データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 習近平主席のAPEC第27回首脳会議での演説

[場所] 
[年月日] 2020年11月20日
[出典] 中華人民共和国駐日本国大使館
[備考] 
[全文]

 尊敬するムヒディン首相

 同僚の皆さん

 皆さんとビデオ方式で集うことをうれしく思う。今会議開催の準備のためのムヒディン首相とマレーシア政府の努力に感謝する。

 APEC創設からこの30年余りは世界の枠組みが急速に進化し、グローバル・ガバナンスが深く再編された30年余りで、アジア太平洋地域に天地を覆すような変化が起きた30年余りでもあった。

 この30年余り、APECの協力は絶えず深化し、長足の進展を収めた。われわれはボゴール目標を指針とし、地域経済の統合レベルを絶えず高めてきた。われわれは貿易と投資の自由化、円滑化と経済・技術協力の両輪を一緒に回転させ、優位性の相互補完と均衡のとれた発展の実現に努力している。われわれはオープンな地域主義を呼びかけ、自主・自発、協議一致、柔軟・実務、秩序・漸進の「APEC方式」を模索している。この期間、アジア太平洋地域は2度の金融危機の試練に耐え、10億人余りが貧困から脱し、世界の経済成長の中で最も強じんで、最も活発な集合体となり、開放型世界経済の構築、多角的貿易体制の支持、経済グローバル化のリードで積極的役割を果たした。

 現在、世界とアジア太平洋は深い変化を経験し、新型コロナウイルス肺炎のパンデミック(世界的大流行)がこのすう勢を加速させている。世界経済は低迷に陥り、経済グローバル化が逆風に遭い、一国主義、保護主義が台頭し、公平と効率、成長と分配、技術と雇用などの矛盾が一段と際立ち、貧富の差が依然幅広く存在し、グローバル・ガバナンス体系が新たな挑戦〈試練〉に直面している。アジア太平洋地域はこの数十年間で初めて経済全体がマイナス成長となり、人民の健康維持、経済の回復を実現する任務は大きな困難を伴うものとなっている。アジア太平洋協力の未来への道をどのように歩むかは、地域の発展、人民の福祉、世界の未来に関わるものである。

 今年、APECの重要任務はポスト2020協力ビジョンを開くことで、われわれはアジア太平洋共同体を共に築く目標について合意している。われわれはこれを新たな起点とし、アジア太平洋協力の新たな段階を開き、アジア太平洋地域の強じんな発展の勢いを維持し、アジア太平洋地域の共同繁栄の未来を迎え、開放包摂、革新成長、相互接続〈コネクティビティー〉、協力ウィンウィンのアジア太平洋運命共同体を共に築かなければならない。

 第1、開放・包摂を堅持する。世界経済はわれわれの身近な太平洋のように、多くの川の流れを集め、多くの海とつながり、広く大きな懐を形成し、みなぎる活力を育んでいる。平等処遇を踏まえた協力、相互尊重を踏まえた食い違いの解消がアジア太平洋の経済発展・繁栄の根本である。ひたすら歩んできて、APECは地域経済統合の推進に尽力し、ボゴール目標の実行を軸に長足の進展を収め、また多角的貿易体制の進化けん引で重要な役割を果たした。しかし、自由でオープンな貿易と投資の実現は決して一挙に成し遂げられるものではない。アジア太平洋地域は引き続き先駆けとなり、平和・安定を断固守り、多国間主義を断固守り、開放型世界経済の構築を堅持し、世界貿易機関(WTO)を核心とする多角的貿易体制を揺るぎなく支持し、自由でオープンな貿易と投資を促進し、経済グローバル化をより開放、包摂、恩恵、均衡、ウィンウィンの方向に発展させなければならない。われわれは引き続き地域経済統合を推進し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を早期に完成させなければならない。中国は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)調印を歓迎し、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)加入も前向きに検討する。われわれは自由で開かれた貿易を推進すると同時に経済技術協力でも力を緩めることはできない。われわれはAPECの質の高い成長戦略と包摂行動アジェンダを引き続き実施し、発展途上メンバーの関心に配慮し、特に女性などが直面している特殊な困難に関心を払い、中小零細企業の発展を支援し、包摂と持続可能な成長を促進しなければならない。中国は包摂的貿易・投資シンポジウムを開催し、貿易・投資政策が幅広く人民に恩恵をもたらすことについて提案する。われわれは各国と共に関係の提案を実行に移す用意がある。

 第2、革新〈イノベーション〉成長を堅持する。デジタル経済は世界の未来の発展方向であり、イノベーションはアジア太平洋経済が飛躍するための翼である。われわれは時代のチャンスを主体的に捉え、地域の人的資源が幅広く、技術の基盤がしっかりし、市場の潜在力が大きい特徴を十分生かし、競争の新たな優位性を築き、各国人民のより良い暮らしのため新たな可能性を開かなければならない。われわれはAPECのインターネット・デジタル経済ロードマップを全面的に実行に移し、新技術の普及と運用を促進し、デジタル・インフラ建設を強化し、デジタル格差をなくさなければならない。われわれは経済ガバナンスを整え、開放、公平、公正で差別のないビジネス環境を築く努力をしなければならない。中国は今年、スマートシティープランの研究を進め、スマートシティーの指導原則の策定を進め、アジア太平洋のイノベーション都市発展のモデルを提供する。中国はデジタル技術による防疫と経済回復の経験を各国が共有することを提案し、デジタル・ビジネス環境の最適化を提唱し、市場主体の活力を喚起し、デジタル経済の潜在力を引き出し、アジア太平洋の経済回復に新たな原動力を注入することを呼び掛ける。来年、中国はデジタル貧困削減シンポジウムを開催し、デジタル技術の優位性を生かし、アジア太平洋地域の貧困根絶事業を後押しする。

 第3、相互接続を堅持する。相互接続は地域経済統合の重要な基礎であり、世界連動発展実現の必要条件でもあり、その重要性が新型コロナ感染拡大の背景の下で、一段と際立ってきている。われわれは引き続きAPEC相互接続の青写真を実行に移し、人、モノ、資金、データの安全で秩序ある移動をスムーズにし、アジア太平洋地域の切れ目の無い接続を実現しなければならない。中国はすでにインドネシア、韓国、シンガポールなどのAPECメンバーと新型コロナ感染拡大期の人の移動のための「迅速通路」〈ファストレーン〉を開設した。引き続き人の移動の円滑化ネットワークを築く。われわれは国際的な防疫健康情報の相互認証を進めなければならない。中国は各国と共にモノの流通のための「グリーン通路」〈優先レーン〉設置を積極的かつ適切に推進し、通関効率を高め、詰まっている点を開き、断裂している点をつなげ、国際産業チェーン・供給チェーンの協力プラットフォーム構築を推進し、世界と地域の産業チェーン・供給チェーンの安全でスムーズな運用を維持することを願っている。われわれは各国が発展計画と相互接続イニシアチブの連携を図り、協力体制を形成しなければならない。中国は各国と手を携えて質的に高い「一帯一路」を共に築き、アジア太平洋の相互接続のためのより幅広いプラットフォームを築き、アジア太平洋と世界の経済により強じんな原動力を注入することを願っている。

 第4、協力ウィンウィンを堅持する。アジア太平洋の各メンバーは発展の面で高度に補完し合い、利益が深く融合している。アジア太平洋の経済協力は従来ゼロサムの政治ゲームではなく、互いに成果のある互恵ウィンウィンを図る発展プラットフォームである。マレーシアには「山があれば共に登り、谷があれば共に渡る」ということわざがある。これはまさにアジア太平洋大家庭の精神の神髄である。新型コロナウイルスの感染がわれわれにあらためて教えているように、団結協力してはじめて試練に打ち勝つことができる。われわれは相互信頼、包摂、協力、ウィンウィンのアジア太平洋パートナーシップを深め、共同協議・建設・享受の理念を堅持し、地域協力のレベルを絶えず高め、アジア太平洋協力のパイを大きくし、共同繁栄を実現しなければならない。われわれは協議一致を踏まえ、実務協力を推進し、矛盾と食い違いを適切に処理し、アジア太平洋協力の正しい方向を守り、APECの長期安定運営を図らなければならない。

 新型コロナへの対応が当面の最も差し迫った任務である。われわれはワクチンの研究開発と交流を強化し、努力してワクチンを世界の公共財にし、ワクチンの発展途上国でのアクセシビリティー〈入手可能〉とアフォーダビリティー〈費用負担可能〉を図らなければならない。中国はすでに「COVAXファシリティー」に加入した。中国はAPECが公衆衛生や中小零細企業などの分野の政策交流と能力づくりを強化し、遠隔医療イニシアチブを提起し、貧困・辺境地区人民が迅速かつ有効な医療を受けられるようにし、防疫協力と経済回復を後押しすることを支持する。

 中国はAPECの役割を高度に重視しており、APECの発展を引き続き支持し、常に揺るぎなくアジア太平洋に根ざし、アジア太平洋を建設し、アジア太平洋に幸福をもたらす。

 同僚の皆さん

 今年、中国人民は苦しい卓絶した努力で、新型コロナとの闘争で重大な戦略的成果を収めた。中国は各国と手を携えて協力し、難局を共に乗り越え、世界の防疫のために知恵と力で貢献した。中国は各国と新型コロナ感染予防抑制と治療の経験をあますところなく共有し、他国や国際機関にできる限りの支援を行い、実際の行動で人類衛生健康共同体の構築を促している。われわれは感染予防抑制と経済・社会発展を一体化して進め、マクロ政策対応を強化し、中国経済の着実な前進、段階的向上、絶え間ない高度化を推進している。今年、中国経済は第1~3四半期に前年同期比0・7%の伸びとなり、年間のプラス成長が確実で、特に現行基準での農村貧困人口の全面的貧困脱却が実現する。

 先の第19期中央委員会第5回総会〈19期5中総、今年10月26~29日開催〉で第14次5カ年計画(2021~25年)策定に関する提案を審議、採択し、小康〈ややゆとりのある〉社会全面完成の奮闘目標が予定通り実現することから、来年は近代的社会主義国家を築く新たな征途を開き、新たな発展段階を科学的に捉え、新たな発展の理念を断固貫き、国内大循環を主体とし、国内国際ダブル循環が相互に促進する新たな発展の枠組みを積極的に構築することを打ち出した。中国はより高いレベルの開放型経済新体制を築き、より魅力のある投資・ビジネス環境を築く。

 中国はアジア太平洋各国と共にアジア太平洋の平和で繁栄した美しい未来を共に築き、共有し、人類運命共同体構築の目標に向かって絶えずまい進することを願っている。

 皆さんありがとう。