データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 痘そう防疫対策実施について

[場所] 
[年月日] 1963年2月4日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和三八年二月四日)

(衛発第一〇八号)

(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省公衆衛生局長通達)

 痘そうは、昭和三○年を最後としてわが国においては、その届出を見ていないが近年航空機による国際航行の増加とともに欧米諸国においては、流行地からの痘そう侵入例が増加している現状にかんがみ、既に昨年来検疫対策を強化するとともに定期予防接種の徹底を指示し、痘そうの国内侵入防止を期してきたところであるが、今般別添のとおり痘そう防疫対策実施要綱を定めたのでこの要綱に基づき痘そう防疫対策に遺憾のないようにされたい。

 なお、痘そうが社会的に及ぼす影響は極めて大きいと考えられるので患者発生に際して公式発表を行なうにあたつては細心の注意をはらうよう御留意ありたい。

 おつて、初発患者の診断に際しては本省から中央において編成した診断班を派遣することとするから御了承ありたい。

痘そう防疫対策実施要綱

第一 総括的事項

 一 目的

  この要綱は、痘そうが諸外国から国内に侵入するのを防止するため、検疫法による措置にあわせて国内防疫対策を確立し、かつ、患者の国内発生に際しての防疫の万全を期する目的をもつて、都道府県(指定都市を含む。以下同じ。)及び市町村において実施すべき措置を定めるものである。

 二 必要なワクチンの供給

必要なワクチンの供給については、国において調整を行なうものとする。

なお、臨時予防接種を行なう場合は、必ず事前に本省に連絡するものとする。

第二 国内発生前における対策

 一 方針

  患者発生時に対処する防疫態勢を確立するとともに予防接種の強化を図り、また侵入の危険性の高い地域に対しては重点地域として発生前対策を更に強化し、侵入防止に万全を期するものとする。

 二 対策

  都道府県業務

  (一) 防疫計画の作成

   患者発生前及び発生時における防疫措置につき関係部局と協議して防疫計画を作成し、防疫措置に必要な資材、施設、人員等につき調査し準備しておくこと。

  (二) 診断網の確立

   ア 疑似症に対し伝染病予防法第二条第二項の規定する措置をとること。

   イ 診断班の設置

    痘そう診断の確実を期し、患者の早期把握のため痘そうの専門医からなる診断班を設置すること。診断班は必要に応じて常に行動できる態勢におくこと。

   ウ 防疫職員、医療関係者の講習会

    防疫技術向上のために防疫職員の講習会を行ない、また医師会と協力して痘そうの診断治療等について講習会を行なうこと。

  (三) 収容施設の整備

   既設の伝染病院、隔離病舎について痘そう患者の収容に備え必要な整備を行なうよう市町村を指導すること。

  (四) 予防接種

   ア 防疫担当職員、伝染病院関係職員については必ず種痘を行なつておくこと。

   イ ア以外の医療施設関係職員、海空港関係者、郵便運輸関係者、クリーニング業、旅館業従事者、廃品回収業従事者、観光地、温泉地等の接客業従事者については、これに重点をおいて予防接種を勧奨すること。

  (五) 衛生教育及び広報活動

   流行状況、予防方法等につき広報活動を実施し、地区の衛生組織の協力を得て衛生教育の徹底を期すること。

  (六) 不法入国者の検疫

   不法入国者については昭和二七年三月二日、発衛第二六号厚生事務次官ほか三庁長官連名通達「不法入国者の臨時衛生措置について」により関係機関と連絡をとり万全な措置を講ずること。

  (七) 仮検疫済証の交付による入国者について

   仮検疫済証の交付による入国者(検疫法第一八条後段に規定するもの)が、検疫所長の指示をうけ保健所に出向いたときは、保健所長は指示内容に応じて必要な措置を講ずること。

   なお、この項においては昭和二六年一二月二七日発衛第二一七号厚生事務次官通知「検疫法の公布について」第二の二を参照されたい。

  (八) 重点地域の設定

   ア 都道府県知事は、近隣諸国に痘そうの流行をみ、また流行が予測されるような状態に至つたときは、これら近隣諸国との交通が頻繁であり、かつ、不法入国者が多い等痘そう侵入の危険性の高い地域を、地理的条件、特に交通条件、衛生状態等を考慮して範囲を定め、重点地域として設定すること。

   イ 重点地域の設定に当つては事前に本省と協議すること。

   ウ これら重点地域にあつては、痘そう対策本部及び痘そう対策連絡協議会を設置し、発生前対策を強化するとともに必要な範囲において臨時予防接種を行なうこと。

   エ 痘そう対策本部は、県の関係部局により構成し、患者発生前及び発生時における防疫対策の実施にあたるものとすること。

   オ 痘そう対策連絡協議会は、県の関係部局、県内の関係行政機関、医師会、その他関係団体により構成し、痘そう対策に関する協議及び情報連絡を行なうこと。

  市町村業務

  (一) 防疫計画の作成

   患者発生前及び発生時における防疫措置につき関係部局と協議して防疫計画を作成し、防疫措置に必要な資材、施設、人員等につき調査し準備しておくこと。

  (二) 収容施設の整備

   伝染病院、隔離病舎を有する市町村にあつては、痘そう患者の収容に備えて院内感染防止を主とする必要な措置を行なつておくこと。

  (三) 患者輸送の準備

   痘そう患者の輸送に際しては、特に病毒を飛散せしめないような細心の注意が必要であるので患者輸送に万全の準備を整えておくこと。

  (四) 予防接種

   ア 定期予防接種の強化

    近年痘そう予防接種率は、低下の傾向にあるのでこれが徹底を期すること。

   イ 任意の予防接種

    防疫担当職員、伝染病院関係職員については必ず種痘を行なつておくこと。

   ウ 痘そう感染の比較的多い職種に対して予防接種を勧奨すること。

  (五) 衛生教育及び広報活動

   流行状況、予防方法等につき一般住民に周知させ、予防思想の啓発に努めること。

   この場合不必要な不安動揺を与えないよう特に留意すること。

第三 国内発生時における対策

 一 方針

  患者の早期把握に努め伝染病予防法及び予防接種法の規定によつて強力な防疫措置を実施すること。

  患者の発生した都道府県又は市町村においてこの発生時対策を行なうが、地理的条件を考慮した上で隣接都道府県又は市町村においてもこれに準じて行なうことができるものとすること。

 二 検疫により患者が発見された場合における対策

 都道府県業務

  (一) 通報及び情報連絡

   本省及び関係機関への迅速な通報及び情報連絡の強化

  (二) 痘そう対策本部及び痘そう対策連絡協議会の設置

  (三) 予防接種

   患者が発見された海空港の所在する地域の住民に対しては必要な範囲で臨時予防接種を実施すること。

  (四) 検疫業務との協力

   汚染調査及びそれに伴う措置については、検疫所との十分な連絡のもとに行なうこと。

   仮検疫済証の交付による入国者についてもその取り扱いに遺憾のないようにすること。

 市町村業務

  (一) 患者の収容についての検疫所との協力

   発見された患者は検疫所に設けられた隔離室に収容されるが、やむを得ない場合には市町村の収容施設に委託されるので収容施設を有する市町村はこれに協力すること。

  (二) その他の協力

   その他検疫所の行なう防疫措置に協力すること。

 三 検疫以外により患者が発見された場合における対策

 都道府県業務

  (一) 防疫組織

   ア 痘そう対策本部及び痘そう対策連絡協議会の設置

   イ 検疫委員の任命

   ウ 市町村に対する予防委員任命の指示

  (二) 情報連絡の強化

   医療機関その他関係機関との連絡を強化すること。

  (三) 防疫用器材、消毒薬の整備及び防疫要員の確保

  (四) 初発患者の届出又は通報があつた場合の措置

   ア 診断班の派遣

   直ちに診断班を派遣し届出医師とともに診断に当らせること。

   イ 通報

   電話又は電報により本省に報告するとともに県内関係機関に通報すること。

   ウ 検体の送付

   患者からの可検物を国立予防衛生研究所へ送付すること。

  (五) 疑いのある者として通報があつた場合

   患者又は疑似患者と診断するに至らず法に基づく届出以外の通報があつた場合には、直ちに(四)のアに準じ即時診断班を派遣し、通報した医師とともに臨床診断に当たらせること。

  (六) 初発以後の通報

   毎日電話又は電報により発生地名、患者累計数死者累計数その他発生状況を本省に報告すること。

  (七) 患者発生に伴う防疫措置

   ア 感染の疑いある者に対する措置

   同居者、接触者、又は患者等の汚染の疑のある衣類、寝具、物品等を取り扱つた者等の感染の疑いがある者に対しては直ちに臨時予防接種を行なうこと。

   イ 防疫調査及びこれに伴う措置

   感染経路及び汚染範囲については、患者発生と同時に調査を開始すること。調査は患者の過去二週間の状態について行なうが、発病後のあしどり、使用物件等は特に詳細に調査し、調査の結果感染の疑いある者及び汚染物件等が発見されたときは、すみやかに必要な措置を講ずること。

   ウ 病毒伝播のおそれある物件の出入制限

   古着、ぼろ古綿その他病毒伝播のおそれある物件の出入を制限若しくは停止し、又はその物件の消毒その他必要な措置を講ずること。

   エ 集会制限

   汚染された地域又はその疑いのある地域及びその周辺の地域においては、特に必要がある場合は集会を制限し、又は禁止すること。

  (八) 予防接種

   汚染された地域又はその疑いのある地域及び交通条件等を考慮して必要と考えられる地域の住民に対しては臨時予防接種を行なうこと。

  (九) 衛生教育及び広報活動

   新聞、ラジオ等による広報活動及び地区組織活動を強化して衛生教育の徹底を図ること。

  (一○) 国内検疫

   ア 各都道府県は本省からの指示に基づき、又は本省に協議のうえ、検疫委員による検疫を実施すること。

   イ 痘そうの流行地から来た者については必要に応じて予防接種済証の呈示を求め、有効な予防接種済証を携行しない者については予防接種を行ない、又は監視に付すること。

   ウ 検疫委員が列車、船舶、航空機等において患者又は汚染物件若しくは汚染の疑いある物件を発見した場合においては、関係機関に連絡のうえ患者の隔離、収容、消毒方法の施行等必要な措置を講ずること。

  (一一) その他

   ア 防疫監吏及び防疫技師の派遣命令

   患者発生地都道府県においては必要がある場合には、伝染病予防法第一九条の三の規定による防疫監吏及び防疫技師の派遣についてすみやかに本省に要請を行なうこと。

   イ 官立施設内で患者が発生した場合

   当該施設の長の行なう防疫措置に十分協力すること。

   ウ 列車、船舶、航空機等で患者が発生した場合の措置

  (一〇)の国内検疫によらず、乗務員の通報等により列車、船舶、航空機等で患者が発生したことが判明した場合は、国内検疫により患者が発見された場合に乗じて必要な措置を行なうこと。

 市町村業務

  (一) 予防委員の任命

  都道府県知事の指示に従つて予防委員を任命すること。

  (二) 防疫用器材、消毒薬の整備及び防疫要員の確保

  (三) 隔離施設の整備又は確保

  痘そう患者の収容施設の従業員は専従にする等院外へ病毒の搬出されるのを防ぐこと。

  また、疑似患者の収容についても十分に配慮し、少くとも痘そう患者及び他の患者と疑似患者は区別して収容すること。

  (四) 患者発生に伴う防疫措置

   ア 患者の隔離収容

   患者は特別の事由がある場合以外は直ちに伝染病院又は隔離病舎等に収容すること。収容施設においては施設内感染を生じないよう十分注意すること。

   患者は少なくとも痂皮が脱落し終るまで隔離すること。

   イ 患者輸送

   送院途中は特に病毒を飛散せしめないよう細心の注意をはらうこと。

   ウ 清潔方法及び消毒方法

   患者からの分泌物、痂皮、落屑及びその処置に用いられた物件、汚染され又はその疑いのある衣類、寝具、書籍、畳、敷物、建具、側璧等については特に厳重に清潔方法及び消毒方法を行なうこと。

   エ 健康管理

   保健所の指導のもとに感染の疑いのある者について監視を行ない、当該事由発生後少なくとも二週間監視に付すること。

   オ 都道府県の行なう防疫措置への協力

   感染経路、汚染範囲の調査等都道府県の行なう防疫措置に協力すること。

   カ その他

   官立施設内で患者が発生した場合当該施設の長の行なう防疫措置に十分協力すること。

第四 報告

 別に定めるところにより、対策実施についての報告及び終息報告を行なうこと。