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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳宣言 附属書A アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に関するリマ宣言

[場所] リマ,ペルー
[年月日] 2016年11月20日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

提言

1.目標と原則

我々は,APECの地域経済統合アジェンダを前進させる主要な手段として,アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の最終的な実現に向け,包括的で体系的な方法によりプロセスを進展させることへのコミットメントを再確認する。

我々は,APECの核となる目的はボゴール目標を2020年までに実現することであること及びFTAAPの実現を支援する努力が地域的経済統合を一層前進させる原動力となることを再確認する。

我々は,FTAAPは,APECプロセスと並行して,APECの外で実現されることを再確認する。

我々は,最終的なFTAAPは,狭義の自由化の実現以上のことを成すべきもので

あることを再確認する。それは,質が高く包括的であるべきであり,「次世代」貿易・投資課題を組み込み,対処すべきである。

我々は,APECが地域経済統合の形成及び育成,ウィン•ウィンの精神の下の開放性,包摂性と協力の原則の維持,徹底的な経済構造改革の推進,地域経済統合の深化と強化に極めて重要な役割を持っていること,そしてアジア太平洋の持続可能な発展により大きな推進力を与えることを認識する。この意味において,

APECは個別の経済改革と包括的で質の高いRTAs/FTAsの締結を奨励する。

2.FTAAPへのあり得べき道筋の完成と拡大

我々は地域的及び二国間の自由貿易協定(RTAs/FTAs)が,地域経済統合を強化してきていることを認識する。一方,同時にAPECメンバーの異なる開発段階や,多様な自由化水準とカバレッジによるRTAs/FTAsが,完全な地域的統合の達成に課題を投げかける可能性があることを認識する。このように,我々はFTAAPが,進行中の地域的取組を基礎とし,そして環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や東アジア地域包括経済連携(RCEP)を含む,あり得べき道筋を通じて構築されるべきであるとのコミットメントを再確認する。我々は他の地域統合の取組がFTAAPの最終的な実現に意義ある貢献を行うことを歓迎する。

我々は,TPPとRCEPを含む全ての地域的取組が,開放的で,透明性があり包摂的であり続けること,地域の貿易・投資の自由化と円滑化,そして最終的なFTAAPの実現に共に貢献するよう相互に活用されることを奨励する。

我々はまた,「FTAAPへの道筋」に込められた我々のビジョンを再確認する。この関連で,我々は,TPP署名国による国内手続完了に向けた努力や,RCEP参加国による,現代的で,包括的かつ質が高く互恵的な協定の妥結に向けた交渉加速化の努力を含む,地域におけるRTAs/FTAsに係る最近の進展及びFTAAPに向けたあり得べき道筋の進展に留意する。

我々は,FTAAPの道筋の進展及び本文書で特定されたイニシアティブの実施が,情報共有メカニズムによるものを含め,適切な範囲で貿易投資委員会(CTI)に報告されることを奨励する。さらに,この報告はCTI/高級実務者(SOM)の閣僚及び/又はAPEC首脳に対する報告に含まれ得る。

最終的なFTAAPに向けたモメンタムを維持し,作業に焦点を当てるため,APECエコノミーは,遅くとも2020年までに,FTAAPの実現に向けた現在の「道筋」の貢献について検証を行う。同検証は,地域的な自由で開かれた貿易・投資を更に推進するために行われ,最終的なFTAAPに向けた進展を支持する作業の具体的な分野を特定する。加えて,この検証と以下に示された作業計画は,地域経済統合目標の達成と最終的なFTAAPにとってどの分野に最も課題が残っているかについてAPECの判断を助けるものとなる。同検証を受け,全てのAPECエ

コノミーは,APECがこれらの課題に対し,包摂的で,バランスがとれ,全てのエコノミーの利益となるような形で諸課題に対処していくためにAPECが果たせる役割について共同の議論を行うとともに, FTAAPの最終的な実現に向けてAPECがとり得る次のステップについて検討を行う。

3.インキュベーターとしてのAPECの役割の継続,及びFTAAPの目的を支援するための既存のAPECイニシアティブの強化

我々は,APECがFTAAPのPECは,FTAAPの最終的な実現に向けた前進の重要な貢献者であり続けることにコミットする。APECは,FTAAPの最終的な実現を促進するために,RTAs/FTAsに関するAPEC情報共有メカニズムや第2次能力構築ニーズ•イニシアティブ(CBNI)行動計画枠組を含むがそれらに限定されないリーダーシップ,知的インプット及び能力構築を提供し,セクター別イニシアティブを前進させ,政策協調・調和、産業・分野別対話等を行うことを通じて,FTAAPに関連した事項のインキュベーターとして鍵となる役割を果たす。

我々は,APECが,引き続き次世代貿易投資課題を特定し,これに対処すべきこと,また最終的なFTAAPの達成のために極めて重要であるとAPECエコノミーによって特定された分野の新たなイニシアティブを前進すべきであることに合意する。そのため,我々は,実務者が,貿易投資委員会及びそのサブ•フォーラを通じ,既に特定された,あるいは潜在的な次世代貿易投資課題として検討されている分野を含み,本研究からコンセンサスにより生ずる作業の潜在的な分野を前進させることを奨励する。

我々は,APECがビジネス環境の改善を目的として構造改革を推し進めるべきであることに合意する。ビジネス環境改善行動計画に沿って,APECはビジネスの立ち上げ,許認可の取得,クレジットへのアクセス,国境を越えた貿易及び契約の実行などのための規制環境を改善する方法を引き続き特定すべきである。

我々は,APECが貿易円滑化の改善のために更なるの努力を行うべきであることに合意する。APECは,エコノミーによるWTO貿易円滑化協定(TFA)の下の義務の履行を助けるよう設計された能力構築プログラムの開発を主導してきている。APECは,この分野での能力構築事業を引き続き推進すべきである。

4.地域経済統合を推進する新しいイニシアティブ

共同の戦略的研究は,RTAs/FTAsにおけるものも含め,APECエコノミーの間に残る様々な課題やギャップ及び相違のある分野を特定した。研究の中で開始された議論は,今後もFTAAPで対処されるべき潜在的な要素や,FTAAPの最終的な実現の後押しとなる追加的作業に関するものを含め,継続されるべきである。APECの作業は,APECエコノミーが生産的な地域経済統合に向けた道筋を進み続けることを確保するために,これらのギャップを埋めることに焦点を当てるべきである。

APECは,FTAAPのためのあり得るべき道筋や,共同戦略研究で特定された分野を含むRTAs/FTAsの実践において意見の相違や一致がある分野に対処する作業に焦点を当てるとともに,これらの協定への理解を深め,質が高く,包括的で野心的な自由貿易協定に参加するため,メンバーの能力を高める能力構築事業も実施する。

北京ロードマップを前進させる次のステップとして,我々は実務者に対し,APEC地域内外の既存のFTAs/RTAsやWTOにおいて,次世代貿易投資課題がどのように取扱われているかに関し,ストックテイクを行うことを指示する。

我々はさらに,実務者に対し,このストックテイクにより明らかにされた,エコノミーによるこれらの課題の取扱いの違いの差を縮めるため,能力構築を通じたものも含め,専用のイニシアティブを策定するためにストックテイクの結果を活用することを指示する。これらのイニシアティブは,APECの関連フォーラにおいて作成され,2018年以降の各フォーラの年次作業計画に含められるべきである。

我々は実務者に対し,共同の戦略的研究で特定された,貿易投資に影響を与え,ボゴール目標の達成を支持する措置についての作業を継続し,FTAAPの最終的な実現のためのビジョンを前進させることを指示する。これらの目標を達成するために,APECは,以下を含むがそれに限定されない分野において,エコノミーのためのコンセンサスと能力を構築する作業計画に着手する。

◆関税に関し,作業計画は意見の一致と相違がある分野の発見のための特定された道筋の下,残る関税の引下げ,及び市場アクセスコミットメントの分析に焦点を当てる。

◆非関税措置(NTM)に関し,作業計画は,2015年の首脳による提案に基づき,APECビジネス諮問委員会(ABAC)との連携を優先し,貿易に影響を与えるNTMを特定し,対処するとともに,NTMとそれらが与える潜在的な影響についての各エコノミーの理解を助ける。

◆サービスに関し,作業計画は,経済成長を促進し,各APECエコノミーとAPEC地域におけるサービス競争力を改善する方策としての,「APECサービス競争力ロードマップ」の実施を支持する。

◆投資に関し,投資慣行において意見の一致が見られる分野をエコノミーが明確に特定することへの支援や,国際投資協定(IIAs)の交渉と実施についての経験の共有に焦点を当てる。

◆原産地規則(ROO)に関し,作業計画は,ROOの簡素化についての既存のAPEC目標に向けたエコノミーの進捗を促進するための関税原産地手続におけるベストプラクティスを扱う。

これらの事柄についての,均衡がとれた包摂的な議論を支援するため,我々は実務者に対し,貿易投資委員会及びそのサブ・フォーラを通じて,本文書の提言に対処することに焦点を当てることを指示し,民間セクターや他のステークホルダーが,貿易政策対話を通じたものを含むこれらの議論に参加することを奨励する。

5.ステークホルダーとの関係強化

APECは,FTAAPの実現を支援するための努力において,APECビジネス諮問委員会(ABAC)及び太平洋経済協力会議(PECC)を含む地域のステークホルダーへの関与を強化させるべきである。

6.進捗の報告

我々は,実務者に対し,貿易投資委員会を通じて提言に取り組むこと,FTAAPの実現に向けた進捗,特に本文書で特定された新たなイニシアティブに関して,首脳に報告することを指示する。報告は,2018年及び2020年に予定されるボゴール目標のマイルストーンの報告とは別に,しかしこれと並行して行われる。