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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 性病予防法の一部を改正する法律等の施行について

[場所] 
[年月日] 1966年7月26日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和四一年七月二六日)

(衛発第五一〇号)

(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生省公衆衛生局長通達)

 標記については別途厚生省発衛第一五一号をもつて厚生事務次官より通達されたところであるが、細目等についてなお次の事項に留意され、性病予防対策の推進に遺漏なきを期されたい。

 なお、この通知において性病予防法を「法」と、性病予防法施行規則を「規則」と略称する。

   記

第一 届出について

 届出は性病の適切な予防、治療対策を講ずるうえに基本となるものであるから、届出制度の合理化に伴い、改正趣旨の徹底、届出の励行等につき医師会等とも十分連絡を図り、患者の実態把握に努められたいこと。

 一 法第六条関係

  (一) 法第六条において医師の患者に対する質問事項及び届出事項中「その患者が病毒をうつす虞がある行為をした者」が削除されたが、これは接触者調査の重点が感染源におかれたものであること。その患者が病毒をうつすおそれのある行為をした者については、医師の指導により患者ともども治療を受けさせることが適当であること。またこれを質問し届け出ることとすることは患者が医療機関による適正な治療を受ける意欲を阻害するおそれがあること等によるものであること。

  従つて、法令上は「その患者が病毒をうつす虞れがある行為をした者」については質問及び届出に係る事項ではないが、医師は患者の治療に際し、その患者が病毒をうつすおそれがある行為をした者もともに治療を受けるように指導することが望ましいこと。

  (二) 規則第二条は、医師の患者に対する質問事項について、法第六条及び法第七条の規定による届出に必要な事項に限定され及び整理が行なわれたものであること。

  (三) 規則第三条により医師が患者を診断した場合に都道府県知事又は政令市の長に届け出る事項は患者の年令、性別、職業等とされ、氏名、居住の場所等は削除されたが、これは患者の秘密保持を図り、患者が売薬等による自家療法に頼ることなく医療機関において適正な治療を受けることを促進しようとしたものであること。

  なお、届出の様式等については統計調査部長と連名で別途通知するものであること。

  (四) 届出期間として規定されている「一月以内」とは患者を診断した日から一月以内に発信することであるが、整理上、できるだけ毎月その月の末日にその月の分をとりまとめ、月報の形式で発信するよう指導されたいこと。

  (五) 届出は患者の居住の場所を管轄する保健所長を経て都道府県知事又は政令市の長に行なうこととされているので保健所名及び管轄区域について一覧表の配布等により周知を図られたいこと。

  なお、医師において患者の居住の場所を管轄する保健所が不明のため届出がもよりの保健所長になされる場合も考えられるが、この場合においては届出に際し、その旨及び患者の居住する町村名までを附記するように指導し、届出がなされた場合は、保健所長は患者の居住の場所を管轄する保健所長に届出票をすみやかに移送すること。

  法第七条の規定による届出の場合も同様であること。

  (六) 法第六条第二項は整理上旧法第七条第二項を移しかえたものであること。

 二 法第七条関係

  (一) 法第七条の規定による届出は次の各号の場合において別記様式(1)によりすみやかに行なうものであること。

   イ 医師の指示に従わない場合については、医師がその事実を知つたとき。

   ロ 他の医師の治療を受けている旨の証明書を提出しないで治療を受けない場合については、正当な理由がなく治療を中断してから一○日を経過したとき。

   ハ 患者に病毒をうつしたと認められる者がさらに多数の者に病毒をうつすおそれのある者である場合については、医師が患者を通じてその者に健康診断を受けるように勧奨する等性病の治療及び予防上の指導を行ない、その指導に従わないとき。

   なお、「多数の者に病毒をうつすおそれのある者」とは、売 いん・・ 常習容疑者その他年齢、性別、職業、当該医師による受診歴、当該患者以外の者でその者に病毒をうつされた者の当該医師による受診状況等から社会通念上当該患者以外の多数の者に病毒をうつすおそれのあると認められる者をいうものであること。

  (二) 規則第四条の規定は、法第七条の規定により届出を行なう場合の事項について定められたものであること。

  (三) 届出を受けた場合は、法第一四条又は法第二二条の規定により十分調査を行ない必要があると認めたときは法第一○条、法第一五条等の措置をとられたいこと。

  (四) 届出の結果を四半期ごとに別記様式(2)によりとりまとめ、当該四半期の最終月の翌月末日までに当局防疫課長に報告されたいこと。

第二 婚姻時の梅毒血清反応についての検査について

 一 梅毒の早期発見はその予防及び治療上極めて重要であるので、婚姻をしようとする者が積極的に受診するよう市町村、教育委員会、地区衛生組織等を通じ、青少年団体、婦人団体、学校、会社、工場等に趣旨の徹底を図るとともに、成人式等あらゆる機会にこの検査の重要性を喚起されたいこと。

 二 婚姻をしようとする者が梅毒血清反応についての検査をできるだけ早期に受診することが望ましいので、婚約発表、結納交換等を行なう以前に当該検査を受診するよう指導されたいこと。

 三 梅毒血清反応についての検査方法は、昭和二三年一二月一○日、予発第一、六一五号各都道府県知事あて予防局長通知「性病健康診断要領」の「第三」の「一」の「B」の「(1)」によること。

  なお、正確な当該検査の結果が得られるよう、検査に関係する者の技術の向上等を図られたいこと。

 四 梅毒血清反応についての検査の結果が陽性である者及び陽性の疑いのある者に対してはさらに精密検査の受診等についての医師による指導が望ましいこと。

 五 婚姻をしようとする者及び妊娠した者が本年一○月一日以降法第一六条の医療機関で梅毒血清反応についての検査を受けたときは、その費用については法附則第三号の規定により徴収しないこととされたので、法第一七条第三号又は法第一八条の規定により都道府県又は市町村が全額支弁し、この費用については、法第一九条の規定により二分の一を国庫が負担するものであること。

  また、これらの者が当該検査を本年一○月一日以降保健所において受けたときは、前の場合と同様にその費用について国が二分の一の予算補助を行なうこととしたので、都道府県又は政令市において全額公費負担するよう保健所の手数料条例を改正する等その実施に万全を期されたいこと。

 六 梅毒血清反応についての検査に要する費用の公費負担は、これを受けようとする者の申出により保健所又は法第一六条の規定による医療機関において交付する別記様式(3)による受診券により、検査を受けた者について行なうものであること。

  なお、受診券は、都道府県、政令市又は法第一六条の医療機関を設置している市町村において作成するものとし、この場合、婚姻時と妊娠時とにより用紙を色分けする等整理上の便宜についても配慮されたいこと。

 七 公費負担による受診状況を四半期ごとに別記様式(4)によりとりまとめ、当該四半期の最終月の翌月末日までに当局防疫課長あて報告されたいこと。

 八 梅毒血清反応についての検査を受けているかどうかは婚姻の成立要件ではないから、婚姻届がなされた場合、検査証明書等の提出を要求し、あるいは検査を受けていないことをもつて婚姻届を受理しない等のことがないよう市町村に対し特に趣旨の徹底を図られたいこと。

 九 梅毒血清反応についての検査の実施に関しては、人権の擁護及び秘密保持について遺漏のないよう配慮されたいこと。

第三 健康診断について

 一 法第九条の規定による健康診断のうち梅毒血清反応についての検査を要する費用を公費負担することとしたことに伴い、特に当該検査がもれなく行なわれるよう趣旨の普及、徹底を図られたいこと。

 二 母子保健法第一三条の規定による妊産婦の健康診査の際法第九条の規定による健康診断を受けていない妊婦については、これを受けるよう指導されたいこと。

 三 法第一○条、法第一一条、法第一二条及び法第一五条の規定による健康診断命令等のその年における実施件数等を別記様式(5)によりとりまとめ当該年の翌年の二月末日までに当局防疫課長へ報告されたいこと。

第四 接触者調査について

 接触者調査は、従来諸般の事情によりその効果をあげることが困難であつたが、重点的に法第七条により医師から届け出られた者について接触者調査を行なうこととされたので、法第二二条及び法第一○条、法第一五条等の規定を活用し、積極的に接触者の追求把握を図るとともに治療及び予防上の措置を講じ、感染源の撲滅を期されたいこと。

 一 法第七条の規定により医師が届け出ることとされている接触者は当該患者に病毒をうつしたと認められる者でさらに多数の者に病毒をうつすおそれのあるものであるが、この者は性病予防上危険度の高い感染源と考えられるので、届出がなされた場合は、すみやかに調査等を行なわれたいこと。

 二 法第七条の規定により医師が届け出ることとされている接触者以外の接触者についても、次により指導調査等が行なわれるよう取り図らわれたいこと。

  (一) 患者が医師の治療を受け、かつ、指示に従つているときは、医師が患者を通じ、接触者もともに治療等を受けるよう強力に指導すること。

  (二) 患者が医師の治療を受けないとき又は指示に従わないときは、法第七条及び規則第四条の規定により医師からその患者の氏名、居住の場所等について届出がなされることとされたが、届出がなされた場合は、その患者については必要に応じ法第一五条の治療命令等の措置を講ずる一方その患者を通じて接触者を把握し、健康診断を受けることを勧奨する等性病の治療及び予防上必要な指導を行なうこと。

第五 罰則について

 一 法第三○条の規定は届出事項の合理化に伴い、特に虚偽答弁により人権上問題が生ずるおそれのある場合、すなわち患者に病毒をうつしたと認められる者についての虚偽答弁をした場合についてのみ罰則を科することとされたものであること。

 二 法第三二条の規定については、従来同条において患者が居住の場所を変更したときの医師への届出義務違反について罰則が設けられていたが、患者の居住の場所は、医師の届出事項から除くこととされたことに伴い、罰則が削られたものであること。

第六 その他

 一 法第一一条及び法第一五条第二項の規定による権限は、政令市にあつては政令市の長の権限とされ、また法第一二条の規定による健康診断を実施する際の厚生大臣の承認制度が廃止されたので、より迅速かつ適切な運用を期されたいとともに、人権尊重の面についても配慮されたいこと。

  (一) 法第一一条の規定による売 いん・・ 常習の疑いの著しい者に対する健康診断については、政令市においても警察当局、婦人相談所等と密接な連携をとり、同条の改正が実効をあげるよう特に配慮されたいこと。

  なお、当該健康診断の命令等は、その者が現にいる場所を管轄する都道府県知事又は政令市の長が行なうものであること。

  (二) 旧規則第四条の規定は、法第一二条の規定による健康診断を実施する際の厚生大臣の承認制度が廃止されたことに伴い削られたものであること。

 二 法第二三条の規定による証票の裏面が法第二四条の改正に伴い一部改正されたが、新しい様式による証票のできるまで旧様式による証票は当該改正部分を訂正し、都道府県知事又は政令市の長の訂正印を押印して使用しても差しつかえないこと。

{別記様式(1)〜(5)は削除}