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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 附属書A 「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現に向けたAPEC の貢献のための北京ロードマップ」

[場所] 北京、中国
[年月日] 2014年11月11日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 APECエコノミーは,過去25年にわたり,自由で開かれた貿易及び投資の追求の中で大きな進歩を遂げた。地域経済の成長及び協力の円滑化におけるAPECの役割は,より大きな共通の繁栄と安定を実現するための取組のなかで不可欠であり,世界経済の成長のエンジンとしてのこの地域の評価にも大きく貢献した。世界経済情勢の進展に伴い,グローバル・サプライチェーン及びバリューチェーンが現れ,企業は分散され,かつより効率的な物品及びサービスの生産,並びに投資家や輸出業者の世界規模のネットワークを利用するようになった。

 アジア太平洋地域における経済統合への取組は,極めて重要な段階に入り、今や機会と課題の両方に直面している。地域貿易協定及び自由貿易協定の拡散は,WTOに具体化されている多角的貿易体制を補完する自由化への有利な機運を生み出した。一方で,地域経済統合やビジネスに対し複雑な新たな課題を引き起こす「スパゲティボウル現象」をももたらした。

 APECエコノミーは,アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の長期的展望について検討することを2006年に合意した。APEC首脳は,「FTAAPへの道筋」を2010年に発表し,APECの地域経済統合の課題を進展させるための主要な手段であるFTAAPの実現に向けた具体的な措置をとるようにAPECに指示した。これは,中でもASEANプラス3,ASEANプラス6,及び環太平洋パートナーシップ(TPP)といった現在進行している地域的な取組を基礎として更に発展させることにより,包括的な自由貿易協定として追求されるべきである。この点において,APECは,FTAAPの育ての親(インキュベーター)として,重要で意義のある貢献を行うことを期待されている。地域経済統合の発展のプロセスにおいて,リーダーシップと知的インプットを提供することにより,APECは,FTAAPのビジョンを前進させる力強い役割を果たすことができる。

 APECは,過去数年にわたり,FTAAPの展望に関連する幅広い分野の課題について議論し,FTAAPに関連する分析作業を実施し,多くの次世代型の貿易及び投資の問題に取り組み,分野別イニシアティブを取り入れた。また,APECは,自由貿易協定交渉の特定のトピックへの参加するエコノミーを支援するための能力開発プログラムを実行し,高級実務者会合においてこの地域の自由貿易協定及び地域貿易協定の交渉の状況について情報交換を行い,FTAAPの最終的な実現への貢献しうるその他の作業を主導した。

 我々は,今日,世界経済の進化における極めて重要な局面に到達し,APECエコノミーは,FTAAPのビジョンを具的なステップに転換することに貢献し,FTAAPの最終的な実現に向けた包括的かつ体系的なプロセスを開始及び進展させることにコミットしている。「FTAAPの実現に向けたAPECの貢献のための北京ロードマップ」の策定は,更なる地域経済統合への重要かつ具体的な措置を提供する。

 この点を踏まえ,我々,APEC首脳は,下記の共通の見解を共有する。

・ルールに基づいた多角的貿易体制はAPECの重要な理念であり続ける。FTAAPは,多角的貿易体制を支持し,補完することを基礎に追求されるべきである。

・FTAAPは,狭義の自由化を達成する以上のことをなすべきであり,包括的で質が高いものであるとともに,「次世代型」の貿易及び投資の問題を組み込み,対処すべきである。

・2020年までのボゴール目標の達成は,APECの中核的目的であり続けるとともに,ボゴール目標に向けた進展は,FTAAPの最終的な実現に向けたAPECの貢献を実質的に促進し,またそれを決定する手助けとなるであろう。この作業はボゴール目標に取って代わるものではなく,貿易及び投資の自由化に向けた進展を統合し加速させる重要な推進力となるであろう。

・FTAAPは,APECのプロセスと並行して,APEC枠外で実現されるであろう。APECは,FTAAPの実現への貢献において,APECの非拘束性及び自主的な協力の原則を維持すべきである。APECは,更なる一方的な貿易及び投資の自由化及び改革を促進し,FTAAPの育ての親(インキュベーター)としての役割を引き続き果たし,その実現のためのリーダーシップと知的インプットを提供するだろう。

・FTAAPは,地域貿易協定及び自由貿易協定の拡散によってもたらされるあ

らゆる悪影響を最小化することを目指すべきであり,現在存在するまたは発展段階の地域的アーキテクチャーに基づいて構築されることを追求される。TPP及びRCEPを含むFTAAPへのあり得る道筋をまとめるためのさらなる取組が求められるべきである。

・APECは,現在進行しているFTAAPの実現のための地域的な取組及び準備に参加しているAPECエコノミーを支援するため,構造改革,人的資源,中小企業の発展及び統合を含む分野で,発展途上国を支援する効果的な経済・技術協力活動の提供を続けるべきである。

 上記を念頭に置いて,我々は,FTAAPの潜在的なビルディング・ブロックとして考慮されるイニシアティブの結論を追求しつつ,下記の行動を実行することに合意する。

・現在の研究及び過去の作業を基礎とし,それをアップデートし,潜在的な経済・社会的利益及びコストの分析を提供し,この地域で発効している地域貿易協定及び自由貿易協定の現状評価を行い,FTAAPへの様々な道筋について分析し,「スパゲティボウル現象」のエコノミーへの効果について評価し,貿易及び投資の障壁を特定し,FTAAPの実現に際しエコノミーが直面するであろう課題を特定し,並びに研究結果に基づくあらゆる提案を考慮することによって,FTAAPの実現に関連する問題についての戦略的共同研究を始める。メンバーエコノミーが主導する地域経済統合の強化及びFTAAPの進展のための貿易・投資委員会(CTI)議長の友は,この研究を実施するタスクフォースを組織及び指導し、関心あるAPECエコノミー、APECポリシー・サポート・ユニット,ビジネス諮問委員会(ABAC),太平洋経済協力会議(PECC),及びAPECスタディーセンターからの貢献を追求する。本研究を実施する一方で,ボゴール目標の第2期報告との結びつきを強化する。貿易・投資委員及び高級実務者会合は,毎年進展をレビューし,コンセンサスに基づくあらゆる提案を含む報告書を完成させ,2016年末までに閣僚及び首脳に提出する。

・地域貿易協定及び自由貿易協定に関するAPEC情報共有メカニズムの下での取組を推進することによって,既存の及び最近締結した地域貿易協定及び自由貿易協定の透明性を高める。これは,FTAAP実現に関する協力を支援し,エコノミーが本メカニズムの下での政策対話や他の情報共有活動を実施することを奨励する。既存の地域貿易協定及び自由貿易協定の透明性を向上させ,我々エコノミー間でのあり得べき道筋に対する理解をより良くすることは,ステークホルダーへの支持を構築し,真に有益なFTAAPの最終的な実現を導くことに貢献する。このメカニズムは,地域貿易協定のためのWTO透明性メカニズムを補完する。エコノミーは,WTO透明性メカニズムへの最大限可能な参加を継続する。CTIは,隔年で本メカニズムの有効性をレビューし,その結果を貿易担当大臣会合(MRT),閣僚会合(AMM),首脳会合(AELM)に提出する。

・第二次キャパシティ・ビルディング・ニーズ・イニシアティブ(CBNI)の行動計画の枠組みの下で,FTAAP追求のための能力構築活動を継続する。我々は,2012-2014年の第一次CBNIの成功裏の実施を高く評価し,より多くのエコノミーがリード・エコノミーとして特定の分野での能力構築プログラムを計画,実施することを奨励する。第二次CBNIの下で実施される能力構築プログラムの成果は,エコノミーが進行中の地域的取組に参加し,FTAAPを実現させる能力を構築することを目的として,定期的にレビューされる。

・「国境における(at the border)」貿易自由化及び円滑化への努力を加速化し,「国内の(behind the border)」ビジネス環境を改善し,「国境を越えた(acrossthe border)」地域の連結性を強化する。これは,投資,サービス,電子商取引,原産地規則,グローバル・バリューチェーン,サプライチェーン連結性,税関協力,環境物品サービス,良い規制慣行やFTAAPが包含すべき次世代貿易投資課題等の分野におけるイニシアティブを推進することを含む。メンバーエコノミーがFTAAP実現への貢献を継続するに際して,このようなイニシアティブから効果的に裨益することを確保するために,APECは,これらの分野における協力を支援,促進することを継続する。

・ABACや他の直接的な方法を通して,ビジネスセクターの関与を強化する。我々は,地域経済成長の推進,統合やビジネス環境改善に関するAPEC官民セクターの対話強化のための努力を強める。長期的な地域経済成長や発展への影響が見込まれる問題へのABACのインプットは,FTAAP実現に向けた取組推進に活用される。

 我々は,ステップ・バイ・ステップで,コンセンサスに基づいたアプローチでFTAAPを追求し,現在進行している地域的な取組を基礎として,できるだけ早期にFTAAPを最終的に実現させることへのコミットを再確認する。FTAAPの実現はは{前2文字ママ},アジア太平洋地域において,持続可能な成長と全体的な繁栄に大きく貢献するものである。我々は,本ロードマップを通じた取組を含め,地域経済統合の支持と世界の貿易及び投資の増加に,確固たる思いである。我々は,強いアジア太平洋パートナーシップを通じたこの地域の未来の形成へのAPECのリーダーシップとコミットメントを示す決意である。

(了)