[文書名] APEC人工知能(AI)イニシアティブ(2026-2030)
APEC人工知能(AI)イニシアティブ(2026-2030)
1.我々、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳は、人工知能(AI)がイノベーションの新たなフロンティアを切り開き、生産性を高め、競争力を向上させ、経済的繁栄と強靱性を実現することにより、世界経済を根本的に変える潜在力を有することを認識する。多様な能力と視点を有するAPECエコノミーは、強靱な経済成長を推進するためにAIの戦略的潜在性を活用し、また、技術革新を促し、国民の生活水準を向上させ、人々や企業のエンパワーメントを進めるという独特な立場にある。AIは、APEC地域における共通の優先課題の解決策を促進する上で、大きな潜在力を有する。APECは、「APEC・AIイニシアティブ(「本イニシアティブ」)」を採択することにより、急速に進化するデジタル環境における課題に対処しつつ、各エコノミーのエンパワーメントを進め、経済成長の触媒としてのAIの革新的な潜在力を活用するという共通のビジョンを前進させる。
2.このビジョンの実現に向けた我々の戦略的方向性は、以下の三つの大きな目標によって示される:
a. AIイノベーションを推進し、全ての人々にとって安全で、アクセスでき、信頼できるAIエコシステムを促進することによって、APECエコノミー全体及び域内の強靱な経済成長を促進する。
b. 連携及び能力構築の取組を通じて、APECエコノミーのAI変革への意義ある参加を拡大し、すべての人々に利益をもたらす。
c. エネルギー・資源効率の高い技術を活用し、強靭なインフラ投資を促進することにより、AIの開発と導入を奨励する。
3.これらの目標は、APECのより広範なアジェンダ、また、「アオテアロア行動計画(APA)」及び「APECインターネット及びデジタル経済に関するロードマップ(AIDER)」を含む、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」の達成に向けたコミットメントに一致する。我々は、本イニシアティブは、フォーマル経済への参画推進、全ての人々の経済エンパワーメント強化の促進、強靭な経済成長のための環境整備といった、APECの過去の取組に基づくものであると認識する。また、本イニシアティブは、適切な専門国際機関の活動、プロセス、その他の取組を踏まえ、それらを補完するとともに、各APECエコノミーが各自のAI政策を実施する上で、異なるアプローチを取っていることを認識する。
4.この関連で、我々は以下の戦略的目標とその達成のための行動に向けて取り組む。
A. APEC内におけるAI変革の成功裏の推進:
AI変革を成功させるためには、各エコノミー内とAPEC全体による協調的なアプローチが必要である。この目標は、各エコノミー及びAPEC全域の双方のレベルにおいて、AI変革を成功させるために必要な戦略的方向性を確立することを目指す。
i. 自発的レビュー:各エコノミーがAIへの即応性と影響を自発的にレビューすることにより、デジタル・AI開発の段階に応じて、AI開発・導入の現状をより良く理解し、優先事項を特定できるよう奨励する。
ii. ステークホルダー間の協力:APECのフォーラ横断的に全てのステークホルダーによる協力を奨励する。AIイノベーションを可能とする環境を促進し、社会の全ての層への機会の提供を促進するため、幅広い意見交換を推進する。地域全体のAI変革を円滑化し、必要に応じてイノベーションを共同で進めるための研究協力を促進できるよう、特に零細・中小企業(MSMEs)を対象に、APECエコノミー横断的な官民連携の可能性を模索する。
iii. 政策共有:AIの開発及び導入を目的とした、各分野及び関連政策分野におけるベストプラクティスや政策に関する知識の自主的な交換を促進する。ベンチマーキングの機会及びベストプラクティスや比較分析に基づく知見の共有を促進し、AIの潜在力を様々な経済分野で引き出すための革新的なエコシステムを構築する。また、全てのエコノミーがAI主導のイノベーションに貢献し、その恩恵を享受できるようにすることの重要性を認識する。
iv. 安心で信頼できる導入:全ての人々がAIの恩恵を享受できるよう、労働力、教育、能力構築政策において、バランスの取れた人間中心のアプローチを通じて、安全性・アクセス可能性・信頼性・確実性を高めるための取組を継続する。
B. 全てのレベルにおけるAI能力構築:
AIの変革的な潜在性を最大限に引き出すには、全てのステークホルダーがAI技術を効果的に利用するための知識と技能を有する必要がある。この目標は、AIへのアクセスに障壁を抱える人々を含む全ての人々がAI主導型経済に有意義な形で確実に参画できるよう、社会全体のAI関連能力を強化することに焦点を当てる。これは、技術革新から全ての人々が恩恵を受け、AIが全ての人々の幸福度を高めるために活用される社会を形成する基盤となる。
i. 公共部門の能力:公共部門におけるAIツールの開発・導入に向けた各エコノミーの取組を活用し、支援することにより、公共サービスの質とアクセスを向上させる。公共部門職員の技能向上に資する取組を奨励し、公共部門へのAI導入を加速させることで、行政の効率性と組織のパフォーマンス向上を図る。
ii. 民間部門の能力:各産業に特化したAIの導入を促進し、零細・中小企業(MSMEs)やスタートアップ企業等を対象に、イノベーション・協力・デジタル変革のための環境を整えるためのベストプラクティスを共有する。きめ細かな能力構築イニシアティブを通じて、企業全体のデジタル・AIリテラシー強化に向けた取組を支援する。
iii. 労働者の能力:デジタル・AIリテラシーやAIの基礎知識の水準が均一ではないことを踏まえ、全ての人々の生涯学習を支援するとともに、効果的な技能向上及びリスキリングのための人材開発プログラムに関する情報の共有によってそれぞれの労働者がAI機会を有効活用できるようにする。これらの取組は、労働市場における機会へのアクセスを含め、AI移行に対応する労働者のための支援も目指すべきである。
iv. 消費者の能力と信頼:一般市民の基本的なデジタル・リテラシー及びAI即応性の向上を目的とした各エコノミーのイニシアティブを支援する。全ての人々のAIアクセスを向上させ、AIの責任ある利用に関する公共意識を高めるための取組を奨励し、それによりAIアプリケーションに対する消費者の信頼を強化する。
v. 能力構築に関する地域協力:AI対応能力の格差是正に向けて専門知識とリソースを組み合わせて活用し、全てのエコノミーが確実にAIイノベーション・アプリケーション対応能力を強化し、AI変革に十分に関与してその恩恵を享受でき、相互に利益をもたらすパートナーシップの形成を模索する。各地域の知識、文化、言語を統合するイニシアティブを奨励する。この関連で、APEC議長韓国が、AI関連の能力構築とイノベーションの促進、地域における情報共有の推進を目的として、アジア太平洋AIセンターを自己資金で設立・運営すると決定したこと、また、他のエコノミーによる同様のイニシアティブや取組を認識する。
C. 強靱なAIインフラのための投資エコシステムの醸成:
包括的なAI変革には、クラウド・コンピューティング等のデジタル連結性、データセンター、電源や送電網等、AIの開発と普及を支えるエネルギー・インフラを含む大規模なインフラ投資が必要である。APECエコノミーは、AIインフラへの効果的で持続的な投資には関連するステークホルダー同士による協調的な取組が必要であることを認識し、強靭なインフラへの投資を可能とする環境を整備する取組を強化すべきである。
i. 公共政策:AIの導入と利用の拡大は、APECエコノミーと民間部門の連携を通じて促進される、高品質で安価な、安全かつ強靭な通信・AIインフラの整備に依拠することを認識する。データ需要の増加を認識し、データ需要に対応するため、全ての人々が恩恵を享受できるよう、エネルギー・資源効率的な方法で、デジタルインフラのアップグレードに向けた適切な措置を講じる。
ii. 民間部門:安全かつ強靭なAIインフラへの投資促進に向けた民間部門の自発的な取組を推奨する。この関連で、この目標の達成に向けたAPECビジネス諮問委員会(ABAC)の取組に留意する。AIの革新的潜在力をエネルギー・システムに活用し、予測分析、需要管理、エネルギー最適化等のアプリケーションを通じて、エネルギー・システムの効率性・安全性・確実性を向上させるための民間部門の取組を奨励する。
iii. 投資協力:デジタル格差を解消し、AIの恩恵を最大化することを目的に、官民連携モデルを含め、地域全体でAIのための強靭なインフラへの投資拡大の機会を模索するため、公共部門、ビジネス界及びその他のステークホルダーの間の対話を促進する。
5.APECフォーラ及びサブ・フォーラは、必要に応じ、各自のイニシアティブ・戦略・作業計画に本イニシアティブを組み込み、推進するとともに、デジタル経済運営グループ(DESG)及び電気通信作業部会(TELWG)とこれら取組に関する情報を共有することが奨励される。また、APECビジネス諮問委員会(ABAC)、太平洋経済協力会議(PECC)、その他の関連ステークホルダーとのフォーラ横断的な連携及びパートナーシップを推進し、一貫性と影響力を強化する必要がある。本イニシアティブ実施に係る進捗のレビューは、デジタル経済運営グループ及び電気通信作業部会(DESG-TELWG)の年次合同会合において行われ、2030年に最終レビューが実施される。このレビューには、各エコノミー及びAPEC全体における関連活動の情報共有が含まれるべきである。実施状況に関する報告は、TELWGとその他の関連フォーラとの協議の後、最終高級実務者会合(CSOM)において毎年報告され、APECインターネット及びデジタル経済に関するロードマップ(AIDER)の実施に関するDESGの年次報告書に組み込まれる。
6.本イニシアティブは、各エコノミーにおける柔軟な実施方法と多様な開発状況を尊重し、APECの既存の取組を補完しつつ、AIの変革的潜在力を活用するという我々のコミットメントを再確認するものである。