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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 種痘の実施について

[場所] 
[年月日] 1970年8月5日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(昭和四五年八月五日)

(衛発第五六四号)

(各都道府県知事あて厚生省公衆衛生局長通達)

 標記の件については、かねてより種々御配意を得ているところであるが、本年六月中旬以降にわかに種痘の副反応に対する社会の関心が高まつたため、これに対する不安から、本年九月以降の種痘の実施について危惧する向きもあるやに見受けられる。しかしながら、すでに六月一八日付の本職通知でも示しているとおり、痘そうは、ここ一○数年国内発生こそないが、我が国と交流の多い東南アジアをはじめ、アフリカ、南アメリカの諸国には相当の流行が見られ、しかも、その予防には種痘以外に有効な手段がないこと、あらかじめ種痘を行なつて基礎免疫を与えておかなければ、流行時における臨時予防接種に際し迅速な免疫の上昇を期待できないこと、高年令児に対して初回接種を行なうと重篤な副反応を起こす危険性の高いこと、などの諸点から見て、今後とも定期の種痘は継続して実施する必要があると考えられる。

 このため接種に当たつての注意事項については、すでに六月一八日及び同月二九日付の本職通知をもつて示したところであるが、九月以降の実施に当たつては、前記の両通知によるほか、さらに左記の諸点に留意の上、定期種痘の対象者をはじめ関係者の協力を得て、その実施にあたるようご配意を願いたい。

なお、種痘実施に当たつて必要な注意事項をとりまとめ、別添の「種痘実施の手引き」を作成したので、関係者の指導の際に利用せられたい。

   記

一 種痘の定期にある者、その保護者、その他の関係者に対し、種痘の必要性特に満二歳程度までに初回接種を受ける必要性や、種痘に当たつて注意しなければならない事項について周知徹底をはかること。

二 予防接種法第一○条においては、第一期の種痘は生後二月から一二月の間とされているが、専門学者の意見を徴した結果これを生後六月から二四月の間とし、この間の健康状態の良好な時期に受けるよう指導することが適当であると認められるので、市町村において接種を計画する際はとりあえず法による定期に該当する者については生後六月以降の者を対象とし、遅くとも生後二四月以内に種痘を終えるよう定期の計画に組み入れて実施することとして指導すること。なお、この点については、できるだけすみやかに予防接種法改正案提出の手続をとる予定であること。

三 実施に当つて万一重篤の副反応を生じた際は、必要に応じ前記六月一八日付本職通知したところによる専門家の協力を得るとともに、別に通知するところによる予防接種事故に対する措置の申請をするよう指導すること。

種痘実施の手引き

第一 種痘の必要性

 わが国における痘そう患者は、昭和三一年以来発生していないが、いまなお、アジア、アフリカ、南米の諸国に痘そう、常在流行地のある現在、これらの地域と交流の多いわが国は常に痘そう侵入の危険にさらされている。

 しかも、痘そうの予防には種痘以外に有効な手段がないこと。あらかじめ基礎免疫を与えておかなければ、流行時における臨時予防接種に際し迅速な免疫の上昇を期待できないこと。また、高年齢児に初回接種を行なうと重篤な副反応の危険性の高いことなどの理由により、種痘を継続して実施する必要がある。

第二 初回種痘の実施

 初回種痘は生後二月から生後一二月の間とされているが、専門学者の意見によつても、これを生後六月から生後二四月の間とし、この間の健康状態の良好な時期に受けるよう指導することが適当であると認められるので、市町村において、接種を計画する際は、とりあえず法による定期該当者については、生後六月以降の者を対象とし、遅くとも生後二四月以内に種痘を終るように、定期の計画に組み入れて実施するよう指導すること。

 なお、種痘の実施に当たつては、市町村長と地域の医師会と協議し、できる限り被接種者のかかりつけの医師によつて種痘を受けられるよう配慮すること。

第三 接種前の注意

一 被接種者及び保護者への周知徹底

 種痘をはじめ、各種予防接種による副反応として、軽度の発熱、発赤、発しん等は、通常みられるものであり、被接種者及び保護者が、いたずらに不安をおこさないよう、接種にあたつてよく周知せしめることが必要である。

 なお、接種対象者に対して通知等を行なう際には、「実施要領」第一の二に掲げる事項のほか

 (一) 別紙様式による質問票を予め配布しておき、各項目について記載のうえ、これを接種の際に必らず持参させること。

 (二) 現に医療を受けている者、あるいは、けいれん(ひきつけ)の既往症のある者は、必らずその旨を申出させること。

 (三) 被接種者が乳幼児の場合は、必らず保護者が同行すること。等について特に留意すること。

 〔附〕「実施要領」第一の二(接種対象者に対する通知)

   二 接種前日の入浴、清潔な肌着の着用、母子手帳の持参、費用、禁忌等の注意事項も併せて周知させること。

   三 接種前あらかじめ保護者及び接種対象者に対し、次の事項を周知徹底せしめること。

    イ 接種後異常な徴候のあつた場合は、すみやかに医師の診察をうけること。

    ロ 経口生ポリオワクチン接種後は、一か月間種痘を行なつてはならないこと。又接種後間もない時期に抜歯、扁桃腺摘出等の外科的手術を避けること。

二 接種前の準備

接種会場においては、接種該当者を確認することは勿論のこと、また、使用接種液は規定どおりのものかどうか、接種用器具の滅菌等は充分なされているかどうかについても再度確認すること。

三 予診の実施について

接種前の健康状態の調査にあたつては、特に次の事項に留意するとともに、その実施の際には別紙質問票を参考とすること。

 (一) 過去における種痘の有無

 (二) 過去一か月以内における急性灰白髄炎、ましん、BCG等の接種の有無

 (三) 体温測定をすること。

 (四) 湿疹等皮膚疾患の有無

 (五) 現在又は最近医療を受けたことの有無

 (六) けいれん(ひきつけ)の既往症の有無

 (七) 発育の明らかなおくれの有無

 (八) 家族内の過去一か月以内における麻しん等のり患者の有無

第四 禁忌について

一 予防接種実施規則第四条に掲げる禁忌例のほか、

 (一) 現に医療を受けている者

 (二) けいれん(ひきつけ)の既往症のある者

 (三) 発育が明らかにおくれている者

   等についても接種を行なわないよう指導すること。

 〔附〕実施規則第四条(禁忌)

    接種前には、被接種者について、体温測定、問診、視診、聴打診等の方法によつて、健康状態を調べ、当該被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、その者に対して予防接種を行つてはならない。ただし、被接種者が当該予防接種に係る疾病に感染するおそれがあり、かつ、その予防接種により著しい障害をきたすおそれがないと認められる場合は、この限りでない。

    一 有熱患者、心臓血管系、腎臓又は肝臓に疾患のある者、糖尿病患者、脚気患者その他医師が予防接種を行なうことが不適当と認める疾病にかかつている者

    二 病後衰弱者又は著しい栄養障害者

    三 アレルギー体質の者又はけいれん性体質の者

    四 妊産婦

    五 種痘については、前各号に掲げる者のほかまん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害をきたすおそれのあるもの又は、急性灰白髄炎若しくは麻しんの予防接種を受けた後一月を経過していない者

    六 急性灰白髄炎の予防接種については、第一号から第四号までに掲げる者のほか、下痢患者又は種痘若しくは麻しんの予防接種を受けた後一月を経過していない者

二 禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者に対しては、当日は接種を行なわないこと。この場合、必要があれば精密検診を受けるよう指示すること。

第五 接種時の注意

種痘の実施にあたつては、次の事項に留意すること。

一 実施規則第五条第二項に規定する事項

二 実施規則第一○条に規定する事項

三 接種部位の消毒にアルコール綿を用いるとき、強くこすつて皮膚面を傷つけないこと。

四 多圧の方法は左図を参照し、誤りのないようにすること。

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 〔附〕実施規則第五条第二項

    二 種痘を行なうに当たつては、前項第一号及び第二号の事項並びに次の事項を厳守しなければならない。

    (一) 痘漿盤は、室温まで冷却し、かつ、乾燥させて使用すること。

    (二) 原則として、第一期の種痘は、右上腕伸側又は右肩部、その他の種痘は、左上腕伸側に行なうこと。

    (三) 種痘の接種部位は、衣類による緊迫のないことを確かめた後、堅く絞つたアルコール綿で消毒し、よく乾燥させること。

    (四) 種痘を受けた者又はその保護者に対して、前項第七号の事項及び次の事項を知らせること。

     イ 接種部位は、予防接種を受けた後およよ一○分から一五分までの間着衣しないで露出し、火気、直射日光等によらないで自然に乾燥させること。

     ロ 接種部位を摩擦しないこと。

五 接種後は、自然に局所が乾燥するのを待つて着衣させるが、日光や火気にあてて乾燥させないようにすること。五~一○分を経過すれば、余分の痘苗を滅菌ガーゼで拭つてもよいが、ガーゼ、ホウタイなどで局所を密閉しないようにすること。

六 入浴については、接種当日、できればその翌日も避けること。その後は、発熱や発疹等が発現しない限り、入浴しても差し支えないが、局所に丘疹や水疱が生ずる時点(ほぼ四日目)からの入浴は、全体がかさぶたになるまで避けること。

 なお、局所の処置は、そのまま乾燥した状態に保つよう心掛けることが必要である。また、局所が化膿し異常に腫脹した場合には、かかりつけの医師に相談することが望ましい。

七 接種当日は、過激な運動をしたり、直射日光にあたることは、できるだけ避けること。

  〔附〕初回接種後の局所反応の経過

    種痘後三日頃になると、局所には発赤が出現し、四日目には丘疹様、五~六日には水疱を形成する。水疱と周囲の発赤はしだいに大きくなり、中央部が凹んで、七~一○日頃に、水疱は膿疱に移行する。反応は一○日目頃に最大となり、その後、膿疱は乾燥の傾向を示し、発赤も鮮紅色から暗紅色となり消退して行く。膿疱の中央部よりかさぶたの形成が起り、二~三週の間に全体がかさぶたとなる。

    第三週の終り頃までには、かさぶたは脱落し瘢痕を残す。なお、四~一○日頃にかけ、二○~三○%の頻度で発熱するといわれているが、通常は一~二日のうちに減退する。染谷班の調査結果によれば、発熱は二六%、発疹は一八%程度に発生する。

第六 異常反応があつた場合の措置

 一 予防接種後に異常反応のあつた者は、すみやかに医師の診察を受けるよう、被接種者及び保護者に周知をはかること。

 二 異常反応のあつた者を診察した医師は、すみやかに市町村長又は最寄の保健所長に報告するよう管内各医師に協力を依頼すること。なお、保健所長が報告をうけた場合は市町村長に通知すること。

 三 万一事故発生の場合(疑わしい場合も含む。)は、すみやかに報告するよう管下市町村長に周知徹底をはかること。

  〔附〕「実施要領」第一の一三の四

    事故発生の場合には、市町村長は、次の事項を記載した報告書を保健所長を経て都道府県知事に提出すること。

    都道府県知事は、市町村長からの事故発生の報告を受けた場合及び、みずから実施した予防接種において事故が発生した場合には、当局あてに、同様の報告書を提出すること。死亡、永続する障害等の重大な事故が発生した場合には、報告書の提出前にあらかじめ電話等により速報を行なうこと。

    (一) 予防接種の種類、定期、臨時の別及び当該予防接種が数回の注射により行なわれるときは、その回数

    (二) 予防接種を行なつた医師の氏名、年齢及びその補助者の氏名、年齢

    (三) 事故のあつた被接種者の氏名、性別、生年月日及び住所並びに当該被接種者が未成年者であるときはその保護者の氏名

    (四) 接種液の製造者の氏名又は名称及び住所

    (五) 接種液の製造年月日、製造番号及び検定合格年月日

    (六) 事故の内容

     (イ) 発見の動機

     (ロ) 既応歴(乳幼児の場合は生下時体重及び生産時の状況)

     (ハ) 主要症状

     (ニ) 予防接種を受けた年月日及び予防接種後の経過

     (ホ) 検査成績

     (ヘ) 転帰年月日

     (ト) 家族歴

     (チ) その他

    (七) 事故のあつた被接種者を含む集団の状況

    (八) 推定される事故の原因

    (九) その他参考事項

四 種痘による事故報告を受けた場合は、昭和四五年八月三日衛防第三一号による「種痘副反応、合併症調査票」を作成するとともに、診断、治療等の指導が必要と思われるものについては、最寄の種痘研究班員に連絡すること。

五 種痘による合併症のうち、化学療法剤N―メチルイサチン―β―チオセミカルバゾン(マルボラン)が有効とされている。全身性痘疱、種痘性湿疹等の治療については、最寄りの種痘研究班員に連絡すること。

 おねがい

下の表の中のあてはまるところに記入するか、○でかこんでください。(この紙は予防接種を受ける会場へもつてきてください。)

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〔参考〕

一 初回接種の時期を生後六~二四月にした理由

 (一) 生後一二月から二四月に至る期間が生後一二月未満に比し危険でいるという科学的根拠はない。

 (二) 生後二四月以降初回接種を行なう場合、それ以前初回接種を行なう場合に比し、重篤な副反応を呈する率が高い。

 (三) 局所反応を比較すると、生後六月未満の場合は、生後六月以降に比し、明らかに反応が強い。

 (四) 副反応を防止するためには、健康状態の最も良好な時期に接種することが重要なので、期間を生後二四月まで延長することにより、最適の時期を選びやすくしたこと。

二 実施規則第一○条で、接種する皮膚面の範囲を直径三ミリメートル以内、多圧の回数を五~一○回とした理由

 (一) 最近、痘苗が精製され、かつ、保存、管理の方法が改善されたことにより、痘苗の力価が安定してきたこと。

 (二) 本法によつても、十分に善感すること。

三 異常反応のあつた場合の措置方法を模型図にすると次の通りとなる。

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