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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第26回APEC首脳会議「エラ・コネ議長声明」包摂的な機会の活用とデジタル化された未来の受容

[場所] 
[年月日] 2018年11月18日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

第26回APEC首脳会議

「エラ・コネ議長声明」

包摂的な機会の活用とデジタル化された未来の受容

1 議長声明は,ポートモレスビーで開催されたAPEC首脳会議における議論の中で示された,すべてのAPECエコノミーの太宗の(prevailing)見解に関する議長の判断を反映したものである。9,16及び17の段落については,少数のエコノミーが,別の,あるいは追加的な見解を有していたが,ほとんどのエコノミーが,以下のテキストに合意した。

2 歴史的な第1回APEC首脳会議が開かれた年にパプアニューギニアがAPECに参加してちょうど四半世紀後に,我々APEC首脳は,「包摂的な機会の活用とデジタル化された未来の受容(Harnessing Inclusive Opportunities, Embracing the Digital Future)」のテーマの下,ポートモレスビーに集った。この急速な技術変化の時代に,我々は,包摂的で持続可能な成長を刺激し,すべての者の繁栄を推進する国際貿易の重要性を引き続き認識する。我々は,自由で開かれた貿易・投資の促進というAPECの中核目標を再確認する。このため,我々は,均衡ある,革新的で,安全で,持続可能かつ包摂的な成長を推し進めることに改めてコミットし,構造改革と地域経済統合に関するAPECの取組を強調する。我々は,地域のすべての人が,デジタル化された未来の恩恵を分かち合うことが確保されるよう追求する。

3 我々は,2018年に達成された世界全体の成長及びアジア太平洋地域における経済見通しを歓迎する。しかし,成長は,均衡を失いつつあり,下方リスクが高まっている。我々は,アジア太平洋における開かれた経済を引き続き促進していく。そのような開かれた経済とは,急速に変化する経済状況に対応でき,投資増加と雇用創出に資するものである。

4 我々は,2018年が,APECの現在の目標達成に向けた努力と2020年以降のAPECのビジョン設定の間を埋める橋渡しとなったと認識し,将来を楽観視している。我々は,以下の行動を通じて,平和で,安定し,ダイナミックで,相互に連結され,繁栄したアジア太平洋地域の共通の未来を育むための具体的な措置をとることを決意する。

I.デジタル化された未来の受容

5 我々は,その形態が,インターネットの接続や使用であれ,政府の公共サービスであれ,デジタル製品やサービスを生み出すビジネスの増加であれ,これら製品やサービスの国境を越える貿易であれ,すべてのAPECエコノミーにおいて,デジタル経済の便益が高まっていると認識する。デジタル技術の使用を伴うイノベーションは,我々エコノミーの多くの部門において,益々盛んに見られるようになっており,経済成長に貢献している。さらに,デジタル技術及びイノベーションは,我々エコノミーのすべての部門におけるビジネス及び政府の手法を益々変えつつある。

6 我々は,デジタル経済に関するAPECエコノミーの共同の努力が,我々エコノミー全体に大きな利益を導く生産性を高める潜在力を秘めていると認識する。均衡がとれ,衡平な形で,こうした利益を生み出すことが出来るかどうかもまた,デジタル経済の成長にとり,開かれた,アクセスしやすく,安全な環境を創り出すためのAPECの共同の努力次第であると認識する。我々は,情報通信技術の活用において,安定,セキュリティ,信用及び信頼の促進並びに消費者の権利保護を促進することも不可欠であることに留意する。我々は,国内の公共政策の正当な目的を認識しつつ,情報及びデータの自由な流通を可能とすることの重要性を強調する。我々は,正当化されない障壁の特定及び除去を含め,電子商取引及びデジタル貿易を円滑化することの重要性を認識する。

7 我々は,誰一人取り残されないことを確保するため,女性,遠隔地や地方の人々を含む,すべての集団のデジタル経済への参加を促進する。デジタル経済は,不利な立場にある集団のより広範な経済への参画を高める潜在力も持つ。我々は,デジタル包摂を高め,デジタル・デバイドを埋めるために共に取り組むことにコミットしている。これらの取組には,とりわけ,能力構築,安全で強靱なデジタル・インフラの建設及びそれへのアクセスの促進並びに技能開発が含まれることとなろう。我々は,質が高く持続可能な開発のためにデジタル技術及びイノベーションの活用を推進していく。我々は,情報通信技術の促進・利用とインターネット接続の改善を通じ,開発のペースを上げる大きな潜在力が存在すると認識している。

8 こうした課題に取り組むため,2017年,我々は,「APECインターネット及びデジタル経済に関するロードマップ」の採択を歓迎した。デジタル技術の急速な発展及び我々エコノミーへの広範な影響にかんがみ,同ロードマップの実施は,これまでになく喫緊となっている。したがって,我々は,「デジタル経済に関するAPEC行動アジェンダ(附属書A)」を承認し,2019年から同アジェンダを実施し始めるよう実務者に指示する。我々はまた,これらの課題への対処が多層的なアプローチを要することを認識し,デジタル経済の課題に関する,特にWTOを含む他のフォーラとの作業,とりわけ電子商取引に関する議論などを歓迎する。ロードマップの実施のため,我々は,民間セクター及びその他の利害関係者と緊密に協力するようエコノミーに奨励する。

II.ボゴール目標の進捗

9 ボゴール目標を達成するためには,我々が取組を急ぐことが必須である。我々は,エコノミーに対し,2020年の期限までに,各々の個別行動計画の下で最大限の進展を図るよう求める。さらに我々は,エコノミーが,地域における貿易を,自由,公正かつ開かれた形で,また,無差別で相互に有利になるような貿易・投資の各種枠組を支える形で推進するよう求める。

III.ポスト2020ビジョン

10 我々は,APECエコノミーと人々にとっての21世紀の課題と機会にAPECがより良く対処できるような,戦略的で,前向きで,野心的なAPECのポスト2020ビジョンを策定するとのコミットメントを繰り返し表明する。このビジョンは,過去の実績の上に立脚し,未完の業務に取り組み,今後数十年間に新たに生起する課題や差し迫った問題により良く対応するための新たな協力分野を模索するものになるだろう。我々は,ポスト2020ビジョンに関する議論を歓迎し,APECビジョン・グループ(AVG)で進行中の作業の進捗に留意する。

IV.連結性の向上,地域経済統合の深化

連結性の向上

11 本日,我々は,物理的に太平洋をアジアに繋ぐ,地域における唯一のAPECエコノミーであるパプアニューギニアに集まり,2025年までに継ぎ目なくかつ包括的に連結・統合されたアジア太平洋を打ち立てることを目指す「APEC連結性ブループリント」を実施するとのコミットメントを再確認する。我々は,APECにおける質の高いインフラのイニシアティブの進展を歓迎する。我々は,小地域,遠隔地の連結性及び地方・都市開発を含め,連結性に関して進展中の作業におけるすべての既往のコミットメントを追求することにコミットするとともに,将来的な協力分野を特定していく。

12 我々は,政策・規制面の協力と一貫性,貿易円滑化,人と人との交流,スマートな政策及び人の越境移動を通じて,APECエコノミーと人々を互いにより近づけることにコミットする。我々は,ICTインフラにつき,より良い地域ネットワークを構築することを決意する。

地域経済統合の深化

13 我々は,APECの地域経済統合アジェンダの重要性を繰り返し強調する。我々は,アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に関するリマ宣言の実施に係るこれまでの進捗を歓迎し,APECエコノミーが,将来,質が高く包括的な自由貿易協定に参加する能力を高めるために,エコノミーが特定した諸問題について更なる進展を求める。我々は,実務者に対し,2020年に進捗を報告するよう指示する。

14 我々は,付加価値貿易(TiVA)に関する統計の整備に係る目下の進捗を歓迎する。この協力は,エコノミーがグローバルな生産ネットワークに関する理解を深める一助となるツールを提供するだろう。

15 我々は,2025年までにサービス分野でのAPECの競争力を高めるための更なる行動をとり,我々のビジネスが障壁に対処し,サービス市場で競争し,貿易できるようなサービス貿易を促進する取組を強化することにコミットする。

世界貿易機関(WTO)

16 我々は,自由で開かれた市場の達成に向けた取組の重要性及び人々に繁栄をもたらす上での国際的な貿易・投資の重要性を認識する。我々は,持続可能で,グローバルな経済成長の達成及び我々エコノミーでの雇用の創出における貿易自由化及び円滑化の重要性を改めて認識する。我々は,この目標に向けて,多角的貿易体制がこれまでに行ってきた貢献を認識する。我々は,加盟メンバー間で合意したルールに基づき,漸進的な貿易自由化に向けた,透明性があり無差別な枠組みを提供する,良く機能する世界貿易機関(WTO)のあり方を支持する。

17 我々は,WTOの機能の改善及びそれがすべての加盟国に裨益するために,WTOの交渉,履行監視及び紛争解決の各機能を改善すべく協働することにコミットする。我々は,WTOがその取組を進めるべくAPECエコノミーがWTOへの参画を拡充するよう奨励する。

V.持続可能で包摂的な成長の推進

18 我々は,民間セクターと協力しながら、人々に裨益し,生活水準を引き上げ,人々を貧困から救い出し,持続可能な形で資源を利用・開発する,持続可能で包摂的な成長を推進していくという我々のコミットメントを改めて確認する。APECは,経済が我々の社会や環境と相互に繋がっていることを認識しつつ,地域の持続可能性及び包摂性を推し進め,また,経済的な繁栄及び豊かさ(ウェル・ビーイング)を我々の考慮の中核に据えるための自らの取組を進める中で,包括的なアプローチを採るべきである。この関連で,我々は,APECの各種イニシアティブを通じ,経済的・金融的・社会的な包摂を促進するAPECのアジェンダへのコミットメントを改めて確認する。これらイニシアティブは,個別エコノミーや持続可能な開発に関する2030アジェンダなどのその他の枠組みにおける取組を補完し,また,それらと整合的な関係にある。

19 APEC地域における持続可能な経済成長を支える上で,エネルギー安全保障が極めて重要であることを認識し,我々は,エネルギー関連の貿易・投資を促進し,エネルギー強度を減少させ,エネルギー分野の途絶を避けるべくエネルギー強靱性を高め,効率的でクリーンなエネルギー源の展開を拡大することにより,クリーンで高度な化石燃料及び技術を含む,安価で,持続可能で,信頼でき,かつクリーンなエネルギーへのアクセスを向上させることにコミットする。

20 我々は,包摂的な成長を推し進める取組の一環として,中小・小規模企業(MSMEs)のビジネス環境改善が非常に重要であることを強調する。

21 我々は,女性及び女児の経済的エンパワーメントの重要性を強調する。我々は,男女間のデジタル・デバイド及びジェンダー間の賃金格差を埋め,それにより,女性及び女児がその可能性を十全に開花させるための機会を増やすとともに,デジタル経済により多く参加できるようにすることの必要性を強調する。この関連で,我々は,デジタル時代における人材育成に関するAPECの取組を実施するための更なるイニシアティブを歓迎する。我々は,持続可能な開発,経済成長及びジェンダー平等を達成する手段のひとつとして,女性及び女児の完全な活躍を更に促進することの重要性を認識する。

22 我々は,地域の包括的で持続可能な経済成長を可能とする科学・技術及びイノベーションの重要性を認識する。

VI.構造改革を通じた包摂的成長の強化

23 我々は,包摂的で,革新的かつ質の高い経済成長を強化する原動力のひとつとして,構造改革が極めて重要であることを認識する。構造改革に効果的で包括的なアプローチをとることで,市場は機能を改善し,すべての社会階層が市場により深く参加することが可能となり,また,我々のより広範なAPECの目標も前に進む。競争政策の強化,非関税障壁の除去及びビジネス環境を促進する手段を含む規制環境の改善は,国境を越えた貿易・金融・投資を増大させ,イノベーションを喚起し,また,画期的な技術の創出を支援する。我々は,構造改革とインフラに関する取組を歓迎し,実務者に対し,2019年には,構造改革とデジタル経済について作業するよう奨励する。

24 我々は,公共及び民間部門における公正性を向上するとのコミットメントを改めて確認する。我々は,腐敗と闘うと共にそれを防止し,透明性及び良い統治を推進し,法の支配を強化する我々の取組の重要性を認識する。

25 我々は,APEC財務大臣プロセスの成果,とりわけ財務大臣共同声明を歓迎するとともに,インフラ開発・金融の加速,金融包摂の推進,国際的な税の協力及び透明性の促進,災害リスク金融・保険の更なる整備に係る進捗を歓迎する。

VII.この先に向けて

26 「エラ・コネ宣言」の下,我々はここに,人々が包摂的機会を活用し,デジタル化された未来の恩恵に浴することができるよう,上記行動を進めることにコミットする。地域及び世界の経済成長の主要な原動力としてのAPECを維持すべく,更なる行動を実行することにコミットし,最も切迫した経済問題に対処する上でのAPECのグローバルなリーダーシップを強化していく。

27 この歴史的な機会に,我々は,本年パプアニューギニアがAPECを初めて主催し,インターネット及びデジタル経済並びにAPECのポスト2020ビジョンに関する将来的な取組を大いに促進する上で,リーダーシップを発揮したことに祝意を表する。

28 我々は,APECビジネス諮問委員会(ABAC)による継続した協力,助言及び支援に感謝する。

29 我々は,2019年にチリで再会することを楽しみにしている。

附属書:

附属書A‐デジタル経済に関するAPEC行動アジェンダ