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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳宣言,2015年 マニラ,包摂的なエコノミーの構築,より良い世界の構築:アジア太平洋共同体へ向けたビジョン

[場所] 
[年月日] 2015年11月19日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

我々,APEC首脳は,先人達が築いた,全ての人々が経済成長や技術進歩の恩恵を享受でき,安定し,統合され,繁栄したアジア太平洋共同体というビジョンを完全に実現するために行動することを決意する「包摂的な経済の構築,より良い世界をめざして」とのテーマの下で,マニラに集まった。我々の不朽のコミットメントはアジア太平洋の平和,安定,発展及び共通の繁栄に責任を負うものである。

パリ,ベイルートやその他における,またシナイ半島上空でのロシア航空機に対するテロリストによる攻撃が落とした影の下,全ての形と行動における,あらゆるテロ行為を強く非難する。我々は,自由で開かれた経済を支えるという基本的価値観に対するテロの脅威を許さない。経済成長,繁栄及び機会は,テロや過激化の根本的原因に対処する最も強力な手段の一つである。我々は,テロとの闘いにおいて更なる国際協力及び団結の強化が急務であることを強調する。

我々は,世界経済の成長にばらつきがあり,依然として我々の期待する水準に達していない時に集まった。不十分な需要の拡大,金融市場の変動及び実際の及び潜在的な成長の重しとなっている構造的な問題を含め,世界経済にはリスクと不確実性が依然として存在する。APECエコノミーは引き続き強靱であるが,成長見通しの引き上げにおいて課題に直面している。

外需成長の鈍化は内需促進の重要性を強調している。より均衡のとれた持続可能な成果をもたらす生産性強化のための構造改革,サービス及びサービス貿易,投資の自由化及び円滑化,インフラ投資,科学,技術及びイノベーションのように,我々エコノミーの構造や競争力の急速な変化により,我々は新たな成長の牽引役を発展させる必要がある。

我々は,何百万人の人々を貧困から脱却させたかつてない経済成長にもかかわらず,貧困が我々地域の他の何百万人の人々にとって引き続き現実であり続けることにも留意する。我々は,この削減・撲滅のために更なる集中的な努力を要請する。我々はまた,不均衡は経済成長を抑制するものであり,それ故に,不平等性の縮小はアジア太平洋地域における発展・繁栄を促進するために不可欠であることを認識する。

我々は,包摂的な成長を実現するために我々の社会の全ての部門や階層,特に女性,青年,障害者,先住民,低所得者層,零細・中小企業(MSMEs)の完全な参加を実現することの重要性を認識する。我々は,これらに将来的な成長に貢献し,恩恵を享受する能力を与えることの重要性を強調する。

我々は,経済機会への意味のあるアクセスを可能とする貿易・投資のための開かれた,予見可能で,ルールに基づく,かつ透明性のある環境を後押しすることに一致しており,ゆるぎない考えである。これは,持続的で包摂的な成長,質の高い雇用の創出及び金融の安定性を実現する最良の手段を提供する。我々は革新的発展,相互に連結した成長及び共通の利益に基づいたアジア太平洋における開かれた経済を共同で構築するためのコミットメントを再確認する。

我々は世界貿易機関(WTO)の下での多角的貿易体制の価値,中核性及び優位性を再確認する。我々は,ルールに基づく,透明性のある,無差別で,開かれた包摂的な多角的貿易体制の強化にコミットする。WTOの20周年記念の機会に我々のコミットメントを更に強化するために,我々は多角的貿易体制及び第10回WTO閣僚会議を支持する別途の声明を発出することを決定した。

我々は,金融政策及び為替政策についてのこれまでのコミットメントを再確認する。我々は,通貨の競争的な切り下げを回避し,あらゆる形態の保護主義に対抗する。

我々は,2020年までの自由で開かれた貿易・投資というボゴール目標及びアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の最終的な実現という我々のコミットメントを再確認する。我々は,地域貿易協定が多角的貿易体制を補完し,強化することを確保するための実務者による取組を評価する。我々は,貿易費用を削減するWTO貿易円滑化協定受諾書を提出するためのプロセスを完了させるために多くのAPECメンバーがそれぞれ行った進捗を歓迎する。

進行中の経済変革は容易ではないが,我々は,質の高い経済成長を通じて地域及び世界経済の繁栄を牽引し続けることを確信している。

この目的を達成するために,我々は,一致して下記のことにコミットする。

包摂的なエコノミーの構築

1.経済的,社会的及び環境的な改革を扱う強固で包括的且つ野心的な構造改革及び良き統治に取組むにあたり我々を導く枠組を採択。

a. 我々は,将来の成長が強固で,均衡のとれた,持続可能な,包摂的であり,自然災害や他の脅威に対して安全であることを確保する我々のコミットメントを改めて強調する。それは,ジェンダーの平等性を促進し,持続可能な経済活動を支持し,イノベーションを支持するものであるべきである。我々は,「中所得国の罠」のリスクに対し警戒的であり続ける。

b. 我々は,「2014年革新的な発展,経済改革及び成長に関するAPECアコード」におけるコミットメントを考慮に入れ,「2010年APEC首脳の成長戦略」におけるコミットメントに基づき,質の高い成長を追求するための我々の努力により焦点を当てるために,制度構築,社会的一体性,環境影響に優先順位を付ける「質の高い成長強化のためのAPEC戦略」を採択する。我々は実務者に対し,我々のレビューのために,「質の高い成長強化のためのAPEC戦略」の促進におけるAPECの進捗に関する報告を行うことを指示する。

c. 我々は,「2010年APEC首脳の成長戦略」の評価,特に,APEC地域において主に途上エコノミーの急速な成長により,3億人以上の人々が貧困から脱却した結果を歓迎する。我々は貧困を終焉させるために,発展の格差を狭めるために,更なる努力を行うことを支持する。

d. 我々は「APEC構造改革新戦略」の下でなされた取組を称賛し,「構造改革のためのAPEC改訂アジェンダ(RAASR)」を歓迎する。構造改革の推進は経済の効率性を改善し,生産性を高めるために重要である。我々は,地域社会の全てのレベルにおいて成長が感じられることを確実にするために,為すべきことが未だ多く残されていることを認識する。そのため,創造性及びイノベーションを奨励することにより,サービス部門をさらに強化することを目的とした改革を含む,新たな成長分野を検討するエコノミーの努力を支持する。

e. 我々は,ビジネスの立ち上げ,建設許可の扱い,国境を越える貿易,クレジット取得及び契約の実行という既存の5つの優先事項において,2018年までに10%の改善を行うという新たに野心的な目標を据えた「ビジネス環境改善(EoDB)行動計画(2016-2018)」を確認するビジネス環境改善イニシアティブの下で成し遂げられた進捗を歓迎し,この目標に到達するための我々の努力を導く実施計画の策定を歓迎する。

f. 我々は,今後15年間にわたり,世界的な発展努力のための包括的で,全世界共通で,野心的な枠組を据えた「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」(「2030アジェンダ」)を実施し,貧困を撲滅し,全ての人にとって包摂的で持続可能な将来を構築するための我々の努力から誰も取り残されないことへの我々のコミットメントを再確認する。我々はまた,エコノミーが持続可能な開発目標を実現するために,重要で多様な財源を呼び込み,動員させるための政策を実施することに資する包括的ロードマップを提供する「アディス・アベバ行動アジェンダ」を実施するとの我々のコミットメントを再確認する。

g. 我々は,村落開発及び貧困緩和を通じた持続可能で包摂的な成長に貢献する製品の貿易を検討する2013年マンデートを遂行するためのさらなる進展及び実用的なイニシアティブを奨励する。

h. 我々は,腐敗が経済の持続可能性及び発展を阻害することを認識し,違法な経済の有害な影響と闘い,国境,市場及びサプライチェーンを超えた規律の文化があることを促進することに合意する。我々は,開かれた,説明責任のあるガバナンス,APECメンバー・エコノミー間の腐敗した公務員の送還ないし引渡し,資産の回収,犯罪化及び腐敗防止の分野における国際協力を促進することへのコミットメントを再確認する。我々は,実用的な腐敗対策協力を進めるために,APEC腐敗対策・法執行機関ネットワークを支持し,腐敗対策担当官の保護のためのセブ・マニフェストを歓迎する。

i. 我々は,テロリストの資金調達との闘いや、乗客の事前リスク分析及び他の措置を通じた外国人テロ戦闘員の渡航を妨げるための能力構築イニシアティブを含め,APECがテロ対策のために実施してきた努力と活動を歓迎する。我々は,エコノミーに対し,APEC統合テロ対策及び安全な貿易戦略をさらに完全に履行し,テロリストの活動からインフラ,渡航,サプライチェーン及び金融システムを保護するために,集団的及び個別的行動をとり,ベストプラクティスを共有することを奨励する。

2.金融市場の深化と,リスクの最小化

a. 我々が成し遂げた進捗にもかかわらず,何百万人もの市民が信頼できる金融サービスへのアクセスを有しておらず,将来の投資のための資金へのアクセスがないままであることを認識する。我々は人々がより廉価な資金及びそれに伴う資金調達へのアクセスから十分に恩恵を受けられることを確保するために,貧困削減のための金融包摂及び金融リテラシーの重要性を強調する。

b. 我々は,適切なセーフガード及びサプライチェーンにおける零細・中小企業及びビジネスの金融アクセスの強化を維持しつつ,金融サービス及び資本勘定の更なる自由化に向けた動きを通じた金融統合は,域内における貿易及び投資の拡大を促進することを認識する。

c. 我々は,セブ行動計画(CAP)を歓迎し,金融面でより統合され透明,強靱で連結されたアジア太平洋共同体を構築するための成果物とイニシアティブに関する複数年ロードマップの作成における財務大臣の協働を称賛する。我々は,APEC域内におけるシステミック・リスクを最小化し,金融の安定性を促進するマクロ・プルデンシャル的な政策枠組に係る経験の共有を含むマクロ経済面での協力の重要性を強調する。

地域及び世界市場への零細・中小企業(MSMEs)の参加促進

3.物品及びサービスの製造が組織され,実行される新たな方法に対応し,特に零細・中小企業にとっての包摂性を促進する貿易環境の実現を促進。

a. 我々は,現在,多くの物品及びサービスはもはや一カ所で生産されるのではなく,国内でまたは国境を越えて,企業が協力している成果であるという連結した世界に住んでいる。このことは,消費者に恩恵を与え,雇用を創出し,発展を促進する。我々は,その規模に関わらず,全てのビジネスを機会に連結させる必要がある。我々は,グローバル・バリューチェーン(GVC)を完全に活用し,参加の拡大及び付加価値を促進する政策を策定する必要がある。我々は,均衡のとれた知的財産(IP)システム及び能力構築を含めた効果的かつ包括的な措置を通じて,競争,起業家精神及びイノベーションを促進する。

b. 我々は,零細・中小企業の世界の商取引への参加が包摂的成長に重要であることを強調し,かかる参加を促進するために行動をとることに合意する。我々は,国際指向の零細・中小企業は雇用の創出,生産性の改善及び規模の経済を通じて貧困削減に大きな貢献を行うことができると認識する。しかしながら,ビジネスを行うコストは,特に,煩雑な規制及び規則という意味において,我々の零細・中小企業に過剰な影響を及ぼしているため,我々はグローバル・バリューチェーンに対する零細・中小企業の国際化及び統合に対する障壁に対処する必要がある。このような目的で,我々は「零細・中小企業のグローバル化のためのボラカイ行動アジェンダ」を採択し,実務者に対し,このアジェンダに記載されている行動を実施し,2020年までにその進捗を我々に報告することを指示する。

c. 我々は,「包摂的な発展に向けたグローバル零細・中小企業育成のためのAPECイロイロ・イニシアティブ」を歓迎し,ビジネス機会を与えるためのAPEC零細・中小企業市場の創設を支援し,零細・中小企業の発展を支援するための官民機関の協力を強化する。また,我々は,この地域におけるGVCの強靱性に向けた協力に関する進捗を歓迎する。

d. 我々は,零細・中小企業の拡大,国際化及び生産性の向上を可能とする鍵として,零細・中小企業のファイナンスへのアクセスの重要性を認識する。我々は,セブ行動計画(CAP)の下で最近設立された「金融インフラ開発ネットワーク」を通じて公的部門と協力するための民間部門及び国際金融機関によるコミットメントを歓迎する。我々は零細・中小企業の災害,金融危機及び他の不測の事態に対する強靱性を促進することの重要性を強調する。これらの課題に対処することにおいて,我々は,零細・中小企業の事業継続のための信用保証システムのような公的資金,及び関連する公的及び民間機関の間の緊密な連携の強化の重要な役割を認識する。

e. 我々は,インターネット及びデジタル経済は,連結性の改善を目的として革新的,持続可能で包摂的で安全な成長の実現という機会を提供することを強調する。インターネット及びデジタル経済により,物品,サービス,資本やアイデアの交換のための真の世界市場を創設する新たなビジネスモデルを通じて,ビジネス,特に零細企業がグローバル・バリューチェーンに参加し,より広い消費者層に手が届くことが可能となる。我々は,零細・中小企業の発展に関し,越境プライバシーを促進し,消費者の利益を保護することにコミットする。また,我々は実務者に対し,「潜在的な次世代型貿易・投資課題としての包括的成長のためのデジタル貿易円滑化の作業計画」を実施するよう指示する。

持続可能で強靱な地域社会の構築

4.持続可能で災害強靱性のあるエコノミーの構築

a. 我々は,環太平洋火山帯に位置する我々の地域は,特に脆弱であり,災害にさらされていることを認識する。我々は,台風,地震,火山噴火,海面上昇,我々の人口密集都市において影響が拡大するパンデミックに直面している。その結果,自然災害の頻度,規模及び範囲が増大し,その結果として統合され,相互に連結が増している生産及びサプライチェーンの分断に直面する「新たな常態(newnormal)」となっている。

b. 我々は,「新たな常態(newnormal)」に対して,包摂的で持続可能な発展を支える適応力があり災害に強靱な経済を構築する共同の取組を促進するため「APEC災害リスク削減枠組」を歓迎し,採択する。「APEC災害リスク削減枠組」を通じて,我々は,我々が被る損失を最小化し,我々の地域社会が逆境を克服し,より良い状態への復興を果たすための支援を確保する。我々は,閣僚に対し,「APEC災害リスク削減枠組」を運用し,ビジネスの継続計画,早期通報システムの強化,捜査救助,災害後復興,適切な寄付の促進,能力構築の強化といった既存の努力を継続するため,2016年に行動計画を策定するよう指示する。我々は,人命及び生活をより一層守るための「緊急時の人道物資・機材の輸送に関するAPEC指針」を歓迎する。また,我々は,「仙台防災枠組2015-2030」に留意する。

c. 我々は,自然災害による損害の増加によりいくつかのエコノミーが経験した重い財政負担に照らして,金融強靱性が革新的な災害リスクファイナンス及び保険メカニズムの発展を必要とすることについても留意し,「セブ行動計画(CAP)」を通じて金融強靱性を構築するための財務大臣の取組を歓迎する。

d. 我々は,首席科学顧問グループに対し,緊急事態の周囲及び期間中に,他の関連するAPECフォーラと協調して,調整された科学的アドバイスの提供をさらに検討するよう要請する。

e. 我々は,災害強靱性は感染症の拡大を検出し,予防することにおいて連携する能力を含むと認識する。我々は,「ヘルシーアジア太平洋2020年に向けたロードマップ」の進展を歓迎する。我々は,感染症管理の強化に関連する世界的イニシアティブ及び我々の地域における血液供給の安全性を確保するために設立された訓練ネットワークとAPECとの作業パートナーシップの発展を歓迎する。

f. 持続可能な地域社会を促進するとの我々の目標に沿って,我々は,12月にパリで開催されるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で,気候変動に関する衡平で,バランスのとれた,野心的で,永続的で,動的な合意を実現することに強くコミットする。我々は,そのため,2035年までにエネルギー集約度を45%改善し,アジア太平洋における持続可能で強靱なエネルギー開発を実現するために,2030年までに地域のエネルギー・ミックスにおける再生可能エネルギーの割合を倍増させるという我々の野心的な目標を再確認する。

g. 我々は,必要とする人に不可欠なエネルギー・サービスを提供する重要性を認識しつつ,無駄な消費を助長する非効率的な化石燃料補助金を合理化し,中期的には段階的に廃止するとの我々のコミットメントを再確認する。我々は,目標を達成するためには更なる野心的な努力が必要であると認識しつつ,これまでなされた進捗を歓迎する。我々は,自主的に化石燃料補助金ピアレビューを志願したエコノミーに謝意を表明する。我々は,この目標に向けた進捗を更に進めるために,ベストプラクティスを共有し,能力構築を行うための進行中のイニシアティブを歓迎する。

h. 我々は,エネルギー安全保障及び持続可能な発展を促進し,人々にエネルギーへのアクセスを提供することにおいて,エネルギーの強靱性の重要性を確認する。我々は,エネルギーの強靭性に関するタスクフォース,アジア太平洋地域における電力インフラの質強化のためのイニシアティブ,APEC持続可能なエネルギーセンターの設立を称賛する。我々は,低炭素経済への移行において,バイオ燃料,ベースロード電力源としての民生原子力,先端石炭技術,液化天然ガス,風力,海洋エネルギーの貢献を検討する。我々は,APEC地域における多様化した,柔軟で,統合された天然ガス市場に向けた努力を評価する。

i. 我々は,地域全体に強靱な地域社会を構築するために持続可能な農業,食料安全保障,食品安全及び栄養改善の必要性を強調する。我々は,そのため,閣僚に対し,強靱な海洋及び沿岸資源,水産品ロスの削減及びアグリ・ビジネス開発の分野において,「食料安全保障とブルーエコノミーに関するAPECハイレベル政策対話行動計画」を実行することを指示する。我々はAPEC食品安全協力フォーラム(FSCF)とそのパートナーシップ訓練機関ネットワーク(PTIN)」を支持する。我々は,APECの食料安全目標の実現に貢献するための「2020年に向けた食料安全保障ロードマップ」の進展を奨励する。

j. 我々は,我々の地域社会を支え,生物多様性を保全し,気候変動を緩和し,またそれに適応するという森林の重要な役割を認識する。我々は,2020年までに地域の全種類の森林面積を少なくとも2000万ヘクタール増加させるというシドニー宣言における野心的な目標や,森林の持続可能な管理・保全・回復の促進,及び違法伐採及び関連取引の対策を行うという我々のコミットメントを再確認する。我々は,シドニー宣言における林業に関する野心的な目標に向けての進捗評価を歓迎する。

k. これまでの我々のコミットメントに基づき,我々は,野生生物の違法な供給,輸送及び需要をさらに削減し,国内及び世界的な執行をより強化し,法的枠組を及び他の刑事司法手段をさらに強化し,並びに,違法な野生生物の違法取引犯罪を深刻なものとして扱うようにする各エコノミーの努力をより強化し,必要に応じて国境を越えた法執行協力及び他の野生生物執行ネットワーク間の交流を深め,違法な野生生物の取引及び関連する腐敗と闘うための行動をとる。

5.成長のための都市化の取組実施。

a. 我々の都市は,何十億人の人々に対して雇用や生計を提供する創造性,イノベーションの潜在的なセンターである。我々は,持続可能な都市開発のための十分な計画性及び適切なインフラの重要性を強調する。我々は,従って,廃棄物管理及び水に関する課題に対処するための革新的な方法を含め,APECにおける急速な都市化の課題を議論する実務者の取組を歓迎する。

b. 我々はグリーン,エネルギー効率性,低炭素及び人間指向型開発の新たなタイプの都市化に継続的にコミットする。我々は「アジア太平洋都市化パートナーシップを共同で設立するためのAPEC協力イニシアティブ」の実施におけるメンバー・エコノミーの努力を称賛する。(この点に関し,我々は2016年にAPEC都市化に関するハイレベルフォーラムを開催するとの中国のイニシアティブを歓迎する。)我々はAPEC低炭素モデルタウンプロジェクトの実行,建築におけるグリーン・コード及び基準の採用及びスマート・エネルギー・コミュニティーズ・イニシアティブ

(ESCI)を含め,都市環境におけるエネルギーの効率性,低炭素の開発に向けたこの方向性の下に行われている進行中の努力を奨励する。

c. 我々は,高齢化及び都市化を含む地域の変容する人口動態が地域の食料システムに深刻な影響を与えていることを認識する。我々は,地域の食料,持続可能な農業及び水管理を改善し,都市,村落,遠隔地間のより良い連結性,投資の円滑化及びインフラ開発及び食料バリューチェーンに沿った食品ロス及び廃棄の削減を含め,市民の食料へのアクセス拡大を追求する努力を強化する。

d. 同時に,我々は村落社会が地域の経済社会的発展から取り残されるべきではないと認識している。この点において,我々は,地域の貧困を削減し村落の福利厚生を強化する包括的な戦略を策定する目的で,地方開発の経験を共有することを通じて,村落を強化するための努力を行うことを決意する。

e. 我々は,安全で安心で強靱性のある効率的で持続可能な交通システムを発展させ,包摂的な移動性及びグローバル・バリューチェーンの強靱性の実現に向けて進むための交通部門におけるイノベーションの促進のための努力を称賛する。我々は実務者に対し,交通ネットワークの連結性に関する取組の強化を継続することを指示する。

人材開発への投資

6.経済成長からの恩恵を受け,それに参加するための手段を我々の市民に与える努力を倍増。

a. 1996年,我々は,全てのAPECメンバーが開かれた貿易環境に参加し,そこから利益を得ることを確実なものとする経済技術協力のための枠組を承認した。我々は,能力構築の実現及び作業部会及びフォーラ間のクロスフォーラ協力の改善のためにとられた共同の努力及び進捗に満足している。我々は,地域において,あるものは統合から利益を受けて世界市場に連結し,あるものはその潜在性を実現させることができずに取り残されているという,分断された共同体の台頭を回避する必要があることを強調する。

b. 我々は,地域の経済成長の次の段階に向けて効果的に貢献するために産業が必要とする技能の開発を通じた人材資源への投資の重要性を強調する。技術の急速かつ遍在的な利用に特徴づけられる現在の環境において,人々は,特に若者と女性は科学,技術及びイノベーションにおける専門技能のみではなく,また,適応性及び強靱性も兼ね備える必要がある。我々は,そのため,実務者に対し,産業が必要とする技能を理解し,人々が労働力として参加し,潜在力を生かせる技能と能力を備える教育及び訓練プログラムを開発するため,ビジネス,教育提供者,雇用サービス,市民社会と緊密に取組を行うよう指示する。

c. 我々は,人材開発を改善する我々の野心と人と人との連結性を改善し,教育における越境協力を促進するという我々の目標との相乗効果を強調する。我々はAPEC内の大学レベルの年間留学生100万人という我々の2020年学生の移動目標の早期実現を歓迎する。我々は,また人材開発とICTの進歩及びその恩恵には緊密な相関関係があることも認識する。

d. 我々は,指導者層における女性の進出の強化を通じることを含め,具体的で実施可能で測定可能な方法で経済分野での女性の完全参画を推進することにコミットする。我々はそのために,政策行動の優先順位を特定する手段として,女性と経済ダッシュボードを含め,APECの一連の取組を通じて男女平等の主流化や女性のエンパワメントを支援するための努力を強化することを呼びかける。

e. 我々は,障害者の経済的エンパワメント強化のためのAPEC協力の進展を歓迎し,包摂的発展の促進におけるメンバー・エコノミー間の更なる協力を奨励する。

f. 我々は,人材開発及び包摂的成長の発展を促進する上での保健制度の重要性を認識し,健康障害が財政及び経済に与えうる影響に対処するために2016年にさらなる取組を行うことを期待する。

地域的経済統合アジェンダの強化

7.包括的で体系的な統合共同体に向けたビジョンを達成

a. 我々は,APECの地域的な経済統合アジェンダに向けた主要な手段として,アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の体系的な方法により最終的な実現に向けた包括的なプロセスを進展させる我々のコミットメントを再確認する。我々は,「FTAAPの実現に関連する課題にかかる共同の戦略研究」,情報共有メカニズム及び第2次キャパシティビルディング・ニーズイニシアティブ(CBNI)を含め,「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現に向けたAPECの貢献のための北京ロードマップ」の実施に関し,我々の実務者による取組を称賛する。

b. 我々は,FTAAPは現在進行している地域的な取組を基礎として,包括的な自由貿易協定として追求されるべきとの信念を再確認する。我々はまた,FTAAPは質の高いものであるべきであるとともに,次世代型貿易・投資課題に対処すべきであるとするFTAAPの道筋に込められた我々のビジョンを再確認する。これに関連し,我々は,環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉の大筋合意を含む地域における自由貿易協定の最近の進展,及びFTAAPへのあり得べき道筋の進捗に留意し,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の早期妥結を慫慂する。

c. 我々は,今年末までにAPEC環境物品リストにおける実効関税率を5%またはそれ以下に引き下げるという2012年のコミットメントを再確認する。我々は,この画期的なコミットメントの実施に向けて順調に進んでいるエコノミーに祝意を表し,完全な実施が未了のエコノミーに対しては,今年末の期限に間に合うよう努力を倍増させるよう強く要請する。

d. 我々は,「グローバル・バリューチェーンの発展と協力推進のためのAPEC戦略ブループリント」の一連の作業の下で行われた進捗を歓迎し,実務者に対し,この作業をさらに進展させることを指示する。

e. 我々は,継ぎ目なく,かつ包括的に統合され,革新的で相互連結されたアジア太平洋を実現するための我々のコミットメントを再確認する。我々は,物理的,制度的,人と人の連結性の柱の下「APEC連結性ブループリント2015-2020」の実施の進捗を歓迎する。我々は,このブループリントの継続的な実施を確保し,アジア太平洋地域及び準地域の連結性向上のための更なる行動をとる。

f. 我々は,アジア太平洋地域における連結性及びインフラを大幅に改善するイニシアティブの実施の進捗及びこの分野における資金調達のボトルネックの解決を促すイニシアティブの進捗に感謝する。我々はアジア太平洋の地域的な経済統合及び共通の発展を促進するために,これらのイニシアティブの間での更なる協力を奨励する。

g. 我々は,アジア太平洋コミュニティのための我々のビジョンを実現するため,質の高いインフラ投資及び連結性の重要性を強調する。我々は,インフラ供給のための官民パートナーシップ(PPP)モダリティーを最大化し,資本市場の発展を通じたインフラの長期投資を活用し,都市開発及び地域的連結性での包摂的なインフラにおける取組を継続させるための「セブ行動計画(CAP)」によって策定されたイニシアティブを歓迎する。

8.経済成長と包摂性を実現するものとしてのサービス分野の発展

a. 我々は,サービスにおける国際貿易が,越境ビジネス活動を円滑化し,コストを軽減し,イノベーションを促進し,競争力及び生産性を高め,国内のサービス提供者の水準を向上し,消費者の選択の幅を広げることを認識する。我々は,サービスにおける貿易は,経済全体に恩恵を与える世界市場における雇用の創出及び競争力の向上において巨大な可能性を有していることを認識する。多くの零細・中小企業がサービスの部門で活動しているため,包摂的成長はサービス関連問題への対処なく実現することはできない。

b. これらの理由により,我々は,全ての市民が質の高い成長から恩恵を受け,これに貢献することを確保する「APECサービス協力枠組」を承認する。我々は,実務者に対し,2016年に一連の協調行動及び2025年までに達成されるべき相互に合意された目標を採択し,戦略的かつ長期的な「サービス競争力ロードマップ」を策定するよう指示する。我々は,製造業関連サービスのようなサービス関連イニシアティブに感謝する。

協力の強化

9.共通の課題に対処するためのステークホルダーとの取組。

a. 我々の多様性に鑑み,APECにおけるこれまでの成果は,如何に,協力を通じて,我々は経済統合を推進し,繁栄をともに享受することができるのかという基準を与えている。我々の成果に基づき,我々は様々なステークホルダーと国内外の協力の強化に関与することをコミットする。我々は,我々のエコノミーにおけるルール策定のためには,よく調整された政府全体でのアプローチが必要であることを再確認する。これは,あらゆる国内及び国際的なステークホルダーを関与させた開かれた包摂的な公的な協共の合議プロセスに従うべきである。

b. 我々は,したがって我々が直面する課題の解決策を見出し,より良い,より包摂的な世界を築くことを可能にする建設的な対話に関与している,APECビジネス諮問委員会(ABAC),太平洋経済協力会議(PECC),国際及び地域機関,民間分野,地方政府幹部,市民社会,学術界,零細・中小企業,女性,青年,障害者,産業専門家との協力が増加していることを歓迎する。

10.閣僚,APECプロセス,及び全ての委員会及びフォーラの取組への強い支持

a. 我々は,そのため「2015年APEC閣僚共同声明」を承認し,分野別大臣会合,ハイレベル政策対話,財務大臣プロセス,高級実務者会合の委員会及び作業部会,及び全ての関連するメカニズムの成果に反映されている通り,閣僚と実務者の取組を称賛する。

b. 我々は,閣僚と実務者に対し,この宣言及び過去の会合に含まれるビジョンを念頭にすえ,2015年の分野別大臣会合及びハイレベル政策対話の成果文書にある提言,作業計画及び行動計画の実施を含め,取組を継続することを指示する。

c. 我々はAPEC基金に対する関係メンバーによる拠出,アジア太平洋の自由貿易地域,グローバル・バリューチェーン,革新的発展,連結性及び鉱業に関するサブファンドの設置,途上エコノミーに対する訓練機会の自発的提供に対し謝意を表明する。

我々は,我々の資源を我々の優先課題とより良く調和させるため,将来の取組に期待する。

技術の進化,都市化,貿易・投資の自由化及び円滑化,改善された連結性によって牽引された経済統合を通じて,我々の生活の結びつきは益々強くなっている。我々の共有の運命を確実とするために,我々が共に取組ことは我々全員の責務である。

我々が直面する課題にもかかわらず,相互の尊重,信頼,包摂性及びウィンウィン協力の精神で,我々の人々の共同の能力を活かすことにより,共通の発展,繁栄,進化という目標を達成することを視野に入れたアジア太平洋パートナーシップを通じた未来を形作るという我々の約束に対して,我々は忠実であり,我々の地域の未来は明るいであろう。

APECの取組は継続的なプロセスであり,それゆえに,アジェンダの継続性がAPECの関連性の鍵となることを認識し,我々は,過去のAPEC議長のビジョン及び取組に基づいた今年のフィリピンのリーダーシップに感謝する。

我々は2016年にペルーで再会することを期待するとともに,2017年から2022年の将来の議長であるベトナム,パプア・ニューギニア,チリ,マレーシア,ニュージーランド及びタイと緊密に連携していくことをコミットする。我々は,2025年に韓国がAPEC議長を務めるとの申し出を歓迎する。

附属書A: APEC質の高い成長を強化するためのAPEC戦略

附属書B: APECサービス協力枠組