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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 性病予防法等の一部を改正する法律の施行について

[場所] 
[年月日] 1950年4月15日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和二五年四月一五日)

(発衛第八四号)

(各都道府県知事あて厚生事務次官通達)

「性病予防法等の一部を改正する法律」の施行について

 第七国会において成立をみた「性病予防法等の一部を改正する法律」は、既に昭和二五年法律第二六号として、三月二八日公布され、これに伴う関係政令及び省令として「性病予防法施行令等の一部を改正する政令(昭和二五年政令第五一号)」、「食品衛生法第二九条の二の規定による営業及び処分を定める政令(昭和二五年政令第五二号)」が二月三一日「屠場施行規則等の一部を改正する省令(昭和二五年厚生省令第一○号)」、「食品衛生法施行規則の一部を改正する省令(昭和二五年厚生省令第一一号)」及び「性病予防法施行規則等の一部を改正する省令(昭和二五年厚生省令第一三号)」が四月一日にそれぞれ公布され、何れも四月一日から施行されることとなつた。

 既に御承知の如く、保健所をして衛生行政の責任ある第一線機関たらしめるよう今日まで各種の方策が講ぜられてきたが、その重要なる措置の一つとして、保健所法第一条に基く政令で定める市(以下市という)については都道府県知事(以下知事という)の権限に属していた衛生行政事務の一部をこれらの市の市長の権限とし、これを市立保健所を通じて行わせることとしていた。而して知事の権限を市長の権限とする手続については、地方自治法(第一五三条第二項)の規定によつて知事から市長に委任することとし、その範囲を通牒をもつて示して来た。然しながら、かかる措置のみによつては、なお行政事務を行う吏員の身分、経費負担の関係等について種々不便があつたので、今回これを法律をもつて明文化することとなつたのである。

今回の改正の大要は次のとおりである。

 一 知事の権限に属する衛生事務のうち、全県的考慮を要するもの、その他特殊の考慮を要するもの以外は、これを市については市長をして行わしめることとし、各法律について、それぞれの事項を規定したこと。

 二 市長は、その事務を行うために市の吏員の中から食品衛生監視員、環境衛生監視員、屠畜検査員及び医療監視員を任命し得るものとしたこと。

 三 従来都道府県に対して国庫負担金を支出していた事務で、今回市長が行うこととなつたものについて、その市が経費を負担したときは、国庫よりその市に対して負担金を支出するようにしたこと。

  ついては右趣旨御了得の上、左記諸点に留意され実施上遺憾のないよう致されたい。

  尚本件に関しては当該市長宛同文の通牒をしたから、念のため申し添える。

   記

一 権限の範囲について

従来通牒をもつて示した知事から市長に委任する権限事項は、概ね今次の法律改正において市長の権限とされたが、なお若干の相異がある。これを示せば次の通りである。

 (一) 通牒で示した委任事項のうち、今回の法律改正に当たり除外されたもの。

  1 性病予防法第一一条の売いん{いんに傍点あり}常習の疑の著しい者に対して、医師の健康診断を受けるように命じ又は当該吏員に健康診断をさせること。

これは基本的人権は侵害を及ぼす虞のある事項であるから、これを知事に保留することとした。

  2 結核予防法第三条及び第四条

本法は近く全面的に改正が行われる見込をもつてその方に譲つたのであるから、当分の間、従来通り地方自治法の規定によつて知事から市長へ委任するよう取り計らわれたい。

  3 精神病者監護法関係

本法は今国会において審議されている「精神衛生法」に包括されているので、その方に譲つたのである。

  4 有毒飲食物等取締令第三条については、従来通り、知事より市長に委任するようにされたい。

 (二) 今回の法律改正によつてあらたに加えられた事項

  1 性病予防法第六条及び第七条の届出

これらの届出は、同法第一○条の規定により健康診断を命ずるときの基礎となるものであるから、これらの届出は市長に対してなされる必要があるからである。

  2 同法第二二条の当該吏員をして立入検査をさせること。

他の法律におけると同様市長をして立入検査をさせることとしその吏員を市の吏員とした。

  3 食品衛生法第一八条の検査施設を市にもおくこととしたこと。

食品衛生行政が科学的基礎に立つて運営される必要から、当該市にも所要の検査施設を設置させることにしたのである。

  4 同法第二一条から第二四条までの行政処分について範囲が広められたこと。

これは「政令で定める営業について政令で定める処分」の他は市長をして行わしめることとなり、市長の権限が広められた。

  5 同法第二五条の地方食品衛生調査会を市にもおくこととしたこと。

  6 同法第二八条の食品等に起因して死亡した者の死体を解剖に付することを市長をして行わしめることとしたこと。

二 職員について

 医療監視員についてはあらたに市長が任命し、市に置くことが出来ることとなつた外、食品衛生監視員及び環境衛生監視員は、従来は市におくことができず又屠畜検査員については、その設置主体が法的に明確でなかつたため、道府県の吏員をそのまま市保健所に勤務させ、保健所長の指揮下に事務を行わせていたが、今回市長はこれらの職員を任命することができるようになつたので、これら従来の道府県の吏員はなるべく市の吏員とするよう措置され、且つその待遇において本人の不利益とならぬよう特に配慮されたい。

 なお、恩給法の一部を改正する法律(昭和二二年法律第七七号)附則第一○条の適用を受けるもので、今次の法律改正に伴い、道府県の吏員から市の吏員となるものについては、恩給法の一部を改正する法律(昭和二三年法律第一八五号)附則第一○条が適用されるものである。

三 経費負担の関係について

 権限委任に伴う費用負担については、地方財政法第二八条の規定により、都道府県から市に対して委任事務の執行に要する経費の財源につき、必要な措置を講ずることとなつていたが、今回の法律改正により、市長が行つた事務に要する費用に対して市がこれを支弁し、国庫が直接負担金を支出することとなつた。即ち

 1 性病予防法第一○条及び第一五条第三項の事務につき第一七条による市の支弁に対しては第一九条により

 2 癩予防法第二条の二の事務につき第七条第一項による市の支弁に対しては第八条により

 3 「トラホーム」予防法第四条により市の支弁に対しては第七条により

 4 寄生虫病予防法第二条による市の支弁に対しては第七条により

 5 伝染病予防法第一九条第二項の事務につき第二一条による市の支弁に対しては第二五条により

 6 食品衛生法第一七条、第一九条、第二一条、第二二条及び第二八条の事務につき第二六条により、市の支弁に対し

  いずれも国庫より負担金を支弁することとなつた。なお、結核予防法第四条の経費負担については、従前の例によられたい。

  但し、「トラホーム」予防費、食品衛生監視事務職員費は、地方財政平衡交付金制度に吸収されるため、別に法律で規定される予定である。

  又「トラホーム」予防法、寄生虫病予防法及び伝染病予防法において従来市町村の事務として市が行つていた事務についての支弁に対する県費補助(並びにこれに対する国庫負担)は従前の通りであるから混同しないよう留意されたい。

四 立入検査と処分権との関係について

 (一) 性病予防法、旅館業法、興行場法、公衆浴場法、理容師法、墓地埋葬等に関する法律、へい獣{へいに傍点あり}処理場等に関する法律、あん摩{あんに傍点あり}、はり{はりに傍点あり}、きゆう❜{きゆうに傍点あり}、柔道整復等営業法における立入検査の権限は、従前より又は今次の改正により、市長の権限とされたが、これは市の区域においては市立保健所の職員をして行わせようとするものであり、また市の区域において道府県知事の権限がないこととしたのは、道府県及び市による三重行政を防ぐ趣旨である。

  然し乍ら、性病予防法第一一条又は第一二条による健康診断の命令及びその他の法律の許可等の権限の如く、行政の実態からみて、知事に保留したものもある。この場合、立入検査を行う市長と処分権を有する知事とは相互に十分なる連絡を保ち、行政運用上遺憾なきを期せられたい。

 (二) 食品衛生法については、前項の如く許可その他の行政処分権が、知事に保留されているものがあるが、その執行については、前例にならつて二重行政におちいらぬよう留意し、且つ連絡を十分にして円滑なる運用を図られたい。

  また、医療法の運用については、これに準じて二重行政のおこらぬよう留意されたい。

 (三) 市長の行うこれらの事務は「国の機関として処理する行政事務」であるから、この立場において市長は国の機関としての知事の監督を受けて行うのであり、知事は常に市長の行う行政の運用状況に留意して、指導監督上遺憾のないようにされたい。市長は、知事の指導監督の下に行政運用上遺憾ないようせられたい。

五 許可事務と手数料について

 今次の改正により食品衛生法第二○条の規定による許可は、政令で定める営業を除いて市長が行い得ることとなり、これに伴い地方公共団体手数料令(昭和二二年政令第三二七号)の規定により、市長は、その行う事務に伴う許可手数料を徴収し得ることとなつた。

 また、屠場法において市長が屠畜検査員を任命して屠畜検査を行わせたときは、市長において、その検査手数料を徴収し得るものである。