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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 海港檢疫法(海港検疫法)

[場所] 
[年月日] 1899年2月13日
[出典] 内閣・総理府
[備考] 
[全文] 

朕帝國議㑹ノ協賛ヲ經タル海港檢疫法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

睦仁

明治三十二年二月十三日

内閣總理大臣侯爵 山縣有朋 内務大臣侯爵 西郷従道

法律第十九號

   海港檢疫法

第一條 海外諸港及臺灣ヨリ來ル舩舶ニ對シテハ傳染病豫防ノ爲檢疫ヲ施行ス

 檢疫ヲ施行スヘキ海港及傳染病ノ種類ハ内務大臣之ヲ指定ス

第二條 海外諸港及臺灣ヨリ檢疫ヲ施行スル港ニ來ル舩舶ハ其ノ入港前ニ於テ此ノ法律ニ依リ檢疫ヲ受ケ許可證ヲ得タル後ニ非レハ其ノ港ニ入港シ陸地又ハ他舩ト交通シ舩客乘組員ノ上陸、物件ノ陸揚ヲ爲スコトヲ得ス」

 前項ノ舩舶ニシテ入港後傳染病患者ヲ發生シタルトキハ檢疫官吏ノ指定ニ從ヒ更ニ檢疫ヲ受ケ許可證ヲ得ルニ非レハ他港ニ進航シ陸地又ハ他舩ト交通シ舩客乘組員ノ上陸、物件ノ陸揚ヲ爲スコトヲ得ス

第三條 舩長其ノ他ノ乘組員及舩客ハ檢疫官吏ノ㝷問ニ對シテ之ニ應答シ又舩長其ノ他ノ乘組員ハ檢疫官吏ノ請求アルトキハ所定ノ式紙ニ事實ヲ記入シ其ノ氏名ヲ署シタル明告書ヲ差出スヘシ

 舩長ハ檢疫官吏ノ請求ニ應シテ航海日誌ヲ示シ且舩内ノ各部ヲ開キ檢査ヲ受クヘシ但シ艙ハ航海中舩客又ハ乘組員ニテ占居シタルトキ又ハ他ノ事故ニ依リテ傳染病毒ニ汚染シタル疑アリトキニ限リ其ノ檢査ヲ受クヘシ

第四條 海外諸港及臺灣ヨリ檢疫ヲ施行スル港ニ來ル舩舶ニシテ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノハ其ノ入港前ヨリ許可證ヲ得ルマテ檢疫信號ヲ掲クヘシ

 一 現ニ傳染病患者若ハ死者アルモノ

 二 航海中傳染病患者若ハ死者アリタルモノ

 三 傳染病流行地ヲ發シ又ハ其ノ地ヲ經テ來航シ若ハ傳染病毒ニ汚染シタル舩舶ト交通シタルモノ

 第二條第二項ノ舩舶ハ患者發見ノ時ヨリ許可證ヲ得ルマテ檢疫信號ヲ掲クヘシ

 檢疫信號ハ晝間ハ舩舶ノ前檣頭ニ黄旗ヲ掲ケ夜間ハ同所ニ紅白ニ燈ヲ連掲スルモノトス

第五條 海外諸港及臺灣ヨリ檢疫ヲ施行セサル港ニ來ル舩舶ニシテ第四條第一項ノ各號ノ一ニ該當スルモノ又ハ其ノ港内ニ碇泊中傳染病患者ヲ發生シタルモノハ前條ノ規定ニ從ヒ檢疫信號ヲ掲ケ其ノ地ノ警察官吏ニ届出テ指揮ヲ待ツヘシ

 前項ノ場合ニ於テ警察官吏ノ命アルトキハ直ニ檢疫ヲ施行スル港ニ廻航シテ檢疫ヲ受クヘシ

 第一項ノ場合ニ於テ警察官吏ノ指揮アルマテハ他港ニ進航シ陸地又ハ他舩ト交通シ舩客乘組員ノ上陸、物件ノ陸揚ヲ爲スコトヲ得ス

第六條 檢疫官吏ハ第一條ノ舩舶ニ對シ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得

 一 現ニ傳染病患者若ハ死者アルモノハ命令ノ定ムル期間停舩ヲ命シ患者死者ノ處分ヲ指示シ舩舶其ノ他ノ物件ノ消毒法ヲ施行シ且ツ必要アリト認ムルトキハ舩客乘組員ヲ檢疫所ニ移轉セシムルコト

 二 航海中傳染病患者若ハ死者アリタルモノハ第一號ノ規定ニ準シテ處分スルコト

 三 傳染病流行地ヲ發シ又ハ其ノ地ヲ經テ來航シ若ハ其ノ舩舶ニ傳染病毒ノ汚染シタル疑アルモノハ必要アリト認ムルトキ第一號ノ規定ニ準シテ處分スルコト

 四 停舩中傳染病患者ヲ發生スルトキハ更ニ第一號ノ規定ニ依リ處分スルコト

 五 傳染病ノ疑アル患者アルトキハ二日ヨリ多カラサル期間停舩ヲ命スルコト

第七條 停舩ヲ命セラレタル舩舶ハ檢疫官吏ノ指示シタル場所ニ碇泊シ其ノ許可ヲ得ルニ非レハ他ニ移轉スルコトヲ得ス

第八條 檢疫所ニ移轉セシメラレタル舩客乘組員ハ檢疫官吏ノ許可ヲ得ルニ非レハ本舩其ノ他ト交通シ若ハ物件ヲ搬出スルコトヲ得ス

第九條 舩舶及物件ノ消毒ハ檢疫官吏之ヲ施行シ舩長其ノ他ノ乘組員ハ其ノ施行上ニ關シ之ヲ補助スルノ義務アリ

 前項ノ消毒費ハ舩主舩長若ハ其ノ代理人ヨリ徴收ス

第十條 檢疫所ニ移轉セシメラレタル者ノ食費及患者死者ニ關スル費用ハ其ノ乘組員ニ屬スルモノハ舩長若ハ其ノ代理人ヨリ其ノ舩客ニ屬スルモノハ本人ヨリ之ヲ徴收ス

 本條及第九條第二項ノ費額及其ノ徴收ニ關シ必要ノ規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム

第十一條 第二條第五條第七條第八條ノ規定ニ違背シタルモノハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス

第十二條 此ノ法律ノ執行ヲ拒ミ若ハ之ヲ妨害シ又ハ檢疫官吏ノ尋問ニ對シテ答辯ヲ爲サス若ハ虚僞ノ事實ヲ答辯シ又ハ其ノ命令ニ從ハサル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス

 舩長若ハ舩長ノ職務を行フ者前項ノ罪ヲ犯シ又ハ舩客乘組員ノ之ヲ犯スヲ知テ制止ヲセサルトキハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス」

  附則

第十三條 内外國ノ軍艦ニシテ檢疫ヲ施行セル港ニ來航スルニ當リ第四條第一項各號ニ該當スル事實ナキトキハ其ノ艦長及醫官ヨリ書面ヲ以テ檢疫官吏ニ其ノ旨ヲ明告スヘシ

 内外國ノ軍艦ニシテ第二條第二項第四條第一項各號ノ一ニ該當スル事實アルモノハ檢疫官吏ニ於テ其ノ艦ト陸地又ハ他舩トノ交通乘組員ノ上陸、物件ノ陸揚ヲ制限スルコトヲ得又同上ノ軍艦ニシテ第五條ノ規定ニ該當スル場合ハ其ノ地ノ警察官吏ニ於テ以上ノ處分ヲ爲スコトヲ得

 第二條第二項第五條ニ該當スル事實アルトキハ艦長及醫官ヨリ其ノ旨ヲ檢疫官吏又ハ警察ニ通知スヘシ

 前三項ノ外軍艦ニ對スル檢疫ハ檢疫官吏ニ於テ艦長ト協議シ此ノ法律ノ規定ニ準シテ執行スルモノトス

第十四條 此ノ法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

第十五條 明治十二年第二十九號布告明治十五年第三十一號布告明治二十四年勅令第六十五號明治二十七年勅令第五十六號ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス