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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 地域経済統合の強化〜長期的展望としてのあり得べきアジア太平洋の自由貿易圏を含む、地域経済統合に関する報告書〜(第15回APEC首脳会議)

[場所] 
[年月日] 2007年9月9日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

要旨

昨年ハノイにおいて、首脳は「長期的展望としてのアジア太平洋の自由貿易圏を含む、地域経済統合の推進手段に関する更なる研究の実施、及び2007年の豪州でのAPEC首脳会議での報告」を指示した。

本報告書は、本地域にわたる顕著な現在の傾向を略述しており、地域経済統合を促進するAPECの努力を飛躍的に後押しすることを意図して合意された様々な行動を明らかにする。このイニシアティブは、アジア太平洋地域の人々に更なる成長と繁栄をもたらすこととなるであろう。

合意された行動は、ここ数年のアジア太平洋地域におけるダイナミックな経済発展を基礎とするものであり、特に、APECエコノミー間の自由貿易協定の増加に起因する問題、及びこれがビジネス界に投げかけた課題に対処するものである。

報告書及び合意された行動は、我々の以下への関与を示すものである。

◆強いコミットメントと具体的な行動を通じた、多角的貿易体制への支持の継続

◆ボゴール目標の達成、自由で開かれた貿易と投資に向けた具体的行動の実施

◆様々な現実的かつ段階的な取組を通じて、アジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)のための選択肢及び展望の検討を前進させる

◆質の高い自由貿易協定を促進するためのAPEC活動の強化

◆地域経済統合を加速化し、国内障壁を削減するための具体的なイニシアティブを通じた、APECの貿易及び投資アジェンダへの再焦点化

◆構造改革に関するAPECの作業の強化

◆本地域における金融市場の強化・深化のための努力の強化

◆各分野の大臣会合においても、地域経済統合促進のためのイニシアティブにより一層焦点をあてて議論し、長期に渡り地域に経済成長・発展をもたらすであろう新たな取組を検討

◆地域経済統合を目的として強化された取組をうけ、益々増大する能力構築(キャパシティ・ビルディング)活動に対し、戦略的アプローチを構築

◆本作業の支援のためのAPEC事務局への更なる資源と組織的能力の付与

地域経済統合の強化のためのAPECイニシアティブ

本報告書は、APECエコノミー間の地域経済統合に向けた作業の強化を目的とした幅広い行動を略述する。本報告書は、目標を定めたキャパシティ・ビルディング・プログラムによって支援された、共同及び個々の行動を通じた経済成長及び繁栄の実現へのAPECのコミットメントを足場とし、さらに発展させていくものである。

地域経済統合に対するAPECの関与

APECは、アジア太平洋地域における協力及び経済的繁栄の追求に対する共通のコミットメントに基づき、1989年に発足した。1993年に米国のブレイク島においてAPECエコノミーの首脳が初めて一堂に会した際、首脳は更に深化した「国民のための安定、安全及び繁栄を達成するために共有されたヴィジョンに基づく共同体の精神」に対する共通のコミットメントを支持した。このヴィジョンの中心は、地域統合と自由で開かれた貿易及び投資を通じた経済成長の促進へのコミットメントである。

1994年、インドネシアのボゴールにおいて、APEC首脳はこのコミットメントを、先進エコノミーは2010年までに、途上エコノミーは2020年までに、アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易及び投資を実現するための大胆な構想であるボゴール目標を策定することにより実証した。2002年に更新された「大阪行動指針」は、ボゴール目標達成に向けたAPECにおける進展の基礎となる計画であり続ける。

1996年、APECはボゴール目標の達成に向けた進展を追跡する手段として、個別行動計画(IAPs)を用いることに同意した。これは1997年に開始したピア・レビュー・プログラムによって補完された。ピア・レビュー・プロセスは他のエコノミーの改革の経験から学ぶ機会を提供し、開かれた市場及びビジネス経費の削減のための措置を大体において奨励するものである。

2001年上海アコードは、貿易円滑化の重要性、及び取引経費の削減による利益を確認した。これは、第一次貿易円滑化行動計画(TFAP)に着手するもので、自らが定めた取引にかかる経費の5%削減という最重要目標は達成した。この努力を基にして、APEC貿易担当大臣は、2007年7月、2010年までに更に5%の貿易取引コストを削減するという第二次貿易円滑化行動計画を承認した。

2005年、APEC首脳は韓国・釜山において、ボゴール目標に向けた中間実績評価を承認した。同評価は、自由で開かれた貿易及び投資の促進、並びに貿易及び投資の障壁の削減を通じ、APECがアジア太平洋地域における成長と繁栄に顕著な貢献を行ってきたと結論づけた。その結果、経済成長、雇用、貧困の減少、教育へのアクセスについて、本地域が世界の他の地域をはるかに越えることを助けたのであった。

変化する貿易・投資環境

APEC地域の貿易及び投資政策の展望は、1989年のAPECの設立以来、相当変化してきている。多角的貿易体制は、APECエコノミーによる経済関係の実施のための基礎的な枠組みであり続けている。しかしながら、各エコノミーは、自由化及び経済的関与の目的を実現するために、地域貿易協定や自由貿易協定(RTA/FTA)に向かいつつある。より低い関税障壁及び地域経済統合に呼応して、更に複雑で効率的なサプライ・チェーンが出現してきている。サービス部門は多くの地域経済における最大の構成要素となってきており、ビジネス界はますます経済インフラとサプライ・チェーンの効率性、利用可能性及び安全性に関心を持ってきている。

情報通信技術の発展、変化する人口動態、更なる繁栄は、特に拡大する観光、国際的な教育サービス、ビジネス関係者の移動を通じて、地域社会をますます一体化させている。加えて、更なる地域の繁栄には、よりクリーンな開発、強化された知的財産権、より健全な金融市場、そしてより確実で透明性の高いビジネス法等の分野における需要が伴ってきている。

中小企業は、新たな世界のビジネス環境における重要な存在となってきている。中小企業は、APEC地域におけるビジネスの90%を占めている。中小企業に対するこれらの発展の影響はかなり多様である。このため、中小企業が潜在能力をすべて発揮できるように、APECは中小企業のニーズに配慮を怠ってはならない。

2005年、首脳は、中間実績評価の重要な要素として釜山ロードマップを策定した。本ロードマップは、APECの作業を再定義及び拡大し、特にボゴール目標へ向けた進展を加速化するための6つの主な優先事項をまとめたものである。これらの優先事項は、(1)多角的貿易体制の支持、(2)共同及び個別行動の強化、(3)質の高いRTA/FTAの促進、(4)釜山ビジネスアジェンダの実施、(5)キャパシティ・ビルディングに向けた戦略的アプローチの実施、(6)パスファインダー・アプローチのより良い活用である。釜山ロードマップは、民間部門の発展に十分な配慮を行いつつ、税関手続、基準・適合、ビジネス関係者の移動、電子商取引、透明性、腐敗対策及び企業統治、食品協力、知的財産権の保護と執行、構造改革及び規制改革、競争政策、金融システムなどを含む、包括的なビジネス円滑化プログラムの策定を求めるものである。2006年に首脳により承認されたハノイ行動計画は、釜山ロードマップの実施のための具体的な行動を設定するために策定された。

地域経済統合の強化のためのAPECの枠組み

APEC地域の地域経済統合の強化のために提案されている枠組みは、4つの鍵となる要素から成り立つ。

◆第一に、本枠組みはボゴール目標を反映し、多角的貿易体制を支持するような形で、更なる物品及びサービス貿易の自由化並びに投資の流れを促進、支援する。このようにして、本枠組みは長期的に実現可能性のあるアジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)のための基盤を整えることにもなる。

◆第二に、本枠組みは国境を越えた自由化から得られる利益の最大化のための国内措置の改革及びビジネス環境に更なる焦点を置く。

◆第三に、本枠組みは、金融資産の移動を容易にするための地域金融市場の強化及び深化を目的とする。

◆第四に、地域経済統合に対する努力は、運輸や情報通信などの具体的な分野のイニシアティブを含む。

これらの要素が維持されるためには、首脳及び閣僚の指示に対応し、支援するためのAPEC事務局の能力を向上させることが不可欠である。

世界貿易機関(WTO)に代表される多角的貿易体制は、アジア太平洋地域の経済統合の強化のために、包括的な枠組みを提案している。APECエコノミーは、WTO及びドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉に意欲的かつ積極的に関与し続け、引き続きこれを地域経済統合の推進のための最善の手段であると考える。

地域経済統合の枠組みはダイナミックである。また、この枠組みはAPECエコノミーの意欲と責任に立脚し、弾みを与える。その構成要素は、具体的で行動指向的である。

焦点を絞った効果的なキャパシティ・ビルディング・プログラム

APECエコノミーは、もし目標を的確に定めた経済的及び技術的協力に支えられれば、貿易及び投資の自由化はより早いペースで進展するという確固たる信念を有している。この信念は、自由で開かれた貿易というボゴール目標及び地域経済統合の全体のプロセスの実現に不可欠である。

合意された行動

前進のための計画策定:目前の機会と挑戦

APECメンバーがコミットしてきているボゴール目標は、引き続きAPECにとって重要な組織原理であり、原動力である。ボゴール目標に由来する様々な協力活動は、APECメンバーエコノミーの持続可能かつ安定した経済発展を促進してきたのみならず、アジア太平洋経済統合に実質的に貢献してきた。この進展は、その大部分が世界の他の地域との貿易と投資による、目覚ましい継続的な経済成長によって支えられてきている。これは同様に、多角的体制の下での更なる非差別的な貿易自由化が、更なる地域経済成長及び統合の主要な原動力であり続けるという現実を示している。

アジア太平洋地域における経済統合のための未来は、開かれた市場と向上しつつある生活水準により推進され、前途有望となっている。ビジネス界及び消費者が、新興の技術や人口動態の動向等の要因に反応するように、この進展の大部分が有機的なものであるが、我々エコノミーは、経済統合の形成及び促進にあたって重大な役割を果たしている。政策のまずい選択は成長の低迷をもたらし、地域全体として国際的競争力を失わせることとなる。

しかしながら、目前の課題は軽視されるべきではない。経済的ニーズに応えるという共通の課題と同様に、地域のエコノミーは一連の人口動態的及び構造的変化、エネルギー及びインフラに対する高まる需要、並びに環境問題の影響にも対処しなければならない。これら全ての課題については、将来の成長及び発展を危険にさらすことなく対処することが可能である。政策対応を策定する際のAPECメンバー間の協力は、安定した長期的な地域経済発展と統合を支援するのに役立つ。

APECは、地域経済統合を促進するための広範な作業計画を既に持っている。APECエコノミーは、また経済改革を前進するための協働について長い歴史を有している。APECの堅固な貿易及び投資の自由化・円滑化アジェンダは、市場を開放し続け、APECエコノミーの人々に対して数えきれない利益をもたらす。APECが構造改革政策について集中を強化していることは、個々のエコノミーの改革推進派の声の重みを増している。APECは、強力かつ効率的な国内市場を支える機関を強化するために必要なキャパシティ・ビルディングを提供するには理想的に適格である。

多角的貿易体制の支持

国際的な貿易を行う21の地域・国から成るAPEC地域は、有効に機能する多角的貿易体制を最重要視している。1989年の発足以来、APECは当初はGATTの下で、後にWTOの下での非差別的貿易自由化の強力な提唱者、及び一貫した支持者であり続けてきた。より最近では、APECは、ドーハ開発アジェンダ交渉の主要な岐路において不可欠な支援を提供し、その進展に、これまでと同様に積極的な役割を果たしている。

合意された行動:

◆我々は、幅広い支援的、現実的、具体的な行動と同様に、力強い明確な政治的コミットメントを通じて、引き続き多角的貿易体制を支持する。

◆我々は、多角的交渉の場であるドーハ・ラウンドが貿易の自由化を達成するための最善の機会であり、我々の最優先事項であり続けることを再確認する。

ボゴール目標への関与の再確認

ボゴール目標は、APECの重要な組織の原理であり原動力であり続けている。これらの目標は、持続可能かつ安定した経済発展を促進するのみならず、アジア太平洋経済統合にも少なからず貢献してきた。

合意された行動:

◆我々は、ボゴール目標達成へのコミットメントを再確認し、自由で開かれた貿易及び投資に向けた、具体的な行動を引き続き実施する。

◆我々は、本目標を前進させるにあたって釜山ロードマップ及びハノイ行動計画が担う役割を特に強調する。

アジア太平洋の自由貿易圏の検討

2006年、我々は長期的展望としてのアジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)の実現可能性に関する提言を求めた。FTAAPはアジア太平洋地域の経済統合に対して少なからず貢献することができるが、その意味するところはまだ十分に理解されていない。また、解決されるべき問題も明らかにされていない。

APECメンバーが参加する多国間自由貿易協定はすでにいくつか存在しており、その他にも様々な検討段階のものが存在する(別添を参照)。二国間及び多国間の自由貿易協定に関する検討のための分析材料は相当量入手できる。しかし、FTAAPがもたらす課題のみならず、FTAAPによってもたらされる機会についての取組をAPECエコノミーの間で充実させることにより、より多くのことが学べることは明らかである。また、あり得べきFTAAPの様々な側面について議論するため、高級実務者による貿易政策対話を追加的に行うことは有益である。

合意された行動:

◆我々は、以下を含む、様々な現実的かつ段階的な取組を通じて、FTAAPのための選択肢及び展望の検討を行う。

‐今後の準備段階の一部として、解決を要するであろうFTAAP関連課題の一覧表の作成、及びそれらが与えうる意味あいの検討。

‐類似点・相違点についての知識の拡充をはかるとともに、FTAAP構想をすすめるために取り得る方途を特定するための、地域内の既存の二国間及び多国間協定についての分析的研究の実施。

‐あり得べきFTAAPに関連して行われた分析作業を改めて精査し、更なる分析作業の必要性を吟味。

‐既存の自由貿易協定の結合または統合の実現可能性の検討。

RTA/FTAを通じた地域経済統合の支援

APECは、質の高い、包括的なRTA/FTAの重要性、貿易及び投資の自由化・円滑化の達成、並びにボゴール目標の達成を一貫して強調してきた。同時に、メンバーエコノミーは、貿易協定における著しい相違のみならず、不必要な複雑さに対するビジネス界の懸念を認識している。このような理由により、APECベストプラクティス及びRTA/FTAのためのモデル措置の策定を通じ、APECは質の高い協定の促進の先駆者となっている。

合意されたモデル措置の数を増やしていくことは、質の高い協定を交渉するための政策立案者の能力を強化する。更に、モデル措置の有効性は、より深く理解させることを目的としたキャパシティ・ビルディング活動を通じて高めることが出来る。

特恵的原産地規則は、RTA/FTAに関する将来的な作業が想定される分野である。これらの規則毎の相違点と複雑さは、特恵的貿易協定のより良い利用の障害としてしばしばビジネス界より指摘される。したがって、APEC地域で使用される様々な原産地規則の調査を実施し、可能であれば、それら原産地規則がいかにして合理化されるかの検討を行うことが出来る。

合意された行動:

◆我々は、協定間の一貫性を推進し、貿易及び経済的利益を最大化しつつ、市場を開放し、経済統合を推進する、質の高い包括的なRTA/FTAを推進するためのAPECの作業を強化する。この観点から、我々は以下を実施する。

‐2008年までに、一般的に受け入れられたRTA/FTAの章についての包括的かつ質の高いモデル措置のプログラムを完成。また、交渉中のRTA/FTAの指針としての使用を促進するための方法の特定。

‐類似点・相違点に関する知識を拡充するため、APEC地域内で用いられている様々な種類の特恵的原産地規則の調査。

‐エコノミー間のRTA/FTAで使用されている原産地規則がいかに合理化されるかに関し、ビジネス部門との緊密な協力を追求。

‐地域内のRTA/FTAの主要な条項の更なる一貫性を達成するための方法を検討する対話の拡大。

‐投資協定に係る原則を策定するため、二国間投資協定及び既存の自由貿易協定の投資関連部分の主要規定の研究の実施。

‐貿易円滑化のためのモデル措置を改定し、一層の具体性や追加的な内容を盛り込む可能性の検討。

拡大した貿易及び投資アジェンダを通じたビジネス活動の促進

APECは、更なる貿易及び投資の自由化・円滑化を通じた地域成長と協力の促進を引き続き中心に置いている。これは、発足時からのAPECの中核的な目的であり、税関、基準、知的財産権、透明性、競争政策などの分野の作業も含んでいる。貿易障壁が徐々に取り除かれていく一方で、貿易及び投資に悪影響を与える煩雑もしくは一貫性のない規制の枠組みが、ビジネス活動及び競争力に対する顕著な障害として現れてきた。このため、APECは地域経済統合に貢献する貿易及び投資自由化イニシアティブに更なる焦点を当てるべきであるのみならず、貿易及び経済成長を妨げる国内障壁を是正する改革をも更に重要視すべきである。

APECエコノミーは、ここ数年、相当の投資自由化及び改革を実施してきた。APECは、地域における更なる投資改革にあたって重要な役割を果たすものである。メンバーエコノミーにおける投資環境の改善の鍵は、投資に対する規制障壁の影響を除去または削減するための自国自身の戦略にある。どこに障壁があるかを明らかにするだけでは不十分で、首尾一貫した方法でそれらを除去する方法を支援することが同様に重要である。これは共同での取組によっても可能(例:経験共有、組織的な実績評価)であり、メンバーエコノミーに改革による利益を十分に理解してもらうことによっても可能である。個々のメンバーエコノミーの改革努力にプラスになる、焦点を絞ったキャパシティ・ビルディングも推奨されるべきである。

合意された行動:

◆我々は、APECの貿易及び投資の自由化・円滑化アジェンダのうち、特に、APECエコノミーの投資環境及び競争力を向上させるような方法で、地域経済統合を加速化し国内障壁を削減する、以下を含む具体的なイニシアティブに対して改めて焦点を当てる。

‐APEC第2次貿易円滑化行動計画の実施による貿易取引費用の削減。とりわけ、基準・適合性、税関手続、電子商取引、ビジネス移動に関する共同行動への取組。特に、我々は以下に合意する。

●APECエコノミー内の窓口の単一化のために戦略的な方向性及び共通の理解を与えるための、税関窓口単一化イニシアティブの前進。

●データプライバシー規則の任意の越境システムの開発を通じた、APECプライバシー枠組の国際的実施の推進。

‐特許取得手続に関する地域全体の協力イニシアティブの立ち上げ。

‐低リスク荷主のための税関手続を容易にする通関イニシアティブの立ち上げ。

‐全てのメンバーエコノミーのAPECビジネストラベルカード(ABTC)計画への参加の追求。

‐環境物品及びサービス貿易に対する障壁の削減方法の探求。

‐APECメンバーエコノミーの経済及び貿易目標達成を支援する、他の国際機関との協力の推奨。

◆投資に対する主な障害を削減することにより、我々は断固としてAPECエコノミーとアジア太平洋地域の投資環境の更なる改善を行う。この観点で、我々は以下に同意する。

‐国境措置に関し実施済の作業を補完するため、投資の阻害に影響を持つ国内規制の特定。

‐APECにおける投資円滑化行動計画の策定。

‐投資環境改革を支援し、投資自由化・円滑化を促進する、適確なキャパシティ・ビルディング活動の最優先化。例えば、

●関連国際機関により開発された診断ツールの利用。

●APECメンバーエコノミーがいかに投資政策改革を実施し、その経験と教訓をメンバー間でいかに共有するかについての対話の拡大。

●必要に応じ、投資レベルの拡大の手段として、危機共有官民パートナーシップに関する作業の実施。

構造改革の支援

成長、投資、競争力に対する構造的障害を是正することは、地域に前向きな経済的追加効果をもたらす。適切な国内政策と適確な構造改革政策は、更なる生産性と国際競争力の達成に不可欠であり続ける。釜山ロードマップ及びハノイ行動計画は構造改革を前進させるための道を切り開く助けとなるものである。しかしながら、構造改革は、個々のエコノミーに特有であり、個別の行動に依存するものである。また、かかる改革は政治的に実施困難なものともなり得る。全てのエコノミーは、互いにベスト・プラクティスを学び共有することができる。APEC内では、個々の状況に合わせたキャパシティ・ビルディング・プログラムを通じて、互いに支援し合う余地がかなりある。

合意された行動:

◆我々は、構造改革に関するAPECの作業を強化し、それを支援するための資源と組織的能力を与える。この観点で、我々は以下を実施する。

‐構造改革に関する政策対話並びに改革プロセスを支える国内組織及び政策に関して、メンバーエコノミーを支援するためのAPEC事務局の能力の強化。

‐経済成長及び貿易の向上のために最も有望な、構造改革に関する首脳アジェンダ(LAISR)における5つのテーマ(競争政策、規制改革、経済及び法制度の強化、企業統治、公共部門管理)の下での改革イニシアティブの特定及び優先順位付け。

‐世界銀行の「ビジネス活動の簡易化」指標をベスト・プラクティスへの指針として利用することによる、民間部門開発アジェンダの下で実施中の作業の加速化。

‐閣僚レベルの構造改革問題に関する会議の招集による、本件課題へのハイレベルの指針の付与。

金融市場の強化

地域経済統合の推進に向けた、金融部門の問題に関するAPECの作業の再調整と再強化は、地域内の成長と改革の推進に大きな役割を果たす。有効に機能する金融部門は、市場と仲介者に貯蓄と融資条件を適合させ、市場規律を機能させ、またリスクを拡散させることから、投資促進のために必要である。規制と執行における調和と調整の欠如と相まった、いくつかのAPECエコノミーにおける金融部門の未発達は、地域における国内及び越境の投資に対する障害を生み出している。金融部門改革における優先事項には、法的及び規制枠組みの強化、特に、いくつかのエコノミーにおける所有権、債権者権及び破産制度のギャップの是正、情報開示及び企業統治要件における改善、並びに支払いシステムなどの物理的インフラの改善が含まれる。

合意された行動:

◆我々は、APEC地域内の金融市場の強化及び深化のための努力を強化する。この観点から、我々は以下を実施する。

‐多様でより深化した資本市場を確保するためのオプションの探求。

‐個々のメンバーエコノミーの状況に応じた形のキャパシティ・ビルディングと情報共有を通じた、金融市場の深化と発展に障壁をもたらす国内の構造的政策やシステムの是正。

‐金融システム及び資本市場の発展における更なる協力のためのオプションの検討、及びAPECエコノミーの金融機関に国際的基準を達成させるためのイニシアティブを含む、適切なキャパシティ・ビルディング及び情報共有イニシアティブの特定。

部門別課題と民間部門の取組

APECは、部門別の経済成長及び改革の推進の長い歴史を有している。例えば、エネルギー、鉱業、運輸などの分野では、新たに発生した及び継続中の問題を解決するため、定期的に分野別大臣会合を開催している。首脳が地域経済統合の推進に焦点を置いているとの観点から、この広範な使命をより効率的に達成するために、これら会合のアジェンダを再調整するべきである。ここ数年のAPECの作業は、地域の経済統合の鍵となる原動力であるビジネスコミュニティとの対話及び協力から恩恵を受けている。地域経済統合に関するAPECの作業が増大するにつれて、APECビジネス諮問委員会(ABAC)や他のビジネスコミュニティの代表と密接な関係を維持することが重要になろう。

合意された行動:

◆分野別大臣会合において、APEC地域における経済発展と統合を促進するイニシアティブに更なる焦点を当てるよう、我々はAPECに指示する。これは以下を含むものである。

‐運輸:より競争的な航空サービスのためのAPECにおける8つのオプション(航空会社の所有権及び規制、事業経営に関する問題、航空運送業、多様な航空目的地、関税、チャーター便、航空会社間の協力的措置、市場アクセス)の実施状況の検討、及びボゴール目標と合致した航空サービスの自由化のための更なる方法の特定。また、港湾の効率性の向上のための方策の特定、及び海上輸送における競争力の育成。

‐鉱業:鉱業の貿易及び投資への障害に関する2007年の研究で策定された提案の検討、及び2008年APEC閣僚会議までにAPECで実施可能な行動の提案。

‐環境:航空操業から生じる排出に対応するバランスのとれたアプローチの策定のためにICAOによって行われている作業の支援。

‐電気通信:アジア太平洋情報社会を実現するためのメカニズムの実施。

‐中小企業:零細及び中小企業の設立、成長、発展を促進するために適切な経済環境の促進、並びに世界貿易体制において、それら企業の競争力を増加させるための戦略の策定

‐エネルギー:新たなよりクリーンで効率的な燃料及び技術の採用に対する障壁、及び国内障壁を含む、エネルギーの貿易及び投資に対する障壁を特定する専門的研究の委託。特定された障壁を是正すべく、個々のエコノミーのニーズに沿った行動計画を策定するため、エネルギー、環境、金融及び貿易の高級専門家に民間部門の代表を加えた、APECエネルギー・投資・貿易円卓会議の開催。

◆我々は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)を含む、民間部門との対話と協力を強化する。

◆我々は、地域経済成長と統合を推進し、ビジネス環境を改善するAPEC官民部門対話を強化するための努力を強化する。

◆我々は、貿易及び投資を円滑化し、構造改革問題に取り組むことにより、APECビジネスコミュニティに利益となるような潜在性のある共同活動を特定するために、ABACと協働するよう事務方に指示する。

◆我々はまた、長期的に地域の経済成長と発展に影響を及ぼすことが予見される問題に関するAPECの新たな作業、及びそれらの地域経済統合への影響の検討を事務方に指示する。

キャパシティ・ビルディング拡大のための戦略的アプローチ

適確なキャパシティ・ビルディング活動が伴った場合は、地域経済統合の強化は、より良い結果を生み出すものである。この戦略的アプローチは、本報告書の具体的な提言の実施と、地域経済統合全般の推進に優先順位を置くべきである。これまでのセクションで示された多くの提言は、事実上キャパシティ・ビルディングそのものである。APECメンバーのキャパシティ・ビルディングへのニーズの特定にあたり、より焦点を絞った長期的アプローチを取ることは、地域経済統合の強化にあたり、より調整された努力と成果に貢献するであろう。

かかる統合の推進に関しAPECの効率性を高めるためには、特定されたキャパシティ・ビルディングのニーズに応じた、関連の専門知識と資金が提供される必要がある。

合意された行動:

◆我々は地域経済統合に関するAPECの作業を支援するキャパシティ・ビルディング活動を策定し、実施する。この観点から、我々は以下を実施する。

‐途上国が、多角的貿易体制に参加し、ひいては自らの開発目標を達成するのに役立つ貿易政策を、より良く利用するための能力を強化する、焦点を絞った貿易関連技術的支援とキャパシティ・ビルディングの提供。

‐APEC事務局の分析・評価能力を付与する機能の強化、及びAPECの貿易、投資、経済改革アジェンダの発展及び実施に関連するキャパシティ・ビルディングの調整を支援。これらは、新たな政策支援ユニット及び事務局専用の評価ユニットを通じて行われるものを含む。

‐地域経済統合に関する作業の延長を反映した、長期的に持続可能なキャパシティ・ビルディング・プロジェクトの策定及び実施。

‐地域経済統合の推進を含む、首脳宣言及び大臣声明における優先事項を反映したAPEC資源の配分の確保。

‐メンバーエコノミー及び他の関心団体によるAPECサポートファンドに対する出資の奨励。

‐メンバーエコノミーによる貿易及び投資の自由化・円滑化ファンド(TILF)への出資の奨励。

‐国際金融機関及び他の関連国際機関との連携の奨励。

 

別添

APEC地域における自由貿易協定

APEC内の自由貿易協定の発展のスタートは遅かった。1983年、豪州・NZ経済関係緊密化協定(ANZCERTA)が道を切り開いた。1992年のASEAN自由貿易地域(AFTA)及び1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)がこれに続いた。1990年代に他に締結された協定は、カナダ‐チリ間(1997年)及びメキシコ・チリ間(1999年)のものである。

発効した協定の数は、この十年で大幅に伸びた。2001年にニュージーランド‐シンガポール、続いて2002年に日本‐シンガポール、さらに翌年にはシンガポール‐豪州が成立した。また、2004年にチリ‐韓国、中国‐香港中国、米国‐チリ、米国‐シンガポールがリストに追加された。2005年に豪州‐米国、日本‐メキシコ、NZ‐タイ、タイ‐豪州が発効した。2006年に、更にチリ‐中国、日本‐マレーシア、韓国‐シンガポール、P‐4協定(ブルネイ‐チリ‐NZ‐シンガポール)の4つが、2007年に日本‐チリが続いた。

いくつかの協定が、両当事者国による批准を待っている。これらは、インドネシア‐日本、日本‐ブルネイ、日本‐フィリピン、日本‐タイ、韓国‐米国、米国‐ペルーである。23ページの地図1は、APEC地域におけるエコノミー間の連携が増加していることをはっきりと示している。

他の多くの二国間協定は、様々な交渉段階にある。更に、現在行われているいくつかの実現可能性調査から、各エコノミーはますます新たな連携を検討する準備があること、及び自由貿易協定に向けた潮流はまだしばらくは続くであろうことが示唆される。

多国間自由貿易協定

AFTA及びNAFTA(既存する最大の自由貿易協定)は、APEC地域における多国間自由貿易協定の早期の例である。両方のケースにおいて、当事者国は同じ地理的地域にあり、そのうちいくつかは国境を共有している。P‐4協定は異なっており、そのメンバーは太平洋両岸に位置している。また、この協定は、国際航空輸送サービスを対象とする唯一の協定でもある。

いくつかのAPECエコノミーは、今やより野心的な自由貿易地域の実現可能性の検討に着手している。その一つとしては、ASEAN+3自由貿易地域(ASEANメンバー+中国、日本、韓国)である。別のものとしては、ASEAN+6提案(ASEANメンバー+豪州、中国、インド、日本、韓国、NZ)である。24ページの地図2は、これら協定において見込まれる地理的範囲を示すものである。

{地図1、地図2、地図3は省略}