データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] バイオ・循環型・グリーン経済に関するバンコク目標

[場所] バンコク
[年月日] 2022年11月19日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1. プトラジャヤ・ビジョン2040を想起し、アジア太平洋経済協力(APEC)は、アジア太平洋地域における力強く、均衡ある、安全で、持続可能かつ包摂的な成長の追求へのコミットメントを再び表明する。

2. APECは、全ての人々と将来の世代の繁栄のため、プトラジャヤ・ビジョン2040及びアオテアロア行動計画(APA)で示された行動を基礎として、地域が直面する経済的及び環境上の困難と混乱の高まりに対処するため、大胆で、迅速で、均衡ある、包括的な方法で持続可能性目標を推進し続けることを決意する。

3. バンコク目標の採択により、APECは、現在進行中の世界的な取組を補強し、貢献しながら、包括的かつ野心的な持続可能性及び包摂的目標を達成する方法の概要を示すことについて前進することとなる。APECは、技術及びイノベーションが価値創造に利用され、無駄を削減し、資源効率を向上し、持続可能なビジネスモデルを促進するという3つの経済手法を統合したバイオ・循環・グリーン(BCG)経済モデル等の手法を検討した。APECはまた、より均衡ある、包摂的で、持続可能な成長の達成のために、より総合的な取組を要請している。このような取組は、APECの既存のコミットメント及びワークストリームを基礎とし、またAPECの持続可能性目標を進めるために新しい野心的な取組を検討するものでなければならない。

4. APECは以下の目的、主要分野、野心的な目標と併せて、既存の目標及びワークストリームを整理する。

 a.持続可能な地球のために、特に気候変動の緩和、適応及び強靭性の観点から、気候変動、異常気象及び自然災害を含む、全ての環境上の課題に包括的に対処するための世界的な取組を支援するために、次のことを行う。

  (i) 持続可能な開発のための2030年アジェンダの達成及びパリ協定の目標といった世界的な取組に協調する、気候変動に強靭な未来の世界経済に移行するための実践的で具体的なイニシアチブに貢献し、また、気候変動に共同で対処し、温室効果ガスの排出を削減する緊急の必要性及びこの点で重要な実現手段である能力構築、技術、財政支援を含む国際的な支援を提供する必要性を認識しつつ、APECメンバーのそれぞれのネットゼロ / カーボン・ニュートラルへのコミットメントを評価し、支持する。

  (ii) 適応策を、政策、戦略、計画、災害や緊急時の準備と管理において主流化すること等を通じて、気候変動の悪影響や関連リスクに対する適応能力を高め、強靭性を強化し、脆弱性を低減する。

  (iii) 政策やベストプラクティスの発展や共有のために協力を強化し、全ての環境上及び気候上の課題に対処し、持続可能な成長を支持する、能力構築及び意識向上のプログラムを推進する。

  (iv) 気候変動に対処するための集団的取組における多様性及び包摂性を確保する。

  (v) 技術的協働及びベストプラクティスや経験の共有の促進等を通じて、各エコノミーの異なる状況を反映した様々な道筋でのクリーンで低炭素なエネルギーへの移行を進め、エネルギーレジリエンスを強化し、エネルギー安全保障を促進し、負担可能で信頼性があるエネルギーアクセスを確保する。我々は、安定したエネルギー市場とクリーンなエネルギーへの移行の重要性を認識する。これまでの進捗に留意しつつ、APECエコノミーは、再生可能エネルギーやその他のクリーンで低排出なエネルギー技術を導入するための地域の能力を更に強化する目標について議論している。

  (vi) 必要とする人々に不可欠なエネルギーサービスを提供することの重要性を認識する一方、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し、段階的に廃止するための我々のコミットメントを想起し、この目標を達成するために、取組を加速的に継続する。

  (vii) 環境にやさしい政策の奨励及び環境に有害な政策の低減の慫慂、農業生物多様性の保全、農業バイオテクノロジーやデジタル化、革新的な手法の利用促進等を通じて、持続可能で、強靭で、生産的で、包摂的な食料システム及び農業慣行を促進し、食料安全保障及び栄養を達成し、フードロス及び食料廃棄を低減する。

  (viii) 研究開発及び費用対効果の高い低排出ガス技術の実施を促進し、執りうる多様な技術や手法があることを認識する。

  (ix) 防災リスクファイナンス保険及び適切な場合におけるカーボン・プライシング及びノン・プライシング・メカニズム、国際炭素クレジット市場を含む、持続可能性や気候行動への投資及び金融を支持し、例えばタクソノミーやその他のアライメント・アプローチといった、よりグリーンかつクリーンな世界経済に向けた資金の流れの調整を支持する選択肢を検討する。

 b.持続可能で包摂的な貿易・投資を促進し、貿易・投資が我々の環境政策を相互に支持することを保証するために、次のことを行う。

  (i) APEC連結性ブループリントの実施、及びグリーンな公的調達に関する協力促進やベストプラクティスの共有等を通じて、サプライチェーンの安定性、強靭性及び持続可能性を高め、連結性を向上させる取組を強化する。

  (ii) 環境物品・サービス貿易の円滑化に関する取組を促進し、APEC環境物品リストと環境及び環境関連サービスの参照リストについての議論を基礎とし、さらに環境物品貿易における非関税措置の影響について議論する。

  (iii) 例えばサステイナブルツーリズム、製造業、農業、輸送、物流、グリーンな低炭素デジタル及び技術セクターの発展を通じて、責任ある企業行動とESG(環境・社会・ガバナンス)産業慣行に関する具体的なイニシアチブを促進する。

  (iv) 男女平等及び女性の経済統合、包摂性、並びにエンパワーメントを促進する。

  (v) 更新されたグリーンで、持続可能で革新的な零細・中小企業(MSMEs)のためのAPEC 戦略の形成促進、ESGやBCGアプローチといったサステナビリティ活動における零細・中小企業の能力構築、零細・中小企業が競争力、専門性、革新性及び国際市場への進出の機会を向上させるための協力等を通じて、MSMEsの役割を強化する。

 c.環境保全、天然資源の持続可能な利用及び管理を促進し、生物多様性の損失を止めて逆転させるために、次のことを行う。

  (i) 違法・無報告・無規制(IUU)漁業を防止し、闘い、なくすための取組、及びIUU漁業と戦うためのAPECロードマップの実施を含めて、沿岸及び海洋資源とエコシステムの保全と持続可能な利用並びに持続可能な漁業と養殖業を促進する。

  (ii) APEC海洋ごみロードマップの実施を通じて、海洋ごみ及びプラスチック汚染を防止し、減少させるための取組を継続する。

  (iii) 違法伐採と関連する貿易と闘い、森林生態系の劣化を止め、持続的に管理可能で合法的に採取された林産物の貿易と消費を促進するための取組を強化する。

  (iv) 環境と天然資源を維持し、保全し、管理し、保護する取組を改善するために、多様性と包摂性の確保のため努力する。

 d.資源効率性及びゼロ・ウェイストに向けた持続可能な廃棄物管理のために、次のことを行う。

  (i) 循環型ビジネスモデル、政策及びベストプラクティス並びに持続可能な生産及び消費パターンの共有の促進等を通じて、循環型経済アプローチを促進するために協力を拡大する。

5. 上記及びプトラジャヤ・ビジョン2040の3つの経済ドライバーを達成するためには、社会の全てのメンバーの生活の質を改善し、青年の役割を促進しつつ、男女平等、MSMEs、女性、必要に応じて、先住民や障害者、遠隔地や農村地域の人々等、未活用の経済的潜在力を有するその他のグループの経済的包摂とエンパワーメントを推進する、包摂的なアプローチの採択が必要である。更に、特に包括的で、調和ある、相互に補強的な成果を生み出すためには全てのフォーラとサブ・フォーラを超えた、APEC内でのより強い社会全体のパートナーシップ及びシステム全体のアプローチが必要である。

6. 関連するAPECメカニズムを通じて、下記の成功要因は加速されるべきである。

 a.特に構造改革のためのAPEC促進アジェンダ(EAASR)の実施の促進、構造改革及び経済ショックからのグリーンな回復に関する2022年APEC経済政策レポート(AEPR)や政策や手法について情報提供するその他の関連AEPRからの指摘事項や提言の検討といった、構造変革、良い規制慣行及び国際的な規制協力等を含む、助けとなり敏捷な規則枠組及び有効なビジネス環境。

 b. 経済・技術的協力の深化、持続可能で包摂的な成長の達成のための経験やベストプラクティスの共有、相互の同意による自発的な技術移転、及び特に多様な労働力の募集、定着、昇進を促進する再教育やスキルアップといった包摂的な人材育成の推進による能力構築。

 c. 質の高いインフラ、資金調達及び投資の発展並びに科学、技術、イノベーション及びデジタル化の更なる活用を可能にする環境。

 d. 公的部門、民間部門、金融部門、学術界、その他の国際・地域機関及び関連ステークホルダー並びにAPECビジネス諮問委員会(ABAC)、APECスタディセンターコンソーシアム、APEC公式オブザーバーの東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局、太平洋経済協力会議(PECC)及び太平洋諸島フォーラム(PIF)を含むAPEC内・APEC関連のメカニズム間の協働のためのネットワーク。

7. APEC委員会と関連サブ・フォーラは、上記のアジェンダをそれぞれの戦略と活動計画に統合し、必要に応じて、フォーラ間協力を深化させる。APEC事務局はアオテアロア行動計画(APA)の評価プロセスに貢献し、それに従って進捗を評価する手段として、実行された行動とイニシアチブの変わることのない概略を維持し、高級実務者に定期的なアップデートを行う。高級実務者は、BCG経済に関するバンコク目標に関するモニターと進捗評価の全般的な責任を持つ。持続可能性アジェンダの包摂的かつ野心的な促進は、APECの力強く、均衡ある、安全で、持続可能かつ包摂的な未来への成長軌道を支持するものである。