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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 28回APEC財務大臣会合大臣共同声明

[場所] ニュージーランド・ウェリントン
[年月日] 2021年10月22日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

我々APECエコノミーの財務大臣は、2021年10月22日にニュージーランド副総理兼財務大臣のグラント・ロバートソン議長の下、第28回会合をバーチャルで開催した。

我々は、今ほど各エコノミーが集い、共に取り組むことが重要な時はないとの認識の下、2021年のAPEC優先課題を歓迎する。

我々は、全ての人々と未来の世代の繁栄のために、2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靭かつ平和なアジア太平洋共同体を目指す、プトラジャヤ・ビジョンの実現にコミットする。

我々は、6月にAPECビジネス諮問委員会(ABAC)との対話の機会が設けられたことに感謝する。政策提言を含むABACの財務大臣プロセスへの継続的な貢献により、コロナ禍や長期的課題への企業の対応への支援の政策について、充実した意見交換が可能となった。

回復は始まっている

2020年のAPEC財務大臣会合以降、各エコノミーが世界的な景気停滞から回復するなかで、APEC地域内における経済活動は活発化している。継続的な政策支援やワクチンの普及、各エコノミーでの経済活動の再開がこの回復を支えている。

2021年のAPEC地域内における実質GDP成長率は6%を超えると予測されている。しかし、経済回復はまだ完了しておらず、一部の人々や産業分野が引き続きパンデミックによる不均衡な影響を受けていることから、エコノミー間及び内部での相違が鮮明となっている。

経済回復には引き続き下方リスクが存在する。下方リスクには、新型コロナウイルス感染症の新たな変異株の広がりによるさらなる感染の波や感染抑制策の再導入、ワクチン接種率の不十分さ、さらにはインフレ圧力や新たなサプライチェーンの混乱や供給サイドの制約などの経済的リスクが含まれる。

強固で持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な回復の支援

財政当局、中央銀行及び金融規制当局は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響に対応するため、引き続き実質的で革新的な政策対応を講じる。我々は、それぞれの状況に応じて、前例のない財政・金融政策の措置を講じてきた。我々は、パンデミックによる社会経済的な影響の軽減や回復における経験を共有し、共有をし続けるとともに、必要に応じて秩序だったエコノミー間の協力を促す。

我々は、新型コロナウイルス感染症の負の影響に対処し、強固で持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な回復を支援するため、エコノミー毎の状況に応じて、利用可能なあらゆる政策手段を用いる決意である。これには、支援措置の時期尚早な引き揚げを避けること、最も影響を受けているセクターや労働者に的を絞った支援を提供すること、危機によるインパクトが最も大きいグループが受ける経済的・社会的影響に対処することが含まれる。我々は、長期的な持続可能性を維持し、下方リスクや負の波及効果を防ぎつつ、マクロ経済や金融の安定を維持するよう努める。我々は、長期的かつグローバルな流動性のニーズに対応し、脆弱なエコノミーに対し、より強靭で包摂的で、かつ持続的な経済回復や保健関連支出に対する資金調達を支援するための、国際通貨基金(IMF)による特別引出権(SDR)の新規一般配分を歓迎する。我々は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジという共通の目標に向けて前進するよう、全ての人々が医療保健システムに安全かつ公平にアクセスでき、現在や将来のショックに対処する強靭性を有することを確実なものとするために努力しなければならない。

強固なファンダメンタルズや健全な政策は、国際通貨システムの安定に不可欠である。我々は、為替レートが根底にある経済のファンダメンタルズを反映することに引き続きコミットし、また、為替レートの柔軟性は経済の調整を円滑化しうることに留意する。我々は、為替レートの過度な変動や無秩序な動きが、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを認識する。我々は、競争的切下げを回避し、競争のために為替レートを目標としない。

我々は、安全で、効果的で、品質が保証され、かつ手頃な新型コロナウイルス感染症ワクチンへの公平なアクセスを促進することによってのみ、この保健および経済の緊急事態を克服することができる。我々は、新型コロナウイルス感染症の広範な免疫付与が果たす国際公共財としての役割を認識している。そのために、新型コロナウイルス感染症ワクチンの製造・供給の拡大のための取組を強化し、世界的なワクチンの共有化の取組を支援し、相互の同意に基づくワクチン製造技術の自発的な移転を奨励する。

我々は、域内の強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長を促進し、達成するため、各エコノミーにおいてマクロ経済、構造、貿易、投資の各政策が果たす相互補完的な役割を強調する。

我々は、構造改革担当大臣らが最近承認した「構造改革のための強化されたAPECアジェンダ(EAASR)」を歓迎する。我々は、新型コロナウイルス感染症ワクチンのサプライチェーン及び必需品の物流を支援するサービスに関する声明を含む、6月5日の貿易担当大臣会合共同声明の成果を再確認する。我々は、このような困難な時期に経済回復を推進するために、WTOを中心とした、自由で、開かれた、公正で、無差別的で、透明性のある、かつ予見可能な貿易・投資環境の重要性に改めて言及する。

我々は、パンデミック下において、金融サービスへのデジタル技術の導入が加速していることを認識する。我々は、金融サービスを提供するためのよりアクセス可能で手頃な手段を提供することにより、経済活動を維持し、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる脆弱なセクターへの影響を緩和する上でのデジタル技術の役割を認識する。我々は、域内の強靱で包摂的な回復に向けた取組を支援するため、デジタル・トランスフォーメーションを推進するイニシアティブを奨励する。

財政及び予算政策と長年の課題への取組

財政政策とそれを支える予算制度は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響に対応し、雇用と生活を維持し、必要な公共サービスに支出し、弱者を支援する上で重要な役割を果たしてきた。新型コロナウイルス感染症による危機が依然として収束に至らず、回復も完全ではないため、財政政策は長期的な財政の持続可能性を確保しつつ経済回復を維持するために慎重に調整されなければならない。

我々は、短期的な安定化と長期的な財政の持続可能性という双方の目的を確保するような、信頼性及び透明性のある財政政策及び枠組みの重要性がパンデミックにより強調されたことに合意する。これらの目的は、時間の経過とともに変化しうるものであり、変化する状況やニーズに財政の信頼性を損なうことなく対応するため、枠組みは十分に柔軟である必要がある。我々は、健全な公共財政の管理の促進にあたっての、国際金融機関による取組の重要性を認識する。我々は、公的及び民間の債務者及び債権者による協働を通じた債務の透明性の促進の重要性を認識する。我々は、債務データの質と一貫性を強化し、債務の情報開示を強化する上でさらに進展が見られることを期待する。

我々は、予算制度が、金額に見合った価値を提供し、効率的、効果的、かつ透明性のある支出の配分を行う、といった、優れた要素と強固な評価メカニズムを有することの重要性を認識する。我々は、いくつかのエコノミーにおける、成果に焦点を当てた予算枠組みの進展について議論し、これを歓迎した。

我々は、「財政政策対話」に関する報告書及び「APECにおける予算編成」に関する報告書を歓迎するとともに、互いの経験やイノベーション、国際機関の分析の取組から引き続き学ぶことを期待する。

我々は、長年にわたる構造的な課題や移行に対処しつつ、回復が持続可能なものとなるよう取り組むことにコミットする。これには、デジタル化その他のテクノロジーを活用して、生産性の促進、包摂性及び健全性の向上、将来のショックに対する強靭性の構築、気候変動への対応が含まれる。パンデミックの影響により、行動の緊急性はさらに高まっている。

我々は財務大臣として、目の前の課題に対応するために必要な政策や手段を立案し、拠出するという重要な役割を担う。我々は、適切な時期に財政状況を再建する一方で、これらの課題を克服し、回復を支援するために、支出及び租税政策を我々の政策目標と一致させることの重要性について議論した。

我々は、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」を推進するために、経済委員会その他のAPECの委員会との協力を奨励する。我々は、2022年の年次報告書の議題である「構造改革と経済的打撃からのグリーンリカバリー」を歓迎する。この報告書を通じて、各エコノミーは、情報共有を行い、グリーンに関する政策アプローチを比較し、地域が温室効果ガスの排出量が少ない未来へと移行することを支援することができる。

我々は、我々が拠出する資金によってこの移行を支援し、民間セクターとのパートナーシップを含む、より革新的な資金調達方法の開発を支援することの重要性に留意する。

我々は、パンデミック後の回復、構造転換、地域統合を促進する上で、質の高いインフラ開発及び投資、持続可能な資金調達の重要性を強調する。我々は、これを支援するため、長期的な資金を動員し、民間セクターの関与を促進するための手段を模索することを奨励する。我々は、2025年までのAPEC連結性ブループリントの実施を継続する。

我々は、中小零細企業(MSMEs)、女性、未活用の経済的潜在力を有するその他の人々を支援するイニシアティブを奨励する。この点に関して、我々は、先住民族の経済的潜在力を開花させるためのAPECの最近のイニシアティブに留意する。我々は、「女性と包摂的成長のためのラ・セレナ・ロードマップ」をAPECの各議題において実行するための進行中の取組を強く支持する。

我々は、困っている人々に必要なエネルギー・サービスを提供することの重要性を認識しつつ、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し、段階的に廃止するというAPECのこれまでのコミットメントを想起する。我々は、この点に関して更なる進展を求める、貿易担当大臣による最近のコンセンサスを認識する。

セブ行動計画(CAP)の更新・実施

我々は、セブ行動計画のロードマップ及び実施に係る戦略を見直した。我々は、金融統合の促進、財政改革・透明性の促進、金融強靭性の向上、インフラ開発とファイナンスの促進を図るセブ行動計画のハイレベルな目標を確認する。我々は、APECプトラジャヤ・ビジョン2040の実現に向けてセブ行動計画が担い得る役割を留意する。

我々は、セブ行動計画の実施に係る新戦略(別添A)を承認する。我々は、国際機関からの支援を得て、エコノミーによる施策と成果物の早い段階での特定を促すとともに、共通の関心分野での連携も促す。我々は2023年及び2025年における実施報告を歓迎する。

その他の分野

我々は、現在及び将来の災害やショックを軽減し、それらに対応するための実用的なリソースとスキームに関する災害リスクファイナンス・保険(DRFI)に係る継続的な取組を歓迎する。これには、キャットボンド(大災害債券)やパンデミック・リスクへの対応手法に関して進行中の議論が含まれる。我々は、APEC地域内の様々なDRFIプロジェクト間の緊密な連携を奨励する。

我々は、APEC地域内における税の透明性確保、租税回避及び税源浸食への対処を促進する我々のコミットメントを強く確認する。我々は、本年10月8日のOECD/G20のBEPS包摂的枠組みによる、より安定的かつ公正な国際課税制度に係る歴史的な合意を歓迎する。我々は、多国籍企業の利益再配分と効果的なグローバル・ミニマム課税に関する二つの柱によるアプローチに関する残りの技術的な作業を最終確定させるための実施計画に含まれる野心的なタイムラインを認識し、2023年に実施されることを期待する。

我々は、危機から回復にかけてのメンバーの経済対応を支え、また、長期的な課題に取り組む、国際機関及び国際金融機関による努力を歓迎する。

我々は、アジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行グループ(WBG)及びABACのAPEC財務大臣プロセスに対する継続的な支援に感謝する。我々は、アジア太平洋金融フォーラム(APFF)、アジア太平洋金融包摂フォーラム(APFIF)及びアジア太平洋インフラ・パートナーシップ(APIP)の官民連携の進捗を歓迎する。我々のイニシアティブを実行する上での、彼らの継続的な貢献を奨励する。

我々は本年のAPEC財務大臣プロセスのホストを務めたニュージーランドに感謝する。我々は2022年にタイの議長の下、再会することを楽しみにしている。

我々は、将来の課題に立ち向かうにあたり団結する。

共に参加し、共に取り組み、共に成長する。