[文書名] 2025APEC 首脳宣言「慶州宣言」
2025 APEC 首脳宣言「慶州宣言」
1.我々、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳は、2025年10月31日から11月1日まで、大韓民国の慶州市で会合した。2025年APECのテーマである「持続可能な未来の構築」の下、我々は、ソウル、釜山、済州及び仁川の各都市で会合を行い、「連結(Connect)」、「革新(Innovate)」及び「繁栄(Prosper)」の三つの優先課題を通じて共通の目標を推進し、千年の歴史を持つ古都であり豊かな文化遺産を有する慶州で会合を締めくくった。
2.アジア太平洋地域は重大な岐路に立っている。我々は、国際貿易体制が引き続き重要な課題に直面していることを認識する。人工知能(AI)等の革新的な技術の急速な進展、労働市場を変える人口動態の変化は、APECエコノミーに重大かつ長期的な影響を及ぼしている。この関連で、我々は、全ての人々が経済成長の恩恵を享受できるよう協力を強化し、具体的な行動をとることを要請する。
3.我々は、今日の状況が、地域経済協力のための主要なフォーラム及びアイデアのインキュベーターであるAPECの重要性と役割を一層明らかにしていることを強調する。我々は、「アオテアロア行動計画(APA)」の実施等を通じ、全ての人々と未来の世代の繁栄のため、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」に基づく共通の任務に従い、2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靱かつ平和なアジア太平洋コミュニティの実現を引き続き目指す。
連結(Connect):世界で最もダイナミックかつ相互連結された地域経済の構築
4.我々は、強固な貿易・投資がアジア太平洋地域の成長と繁栄にとって重要であるとの共通認識を再確認し、進化するグローバル環境に対応するため、経済協力を深化することに引き続きコミットする。我々は、強靭性を促進し、全ての人々に利益をもたらす貿易投資環境の重要性を認識する。この関連で、我々は、国際貿易の現状及び将来に関する様々な議論に留意し、APECエコノミー間の協力の必要性を認識する。
5.我々は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)アジェンダに関する取組等を通じて、アジア太平洋地域において市場主導型の経済統合を推進する。我々は、APECエコノミーが高水準かつ包括的な地域的取組に参加する準備を整えられるよう、エコノミー間の経験共有、能力構築、ビジネス連携及び技術協力の取組を強化するために引き続き協働する。
6.我々は、サービス分野の経済成長への貢献及びデジタル技術を活用したサービスの役割の拡大を認識し、同分野におけるAPECエコノミーの競争力を引き続き強化する。我々は、「APECサービス競争力ロードマップ(ASCR)(2016–2025年)」が果たす役割に留意する。
7.我々は、透明性を高め、ペーパーレス貿易と越境電子商取引を促進し、基準の策定に関する協力を強化し、適合性の評価手続を効率化する措置を含め、様々な貿易円滑化の取組を引き続き推進する。我々は、これらの取組が貿易コストを削減し、中小・零細企業(MSMEs)の越境貿易への参加を促進する恩恵をもたらすことを認識する。また、我々は、貿易の円滑化におけるAIを活用した手続の潜在性及びAI導入と関連政策に関する自発的な経験共有の促進を認識する。
8.我々は、グローバル・サプライチェーンが多様な課題に直面していることを認識し、アジア太平洋地域全体で、APECにおける関連の議論に民間団体が更に関与することを通じて、グローバル・バリューチェーンの不可欠な一部である強靭なサプライチェーンを確保する取組を支援する。「サプライチェーン連結性枠組行動計画フェーズ3(SCFAP III)(2022–2026年)」の実施におけるコミットメントを再確認し、能力構築、技術支援及び越境協力を促進する。
9.我々は、構造改革等を通じて、アジア太平洋地域全体におけるイノベーション、生産性及びダイナミズムを促進するコミットメントを再確認する。「構造改革のための強化されたAPECアジェンダ(SEAASR)(2026–2030年)」及び「インチョンプラン」の承認を歓迎する。
10.我々は、腐敗が国境を越え、市場をゆがめ、公共の信頼を損ない、組織犯罪等を助長する脅威であることを認識する。腐敗防止の取組は、より革新的で、より良く調整され、より効果的でなければならないことを再確認する。我々は、腐敗行為者と不正財産に対する安全な避難先(セーフ・ヘイブン)の提供を拒絶する取組を継続する。
11.我々は、地域における連結性を促進する重要性を強調する。「APEC連結性ブループリント(2015–2025年)」と整合的な取組及び最終レビューに留意する。我々は、APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)を通じた連結性強化を歓迎し、全てのエコノミーにバーチャルABTCの導入を奨励する。また、質の高いインフラ整備と投資の重要性を再確認する。
12.我々は、文化・クリエイティブ産業(CCIs)が経済成長に果たす積極的な貢献を認識し、強固な知的財産保護の重要性を確認する。CCIsが人と人との交流を促進し、相互理解と相互尊重を深める役割を果たすこと、AIなどのデジタル技術が創造性と革新を可能にしていることを認識する。
革新(Innovate):デジタル・AI変革のための地域を作る
13.我々は、科学技術の進歩が共通の課題への対処に資するとともに、APEC地域における新たな成長の原動力を創出することを認識する。また、機関・企業・スタートアップ企業間の連携を含む研究開発協力、科学人材の自発的交流、知識共有及び能力構築が、アジア太平洋地域全体のイノベーション能力を向上させ、将来の経済成長に寄与し得ることを認識する。
14.我々は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が、地域経済協力を加速させ、全ての人々及び企業の連結性、生産性及び参画を強化する上で重要であることを認識する。「APECインターネット及びデジタル経済に関するロードマップ(AIDER)」に引き続きコミットし、その効果的な実施を推進する。デジタル格差解消、デジタルスキル育成、官民連携の強化により、全ての人々がDXの恩恵を享受できるようにする重要性を強調する。また、データ流通の円滑化及びデジタル取引における信頼強化に向けた協力を継続する。
15.我々は、AIが生産性向上、競争力強化、繁栄及び強靭性を実現する潜在力を有することを認識する。「APEC人工知能(AI)イニシアティブ」を承認する。AIの安全性、アクセス、信頼性を向上する取組を進め、人間中心のアプローチを取ることを要請する。全ての人々がAIの恩恵を享受し、AIが福祉向上に活用される社会の基盤を築く。
繁栄(Prosper):全ての人々と共に課題に取り組み、成長の恩恵を分かち合う
16.我々は、成長と繁栄の機会と恩恵がアジア太平洋地域の全ての人々に享受される重要性を確認する。この関連で、我々は、経済参加の障壁に対処し、全ての人々の経済的エンパワーメントを促進し、強靭な経済成長のための環境を創出するためのAPECのこれまでの取り組みと継続的な取り組みを認識する。
17.我々は、起業家精神の支援、規制障壁の除去、サプライチェーン網の強化、大企業を含む主要ステークホルダー間の連結性の強化、生産性・効率性・革新能力を向上させる機会の創出などを通じて、中小・零細企業(MSMEs)とスタートアップ企業が成長できるビジネス環境を整備する重要性を改めて表明する。また、「フォーマルかつグローバル経済への移行を促進するリマ・ロードマップ(2025–2040年)」などを通じた、中小・零細企業の発展を促進するAPECの取組に留意する。
18.現在進行中の人口動態の変化は、出生率の低下、高齢化及び都市化の加速を特徴としており、アジア太平洋地域の経済とコミュニティに根本的かつ長期的な変革をもたらしている。我々は、人口動態の変化がもたらす広範な経済的影響に対し、包括的かつ世代を越えた政策を通じ、協調した対応が必要であることを認識する。この関連で、「人口動態の変化に関する協力のための枠組み」を承認し、これを通じて経済成長と繁栄を最大化することを目指し、新たな機会を創出するための協働を再確認する。若者に自らの未来を形作るための成長の機会とツールを継続的に提供することを期待する。
19.我々は、より強靭なアジア太平洋の構築を目指し、エネルギー、食料安全保障、環境、異常気象及び自然災害といった地球規模課題に効果的に対応するための協力及び協調を強化する。APEC地域全体で電力需要が増大しており、安定した電力供給を確保する必要性を認識する。エコノミーに対し、電力源や技術を多様化し、必要な投資を支援し、技術革新を促進し、電力システムの柔軟性、強靭性及び安定性を高める効率的な市場運営を実現することを奨励する。天然ガス及び液化天然ガス(LNG)が持続可能で安全、安価で信頼性のあるエネルギー供給に寄与することを認識する。エネルギー安全保障の強化のための電力インフラの近代化と拡充、グリッドインフラの強化及び地域の相互連結性深化が効率的な電力供給ネットワーク構築を促進し得ることを認識する。また、エネルギー分野におけるAIの革新的活用に留意する。
20.我々は、「万能の解決策」はないことを認識しつつも、食料サプライチェーンの混乱の最小化、生産的かつ強靭で革新的な農業・食料システムの促進、食品ロス・廃棄の防止・削減、農業資源の効率的な利用を通じて、食料安全保障を強化する重要性を強調する。
21.我々は、科学技術に基づくアプローチを活用しつつ、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を取り締まり、増大する海洋ごみ問題に対処することも含め、海洋及び沿岸コミュニティの強靭性を高め、海洋生物資源の保全・管理を促進するために協力する。
22.我々は、患者中心の医療サービスの提供、早期発見、診断、治療及び総合的な健康アウトカムを強化するためにデジタルヘルスとAIが有する革新的な潜在力を認識しつつ、強靭かつ持続可能で、アクセスでき、高齢化に対応し、部門横断的な、将来に備えた医療介護制度を地域全体で構築するコミットメントを改めて表明する。この関連で、AIなどのデジタル技術がもたらす恩恵へのアクセスを促進し、全ての人々の健康を改善する取組を歓迎し、デジタルヘルスツールへのアクセス拡大と国内能力構築に向けたより強力な連携を要請する。我々は、防災リスク管理は経済成長の重要な基盤であることを認識し、安全で強靭な未来の確保に取り組む。
今後の展望
23.我々は、マルチステークホルダーの強固な関与はAPECの独特な特徴の一つであり、それがアイデアのインキュベーターであるAPECの機能を強化していることを認識する。必要に応じて、APECビジネス諮問委員会(ABAC)や太平洋経済協力会議(PECC)との関係を含め、APEC最高経営責任者(CEO)サミット等のイベントを通じて、マルチステークホルダーとの関係を更に強化することを期待する。
24.我々は、2025年のAPEC閣僚会議、海洋、人材養成、教育、貿易、デジタル・AI、食料安全保障、女性と経済、エネルギー、中小企業(SME)、保健と経済、財務及び構造改革閣僚会合、並びに腐敗対策協力及び文化・クリエイティブ産業に関するハイレベル対話を主催した韓国に謝意を表する。第36回APEC閣僚会議の成果が今後の協力の重要な土台となることを歓迎する。
25.我々は、2025年APECを成功裏に主催した韓国に感謝する。また、慶州の人々と市による温かい歓迎と首脳会談に向けた綿密な準備に対し、心から感謝の意を表する。我々は、中国(2026年)、ベトナム(2027年)及びシンガポール(2030年)による将来のAPEC議長年に期待する。また、メキシコ(2028年)、日本(2031年)、チリ(2032年)、パプアニューギニア(2033年)及びペルー(2034年)を将来の議長として歓迎する。