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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エネルギー安全保障に向けた低炭素化対策に関する福井宣言-持続可能なAPEC地域のためのエネルギー協力-

[場所] 福井市
[年月日] 2010年6月19日
[出典] 経済産業省
[備考] 仮訳
[全文]

APECエネルギー担当閣僚からのメッセージ

1. 我々、アジア太平洋経済協力(APEC)エコノミーのエネルギー担当閣僚は、2010年6月19日、「エネルギー安全保障に向けた低炭素化対策:持続可能なAPEC地域のためのエネルギー協力」という主題の下、日本の福井における第9回会合に参集した。ここで議論される協力政策は、APEC成長戦略にとっても不可欠なものとなる。

2. 地球環境と世界経済に関する懸念が表面化する中、我々は、地域のエネルギー安全保障の強化という困難な挑戦に取り組まなければならないという理解を共通し、会合を持った。より効率的なエネルギー使用とよりクリーンなエネルギーの供給が、エネルギー安全保障の促進、経済成長、及び排出削減を同時にもたらす。これら3つの目標を同時に達成するためには、強いリーダーシップが必要である。それゆえ、我々は、2001年にAPEC首脳により承認されたエネルギー・セキュリティ・イニシアティブ(ESI)をさらに強化し、それを基礎として新たな取組みを行うことを表明する。

3. APECエコノミーが、新規又は非在来型のエネルギー源の開発を行うとしても、化石燃料はAPEC地域において引き続き主要な役割を担い続ける。各エコノミーの法律、規制を十分に満足する、開放的かつ透明性の高い投資の仕組みが、新規及び従来型いずれのエネルギー開発にとっても重要である。

4. APECエコノミーは、必要に応じて、緊急時対応メカニズムの更なる開発、リアルタイム緊急時情報共有の促進、及び戦略石油備蓄の効果的管理体制の構築を適切に実施することを通じ、石油供給途絶に対処する能力を継続的に強化すべきである。

5. 天然ガスは、他の発電用化石燃料よりもCO2排出量が少なく、断続的な再生可能エネルギー源のより多くの利用を可能とするため、天然ガスの新規開発を契機とするその生産と貿易の強化は、低炭素経済への移行を容易なものにする。地域の自給率が高まることにより、非在来型天然ガス資源もエネルギー安全保障を強化する。それゆえ我々は、APECにおける天然ガスの生産と貿易を増加させるため、非在来型天然ガス資源の可能性評価を行う必要がある。

6. 省エネルギーの促進は、エネルギー安全保障、経済成長及び気候変動問題に同時に対処する上で、最も迅速、グリーンかつ費用効率が高い方法の一つである。より効率的な輸送、産業、建築物及び設備機器は、化石燃料の直接的な需要を低減するのみならず、引き続き大部分が天然ガスと石炭で発電されることとなる電気の需要を減らす。このように省エネルギー施策は、地域の石油・天然ガス輸入依存度と化石燃料の燃焼によるCO2排出を減少させる。

7. 我々は、これまでにAPECの4カ国・地域で成功裏に実施された省エネルギー・ピア・レビュー(PREE)を高く評価し、他のエコノミーによる更なる参加を奨励する。我々はまた、地域の省エネルギー関連活動を促進するために構築されたAPECサポート・ファンドに対する日本、チャイニーズ・タイペイ及び米国からの貢献を歓迎する。

8. APEC首脳により合意された、経済生産に対するエネルギー使用量の割合を2030年までに2005年比で少なくとも25%削減するという野心的なエネルギー効率化目標は、最近の傾向が継続すれば容易に達成されるものと見込まれる。それゆえ我々は、エネルギー・ワーキング・グループ(EWG)に対して、より野心的な目標を提案することを視野に入れつつ、エネルギー効率を更に向上させる可能性についての検討を強化することを指示する。

9. 建築物部門はAPEC地域のエネルギー使用量の5分の2を占めており、したがって、エネルギー効率の高い建物と製品は、持続的な未来への鍵となる。ネット・ゼロ・エネルギー・ビルは、エネルギー効率の高い機器、構成部品及びシステムを用いることで開発が進められている。エネルギー効率の高い製品の貿易及び投資は、標準と評価法の更なる整合化により促進することができる。それゆえ、我々は、そうした製品の標準・評価法に関する調査(CAST)を開始する。

10. 軽量材料やその他先進的な技術を用いた燃料効率の高い自動車は、石油消費とCO2排出の両者を大幅に削減することができる。電気自動車及びその他代替燃料自動車も、輸送用燃料を石油から他のエネルギー源に移行させる大きな可能性を持っている。

11. よりクリーンなエネルギー供給も、持続的な発展とエネルギー安全保障の両者を促進する。ゼロ・エミッション・エネルギー-再生可能エネルギー、原子力エネルギー及びCCS(二酸化炭素回収貯留)技術を伴った化石燃料発電-は、気候変動問題に対処するために縮小しなければならないというリスクを伴わずに、持続可能な方法で発電量を拡大させることを可能にするものであり、その普及を促進しなければならない。食料を原料としないバイオ燃料の利用は輸送部門における石油の輸入、及び利用割合の低減に寄与するとともに、CO2排出削減の観点からも有効である。我々は、必要不可欠なエネルギー・サービスを要する者にはこれを供与する必要性を認めつつも、無駄な消費を促すような化石燃料に対する補助金を中期的に合理化し、廃止するという2009年の首脳宣言に引き続きコミットする。

12. 再生可能エネルギー技術(発電のための太陽光・風力・地熱・バイオエネルギー、及び輸送用のバイオ燃料を含む)のコストは減少してきており、エネルギー供給源の多様化に貢献している。それゆえ我々は、こうした技術の発電、建築物及び運輸部門における活用を加速化させるため、更なるコストの削減、製品の標準化、供給源の開発、及びベスト・プラクティスの共有といった努力を継続することを奨励する。

13. エネルギー源の多様化とCO2排出削減のための原子力発電の活用が、関心を有するエコノミーにより行われており、その数は増えている。これらのエコノミーは、安全、セキュリティ及び不拡散に関する国際的約束を原子力エネルギーの平和利用の根幹として再確認している。それゆえ我々は、APEC地域における原子力発電によるCO2排出削減の可能性について評価を行う必要がある。堅固な財政的な枠組みに加え、エコノミー間及び関連する国際機関との協力により、このコミットメントに沿った新規の原子力発電所建設が促進される。

14. 未だその発電量のかなりの部分を石炭やその他化石燃料に依存する多くのAPECエコノミーにとって、発電設備から排出されるCO2を削減するためには、CCSに関する費用対効果の高い技術が不可欠である。クリーン・コール技術は、石炭のより効率的かつ低排出な使用のために既に適用可能である。それゆえ我々は、国際的フォーラムを通じてこうした技術を開発し、普及させ、またそれに関する情報を共有するための一層の努力を奨励する。

15. スマートグリッド技術(高効率かつ費用対効果の高いエネルギー貯蔵のための先進的電池技術を含む)は、断続的な再生可能電源と建築物の制御システムを統合し、産業界や消費者がより効率的にエネルギーを使用することを可能にするとともに、電力供給の安定化促進、電源システムの耐用年数延長、システム運用コストの削減も可能とする。

16. 低炭素技術を都市計画に導入し、エネルギー効率を改善し、化石エネルギーの使用を削減することは、都市部における急速なエネルギー消費の増大に対処するために必要不可欠である。それゆえ我々は、APEC低炭素モデル都市プロジェクトに着手し、先進的な低炭素技術の協調的利用の成功事例を提示することとした。

17. APEC地域全体のエネルギー安全保障を強化し、クリーンエネルギー技術の普及を加速化するためには、他の国際的フォーラムや地域内の産業界の経験や投資は必要不可欠であり、我々はそれらとの一層の協力を奨励する。

18. 我々は、2011年に米国でエネルギー及び運輸を担当する上級官僚による初の合同会合が開催されることに期待する。我々はまた、2012年にロシアで開催予定であるエネルギー大臣会合に期待する。

APECエネルギー担当閣僚からの指示

1. 我々は、エネルギー・ワーキング・グループ(EWG)に対し、アジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)、クリーン化石エネルギー専門家会合(EGCFE)、エネルギーデータ分析専門家会合(EGEDA)、エネルギー効率・省エネルギー専門家会合(EGEEC)、新エネルギー・再生可能エネルギー専門家会合(EGNRET)、バイオ燃料タスクフォース(BTF)、及びエネルギー貿易投資タスクフォース (ETITF)からの支援を得て、作業計画に基づく調査・研究やイニシアティブを実施することを指示する。我々は、EWG及びその付属組織に対し、APEC成長戦略の持続可能な発展という柱を策定し、実施するための重要な貢献を継続することを指示する。

2. 我々は、EWGとメンバーエコノミーが、2009年12月の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP-15)において留意されたコペンハーゲン合意の実施に貢献するとともに、官民協力を通じて技術普及を促進することを奨励する。

エネルギー安全保障

3. 我々は、EWGに対し、IEAとの合同プログラム(例えばエネルギー対応ワークショップ及び訓練)を策定することによってAPEC地域における石油・天然ガスの緊急時への対応を向上させることを指示し、また我々は、こうした活動に参加するというAPECメンバーエコノミーの決意を歓迎する。

4. 我々は、EWGに対し、APERC、EGCFE、及びEGEDAからの支援も得つつ、非在来型資源の可能性を評価するために非在来型天然ガス調査を実施し、APEC地域における天然ガス生産を増加させ、天然ガス貿易を促進し、そしてAPEC域内の生産者及び消費者の双方にとって適切な天然ガス価格への安定化を可能とする協調的方策について提案することを指示する。

5. 我々は、EWGとBTFに対し、自動車ダイアログ(AD)、TWGと連携し、石油代替資源としてのバイオ燃料の可能性、相対的コスト、持続可能な開発事例、及び関連設備の拡大に向けた戦略について検討を継続することを指示する。

6. 我々は、EWGとEGEDAに対し、完全、正確、かつ適時な石油・天然ガスデータの収集を継続し、必要に応じて他の関連する組織と協力しつつ、石油データ共同イニシアティブ(JODI)に貢献すること、関心を有するエコノミーを対象としたエネルギー統計に関する能力構築を拡大すること、及びより透明性が高く流動性の低いエネルギー商品市場のための国際的イニシアティブを支援することを指示する。我々はまた、EWGに対し、IEAと協働し、浪費的な消費を促進する既存の非効率的な化石燃料補助金の合理化・段階的廃止を視野に置きつつ、その分析を行うことを指示する。

7. 我々は、EWGに対し、エネルギー貿易投資タスクフォースの行動計画を進展させ、とりわけEGEECからの助力を得つつ、エネルギー部門におけるEGSに係るEWGの専門性の観点から、APEC環境物品サービス(EGS)作業計画を支援することを指示する。我々はまた、EWGに対し、貿易投資委員会(CTI)と協力しつつ、「グリーン環境製品市場の発展を促進するためのキャパシティ・ビルディング・イニシアティブ」を策定することを指示する。

省エネルギー

8. 我々は、EWGに対し、APERC、EGEDA、及びEGEECからの助力も得つつ、2005年から2030年の間のAPECエコノミーにおける経済生産に対するエネルギー効率を、APEC首脳により既に合意された25%という野心的な目標以上に削減する可能性について評価・検討することを指示する。

9. 我々は、EWGとAPERCに対し、省エネピアレビュー(PREE)及び持続可能性のためのエネルギー効率化デザイン協力(CEEDS)を通じた省エネルギーの推進を続けること、及びキャパシティ・ビルディング活動や政策調査支援、並びにこれらの活動による推奨事項のメンバーエコノミーによる実施努力の成功例を評価する仕組みを含むフォローアップのための取組みについて検討することを指示する。

10. 我々は、EWGとEGEECに対し、APECエネルギー標準情報システム(ESIS)を強化するとともに、主要経済国フォーラム(MEF)の再生可能エネルギー・省エネルギー普及イニシアティブ(Climate REDI)とも協力しつつ、CEEDSによって明らかにされたエネルギー消費の多い機器を対象とした一連の標準・評価法に関する調査(CAST)を実施することを指示する。

11. 我々は、EWGに対し、TWGとも協力しつつ、運輸部門の電化、省エネ輸送、公共交通機関を中心とした発展、及びその他省エネ輸送戦略により達成される燃料とCO2の節約可能性に関する一連のワークショップを開催することを指示する。

クリーンエネルギー供給

12. 我々は、EWGに対し、各エコノミーがAPERC及び関連する技術専門家グループからの助力も得て、PREEの成功を基礎としつつ、ゼロ・エミッション・エネルギーを導入するための個別目標と行動計画を策定することを慫慂する仕組みを模索することを指示する。

13. 我々は、EWGに対し、EGCFEやその他の国際的フォーラムとも協働しつつ、CCSに関する技術オプションの分析の強化と拡大、及びこれらの技術を新規又は既存の発電所に対して適用するためのベストプラクティスの普及を指示する。我々はまた、EWGとEGCFEに対し、石炭火力発電所のより一層の効率化を図るため、超々臨界圧(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)といった先端的クリーン・コール技術普及イニシアティブを策定することを指示する。

14. 我々は、EWGに対し、EGNRET及び中小企業(SME)ワーキンググループとも協力しつつ、CO2排出を削減し、投資を加速し、そして新たな職を創造するための再生可能エネルギーの選択肢の評価を引き続き行うことを指示する。

15. 我々は、EWGに対し、CO2排出を削減するため、関心のあるAPECエコノミーにおける既存もしくは計画中の原子力発電所における削減可能性についての原子力発電排出削減可能性研究(NUPERPS)を実施することを指示する。また我々は、EWGに対し、アジア原子力安全ネットワーク(ANSN)を含む国際原子力機関(IAEA)といった他の関連する機関との協力可能性について検討することを指示する。

16. 我々は、EWGに対し、建築物と産業における断続的再生可能エネルギーとエネルギー管理の統合を支援するスマートグリッドの可能性を評価するためのAPECスマートグリッドイニシアティブ(ASGI)を開始することを指示する。

17. 我々は、EWGに対し、IEA、主要経済国フォーラム(MEF)、及びエネルギー技術普及のための一連の取組みを加速させるその他の機関と協力し、鍵となるエネルギー技術のAPEC技術開発ロードマップの策定を指示する。

18. 我々は、EWGに対し、タスクフォースを立ち上げ、APEC低炭素モデル都市プロジェクトを実施することを指示する。低炭素モデル都市タスクフォースは、低炭素都市の概念を策定し、都市発計画における低炭素コミュニティの形成を促進するための実現可能性(F/S)調査を実施し、更にそうしたコミュニティを実現させるためのベストプラクティスを共有する。