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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 急性灰白髄炎の指定について

[場所] 
[年月日] 1959年6月15日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和三四年六月一五日)

(衛発第五四三号)

(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省公衆衛生局長通知)

 伝染病予防法第一条第二項の規定に基き、本年六月一五日厚生省告示第一八二号により急性灰白髄炎が同法により予防方法を施行すべき伝染病として指定され、同日以後本疾病には、伝染病予防法、伝染病予防法施行令及び伝染病予防法施行規則が適用されることとなつた。

 急性灰白髄炎は、乳幼児に対しては強い感染力を有し、かつ、その後遺症による障害が甚しいにも拘らず、従来は、身体障害児等に対する対策の一部としてその後遺症対策が行われていた外には、届出による患者の把握が行われてきたに止まり、疾病予防対策は実施されていなかつた。

 しかるに、最近数年、その患者数は漸次増加の傾向を示し、時に著しい現象としてその集団発生が各地に生じて、単に疾病による被害に止まらず、当該発生地区の住民に心理的な動揺を与えて社会生活を著しく擾乱することが続発しているので、経口伝染病に共通する一般対策を強化する必要があるとの伝染病予防調査会の答申に基いて今回の措置をとることによりその予防対策に着手することとしたものである。

 本対策の実施にあたつては特に左記の事項に留意の上、各市町村長、関係各機関等にも本対策の実施方法を周知徹底せしめ、本疾病の予防に遺憾なきを期されたい。

 なお、本通達においては、以下伝染病予防法を「法」と、伝染病予防法施行令を「令」と、伝染病予防法施行規則を「則」という。

   記

一 方針

 1 急性灰白髄炎に対する防疫措置は、おおむね経口伝染病に共通する一般対策に準じて実施することとするが、本疾病の特殊性にかんがみ、その対策実施に当つては特別の配慮を必要とするので、実状に即した措置がとられるよう特に注意すること。

 2 身体障害児対策その他関係諸施策の実施機関とは密接な連携が保たれるよう配慮すること。

二 疑似症及び病原体保有者

1 法第二条第二項又は法第二条の二第二項及び令第四条第一項但書の規定により、都道府県知事が本疾病の疑似症又は病原体保有者に対し法の適用を行おうとする場合には、その適用条文、適用期間等につき、予め当局に協議すること。

 2 急性灰白髄炎の病原体保有者に対しては、則第一一条第一項各号の事項を遵守するよう指導すること。

三 届出

 1 法第三条及び第三○条の規定により、患者等についての医師の届出は、従来の法第三条の二の規定による届出に比べ、その届出時間が二四時間から一二時間に短縮され、市町村長等を経由することとなること。

 2 法第四条の規定により、世帯主等に対しても患者等についての届出の義務が課されることとなつたこと。

 3 法第三条の規定による届出は、法第三条の二の規定による届出の要件をも充しているので、それぞれの規定により重複して届出を行う義務はないこと。

 4 届出については、医師及び関係者にその趣旨を周知せしめ十分な協力が得られるよう努力すること。

  なお、届出後においても、転症が行われた場合には、その届出がすみやかになされるよう特に配慮する必要があること。

四 清潔方法及び消毒方法

 1 法第五条、第一一条第一項、第一六条及び第一九条第一項第七号の規定による清潔方法及び消毒方法は、則第一八条から第二四条まで、第二六条及び第二七条に規定する方法によるものであること。

 2 患家その他病毒に汚染し、又は汚染の疑のある家における清潔方法の要項は、則第一七条第一項第一号、第六号及び同条第二項並びに第一八条に準拠すること。

 3 消毒方法の施行を必要とする物件は、則第二五条第一項各号にあげられたものとすること。

五 患者の収容

 1 収容措置

  法第七条の規定による患者の強制収容に当つては、特に次の事項に留意し、無理のないよう措置をとること。

  イ 市町村長等が強制収容を行うことが予防上必要であるかどうかの判定を行うに当つては、病学的、社会的な各種の条件についてとくに慎重な考慮を行うこと。この際収容措置の適否については、市町村長等は、できる限り保健所長の意見を斟酌すること。

  ロ 収容開始時において発病後概ね三週間以内の急性期にある患者を収容するものであること。

  ハ 患者の移送は、患者の予後に対し悪影響を及ぼす場合も多いので、すでに適当な医療機関で治療を受けている場合には法第七条の規定により適当な場所に収容措置をとつたものとして収容治療が受けられるよう措置すること。

 2 収容施設

  イ 患者を収容する場所は、患者に対し別に示す内容に合致する適正な治療及び看護を行い得る機能を有する伝染病室とすること。ただし臨時応急の場合は、この限りでないこと。

  ロ 各市町村においては、予め適当な収容施設を選定しておくこと。選定に当つては、施設所在地を管轄する保健所長と十分協議を行うこと。

  ハ 現在患者に対し適正な治療を行う機能を有しない伝染病院、隔離病舎については、患者の収容治療を担当し得るよう医師その他の職員及び必要な設備等を整備するよう指導すること。

 3 収容期間

  収容期間は、急性期の主要症状が消退するまでとすること。

 4 その他

  患者のうちで育成医療その他児童福祉対策、身体障害者対策等の対象となり得るものについては、保健所、福祉事務所等関係機関と連絡をとり、本人又はその保護者に対し、必要な手続をとるよう指導すること。

六 そ族昆虫の駆除

 法第一六条の二第三項及び令第八条の規定により、流行時等においては、はえ等の駆除を行うものであること。

七 その他の措置

 1 法第八条の規定による交通遮断等の措置は、則第二九条の規定により急性灰白髄炎については適用がないこと。

 2 法第八条の二の規定により、則第三一条に規定する業務には、患者は従事できないものであること。

  なお、この規定により誤つて後遺症者に対する就業がさまたげられること等のないよう特に注意すること。

 3 法第九条から第一五条までの、患者及び死体の移動制限、病毒汚染物件の使用制限、死体の埋葬及び改葬等についての制限、死体及び家屋等の処分、立入並びに伝染病予防委員に関する規定については、概ね他の経口伝染病に準じ施行すること。

 4 流行時等においては、法第一九条第一項第一号の規定による健康診断を行う等の方法により、届出もれ患者の発見等に努めるほか、流行の原因調査、ウイルスの型の決定等疫学調査を行うこと。

  なお、その他法第一九条に規定する措置等をとる場合には、予防上必要かどうか特に慎重な考慮を行い、集会制限等の措置はみだりにとらないこと。

八 費用

  法第二五条の規定による国庫負担及び法第二四条の規定による都道府県の支出については、各年度の伝染病予防費交付基準によること。

九 報告

  令第一条の規定による報告は「伝染病発生特殊事例報告について」(昭和三○年六月二八日衛発第四○二号の一及び衛発第四○二号の二)をもつて指示したところによること。

一○ 衛生教育

 1 平常時の教育

  イ 症状、伝播様式、清潔方法、消毒方法、看護等、急性灰白髄炎についての基本的な知識の普及を図ること。

  ロ 本疾病予防のためには、環境衛生が重要であることを強調すること。

 2 流行時の教育

  流行地域の住民に対しては、本疾病についての基本的知識の普及の外に、流行状況を周知させ、次の事項を遵守するよう指導すること。

  イ 有熱小児は、安静臥床を守り、医師の診断を受けること。

  ロ 有熱小児に健康児を接触させないこと。

  ハ 小児の流行地域への移動は行わないこと。

  ニ 小児の一般的な抵抗力の低下を防ぐこと。

  ホ 小児の扁桃、副鼻腔の手術及び抜歯はなるべく延期すること。