データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 女性と包摂的成長のためのラ・セレナ・ロードマップ 2019-2030

[場所] 仮訳
[年月日] 2019年12月7日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

I. 序文

APECは過去20年以上にわたり、アジア太平洋地域における女性の経済参画を進展させるために活動してきた。2011年、APEC首脳は、APECエコノミーが女性の可能性を最大限に引き出すための具体的な行動をとることを奨励した

「女性と経済に関するサンフランシスコ宣言」を歓迎した。APECの取組は、女性の資本と資産、市場、技能・能力構築、リーダーシップと発言権と行為主体性、イノベーションと技術へのアクセス強化を通じた女性の参画とエンパワーメントに焦点を当ててきた。

しかし、多様な背景を持つ女性たちは依然として、例えば,融資や資本にアクセスするとき、正公式な労働市場に参加するとき、就職や定着、昇進を目指すときに,男性に比べて多数の不均衡な経済的エンパワーメントの障壁に直面している。

これに鑑み、2019年、チリはAPECの取組の新たな推進力とするべく「女性、中小企業及び包摂的成長」を優先課題とした。我々は本ロードマップで具体的な方向性を示し、アジア太平洋地域でより包摂的な経済発展と女性の参画を促す政策行動の促進をAPEC全体で目指す。

II. ロードマップ

本ロードマップは、情報共有や能力構築など、APECのこれまでの広範な活動をもとに策定したものである。我々は、フォーラ横断的な協力、及びAPECビジネス諮問委員会(ABAC)などのステークホルダーとの連携を強化することを奨励する。

あらゆる背景を持つ女性について、その経済的エンパワーメントを制限する制度的な障壁を特定し、これに対処するため、また女性の経済的可能性を最大限に引き出せるようにするために、性別に基づき細分化されたデータの収集、分析、周知、利用を奨励する。

本ロードマップは、全ての人に果たすべき役割があることを認識した上で、包摂的な成長に貢献し、やりがいのある人間らしい仕事への参加を促し、経済発展の格差を縮小し、地方や遠隔地の開発を進め、その結果、生活水準を向上させ、貧困を減少させる。本ロードマップは、持続可能な開発のための2030アジェンダに従い、ジェンダー平等及び女性と女児の経済的エンパワーメントの実現に貢献する。

III. 主要活動領域

本ロードマップは、下記に示す分野横断的な主要領域における行動を促進することを目指している。また我々の取組全体の支援となり得る主要活動領域の追加を妨げない。

A. 資本と市場へのアクセスを通じた女性のエンパワーメント

・ 多様な背景を持つ女性を含む女性及び女性が経営する零細・中小企業(MSME)が、国内外の資本及び資産にアクセスできるようにするための公的及び民間部門の協力を推進・支援する。

・ 女性が所有するMSMEや女性が経営するMSMEがグローバル・バリュー・チェーンに参加できるよう、その能力を強化する。

・ 人脈形成、メンタリング、各種コア技能の中でも特にデジタル技能構築のための能力構築の活動と機会を提供することによって、女性のビジネス能力を向上させ、デジタル経済やイノベーションへの女性の参加を促進する。

・ 国内市場、地域市場、グローバル市場への女性の参加を効果的に向上できる経験やベストプラクティスを交換する。

B. 女性の労働参加の強化

・ 政策、法令、規制、実務における障壁を削減して保護を強化するなど、女性が経済参加できる環境をつくるための、構造改革を始めとする各種施策を実施する。

・ 特に、高賃金、高成長部門を中心に、あらゆる部門において、女性人材の募集、採用、定着、昇進を推進する。

・ 女性が労働市場に留まり、昇進を続けられるような包摂的な政策、柔軟な労働条件、機会、選択肢を整備する。また、ワーク・ライフ・バランスや共同責任という、男女双方にとっての目標を支援する。

・ 女性の非公式経済から公式経済への転換を推進する。また無報酬労働を認識・測定するための戦略の策定を推進する。

・ ジェンダー賃金格差を縮小するための政策、差別のない質の高い雇用や、やりがいのある人間らしい仕事への女性のアクセスを地方と都市部の双方で向上させる政策を支援する。

・ 労働市場、ビジネス、起業において、健康に関連する女性特有の障壁に対処するため、職場での保護や健康、安全を向上させる施策をとったり、健康へのアクセス整備や意識啓発を行ったりする。

・ 職場におけるジェンダーに基づく暴力や差別を防止し、これに対応するための取組や戦略を積極的に奨励する。

C. 全ての意思決定レベルにおける指導的地位への女性のアクセス改善

・ 民間及び公的部門ともに、あらゆるレベルの指導的立場や意思決定過程における女性の割合を増加させる。そのために、ロールモデルの促進、能力構築、メンター制度の促進といった施策を特に積極推進する。

・ ジェンダー平等並びに女性のエンパワーメント及び多様性を経営戦略の一環として積極的に支援する環境の構築を促進し、可能にする。

・ 公的及び民間部門のさまざまなレベルの指導的立場における女性の割合に関するデータを収集、更新、公表する。

D. 変化する仕事の世界における女性の教育、訓練、技能開発及びアクセスへの支援

・ 教育、訓練、技能開発における固定的性別役割分担意識に対抗する。

・ 基礎的教育を提供するとともに、教育、訓練、技能向上、技能再習得を通じて生涯にわたる学習を支援し、それによって女性の経済的エンパワーメントを高める。

・ 科学・技術・工学・数学(STEM)分野の教育及び職業への女性と女児の参加・定着を強化するため、これを阻む障壁に対処する。

・ 女性と女児、特に、先住民の女性、貧困状態にある女性、障がいのある女性、遠隔地や地方在住の女性の、情報通信技術、学習機会、デジタル技能の構築・訓練へのアクセスを促す。

・ ジェンダーによるデジタルデバイドを解消するため、データやベストプラクティスの共有と利用を強化する。

・ オンライン上でのいじめ、技術によって容易になった虐待やハラスメントを含め、女性や女児に対する暴力、虐待、ハラスメントを防ぐための取組や戦略を推奨する。

E. データの収集・分析を通じた女性の経済的エンパワーメントの促進

・ より良質な、性別に基づき細分化された統計を生成、収集、分析、周知するため、公的及び民間部門における統計能力と、両部門の協力を強化する。

・ ジェンダー平等に関わる長期的な変化を全ての女性集団において測定するため、適宜、性別に基づき細分化されたデータの収集、更新、公表を行う。

・ 政策や制度の開発・強化に際して性別に基づき細分化されたデータの活用を促進する。

IV. 目標

我々は、APEC地域が上記の主要活動領域の全てにおいて確実に前進するよう努め、2030年までに以下の点を目指して努力する。

 i. 雇用へのアクセス、雇用機会、雇用条件における性別に基づく差別を禁止するための法令、政策、規制を整備する。

 ii. 男女が平等に資金調達や融資を受けられるよう、差別のない法令、政策、規制を整備する。

 iii. アジア太平洋地域のSTEM分野の高等教育卒業生及び研究開発職におけるジェンダーバランスを改善する。

 iv. アジア太平洋地域で指導的立場にある人のジェンダーバランスを改善し、男女格差を解消する。

APEC女性と経済ダッシュボードは、本分野の進捗評価について、アジア太平洋地域を支援することができる。我々は、地域の目標達成に対する各エコノミーの貢献は、それぞれ個別の社会的、経済的、政治的、法的状況によることを認識している。具体的な行動を通じたこうした取組をもとに、我々の今後の活動が強化されることを期待している。

V. ロードマップの実施

ロードマップに基づく進捗のモニタリングと評価の包括的な責務を高級実務者に課す。また、進捗をモニタリング、検証、報告するためのプロセス構築を視野に入れ、ロードマップ実施計画を2020年に策定するよう、APEC女性と経済の政策パートナーシップ(PPWE)に指示する。APECの全てのフォーラ、ABAC、その他関連するステークホルダーとの密接な協力を奨励する。