効果的であることを保証する、継続中の独立評価プログラムの重要性を認識した。我々は、SCEによる更なるフォーラムの見直しと合理化を奨励した。

 我々は、適切な場合、調査及び政策分析に関する他の国際機関との更なる協力を発展させるための実務者の努力を支持した。我々は、フォーラムに対し、適切な場合には、それらの作業計画やマンデートへのABACの更なる関与を奨励した。

 我々は、APECのキャパシティー・ビルディングの努力を促進するための各メンバーエコノミーの任意拠出を歓迎した。この点に関して、我々は、米国のTILF(貿易投資の自由化円滑化)基金及びAPEC支援基金への2300万米ドルの2007年の拠出、オーストラリアからの450万豪ドルのAPEC支援基金へのコミットメント、ロシアによる50万米ドルのAPEC支援基金へのコミットメント、及び日本による1997年からの3600万米ドルの継続中のTILF基金への拠出を歓迎した。

 我々は、APECメンバーエコノミーのデジタル化能力は、APECの作業及び地域の公平な開発を前進させる上で、不可欠であると認識した。我々は、この観点からAPECデジタル機会雇用センターによる貢献を歓迎し、メンバーエコノミーに対し関連キャパシティー・ビルディング活動における更なる協力を奨励した。

 我々は、地域の繁栄において、健全な海洋及び沿岸の環境が果たす重要な役割を認識した。この観点から、我々は、海洋汚染、違法漁業、生産能力超過、気候変動への適応に対処するため、持続的開発枠組みであるバリ行動計画の実施に関する本年行っている作業を歓迎した。我々は、珊瑚礁の保護を含む海洋及び沿岸資源を保全するために役立つであろう将来の作業に期待する。

 我々は、より開かれた競争的な市場により迅速に適応出来るようになるために、APECの労働力は21世紀的技術を身につけるべきであること認識しつつ、人的資源開発に関する我々の作業の深化を歓迎した。

アジア太平洋における人間の安全保障の促進

 我々は、最近の自然災害やテロ行為による悲劇的な人命の損失に深い遺憾の意を覚えつつ、人間の安全保障に関するAPECの現在進行中の作業の進展を再検討した。テロ、自然災害、食糧供給汚染、鳥インフルエンザのような感染症の脅威は、この地域において経済成長を維持し、生活水準を向上させ、貧困を減少させるための我々の努力を損なう可能性がある。我々は、包括的な危機管理の枠組みにおいて、国境を越えた脅威に対処することの重要性について同意した。我々はAPECの人間の安全保障アジェンダはビジネスの必要性と密接に同調し続けなければならないことに同意した。

‐テロ対策及び貿易の安全

 我々は、この地域及び他のどこかで繰り返されているテロ攻撃は、テロが我々の繁栄及び安全保障にとって、依然として執拗で進化しつつある、長期的な脅威であることを示すことに同意した。引き続き、テロ及び大量破壊兵器の拡散は、自由で開かれ、かつ繁栄したエコノミーというAPECの展望に対する挑戦であり、我々はこれらの挑戦に対する我々の関与を再確認した。ビジネス界はこれらのリスクを軽減するための方策に大いに関心がある。

 我々は「第5回APEC地域における安全な貿易(STAR V)に関する会合」の成果を歓迎した。STARのイニシアティブは、貿易の円滑化と安全保障の補完的な目的を達成するために必要な民間部門との緊密な協力を強調している。STAR Vは、この地域における供給網の安全対策についての共同利用可能性の向上、及び公的部門と民間部門間の情報共有の向上のための領域を探索することによってビジネス界が得るであろう利益を明らかにした。官民パートナーシップはテロ対策における議論の上で重要なテーマであった。

 我々は、予防、備え、対応、回復及び有効な意思疎通に関する自発的な「APEC食品防衛原則」を承認した。これらの原則は、意図的な汚染から食糧供給を防護するための国際的なテロ対策努力に重要な貢献となるであろう。我々は、食糧供給に対するテロの脅威を緩和させる努力を続けるだろう。我々は生物・化学テロ対策に関するキャパシティー・ビルディング・プログラムの成功裡の完結を歓迎するとともに、この分野における警戒を継続していく重要性を強調した。

 我々は、この地域の空港、港、陸上輸送ネットワークにおける安全保障を改善するためのより一層のキャパシティー・ビルディング、及び安全対策の一貫性の推進、費用の抑制に向けた協力作業に関するAPEC運輸大臣の合意を歓迎した。我々はAPECエコノミーが緊急事態におけるメンバー間の情報伝達を改善するための継続的努力を奨励し、航空管制コンタクト・ポイント・ネットワークの試行を歓迎した。我々は、貿易航路の安全を確保することは我々の継続的繁栄にとって重要であることを認識し、この分野での更なる作業を奨励した。我々は、「APEC港湾サービスネットワーク」の設立に向けた前進と、その北京における事務局開設の提案を歓迎した。我々は、参加メンバーによる「APEC地域的入出国警戒システム」の進展に注目したが、これは、紛失、盗難、偽造されたパスポートを鑑識し、旅券の不正使用を防止するもので、すべてのメンバーエコノミーに対し準備が整えば参加を考慮するよう勧告した。我々は、税関同士の協力による貨物の安全保障改善につながる、「APEC貿易の安全のための枠組み」の自発的な実施における進展、並びに「死活的重要性を持つエネルギー設備の防衛」に関するイニシアティブの開始及び実施に向けた進展を歓迎した。我々は、鉄道及び大量輸送機関の安全保障がAPEC地域における更なるキャパシティー・ビルディングの対象となることを確認した。

 我々は、テロ攻撃による貿易の途絶は深刻な経済的影響を及ぼす可能性があることに留意した。シンガポールによって委託された研究によれば、世界的な供給網に対する大きなテロ攻撃によって発生する、貿易途絶のAPEC各エコノミーへの波及効果は、GDPの損失額が1370億米ドル、貿易の減少額が1590億米ドルのレベルになると推定された。この脅威に取り組むために、我々は、テロ攻撃の後できる限り迅速に貿易を回復させるための「APEC貿易再開計画(TRP)」を支持した。我々は、各メンバーエコノミーに対し、自発的にTRP指針を探求するよう奨励した。我々は、テロ対策の金融面における協力の強化を歓迎し、資金洗浄、テロリストへの資金流入、及び他の違法な資金取引との闘いに対するコミットメントを確認した。

 我々は、「APECテロ対策行動計画」の改訂、及びAPECの協力的な努力に一層焦点を当てるためのキャパシティー・ビルディングの機会の特定に関する毎年の作業を賞賛した。

‐食品及びその他の製品の安全

 我々は、貿易を円滑化し、また食品の安全性を及び人々の健康を確保するための協力、食品安全基準の強化、及び科学的根拠に基づいたアプローチの強化の必要性を認識した。この点において、中国とオーストラリアが共同議長を務める「APEC食品安全協力フォーラム」の設立について今年合意したことを歓迎した。このイニシアティブは、食品安全規制の国際基準との調和、食品安全の向上、及び食品安全に関するより効果的なコミュニケーション・ネットワークの設立を支援するものである。我々は、特にキャパシティー・ビルディング活動の向上という点について、地域の食品安全性を強化し、優先的に取り組んでいくためのより強固で戦略的なアプローチを策定することに同意した。我々は実務者に対し、この作業をほかの製品にも拡大させるための方法について検討するよう指示した。

‐緊急事態への備え

 緊急事態への備えの強化は、APECの変わらぬ優先事項であり、リスク軽減に対する投資の経済的利益を増進することは、この達成に役立つ重要な方法である。

 我々は、緊急事態や自然災害に対する地域社会の強靱性及び備えの構築のための我々の能力強化の重要性について合意した。これに関連して、自然災害に時宜を得た効果的な方法で対処することができることを確実にするために、我々は、緊急対応及び災害管理担当の高級実務者、ビジネス界及び国際社会のパートナー間の更なる協力を推進するという新たな提案を歓迎した。

‐保健

 我々は、起こりうる感染症の社会的及び経済的な影響を緩和するためには積極的な準備計画が重要であることについて議論した。我々は、世界保健機関(WHO)への支持を再確認し、国際的な疾病の蔓延を予防・防御・抑制し公衆衛生対策を提供するための改訂された国際保健規則(2005)を十分に実施することへの支持を再確認した。我々は、時宜を得たインフルエンザ標本の共有及び透明で公正かつ平等な予防注射その他の福利厚生の提供促進を含むWHOによる世界インフルエンザ監視ネットワーク(GISN)を引き続き支持することについて合意した。

 我々は、「流行発生時の経済活動維持のためのガイドライン」を承認した。このガイドラインは、その時々に応じて改訂される予定であり、適切な危機管理及び対応計画のための地域的能力の向上に役立つだろう。我々は、「鳥・新型インフルエンザ予防・対処に関するAPEC行動計画」の実施に関し、意味ある進展が達成されたことについて認識し、地域の備えを更に促進するために部門を超えた作業と民間部門の関与の継続を呼びかけた。我々は、「中小企業のためのAPECインフルエンザ流行計画ガイド」の開発は、ビジネス界のための有用な準備手段となるとしてこれを歓迎した。鳥インフルエンザ及びその他の動物起源の新たな越境疾病を防止し対応するための能力を構築し続けることは、健康の安全保障を促進するだろう。

 我々は、APEC内での協調を促進し、2010年までにHIV/AIDS予防、治療、看護、支援に対する普遍的なアクセスを確保するという国連目標に近づくための我々のコミットメントを再確認した。我々は、「HIV感染者のために雇用者が効果的な職場慣行を実行する際の環境構築ガイドライン」を承認した。

‐エネルギー安全保障及び持続可能性

 気候変動、エネルギー安全保障、及びクリーン開発は、全APECエコノミーにとって極めて重要な関心事であり、我々の首脳が今週後半にシドニーで会うときの主要テーマとなるだろう。

 我々は、APECのエネルギー大臣によって提案された、環境への影響を最小にしつつ、急速に増大するエネルギー需要の難問に取り組むイニシアティブを歓迎した。これらのイニシアティブには次のものが含まれる。すなわち、化石エネルギー技術、特に炭素回収・貯留技術の開発促進、エネルギー貿易・投資に対する障壁を確認し、これらに取り組む計画を立案するための「APECエネルギー貿易及び投資に関する研究及びラウンドテーブル」、及び「APEC地域の天然ガス供給・インフラ・貿易ネットワークへの投資の加速」、「LNG貿易の発展の円滑化」、「エネルギー事業融資」、「天然ガス取引」についてのAPECベスト・プラクティスの取り込み・通用の状況の見直しである。

 我々は、自主的な「APECエネルギー・ピアレビュー・メカニズム」の発展を含むエネルギー効率の改善、エネルギー効率政策に関する情報共有の強化、及びエネルギーの効率的輸送の促進を目的として目標を定め、行動計画を策定するよう各エコノミーに奨励するというイニシアティブを歓迎した。

 我々は、エネルギー安全保障に取り組み、温室ガス排出の持続的な削減を達成するために経済全体にわたる努力を動員するに当たって、市場原理に基づく解決策が果たすであろう重要な役割について合意した。我々は、APECメンバーエコノミーよる、エネルギー効率を高め、温室ガス削減を推進する経済政策手段に関する経験を共有するための更なる作業を歓迎した。

 我々はデータ共有の改善を含む、石油の安全保障達成の重要性について認識し、この地域における長期にわたる開発目標を達成するためのエネルギー源の多様化に向けた努力を慫慂した。これには、天然ガス、持続可能な農作物及びその残渣から生産されるバイオ燃料、再生可能エネルギー、及び関心あるエコノミーによる原子力エネルギーの利用が含まれる。我々は、数種類の農作物から作られるバイオ燃料は、現行の石油価格に比較して十分価格優位性があること、バイオ燃料は温室ガス排出を削減出来ること、バイオ燃料は年月をかければ石油利用の割合をかなり代替できることといったAPECバイオ燃料タスク・フォースによる調査結果を歓迎した。

 我々はまた、エネルギー統計収集の促進及びエネルギーに関する知識の共有を促進する国際エネルギー機関(IEA)との協力をはじめ、幅広いエネルギー協力の推進を歓迎した。我々は、エネルギー大臣が地域の核物質防護専門家の会合から発出された提言に関する助言を受けるであろうことに留意した。

 我々は、実務者に対し、環境物品及びサービスに関する作業を継続し、この分野における貿易障壁を削減する方法を検討するよう指示した。我々は、WTOにおける積極的な市場開放の結果が我々の環境及びエネルギー安全保障についての目標を前進させるであろうことに同意した。

アジア太平洋における展開に関し、APECが動的かつ対応的であることの確保

 2006年にAPEC首脳が採択した改革パッケージに加え、我々は、利害関係者に対する効率性及び対応力を確保するために、2009年からメンバーの分担金の30パーセント増額を含め、APECの組織基盤を強化するための追加的な方策をとることに合意した。これは、1998年以降、初めてのAPEC予算拡大を意味する。我々は、APEC改革に対する我々の関与を確認し、メンバーによる拠出の増額へのコミットメントは、APEC活動の合理化と専門化のためのプロセスの継続に連動していることを強調した。

 我々は、2007年の総務部長(COO)の任命を含め、APECの運営能力の効率化及び増強のための努力及び、プロジェクト管理能力を高め関連プロセスを改善するためにとられた努力を認識した。

 我々は、任期付の事務局長の任命を検討する時期が来たことに同意し、2008年における議論に備え、実務者に、提案された雇用条件や職責、説明責任のメカニズム等をさらに検討するよう指示した。

 我々はまた、シンガポールのAPEC事務局で行う会議数を増やすことを含め、議長エコノミーにかかる費用負担を軽減する方策を検討することに合意した。

 我々は、特にキャパシティー・ビルディングの分野における共通目標の前進のために、APECと東南アジア諸国連合とのより緊密な協力を呼びかけた。

 我々は、APEC事務局内に「政策支援ユニット」を設立することに同意した。この部局は、メンバーからの任意の拠出金を基に、分析能力、政策支援、及び、APECの貿易・投資・経済改革アジェンダ及び経済・技術協力(ECOTECH)活動に関連するキャパシティー・ビルディング調整の支援を行うことになる。管理理事会が政策支援部局を監督し、その活動プログラムは、高級実務者の承認を得るために提出される。

 我々はAPECの連帯シンボルを表す、改訂されたAPECロゴを歓迎し、APECフォーラム及び議長エコノミーがそれを使用することを奨励した。

 我々は、ドーハ交渉への支援、貿易円滑化、地域経済統合、資本市場の深化、構造改革及び我々の人間の安全保障に関するアジェンダを含め、すべてのAPECアジェンダにわたる作業を進展させるための、ABAC(APECビジネス諮問委員会)、閣僚、実務者間のより緊密な取組を歓迎した。我々は、APECにおけるジェンダー統合及び女性の関与の増加というAPECの目標に対する我々のコミットメントを再確認した。我々は、女性の輸出業者及び事業者が世界の貿易システムの利益を享受できるようにすることにより、地域における女性の経済的なエンパワーメント推進への関与を継続し、我々の作業に対する本年の女性指導者ネットワークが果たした持続的かつ建設的な貢献を歓迎した。

 我々は、この地域におけるビジネス環境を改善するためのAPEC産業対話の努力を賞賛した。我々は、低リスクの荷主について通関手続きを円滑化し、自動車部門におけるIPR(知的財産権)認識を高めるための作業を歓迎した。我々は、化学製品のラベル標準化に関する作業、及びEUの化学物質規制が貿易に及ぼす悪影響を低減するための努力を賞賛した。我々はまた、化学物質規制のためのベスト・プラクティス・ガイドラインの開発を奨励した。我々は、調査、革新、規制改革及び調和を推進し、模倣薬品の流れをせき止めるための生命科学における現在進行中の作業を支援した。我々は、健康革新への投資利益に関する研究を呼びかけた。

 我々は、2007年の各種閣僚会合の成果に留意した。我々はここに含まれる提言を含め、2007年APEC作業計画に関するSOM議長報告を承認し、APEC事務局長による2007年年次報告及び2008年のAPEC予算を承認した。我々は、ペルーにおける2008年のAPEC準備を歓迎し、2009年シンガポール及び2010年日本におけるAPEC開催の準備が進行中であることに留意した。我々はロシアが2012年のAPEC議長国となると表明したことを歓迎し、今後数日の間に2011年のAPEC議長国・地域が表明されることを期待した。