[文書名] 2012年APEC閣僚会合共同声明 附属書A:RTA/FTAの透明性に関するAPECモデル章
本APECモデル章は,透明性基準の分野におけるRTA/FTAのためのベスト・プラクティスを構築することを目指している。本モデル章はアジア太平洋地域における質の高いかつ包括的な自由貿易協定の促進及びボゴール目標の実現に対するAPECの貢献である。それらはそのような協定のデザイン及 び内容に対する一貫しかつ一致したアプローチを奨励することを意図されている。
本モデル章のテキストは,APECメンバー・エコノミーの既存のFTA章,GATT第10条及びGATS第3条の結合に基づいている。それはWTO規則を透明性規定のための最小限の基準として確立し,それにAPECメンバーの慣行を反映する特定の標準的要素を加えている。
本モデル章の規定は非拘束的協定に関するAPECの一般原則を反映している。それらは義務的でも網羅的でもなく,また,それらはエコノミーがここにおける全ての要素を彼らのRTA/FTAの全てに含めることを示唆するものでもないそれらは協定に用いることが義務づけられている法的言語で書かれてはいない。これらの規定は,メンバーにRTA/FTAを交渉する際の有用な参照を提供するための示唆的例示である。それらは自由貿易協定に含まれうる種の規定に対する指針である。それらはいかなる現在又は将来の貿易交渉におけるAPECメンバーの立場を予断しない。
本章に関連する一般的考慮
-自由貿易協定における透明性章の目的は,政策決定過程における透明性及び適正手続を促進すること並びに,特に,各協定締約国にFTAの下で生じる問題に関するコミュニケーションを促進するための連絡部局を指定することを通じて情報の管理及び交換を容易にすることである。
-これらの要素は,個々の章における他のより具体的規定によって補われ,又は規定されうる。
-本章に含まれる規定は,協定の他の部分に規定される可能性があり,抵触の限りにおいてこれらのより一般的な規定に優先するであろう分野特有の義務の確立を妨げ又は予断することを意図されない。他の規定(例えば,一般的又は章に特有の除外)が本章の具体的規定に適用されうることに鑑み,本章は,一般的又は制度的な性質の他の章と同様に,協定全体に照らして読まれなくてはならない。
第1条:定義
本条は,別段の定めがある場合を除く他,本章のテキストを通じて使用されるであろう「一般に適用される措置」との用語を定義することによって本章の適用範囲を規定することを意図されている。「一般に適用される措置」という用語の特有の定義のより深い明確化にとって,そのような定義を特別にモデル透明章に含めることは,章を通じて用いられるこの特有の用語の意味を強調するために必要であるように思われる。
「一般に適用される措置」には,WTO協定の関連条文(特にGATT第 10 条,GATS第 3 条及び第 28 条)に規定されているように,一般に適用される司法上の決定が含まれる。一般に適用されず,紛争の特定の当事者の関係を規律する司法上の決定,例えば,手続の非当事者に直接の影響を及ぼさない決定を含めることは意図していない。
本章の適用上,
「一般に適用される措置」とは,法令,規則,決定,この規定の対象となる事項に関連を有し又は影響を及ぼす一般に適用される司法上の決定及び行政上の決定を意味する。司法的決定は,それぞれの司法手続に関与しない人に直接の影響を及ぼさないならば,一般に適用されず,この定義の対象とならない。
「利害関係者」とは,他方の締約国の人であって,一般に適用される措置又は本章の適用対象となる行政規則若しくは手続によって直接の影響を受ける者を意味する。
第 2 条:一般に適用される措置の公表
この条項は,FTA締約国の一般に適用される措置の公表のためのWTOの基準を反映することを意図されている。司法制度及び司法上の決定が行われるための手続の具体性のために,2の規定が司法的決定を対象とすることは実施可能とは考えられない。多くの法制度において,そのような決定はいかなる事前 の公表もせずに行われ,それらは発表の日において発効する。
国際協定の場合には,そのような慣行はすでに一定程度WTO協定(特に, GATT第 10 条,GATS第 3 条及び第 28 条)によって要求されている。
この条項は,国内措置の通報及び公示に関するWTOのいかなる義務も損なうことを意図されていない。
1 各締約国は,遅くとも措置が発効するときには,他の締約国及びその利害関係者が知ることのできるような方法により,一般に適用される措置を速やかに公表し,又は公に利用可能なものとする。本協定の対象である事項に関連を有し又は影響を及ぼす協定であって締約国が参加するものも,最初に言及のあった協定の締約国の相互の合意を条件として,公表する。
2 実行可能な範囲で,締約国は一般に適用される措置の公表の日とその発効との間に合理的な期間を提供する。緊急事態における場合を除いて,締約国は一般に適用される措置を,そのような措置が正式に公表される前に執行しない。
この規定は締約国に対し一般に適用される司法上の決定の事前の公表を,それが当該締約国の国内法及び手続に反する場合には,要求しない。
3 実行可能な限りにおいて,締約国は公表の際に,採択された措置の目的及び根拠に関する説明を含める。
第 3 条:公の協議
本条は,一般に適用される措置案の事前の公表に関連する規則を確立し,また,そのような措置に対してコメントする機会を利害関係者に与えることを意図している。提出されたコメントに措置を合致させるという要件は存在しないものの,本条はなお,公布のためのプロセスに関して,利害関係者のために一定程度の予見可能性を確立する。しかしながら,本条のコミットメントは無限 定ではなく,それらは締約国が特定の緊急事態において事前の公表なく措置を導入することを可能にする 4 の規定によって均衡されている。
上記の理由によって,司法上の決定は本条の規則から免除されている。
1 可能な範囲で,各締約国は,一般に適用される措置の案を採択に先立って公表し,他の締約国及びその利害関係者が措置案の発展に責任を有する当局にコメントをするための通常 30 日を下回らない合理的な期間を提供するよう努める。
2 本条2の規定の下での協議のための期間に受理したコメントは,措置案の発展に責任を有する当局によって考慮される。
3 本条は締約国に対して,国内法に反する場合には,コメント又は他の締約国若しくはその利害関係者の一般に適用される司法上の決定に関する見解を考慮するための事前の公表を確保することを要求するものではない。
4 各締約国は,本条1の規定に言及される公表を確保する。ただし,特に,エコノミーの(国内)安全保障に関わる緊急事態,金融及び財政政策に関する特定の措置,又はその開示が法令の実施を妨げ,その他公共の利益・公衆の健康に反することとなり,若しくは公私の特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなる措置に関してはこの限りではない。
5 実行可能な限りにおいて,締約国は公表の際に,措置案の目的及び根拠に関する説明を含める。
第 4 条:公表手段
本条は,対象とされる措置がどこで公表されるかについて,示唆を提供する。
本章の第2条及び第3条に含まれる提案された最終的な措置を公表する義務は,物的であろうと電子的であろうと,公に流通する公的雑誌における公表によって満たされ,締約国は,公式のウェブサイトを含む追加的アウトレットを通じて,それらの普及を奨励するべきである。
第 5 条:秘密情報の開示
本条は,WTO協定(特に,GATT第10条,GATS第3条の2)を繰り返し,秘密情報の特別の取扱いを規定することを意図されている。
本章のいかなる規定も,締約国に対して,法令の実施を妨げる等公共の利益に反し又は公私の特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなるような情報の開示を要求するものではない。
第 6 条:連絡部局
本条は連絡部局に関する基本的な規則を規定する。
1 各締約国は,他の締約国に対し,他の締約国及びその利害関係者に援助を提供するものを含め,本協定にしたがい設立又は維持される連絡部局の詳細を提供する。
2 関連連絡部局は,締約国又はその利害関係者の要求に応じて,公表された一般に適用される措置のコピーを適時に見つけ,入手する際に支援する。それらの措置は,有効期間中及び失効した後の合理的な期間,利害関係者に利用可能なものとする。
3 締約国は,相互に,それぞれの連絡部局への連絡の仕方に関するいかなる変更についても速やかに通報する。
4 各締約国は,通報及び情報提供の条に言及されるいかなる照会も含め,連絡部局が本協定の対象とされる事項に関する応答を調整しかつ円滑にすることができるよう確保する。
第 7 条:通報及び情報提供
本条は,締約国による回答に関する追加的なコミットメントを確立することを 目的とし,回答するための合理的期間は 30 日とすると規定する指針を含む。このことは,締約国がそれよりも短い期間内で回答することを妨げるものではなく,また,状況又は問題となっている事項により必要と認められる場合には,それを延長することを妨げるものでもない。
1. 締約国は,この協定の実施の対象となる事項に関し,合理的な期間内に,他の締約国の書面による照会に応じる。照会は,この協定又は適当な場合には他の制度に基づいて設置される照会所又は連絡部局を通じて行うことができる。
2. 本条 1 に規定する合理的期間は,原則として,書面による要請の受領日の後 30 日を超えないものとする。
3. この協定に基づく通報,情報又は回答は,その措置がこの協定に適合しているか否かについて影響を及ぼすものではない。
第 8 条:行政上の手続
本条は,行政上の行為の速やかな審査及び是正に必要な条件を定める。
1. 一貫性のある,公平な,かつ合理的な態様で,一般に適用される措置を運用 することを目的として,各締約国は,自国の行政上の手続において,次のことを確保する。
a. 可能な限り,手続により直接影響を受ける他の締約国の者は,当該手続の性格,当該手続が開始される法的根拠,及び関連する問題の概要の記載を含む,手続が開始されるとき,自国の法令に規定する手続に従って,合理的な通知を与えられる。
b. 手続により直接影響を受ける他の締約国の者は,時間的,手続の性格上,また,公共の利益が許容するときは,最終的な行政上の行為の前に,その立場を支持する事実及び主張を提示するために合理的な機会を与えられる。
c. 当該手続は,国内法に従う。
第 9 条:審査及び上訴
本条は,関連する WTO 基準(特に GATT 第 10 条,GATS 第 6 条)に基づく。本条 第 1 項第二文及び第三文は,裁判所の独立性及び手続の独立性という2つの異なる状況を対象とすることを目的とするということに留意すべきである。サービスの規制の複雑性及び特定性のため,GATS 第 6 条の各規定を再確認することは重要であると認められる。
1. 各締約国は,この協定の迅速な見直し,また,正当な理由がある場合にはこの協定の対象となる事項に関する行政上の行動の修正のために,司法裁判所,仲裁裁判所又は行政裁判所,又はそれらの訴訟手続を設定し,又は維持する。これらの裁判所は,公平で,かつ,行政上の実施に責任を有する機関又は当局から独立しているものとし,また,事案の結果について実質的な利害関係を有し ていてはならない。締約国は,訴訟手続が当該行政上の決定について責任を有する当局から独立したものではない場合には,当該締約国は,訴訟手続が客観的かつ公平な審査を実際に認めるものであることを確保する。
2. 各締約国は,これら裁判所又は手続において,当該手続の当事者に対し,次のことを確保する。
a.それぞれの立場の主張を行うための合理的な機会が与えられること。
b.証拠に基づく決定が行われること。
3. 国内法によって定められる上訴又は更なる審査の手続に従うことを条件として,各締約国は,当該決定が,問題となっている行政上の行為に関し,機関又は当局により実施され,その慣行を規律するということを確保する。
第 10 条:特別規定
本条は,本章と,SPS や TBT のように協力の具体的分野における透明性の基準を 含む他の章の規定との抵触を防止することを目的とする。
この章の規定の適用を受ける問題に関して,本章と他の章の特別規定とが抵触する場合には,当該特別規定が優先する。