[文書名] 人口動態の変化に関するAPEC協力枠組み
人口動態の変化に関するAPEC協力枠組み
1.我々、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳は、出生率の低下、高齢化、都市化の加速を特徴とする継続的な人口動態の変化が、アジア太平洋地域に根本的かつ長期的な変革をもたらしていることを認識する。人口は、地域の繁栄の重要な要因であるため、労働力の高齢化と消費者市場の変化といった人口動態の変化がもたらす影響は、APECエコノミー全体の強靭な経済成長に対して大きな課題を生じさせる。
2.この関連で、我々は、APEC域内における人口動態の変化が均一ではないために万能の解決策がないことを認識しつつ、人口動態の変化に積極的に対応し、課題に取り組み、雇用・教育・医療・公共財政を含む包括的かつ世代を越えた人間中心の政策を通じて、人口動態の変化がもたらす機会を活用する必要性を認識する。また、我々は、技術革新を促進し、全ての世代の経済参画が可能な環境を整える必要性を認識する。さらに、将来の繁栄と革新の主要な推進力となる若い世代に対し、成長の機会と未来を積極的に形成するためのツールを提供することにより、人材開発を強化する重要性を認識する。
3.我々は、「人口動態の変化に関するAPEC協力枠組み」(「本枠組み」)の承認にあたり、「アオテアロア行動計画(APA)」の実施等を通じ、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」を実現するコミットメントを再確認する。また、本枠組みが、全ての人々に利益をもたらすための経済的エンパワーメントの促進に向けた取組を含む、これに関連するこれまでのAPECの取組を基礎としていることを認識する。
4.APECエコノミーは、以下の行動を推進する:
A.人口動態の変化に対応した強靭なシステムの構築
i.質が高い完全雇用及びアクセスが良い職場を促進し、全ての世代の人々が効果的かつ有意義な形で労働市場に参画できるよう支援する。経済参画への障壁を取り除き、フォーマル経済への移行を促進し、労働者、起業家及び中小・零細企業(MSMEs)を含む企業が活動しやすい環境をつくり、デジタル技術の力を活用して労働参加と生産性を向上させることに集中的に取り組む。
ii.生涯学習の機会と職業訓練を拡大し、質が高く適応力を備えた現代的な人材開発を促進する。これには、リスキリング及び技能向上のためのプログラム開発、技術の活用による学習効果の向上や全世代向けの教育アクセスの拡大及び費用負担軽減、労働市場の需要に応えられる質の高い教育システムの開発等が含まれる。
iii.人口の高齢化に伴う社会保障費と医療費の増大に対応し、中長期的な財政的強靱性を強化するため、公共支出の効率性と質の向上、持続可能な年金・社会保障制度の促進等を進める。人口動態の変化がもたらす財政的課題に効果的に対応するため、ベストプラクティスの共有を奨励する。
iv.金融サービスの効率性とアクセスを改善し、家庭・世帯に対するものも含め、安定的かつ効果的な個人財務管理を支援する。これには、金融技術とデジタルイノベーションの推進、金融へのアクセス改善及び金融・デジタルリテラシー向上のための各措置が含まれる。
v.全ての分野の企業が高齢者向けのサービスや製品を最適化するよう奨励するとともに、高齢者の生活の質と幸福度を向上させるための世代間連携や高齢者の社会参画を促進することにより、シルバーエコノミーの発展を支援する。
B.人材開発の近代化
i.特に若者を対象とする人材開発を推進し、進化する産業と雇用のニーズに対応し、労働者の向上心を満たせるような、ダイナミックで革新的かつ未来志向の労働力育成を目指す。
ii.必要に応じ、資格認証の枠組みを支援する取組を含め、専門資格やライセンスの評価制度の認証を強化する方策を模索する。また、デジタル証明書の活用を奨励する。
C.質が高く、患者中心で、技術によって支えられた医療・介護制度の推進
i.技術革新とその応用を促し、包括的で質が高い医療・介護制度全般を生涯にわたって利用できるようにすることにより、アクティブで健康的な高齢化と生活の質向上につなげる。同時に、これらがメンタルヘルスとウェルビーイングを含め、人々のニーズに応えることを確保する。これには、人工知能(AI)、バイオテクノロジー、遠隔医療、ロボット工学、スマートホーム等のデジタル医療・介護技術を活用し、農村部や遠隔地を含め、不可欠な医療・介護制度を強化することが含まれる。
ii.特別な介護を必要とする人々を含め、全ての人々に対する医療・介護制度へのアクセス、質及び価格設定を改善する。これには、デジタル技術の利用促進、コミュニティ・ベースの支援プログラムの奨励、介護人材の採用・研修・保持の推進等が含まれる。
iii.公共及び民間部門の投資・関与及び官民連携を推進することにより、一生涯に関わる健康、医療・介護機器産業におけるイノベーションを促進し、全ての人々が質の高く安価の医療介護制度へアクセスすることを確保する。
D.全ての人々の経済的エンパワーメントと経済参画の促進
i.全ての人々が、その関心と能力に応じて、完全かつ効果的で有意義な形で平等に教育、研修機会及び経済に参画できるよう支援する政策取組を強化する。
ii.介護と家事の不平等な分担を減らすため、特に育児支援や高齢者・要介護の障がい者向けの関連インフラ及び育児・介護者と家族への支援を促進する。我々は、家族と家庭の責任に献身的に取り組む保護者・介護者の貢献に留意し、同時に、あらゆる世代の、あらゆる背景を持つ女性が、経済的繁栄と生産性において果たす役割にも留意する。このような取組には、柔軟な勤務形態の導入や、質と利便性が高く安価な育児施設への投資等が含まれる可能性がある。
iii.労働力参加率を改善するための政策支援を強化する。
E.地域対話と協力の強化
i.政策立案者、民間部門のステークホルダー、学術界、その他の関係者同士の協力、自発的な知識の共有、共同研究及び能力構築を支援し、人口動態の課題への対策を策定することを奨励する。
ii.2026年にAPEC人口政策フォーラムを主催するという韓国の提案を歓迎し、今後、APECの適切な委員会において議論する。これは、APECエコノミー間の経験と知識の共有を促進し、アジア太平洋地域内における協力の可能性がある分野を特定するための初期のプラットフォームとなる。
5.実施
i.本枠組みに基づく進捗状況の監視及び評価全般の責任は、経済・技術協力運営委員会(S(HRDWG)、女性と経済に関する政策パートナーシップ(PPWE)を含むがこれらに限定されない)は、本枠組みの活動を各々の戦略及び作業計画に適切に組み込み、可能な場合、APECビジネス諮問委員会(ABAC)、太平洋経済協力会議(PECC)及びその他の関連ステークホルダーとのフォーラ横断的な協力及び連携を深めることが奨励される。
ii.本枠組みは、2026年から2030年まで実施され、2030年に経済・技術協力運営委員会(SCE)が最終的な進捗レビューを取りまとめる。その進捗レビューは、アオテアロア行動計画(APA)の評価及びレビュー・プロセスに組み込まれる。
iii.本枠組みを通じ、我々は協力して人口動態の課題に積極的に対応し、新たな機会を切り開き、アジア太平洋地域の全ての人々のために経済成長と繁栄を最大化する。