データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC チリ 2019,ホストエコノミー首脳(注:チリ大統領)による声明「人々をつなぎ,未来を構築する」

[場所] 
[年月日] 2019年12月7日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1 我々の会議が開催されない中,またチリ政府が,チリの人々の社会的要請への対処に十分に専念することが必要な不測の事態のため,この声明は,重要なイニシアティブ,成果物並びにチリ全土において開催された数多くの会議,ワークショップ及びイベントを含む,2019年APECに関する私の考えを表したものである。この声明は,貿易,食料安全保障,中小企業,女性と経済及び金融に関する分野別閣僚会合,並びに鉱業及び保健に関するそれぞれのハイレベル対話の成果を補完する。

2 本年,我々はAPECの30周年を祝った。我々は,自主的に,非拘束的に,かつコンセンサスに基づき協力する多様なエコノミーの集まりである。これにより,我々は,信頼を築くこと,相互理解を深めること及び新たなアイディアを生み出すことが可能となる。APECは,1994年にインドネシアのボゴールで合意された,アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易・投資という中心的な目標に向けて大きく前進した。我々の努力は,地域の成長が均衡ある,包摂的で,持続可能で,革新的で安全であることを確保することを目指している。協働しながら,我々は,我々の経済とルールに基づく国際貿易を強化する。

3 人々のニーズが進化しつつあることを認識する一方で,我々はAPECの成果を誇ることができる。デジタル技術や知識情報社会を通じたものを含め,新たな展望が生まれつつある。同時に,我々は,不平等,気候変動,テロ及び人口高齢化等の多様な地球規模の課題により効果的に対応しなければならない。チリは,APECのような多国間及び地域フォーラが,包摂的かつ持続可能な解決策を提供し,人々に新たな機会を創出することができると確信している。

4 2019年に,APECの全ての委員会や作業部会にわたって重要な進展が成し遂げられた。「人々をつなぎ,未来を構築する」のテーマの下,APECは,取組の中心に人々を据えることを決意した。この理由から,2019年におけるチリの優先事項は,デジタル社会,統合4.0,女性,中小企業及び包摂的な成長,持続可能な成長であった。

5 チリは,女性と包摂的成長のためのラ・セレナ・ロードマップの完成のために取り組んだ全てのAPECエコノミーに感謝する。このロードマップは,経済的包摂に関するより広範な焦点の一部として,経済における女性の役割を包括的に優先し,促進することの喫緊の必要性を認識する。我々は,データの収集及び分析に重点を置きつつ,既存の障壁に対処し,資本,市場及び指導的地位へのアクセスを向上させ,女性の教育を支援するイニシアティブを積極的に促進することにより,APECがこのロードマップを実施することを奨励する。

6 チリはまた,海洋ごみに対処し,違法・無報告・無規制(IUU)漁業と戦うためのそれぞれの新たなAPECロードマップがコンセンサスに至ったことを感謝する。これらは,アジア太平洋地域における生態系及び生物多様性の長期的な保護並びに天然資源の持続可能な利用に向けた我々のコミットメントの証である。我々がこれから数年のうちにとる行動は,我々の地域の食料安全保障及び将来の世代の繁栄のために重要となる。

7 世界のインターネット利用者の約半分がアジア太平洋に居住している。デジタル経済は,我々全ての人々の利益のために,貿易,投資,連結性及び包摂的な経済成長を促進することができる。我々は,デジタル経済運営グループ(DESG)の設立が,

APECが,アジア太平洋地域が引き続き世界経済のエンジンであり続けることを確保しつつ,これらの機会を受け入れ,リスクを管理することを手助けすることができる適切な枠組みに関して協働するためのプラットフォームであり続けることを確保するものであると確信している。

8 本年,APECは,ビジネスの機会を制限する,国境における及び国内の構造的及び規制上の障壁に対処し続けてきた。透明性を高め,ビジネスをしやすい環境を創り出し,また腐敗と戦うために協働することにより,APECは,我々のビジネスのために競争的,無差別,かつ開かれた市場を支援する。

9 チリはまた,スマートな貿易,国境及び物流とともに,貿易円滑化及びグローバル・バリューチェーンにおける成果を前進させる取組を主導した。APECの作業は,零細・中小企業及びスタートアップ企業がグローバル化し,新たなデジタル技術を活用し,資金調達にアクセスすることができるようになることを優先し続けるべきである。

10 国際貿易は,生産性,イノベーション,雇用創出及び発展のために重要である。2019年に我々の閣僚は,WTOがこれまでに果たしてきた貢献を認識し,APECがジュネーブでの作業を支援し得る,実践的かつ具体的な方法を特定するよう実務者に要請した。チリは,APECエコノミーが,上級委員会の委員任命プロセスを勧告するという喫緊の課題をはじめ,WTOの必要な改革を追求するために,共に,またWTOの他のメンバーと協働することを求める。

11 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)は,重要で野心的な目標であり続け,APECは21世紀における貿易を支援するFTAAPの作業を包括的に追求すべきである。FTAAPは,質の高い包括的な貿易協定に参加するための我々の総体としての能力を強化する,APECの数多くの能力構築の取組のための枠組みとしての役割を果たす。

12 APECは,ABACを含む,社会の全ての部門から受けとるフィードバックにより,更に豊かになる。我々の作業が,人々,特に若い世代にとって引き続き目的を有し,関連性を有するものとするため,零細・中小企業,学界及び市民社会を関与させる更なる努力が必要である。

13 我々は大幅な進展を遂げてきたが,我々が共同でできることはまだ多くある。我々は,来年の会合において,2020年以降の新たなビジョンにコミットする。このビジョンは,ボゴール目標の未完の作業に基づき,包摂的かつ持続可能な地域経済協力への我々の高いレベルの野心を維持することとなる。この目的のために,我々は,APECビジョン・グループが作成した最終報告書「人々と繁栄:2040年に向けたAPECビジョン」を評価する。

14 我々は,2020年11月のマレーシアのクアラルンプールでの次回会合を楽しみにしている。