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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳宣言 附属書A 質の高い成長を強化するためのAPEC戦略

[場所] 
[年月日] 2015年11月19日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1. 我々APEC首脳は,「2010年APEC首脳の成長戦略」に対するコミットメントを再確認する。我々は,貿易・投資の自由化・円滑化を通じ,地域に繁栄をもたらすという基本目的に向けてAPECを導くことにおいて,この戦略の継続的な関連性を認識する。

2. 本年,マニラにおいて,我々は,「2010年APEC首脳の成長戦略」において想定された質の高い成長を追求する重要性により焦点を絞るため,2020年を期限とする「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」に合意することによって,均衡ある,包摂的な,持続可能で,革新的で,安全な成長に向けた我々の野心を再確認する。

新たに発生している課題に対応するための「2010年APEC首脳の成長戦略」の強化

3. 我々は,世界経済の成長に対するAPEC地域の継続的な貢献を認識する。我々は貿易・投資の自由化・円滑化が地域における経済成長及び発展の中心的な原動力であり続けることを強調する。成長の質を向上させ,引き続き活力に満ちたものとすることを確保するためには,APECメンバー間で協調的な努力を行うためのより大きな推進力が必要とされる。

4. 我々は,世界経済の成長は大きな課題に引き続き直面していることを認識し,地域の成長が依然として緩やかで,ばらつきがあることに留意する。アジア太平洋地域は,以下のような課題に直面している。

1)金融市場における潜在的な不安定性

2)格差の拡大

3)物理的インフラにおける格差

4)イノベーション促進及び技能へのアクセス向上の必要性

5)気候変動の影響を含む環境面での懸念

6)食料安全保障及び持続可能な農業管理

我々は,APEC地域における経済成長を強化し金融の安定性を促進するAPEC財務大臣の取組を支持する。

5. 我々は,G20及び「持続可能な発展のための2030年アジェンダ」を最近発表した国連の既存の取組を含む経済成長を引き上げるグローバルな努力を歓迎する。我々は,持続可能な経済成長に対する多くの課題に対処するためのグローバルな努力を補完するAPECのコミットメントを再確認する。質の高い成長を強化するためのAPEC戦略は,APEC成長戦略及び持続可能な開発目標の間でより大きな相乗効果をもたらすであろう。

APEC成長戦略及び関連イニシアティブ

6. 「2010年APEC首脳の成長戦略」は各特性に行動アジェンダを盛り込んでいる。我々は,APECメンバー・エコノミーによる行動アジェンダの進捗を評価する努力を歓迎する。地域としてのAPECは全ての特性における成長の達成状況において進捗を成し遂げたが,依然として,なすべきことが多く残されている。特に,既に達成された収穫をさらに拡大し,持続可能なものとしなければならない。我々は,2015年の「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」によって補強されているとおり,各戦略計画に導かれ,「2010年APEC首脳の成長戦略」の最終目標に貢献する努力を継続することをAPECフォーラに命じる。

7. 我々は,包摂的な成長,イノベーション及びサービス分野を対象とする「構造改革のためのAPEC改訂アジェンダ(RAASR)」の合意を承認する。RAASRは,エコノミーが質の高い成長を実現し,より強靱性をもつことを促すために2010年に承認した「APEC構造改革新戦略(ANSSR)」に基づくものである。このイニシアティブはAPECエコノミーが優先分野に沿って構造改革を実施することを奨励し,また,APECエコノミーに対して,これら構造改革の実施において能力構築プログラムや政府職員を訓練する他の技術協力活動に参加する機会を与えるものである。

8. 我々はまた,5つの分野においてより緊密な協力を促進することを目的とする「革新的発展,経済改革及び成長に関するAPECアコード」を2014年に承認した。これは,1)経済改革,2)新しい経済,3)革新的成長,4)包摂的な支援,5)都市化という5つの分野において,より緊密な協力を促進することを目的とするものである。我々は改革及びイノベーションの速度を加速し,新たな成長分野を模索するためのコミットメントを再確認する。我々はこのアコードは5つの成長戦略のそれぞれの特性における政策行動を盛り込んでおり,成長戦略の実施に強い後押しを与えるものであることに留意する。

「質の高い成長を強化するための2015年APEC戦略」

9. 「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」は,「2010年APEC首脳の成長戦略」を基礎として,制度構築,社会的一体性,環境影響といった主要な説明責任分野(KAAs)によって表されるとおり,質の高い成長を強化し,維持するものである。制度構築,社会的一体性,及び環境影響への対処なくして,我々は質の高い成長を維持することはできない。KAAは,また,5つの特性に対してより大きな牽引力を与え,成長戦略を持続可能な開発目標と協調させるためのものである。

10. 我々はKAAの達成に直接関与し,貢献する協力を強化することに合意する。

a. 制度構築

制度は経済的成長及び発展のために重要である。なぜなら制度は社会における重要な経済当事者のインセンティブを形成し,特に,物理的,人的資源・技術及び製造機関への投資に影響を及ぼすからである。

我々は異なる開発レベル及び経済状況が制度構築の様々な側面の優先順位付けに影響を与えることを認識する。より重要な経済制度の中には,(i)法的安全性を促進し,ビジネス費用を削減するルールに基づいたエコノミー,(ii)健全な公共機関及び規則によって支えられた市場に基づいたエコノミー,(iii)金融の安定性を促進する効果的な規制制度と結びつき,貯蓄を効率的に仲介する深みのある金融市場,(iv)株主重視のコーポレートガバナンス,(v)貿易・投資の自由化及び円滑化を後押しするメカニズム,(vi)市場の需要に対応して労働力の再分配を行う一方で,同時に労働者の福利厚生を保護する労働市場,が挙げられる。

制度構築分野における行動アジェンダは発展レベルが異なることを認識すべきであり,したがって,マルチ・トラック及びマルチ・スピード・プログラムを特徴とすべきである。

b.社会的一体性

我々は,社会的一体性は,経済成長及び発展を実現するための目的であり,手段でもあると理解している。我々は,社会の役割は,排除及び排斥と戦い,帰属意識を形成し,信頼を増進し,メンバーに地位上昇の機会を提供することにより,全てのメンバーの幸福に向けて団結して取組むことにあると理解している。

公共政策は,多くの場合,さらなる貧困削減やより安定した成長プロセスをもたらす一体化した社会においてより効果がある。社会的一体性の欠如は,格差を削減することを目的とした効率的な財政政策の実施能力の妨げとなる。社会的一体性はまた,情報収集,通信及び契約実施等の経済交流の場面で生ずる取引費用を削減する。最後に,社会的一体性は,共通の目的を追求する個人間の協力という共通の行動を促すことにより,成長を強化することである。

c.環境への影響

気候変動への対応は,温室効果ガス排出を削減し,炭素隔離を増やし,気候変動の影響に適応するための措置を含む。排出量削減のための措置はエコノミーが,低炭素社会に向けて前進することを奨励する。一方で,我々は,災害への備えとリスク低減により,気候変動への適応の必要性を強調する。適応は,他の戦略の中でも特に,科学技術,災害に強いインフラ,適応に基づくエコシステムにおける投資を伴う。適応及び軽減措置は農業,漁業,林業及び産業政策にとり重要となるだろう。我々は,低炭素で強靱な社会として繁栄することを可能とする資源効率型経済をさらに発展させるため,「2010年APEC首脳の成長戦略」を通じた首脳への呼びかけを改めて強調する。我々は新たなグリーン産業及び雇用を奨励し続ける。

民間部門の役割

11. 我々は,経済成長や経済発展において,特に“重要な成長”の実現において,民間部門が重要な役割を果たすことを認識する。なぜなら,民間部門はイノベーションを促進し,雇用を創出し,企業の社会的責任を促進するからである。我々は,民間部門が,力強く,質の高い成長の確保に向けた経済全体,社会全体のアプローチの発展に参画することを奨励する。

実施

12. 我々は,「2010年APEC首脳の成長戦略」への我々のコミットメントに基づき,様々なAPECのフォーラにおけるこれまでの,また現在進行中のイニシアティブにおけるコミットメントを念頭に置き,「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」を実施することを決意する。我々は,経験及び能力構築を共有することにより,生きた文書として我々が採択した附属書で提示されているKAAに沿い,個別エコノミーが「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」を実施するにあたっては,支援に取組むことをコミットする。

13. 我々は高級実務者に対し,ポリシーサポートユニット(PSU)に成長の推進に関する膨大なAPEC作業プログラムの影響につき,2020年に報告し,「質の高い成長を強化するためのAPEC戦略」の促進に関するAPECの進捗について,首脳の検討に付すべく,首脳に報告させるよう委託することを指示する。その時点において,首脳はこの戦略の将来的な方向性を検討するだろう。