データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC 海洋ごみロードマップ

[場所] 
[年月日] 2019年12月7日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 海洋環境におけるプラスチックごみを含む海洋ごみは,協力的対処が必要な,ますます増大化する地球規模課題である。海洋ごみ問題の深刻さはAPEC域内で特に喫緊であり,アジア太平洋における持続可能な経済成長への阻害を緩和するために,海洋ごみの影響と代償を理解し,必要な管理と予防の手法を開発するための取組を推進するための戦略的立場にある地域フォーラムとしてのAPECの重要性を強調している。

Ⅰ.背景

 2014年の中国の厦門でのAPEC海洋担当大臣会合において,厦門宣言は,より統合され,持続可能で,包摂的で,かつ互恵的な連携を求め,陸域を発生源とするものを含む海洋汚染の削減と緩和の協力を奨励した。

 厦門宣言実施のために,海洋漁業作業部会(OFWG)と海洋ごみのバーチャル作業部会はいくつかの重要なイニシアティブを取り入れた,海洋ごみに関する強力な作業プログラムを有してきた。2018年には,OFWGは,このロードマップの土台となった韓国提案の「APEC海洋ごみ管理ガイドラインに関する草案のためのワークショップの提言」を承認した。APECの枠組みの下での近年のAPECエコノミーによる数多くの共同の取組に基づいて,APEC海洋ごみロードマップはAPECの作業を支援することを意図している。

II.ビジョン

 本文書は,総体的かつ協調的なビジョン及び高いレベルで承認された長期的戦略の差し迫った必要性を認識し,メンバーエコノミーがそれぞれの国内状況を考慮しつつ自主的で具体的な措置を講じることを奨励することを目的とする。APECは,海洋ごみがグローバルで多分野にわたる課題であることをより認識し,科学的根拠や域内の取組からの教訓に基づいて,次の各分野を通してこの喫緊の課題の対処に大きく貢献するために行動を取る。

・ 全ての関連するフォーラムや機関において,地域協力から地方政府までの全てのレベルでの政策策定と調整の推進によるAPECの統合的アプローチの奨励。

・ 海洋ごみのモニタリング,抑制及び削減のための新しい方法論と解決策の開発と改善のための研究とイノベーションの促進。

・ ベストプラクティスと教訓の共有及び協力の強化の推進。

・ 海洋ごみ管理及び予防を可能にする産業と活動における投資,貿易及び市場創出を促進するために,金融へのアクセスの向上と,民間部門の関与の促進。

III.ガイドライン

 APECエコノミーが多様な政策目的及び優先事項並びに国内法規制を有することを考慮して,政策及びプログラムの策定並びにAPECエコノミー間での調整はコンセンサス,非拘束性,自主的参加,協力及び柔軟性というAPEC原則に基づくべきである。

1.政策策定と調整

・ 海洋ごみに関する国際的,地域的,国内的な既存の行動計画と枠組みを考慮しつつ,効果的な措置を特定し,共有する。他の国際的,地域的,準地域的なフォーラムや組織と互恵的な協力を促進する。

・ 海洋ごみと戦い,管理するための調整された包括的なアプローチを奨励するために,関連するAPEC作業部会間の対話の仕組みを確立する。

・ 関連する民間部門及び市民社会組織との連携を強化する。

・ 廃棄物管理インフラの財政格差に対処するために,エコノミーが「廃棄物管理システム及び海洋ごみ削減への融資の障壁を克服するためのAPECの政策と実践の提言」に基づいて行動し,適用することを奨励する。

・ APECエコノミーが海洋ごみと廃棄物管理に関する国内機関間の政策調整枠組みを促進することを奨励する。

・ 政府の全てのレベルで持続可能な廃棄物管理と陸域及び海域を発生源とする廃棄物の漏出の削減と予防を促進し,成功した経験とモデルを拡大する。

・ 政策策定のために利用可能な科学的情報の利用を奨励する。

2.能力構築

・ プラスチック廃棄物の放出を削減するために,マクロ及びマイクロプラスチック監視の方法論の調和と利用可能な最良の技術(BAT)においてフォーラ横断的な協力を検討する。

・ APECの枠組みにおけるメンバーエコノミーのイニシアティブとAPEC域内の他の類似するイニシアティブを相互補完的に促進する。

・ 消費者意識に関する活動と教育を奨励する。

3.研究とイノベーション

・ 環境的に持続可能な代替物質やスタートアップのインキュベーターのような,海洋ごみの革新的な解決策の研究開発と実施を促進する。

・ 海洋ごみの政策的要因を特定する研究を促進し,革新的な解決策の策定と実施を促進する。

・ 海洋ごみが沿岸の生態系(マングローブ,海藻,サンゴなど)と海洋環境に与える影響を査定するために,研究を支援し,知識の共有を促進する。

・ 環境的に持続可能な廃棄物処理と管理に関する研究を奨励する。

・ 海洋ごみの陸地及び海洋での流出源,流出経路,ライフサイクル及び人間の健康に与える潜在的な影響を含む影響に関する研究を支援する。

4.金融および民間部門の関与

・ 投資,生産的な連携の取決め及び成果を増やすために,官民連携(PPP)を奨励し,促進する。

・ 海洋ごみを含む海洋環境の持続可能な管理を支援するために,APECサブファンドの可能性を検討する。

・ プラスチック廃棄物の末端市場を強化し,持続可能な廃棄物管理を推進するために,循環経済又は持続可能な物質管理の手法を適用することを検討する。

・ 国際金融へのアクセスを向上させるために,イノベーションと技術のリスク回避の機会を探求する。

IV.実施

 このロードマップは,随時更新される文書として見られるべきである。このロードマップの目的を達成するために,コンセンサスによる合意によって追加的なAPECの行動を検討しうる。関連するフォーラムとして,OFWGの年間作業計画はロードマップの実施のための活動を含めるべきで,OFWGへの年次経済報告書は国内あるいは域内の海洋ごみ活動に関する情報を含めるべきである。OFWGはロードマップの下での活動と進捗について経済・技術協力運営委員会(SCE)に報告する。必要に応じて,高級実務者は,ベストプラクティスと提言を,広くAPECメンバーエコノミーに共有する。