データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 災害への強靱性に関するAPECハイレベル政策対話

[場所] ホノルル
[年月日] 2011年11月11日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 我々,APEC閣僚及び高級実務者並びに民間部門の代表は,ヒラリー・ロダム・クリントン米国務長官議長の下,災害への強靱性に関するハイレベル政策対話のためにハワイ・ホノルルに参集した。

 3月11日に日本を襲った地震及び津波並びに余震,域内での他の洪水,山火事,台風及び竜巻,タイを襲った先般の洪水などは全て,我々に,アジア太平洋地域が自然災害の影響を受けやすいことを想起させる。これらはまた,災害リスクを軽減し我々の地域社会の災害への強靭性を強化することの重要性を浮き彫りにする。APECは,産業界との強いネットワークを通じて,災害への備え及び強靭性に関する努力へより広く民間部門の参加を促すことに強みを有する。これらの課題と強みに留意し,兵庫行動枠組,APEC貿易再開ガイドラインのコミットメントを念頭に,我々は,以下の目標を採択し,実施することを実務者に求めた。

【企業の備えに資する手段の提供】

・企業が自らの備えを評価する手助けをするために,民間部門の災害予防に関する自主的基準を導入し,直面するリスクを防止し,軽減していくインセンティブを提供する。

・官民の投資を促し,また,その実施における質及び継続性を高めるために,エコノミー全体及び地域レベルで,災害リスク削減の効果を測定するための基準や指標を導入する。

・法的な,市場に基づいた,社会的な方策を含む適切な方法により,特に中小企業による,事業継続計画(BCP)の導入を促進・円滑化する。

・災害対応,復旧,リスクの移転に資する金融手段を促進する。

【災害時の物品及びサービスの移動の円滑化】

・災害後の物品及びサービス提供における,サプライチェーン及び関連インフラの重要性を認識する。

・自然災害に対応するための,物流及びサプライチェーンの動きに影響する税関手続きの円滑化,関税及び非関税障壁の削減のため(国内規制やライセンス問題を含む),APECのフォーラムを通じて作業を行う。

・受入政府が国際社会からの人道関連援助を要請する際の,税関手続き及び関税の免除の活用について,既存のガイドラインやベストプラクティスを考慮しつつ探求する。

・ニーズに合わない援助が災害対応に与える混乱を最小限にするため,効果的かつ適切な援助のベストプラクティスについて市民,企業及び政府指導者を啓発する。

・民間部門の資源および能力を把握するための仕組みを開発する。

【地域社会に基づいたアプローチの促進】

・地域社会こそが,市民社会,民間部門及び地方政府の関係者から参加や貢献を求めることのできる,災害への初動主体であると認識する。

・災害リスク削減(DRR)のプロセス及び政策の策定において,地域社会のグループ及び指導者の早期かつ頻繁な関与を推進し,地域社会の災害への強靭性を高める実務的な措置を特定するために地域社会を支援する。

・地域社会に根ざし,性別に基づく災害リスク削減アプローチを考慮し,伝統的,地域的,科学的な知見を組み込みつつ,あらゆるレベルの意思決定のための技術支援,ベストプラクティスの研究,イノベーションや訓練を奨励する。

・既存の地域社会グループを通じて,災害リスクおよびリスク削減に関する地域社会中心の教育を促進する。

・初期災害の技術的監視及び地域社会レベルへの時宜を得た早期警戒情報の伝達を通じた早期警戒支援を提供し,津波のような急速に進行する脅威を評価するエコノミー内における早期警戒能力を構築する。・地方ガバナンス及び経済全体の政策関与を通じて地域社会中心の災害リスク削減活動のための良好な環境整備を奨励する。

【調査及び教育の支援】

・情報交換網の拡充,予測技術及び訓練の改善,信頼できる情報伝達のための戦略を通じて,早期警戒制度を維持改善することにより,災害への強靭性を増強する。

・災害に対する地域社会の脆弱性を減少させることへの訓練,教育及びアウトリーチの関係を重視する。

・意思決定主体への情報伝達において,科学関係・技術関係の組織を積極的にまきこみ,支援する。

・次世代の災害危機管理者を育てるための管理者教育の改善のための取組,並びに学際的調査及びその結果生み出された方策を試していくための基礎づくりのための取組を支援する。

・地震及び津波の脅威に対して学校の安全を確保するためのAPECの取組を認識する。そして,

・小学校から,学校のカリキュラムに,自然災害への備えを含めることを啓発する。

【官民連携の促進】

官民連携は,民間部門が経済の重要なインフラの大部分を所有し運営していること,災害への強靭性のある建築技術,持続可能な都市開発,エネルギー安全及び重要なリソースの保全に関し,経験と知識を有することから不可欠である。民間部門を我々の緊急事態対応の取組に更に実質的に関与させていく必要性を認識し,APECエコノミーは,そのエコノミー内での官民連携を発展させ,その進捗状況を来年報告する。この連携を発展させていくに当たっては,APECエコノミーは以下の幅広い原則に従っていく。

1.企業及び地域社会の強靭性を支援する官民連携の発展及び強化にあたっての「社会全体アプローチ」を採用する。これには,あらゆるレベルの政府,非政府及び民間部門の関与が含まれる。

2.官民連携プログラムを通じて,災害への強靭性のある企業及び地域社会の支援における女性がより大きな役割を果たすことを奨励する。

3.情報共有,ベストプラクティスの活用及び経験からの学習を通じて官民連携を強化する。

4.既存の計画及び資源を活用し,また,長期にわたる官民協力を維持し,取組の重複を避けるために災害時に展開する連携を強化する。

5.共通の責任及び資源に基づき相互に合意して役割や任務連携を確立する。

6.災害への強靭性のある企業及び地域社会を構築するために,柔軟かつ革新的な方法で共に活動することへ開かれた官民連携を醸成する。