データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2022年APEC貿易担当大臣議長声明の概要

[場所] 
[年月日] 2022年5月23日
[出典] 経済産業省
[備考] 
[全文] 

1. 前文

●現状について、様々な見解が表明された。会議では、経済回復が始まった時期における世界的なサプライチェーンの混乱、インフレ、食料・エネルギー危機など、我々の地域における新型コロナウイルス感染症からの回復がまだ脆弱であること、また、開かれた、ダイナミックで、強靱かつ平和なアジア太平洋コミュニティというAPECのビジョンの達成状況への懸念が表明された。地域の平和と安定の確保の必要性及び国際法の遵守が、APECが目指す包摂的で持続可能な経済成長の前提条件であるとの認識の下で意見表明がなされた。

●現在我々が直面しているより複雑で横断的な課題への解決に不可欠な貿易の役割を認識し、プトラジャヤ・ビジョン2040を達成するために、「Open, Connect, Balance」のテーマのもと、以下の行動の必要性を強く支持する。

2. あらゆる機会への開放

【世界貿易機関(WTO)】

●WTOを中核とするルールに基づく多角的貿易体制の重要性を再認識。自由で、公正、開かれた、無差別で、透明性のある、包括的かつ予測可能な貿易・投資環境を保護することを決意。公平な競争条件を確保するための努力を継続。監視、交渉及び紛争解決機能の有効性を向上させるために必要なWTO改革を引き続き支持。

●第12回WTO閣僚会議(MC12)において、安全で、有効、品質が保証され、かつ安価な新型コロナウイルス感染症ワクチン、治療薬、診断薬及びその他必要不可欠な医療品並びに貿易と保健に関連するその他の分野について効率的かつ公平な分配を促進する、タイムリーで実践的、効果的かつ将来を見据えた多国間の成果をもたらす取組への努力を支持。

●知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)が、より多くの新型コロナウイルス感染症ワクチンの研究、開発、投資、製造、分配の取り組みを支持することや、新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する特定の知的財産保護の一時的放棄、また、WTOにおける貿易と健康に関する議論において、具体的かつ有意義な成果の追求を支援するよう引き続き取り組み、この成果を実現するために全てのエコノミーへの協働を奨励。

●遅くともMC12までに漁業補助金に関する包括的かつ有意義な成果への合意を求める前回の要請を再確認。

●世界食糧計画(WFP)の飢餓と栄養失調への闘いに対する取組への支援を再認識。WTOがこうした取組を有意義に支援する方法を早急に見つけることが重要。

【貿易円滑化】

●「物流関連サービス」のAPECの定義(附属書A)を歓迎。

●WTO貿易円滑化協定、特に必要不可欠な物品のタイムリーかつ効率的な引き取りに関連する条項の実施を加速させるコミットメントを再確認。

【税関協力】

●新型コロナウイルス感染症に関連する不法物品の国境を越えた移動に取り組む我々の助力を強化するため、「新型コロナウイルス感染症関連物品の税関管理に関するベストプラクティスガイドライン」を歓迎。

【アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)】

●プトラジャヤ・ビジョン2040に沿ってFTAAPアジェンダに新たなモメンタムをもたらすことを決意し、従来及び次世代の貿易・投資問題を含むFTAAPアジェンダの進展を視野に入れて、対話と能力構築プログラムを継続するための複数年の作業計画を策定し、11月のAPEC閣僚会合までに報告するよう実務者に指示。

3. 全ての次元で繋がる

【安全な渡航】

●安全で継ぎ目のない旅行の再開を通じた地域の連結性の回復に寄与するための具体的かつ実際的な解決策に向けたAPECの取組を調整する臨時グループ、「セーフパッセージ・タスクフォース」の設立を歓迎。

●「APEC地域における予防接種証明書の相互運用のための自主的原則(附属書B)」を歓迎。安全な通行のためのAPEC情報ポータルの開発及び予防接種証明書の相互運用のための技術仕様の共有を期待。また、航空・海上乗務員の旅行円滑化から、保健技術、より包括的なAPECビジネストラベルカード(ABTC)に関する継続的な議論まで、様々な側面を網羅する安全な通行に関する進行中の作業に留意。

【サプライチェーン】

●地域における継ぎ目のない連結性を促進するため、ビジネス界が開かれた、安全かつ強靱なサプライチェーンを構築し維持することを引き続き支援。

【質の高いインフラ】

●質の高いインフラ開発と投資を通じて、地域、サブリージョン及び遠隔地の連結性向上の重要性を認識。

【データフロー】

●情報とデータの流通を円滑化し、デジタル取引におけるビジネスと消費者の信頼を強化することに協力。「APECインターネット・デジタル経済ロードマップ(AIDER)」の実施の進捗を加速させ、実現可能で、包摂的かつ非差別的なデジタル経済を創出するよう実務者に強く要請。

4. 全ての面でバランス良く

【バイオ・循環・グリーン(BCG)経済】

●包括的でバランスのとれた持続可能な新型コロナウイルス感染症からの回復、長期的で強靭な経済成長及び環境・気候目標を達成するための手法としてのバイオ・循環・グリーン(BCG)経済を支持し、首脳の検討のための独立した声明の作成を含む進行中のAPECの取組に留意。

【気候変動】

●持続可能な開発のための2030アジェンダやパリ協定の目標達成といった、グローバルな取組に沿った、野心的かつ具体的な行動を可能にする経済政策を推進する必要性を認識。

【エネルギー】

●今時のエネルギー市場の変動は、経済回復の重要な局面に消費者に負担を負わせている。これを踏まえ、安定的かつ持続可能な世界のエネルギー供給の重要性を認識し、世界的な気候変動目標と整合的なエネルギーミックスの多様化のための適切な選択肢を含む、地域におけるエネルギーの強靱性、アクセス及び安全保障を促進する必要性を強調。また、持続可能な経済成長と気候変動対策の達成は、持続可能で包摂的なクリーンエネルギーへの移行に大きく依存する旨認識。

●無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し段階的に廃止するというコミットメントを再確認。この目的のためにAPECの進行中の作業に留意し、努力を加速度的に継続。同時に、特に現在の世界的なエネルギー事情に鑑み、困っている人々に不可欠なエネルギーサービスを提供することの重要性を認識し、関連する能力構築イニシアティブへの支持を再確認。

【環境】

●「2012年APEC環境物品リスト」と参照目的のための「統一システム2022」(HS2022)への更新に関する進捗を歓迎し、2022年11月の会合において更なる更新が行われることを期待。

●また、自主的で非拘束的な新生環境物品の参照リストの作成可能性に対する勧告を策

定する議論の進展に留意。

●非関税措置が環境物品の貿易に与える影響に関する更なる議論の重要性を認識。

●環境及び環境関連サービスの貿易を増加させる方法の議論の進展を歓迎し、実務者に本作業の継続を指示。

【包摂性】

●貿易・投資政策及び能力開発による早急な経済的包摂の前進や全てのコミュニティに所属する人々の豊かさに資する商業活動確保する目的への早急なる支持を認識。

●グリーン社会への移行において誰一人として取り残されることがないよう、「APECグリーン、持続可能、革新的中小零細企業戦略」における説明通り、イノベーション及びグリーンで革新的な技術の自発的な取り込みを促進する重要性を強調。

【汚職対策】

●汚職を防止、撲滅するための基礎として、透明性、説明責任、高潔性を促進。

5. 終わりに

●全ての国民と将来の世代の繁栄のために、アオテアロア行動計画を含むプトラジャヤ・ビジョン2040の活発で有意義な実施を追求するよう、実務者に要請。