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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 性病健康診断要領について

[場所] 
[年月日] 1967年4月19日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和四二年四月一九日)

(衛発第二七二号)

(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生省公衆衛生局長通達)

性病予防対策については、最近における性病患者殊に早期顕症梅毒患者の増加傾向にかんがみ、昨年七月性病予防法の一部を改正し特に婚姻時における梅毒血清反応検査の義務化等を行なつて、性病予防対策の重要な部分を占める健康診断の強化を図つたところである。

従来、健康診断の実施にあたつては、どの程度のものを必要とするか一応の拠りどころとして、昭和二三年一二月一○日予発第一、六一五号予防局長通知「性病健康診断要領」(以下「要領」という。)に基づき行なわれ現在に及んでいるところであるが、この要領は現状にそわない面も一部見受けられるので、このたび、前記要領を改正し別紙のとおり定めたから、これが運用について遺憾のないようにせられたい。

(別紙)

性病健康診断要領

第一 法第八条による健康診断要領

 一 以前に性病に、り患したことの有無及び感染の機会の有無について既往歴を調べる。

 二 現在性病に、り患していることを示す症状及び徴候につき問診をする。

 三 梅毒血清反応検査を行なうが、これについては第三の健康診断要領を参照して行なう。

 四 りん病に対する尿検査は、二杯分尿法及び遠心沈澱して得られた可検物の塗抹標本検査、及び培養設備のあるところでは培養検査を行なう。

 五 局所検査は、前記一、二、三及び四項の調査の結果により性病の徴候の認められるときに行なう。

第二 法第九条による健康診断要領

 一 局所検査をも行なう際は、第三の健康診断要領による。

 二 妊婦について、性病の健康診断を行なう際は、通常梅毒血清反応検査を行なうものとする。

 三 梅毒血清反応の実施要領は、第三の健康診断要領による。

 四 健康診断は、先天梅毒を防ぐため適当な駆梅療法が受けられるよう妊娠四か月までに行なうのがよい。

第三 法第一○条、第一一条による健康診断要領

 一 梅毒

  A 診察について

   (一) 既往歴及び家族歴について慎重に調べる。

   (二) 全身の皮膚及び粘膜特に頭部、手掌、足蹠、口唇、口腔、陰部、肛門部などの発疹、潰瘍、粘膜疹、脱毛、き裂、扁平コンヂローム、ごむ腫の有無及び性状に留意する。

   (三) 女子の場合は前記の他、腟、子宮頚部の症状に留意する。

   (四) 疑わしい潰瘍には暗視野検査を行なう。

   (五) 淋巴腺、視器、聴器、神経系、骨、関節、内臓、心臓、血管系等の症状に留意する。

  B 梅毒血清検査について

   (一) STS

    梅毒血清反応検査については、最初に従来どおり、補体結合反応による方法のなかから適当な方法と沈降反応による方法のなかから適当な方法を少なくともそれぞれ一種類ずつえらんで行なうものとする。ただし、補体結合反応が行なえない場合は、沈降反応二種類でも差支えない。ここにいう適当な方法とは、たとえば、梅毒血清反応検査指針(昭和四四年六月日本公衆衛生協会発行。以下「検査指針」という。)等に記載されているものをいう。

    これらのカルジオライピンを抗原とする検査方法では、いわゆる生物学的偽陽性反応(以下「BFP」という。)にもとづく誤診を生ずることがある。従つて、これらの二種類の検査の結果が一致して陽性であり、臨床的にも明らかに梅毒であると認められるもの又はこれらの二種類の検査の結果が一致して陰性であり、臨床的にも明らかに梅毒でないと認められるものを除き、これらの二種類の結果が不一致のもの及び一致して陽性であつても臨床的に明らかに梅毒であると認められないものについては、必要に応じてTPHAを行なうものとする。

   (二) TPHA

    STSの検査結果をもととして、臨床的判断のうえ、TPHAを行なう必要があると認められるものについては、検査指針に記載されている方法に基づいて検査を行なうものとする。

    TPHAを行なつた結果陽性であれば、梅毒血清反応は陽性であると考えてほぼ間違いはないが、この場合一度治ゆした梅毒並びに先天性梅毒の有無をよく確めることが必要であり、臨床的判断のうえ、必要があればFTA|ABSを行なうか又は約一○日~一四日の間隔をおいて再度TPHAを試みるものとする。

    また、TPHAの検査結果が陰性の場合、STSの検査結果はBFPによる反応であつたと考えてほぼ間違いはないが、極く初期の梅毒ではTPHAが陰性を示す可能性のあることを考慮に入れ、感染機会の有無及びその時期をよく確かめるなど更に臨床的判断のうえ、疑いがある場合にはFTA|ABSを行なうものとする。

   (三) FTA|ABS

    TPHAの検査結果をもととして、臨床的判断のうえ、更にFTA|ABSを行なう必要があると認められるものについては、検査指針に記載されている方法に基づき検査を行なうものとする。

   (四) 脳脊髄液の検査

潜伏梅毒及び晩期梅毒には、脳脊髄液の検査を行なうことが望ましい。

  C 暗視野検査について

   (一) 暗視野検査は必ずトレポネーマ、パリドウムを識別する訓練と経験とを有する技術者により行なわれねばならない。

   (二) 検査材料の採取について

    (a) 乾いたガーゼ又は食塩水に浸したガーゼで患部を清拭する。

    (b) 透明の液が滲出する迄乾ガーゼ又は食塩水ガーゼで患部を軽くこする。

    (c) 滲出液の一滴をとり直ちに検査に供するか、毛細管でとり、ろう封して検査室におくる。

    (d) トレポネーマ、パリドウムを検査する場合には検査成績の決定まで患部に蒸溜水又は食塩水以外の強力な薬品を使用しない。

  D 前記の診察及び諸検査に依つて梅毒り患の有無が決定するまで駆梅療法はこれを行なわない。

 二 りん病

  A 診察について

   (一) 外陰部、尿道、スキーン腺、子宮頚部、バルトリン腺の炎症、分泌物等の所見に留意する。

   (二) 尿道、スキーン腺、子宮口、バルトリン腺よりの検査材料の塗抹標本検査を行ない、なお、培養検査を行なうことが望ましい。

   (三) 男子の慢性の場合は前立腺分泌物の鏡検が必要である。

   (四) 鏡検の際細胞内グラム陰性双球菌を認めるときはりん病の決定的診断となる。

   (五) 慢性の場合は、鏡検の際、りん菌を認め難いことがあるので、誘発鏡検、出来得れば、培養により菌の有無を確認することが必要である。

   (六) 化覚的所見が陰性化した後、なお連続三日間検査成績が陰性であるときは治ゆと認めてよい。

   (七) 梅毒の同時感染の有無を調べるためひき続き三か月間月一回の臨床並に血清検査を行なう。

  B 検査材料採取について

   男子の場合

   (一) 膿及び尿道分泌物

    膿または尿道分泌物を採取する際は陰茎腹面を根部から亀頭に向つて手指を以て摩さつし圧出して採取する。

   (二) 尿

    遠心沈澱により尿沈査をつくりこれを材料とする。白金耳により釣り上げ得る尿糸、膿片等があれば釣り上げて材料とする。

   (三) 前立腺分泌物

    前立腺にマッサージを加え尿道内に出てくる分泌物をとり材料とする。或はマッサージ後排尿しその尿を遠心沈澱し沈査を材料とする。

    この処置は著明な尿道炎のあるものに行なつてはならない。

   女子の場合

   (一) 尿道及びスキーン腺の分泌物

    腟内に指を挿入し恥骨に向つて尿道をまさつし膿或は分泌物を採取する。

   (二) 子宮頚部分泌物

    子宮口分泌物を清拭し腟鏡の両弁を以て何回も子宮頚部を圧して頚管内壁にある腺中より分泌物をしぼり出しこれを材料とする。

   (三) バルトリン腺

    腺開口部を清拭し腺内容を圧出して材料とする。

 三 軟性下かん

   既往歴、臨床症状により診断を下してよいが菌鏡検及び伊東反応により確実にすることが出来る。ただし、梅毒との同時感染の有無を調べるため暗視野検査及びその後三か月間の血清検査が必要である。

   暗視野検査の終る迄局所療法は行なわず患部を清潔に保つ。

  四 そけいりんぱ肉芽しゆ症

診断の際は次の事項に留意すること。

   (一) 既往歴、臨床所見によりフライ反応を参考として診断を下す。

   (二) フライ反応は既にり患したことのあるものは陽性のことが多い長年月単にフライ反応陽性のみによつては診断を下すことは出来ない。

〔後天性免疫不全症候群の予防に関する法律〕