[文書名] コレラ防疫対策実施について
(昭和五三年八月一一日)
(衛発第七〇一号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省公衆衛生・環境衛生局長連名通知)
コレラは、ここ数年来我が国においては防疫対策上問題とされることはなかつたが、昨年六月の和歌山県有田市におけるコレラ患者の集団発生及びその後の東京都、神戸市等におけるコレラ患者の輸入例の発見並びに本年三月末に鶴見川で発生したコレラにみられるように、国内侵入の危険が増大している。このような状況にかんがみ、既に昨年来検疫対策を強化するとともに、「検疫伝染病の防疫対策について」(昭和五二年八月一一日付け衛発第六四三号厚生省公衆衛生局長通知)により検疫伝染病の汚染地域からの来航者について防疫対策を強化し、コレラの国内侵入防止を期しているところであるが、今般別添のとおり「コレラ防疫対策実施要綱」を定めたので、次の事項に御留意の上、この要綱に基づき、市町村の指導その他万全の措置を講じ、コレラ防疫対策に遺憾のないようにされたい。
な お、「コレラ防疫対策実施について」(昭和三七年三月一三日付け衛発第一八一号本職通知)は廃止する。
1 この要綱は、伝染病予防調査会伝染病対策部会に諮つた上定められたものであること。
2 この要綱には、コレラの国内発生前及び国内発生時において主として都道府県及び市町村において実施する対策を規定したものであること。
3 この要綱による対策実施を終了する時期は、当職より通知すること。
(別添)
コレラ防疫対策実施要綱
第一 総括的事項
一 目的
この要綱は、コレラ防疫に関し、検疫法による入国前の隔離収容等の措置と併せて、国内における防疫体制を確立し、及び国内において患者、保菌者又は汚染物件(以下「患者等」という。)が発見された場合の防疫措置に万全を期するため都道府県等が実施する防疫対策の要綱を定めることを目的とすること。
二 定義
(一) この要綱において「患者」とは、臨床症状によりコレラと診断された者をいい、そのうちコレラ菌(コレラエンテロトキシン産生性コレラ菌に限る。以下同じ。)が検出された者を「真性患者」、コレラ菌が検出されていない者を「疑似患者」ということ。
(二) この要綱において「保菌者」とは、コレラの臨床症状は認められないが、コレラ菌が検出される者をいうこと。
(三) この要綱において「汚染物件」とは、コレラ菌により汚染された物件をいうこと。
(四) この要綱において「要観察者」とは、患者と診断するには至らないが、病歴や症状からして、コレラに罹患しているか又は発病しつつあると推定される者をいうこと。
(五) この要綱において「接触者」とは、患者等と接触して、感染を受ける機会を持つた者をいうこと。このうち、患者又は保菌者と飲食を共にしていた者等同一感染経路による感染が考えられる者及び患者等との頻繁な接触等により感染の機会の多かつた者等、感染が強く疑われる者を「濃厚接触者」ということ。
(六) この要綱において「コレラ汚染地域」とは、世界保健機関の国際保健規則に基づいて、各国の保健主管庁が世界保健機関に対しコレラ汚染地域として通告する地域をいうこと。
(七) この要綱において「コレラ防疫対策地域」とは、患者等が発生した地域及びそれらにより汚染され、又はその疑いのある地域であつて、コレラ防疫対策が必要と認められる地域をいうこと。
(八) この要綱において「隔離収容」とは、患者又は保菌者をコレラの感染源となりうる期間他の人々から分離して隔離病舎等に収容することをいうこと。
(九) この要綱において「観察収容」とは、患者であると疑われる者をその疑いが否定されるまでの期間観察収容施設に収容することをいうこと。
(一○) この要綱において「健康監視」とは、接触者の感染や発病を迅速に発見するために原則として一二○時間以内の期間厳しい行動制限を行うことなく健康状態の医学的な管理を実施することをいうこと。
三 その他
(一) この要綱によるコレラ防疫対策実施期間は、コレラの国内侵入のおそれがなくなるまでの当分の間とすること。
(二) この要綱による細菌検査の方法は、別に定める「コレラ菌検査指針」によること。
(三) 国内初発真性患者又は保菌者としての決定は、各地方衛生研究所における細菌検査の結果を確認して行うこと。
(四) 汚染物件としての決定は、(三)に準じて行うこと。
第二 平常時における対策
一 方針
いつ、いかなる地域で患者等が発見されても迅速かつ的確な防疫活動を展開できる体制を確立するとともに、環境衛生対策の強化を図ること。
二 防疫体制
(一) コレラ防疫対策本部及びコレラ防疫対策連絡協議会の設置
都道府県(指定都市を含む。以下同じ。)は、コレラ防疫対策を一元的に実施するコレラ防疫対策本部(以下「対策本部」という。)、及びその協力機関としてのコレラ防疫対策連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)を設置すること。
対策本部は都道府県の関係各部局により構成し、連絡協議会は都道府県の関係各部局、都道府県内の関係行政機関、医師会その他の関係団体等により構成すること。
(二) 防疫計画の作成
対策本部は、平常時及び患者等発生時の防疫措置につき、連絡協議会の協力のもとに、防疫措置に必要な器材、検査施設、収容施設、人員等の調査を行い、防疫計画を作成すること。
(三) 情報連絡の緊密化
患者等の早期発見のため、医療機関、事業場、学校等と緊密に連絡を保つておくこと。
(四) 検査施設の整備及び検査技術の向上
各地方衛生研究所においては、コレラ菌検査を行うための資材を整備するとともに、検査技術の向上に努めること。
(五) 収容施設の整備
都道府県内の地理的条件、交通手段、医療施設の分布等を考慮の上、隔離収容施設の配置を検討し、市町村に対し隔離病舎の設置を指示し、また必要な整備を指導しておくこと。
三 環境衛生対策
(一) 飲料水の安全確保
水道施設の維持管理及び水源の汚染防止について監視指導を強化すること、改善を要する水道施設に対しては早急に改善するよう指導し、必要に応じて水道法による改善命令を行い、井戸等については必要に応じて水質検査を実施し、不良なものについては施設の改善及び消毒を指導すること。
(二) 食品衛生対策
関係業者に対し、監視指導又は講習会等を通じコレラの防疫等に関する啓蒙に努めるとともに、食品関係業者の協力態勢を確立すること。
(三) 清掃の強化
清掃事業に対する指導を強化し、清掃の徹底を図るとともに、汚物の処理が不衛生にわたらないようにすること。
(四) 旅館等に対する衛生状態監視の強化
旅館、公衆浴場、遊泳場等の衛生状態について監視指導を強化し、その衛生保持を図ること。
(五) そ族昆虫の駆除
ハエ、ゴキブリ及びネズミを中心として、定期的に駆除を行うこと。
四 衛生教育及び広報活動
流行状況、予防方法等について、テレビ、新聞、パンフレット等を利用して、一般住民に周知させること。なお、この場合、不必要な不安、動揺を与えないよう特に留意すること。
五 検疫所長より通報のあつた入国者の健康監視等
検疫法第一八場後段に規定する者については、当該検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。以下同じ。)より通報を受けた際は、速やかに本人の行先地を管轄する保健所長にその旨を通知し、健康監視をするよう指導すること。
また、コレラ汚染地域から来航した者として通報を受けた際は、必要と認められる者については健康監視をすること。
第三 患者等発生時における対策
一 方針
別紙「コレラ疫学調査実施要領」に従つて、発生規模及び汚染範囲の早期は握に努め、迅速かつ的確な防疫活動を展開すること。
情報連絡網及び指揮系統の整備、及び住民に対する正確な情報及び衛生知識の提供には十分留意し、混乱を最小限にとどめるよう努めること。
なお、交通しや断等、社会的影響が大きい措置は、できるだけその実施を避けること。
また、第二の平常時対策に規定されている事項のうち必要な事項は引き続き実施すること。
二 検疫により患者等が発見された場合における対策
(一) 情報連絡網の整備、強化
患者等発生の事実、発生状況、乗客乗員名簿等、必要事項の関係都道府県への通報は厚生省から行うので通報を受けた場合は都道府県内の関係機関に速やかに通報すること。また、都道府県内の関係機関と緊密な連絡を保ち、調査結果及び防疫措置等は都道府県でとりまとめて速やかに厚生省に報告すること。
なお、関係都道府県のうち、患者等を発見した検疫所(検疫所の支所及び出張所を含む。以下同じ。)の所在地の都道府県は、疫学調査及び防疫対策の実施等に関して、当該検疫所との連絡を特に緊密に保つこと。
(二) 疫学調査及びこれに伴う措置の実施
厚生省から通報を受けた都道府県は、健康調査及び環境汚染調査等の疫学調査及び消毒等の防疫措置を速やかに実施すること。この場合、検疫所長が疫学調査又は防疫措置を実施するときは、都道府県知事は当該検疫所長と十分協議の上緊密な協力体制の下に実施すること。
調査により新たに患者等が発見された場合には、三にしたがつて必要な措置をとること。
なお、健康監視に付されて既に入国している者が後に患者又は保菌者と判明した場合は、前記の措置をとつた上、検疫以外により発見されたものとして取り扱うこと。
(三) 検疫業務への協力
以上の連絡、協力体制のほか、隔離収容の委託等について検疫所より協力要請のあつた場合はこれに協力すること。
(四) 予防接種の実施
予防接種法第九条による緊急時予防接種の実施は、厚生省と協議の上、特に必要と認められる場合に限り実施すること。
三 検疫以外により患者等が発見された場合における対策
(一) 防疫組織の整備
ア 対策本部及び連絡協議会の組織を整備拡充し、その活動を強化すること。
イ 患者等が発生し、又はそのおそれのある市町村に対し、伝染病予防委員の任命を指示し、及び市町村コレラ防疫対策本部の設置を指導すること。
ウ 国内において二次感染が発生したと判断される場合及び感染経路不明の発生例の場合には、当該都道府県は対策本部内に疫学調査委員会を設置すること。疫学調査委員会は、疫学及び微生物学等の学識経験者、医師会関係者、防疫、食品衛生及び環境衛生の担当者等をもつて構成し、疫学調査に万全を期するとともに迅速かつ効率的な防疫対策の推進に資するものとすること。また、コレラ防疫関係の情報はすべて疫学調査委員会が集中管理するものとすること。
(二) 情報連絡網及び指揮系統の点検、整備及び強化
都道府県内の情報連絡網及び指揮系統を点検し、不備があれば整備し、また強化すること。
厚生省からの指示及び通報等は、原則として都道府県を通じて行うので、速やかに都道府県内の関係各機関に連絡すること。また、厚生省への報告等は、都道府県の対策本部でとりまとめて行うこと。
他の都道府県との連絡については、原則として厚生省を通じて行うこと。ただし、厚生省において関係都道府県間の直接連絡が必要と判断する場合にはその旨指示するので、緊密な連絡を保つこと。
(三) 器材、検査施設、収容施設の整備並びに要員の動員及び確保
患者等が発生した都道府県及びそのおそれのある都道府県においては、次の措置を講ずること。
ア 消毒器材、検査器材、検査施設等の整備並びに要員の動員及び確保
予測される発生規模に応じ、十分な余裕をもつて速やかに器材を整備するとともに検査及び防疫作業に必要な人員を動員又は確保すること。
イ 収容施設の整備及び確保
既設の収容施設を整備するとともに、大量発生に備えて近隣地域の収容施設の利用も考慮しておくこと。
(四) 初発患者又は保菌者の届出又は通報があつた場合の防疫措置の実施
ア 検疫により健康監視に付されて既に入国している者が、後に患者又は保菌者と判明した場合
厚生省(又は当該検疫所)からの通報を受けた都道府県は、直ちに関係各機関に通報するとともに患者及び保菌者を隔離収容する措置をとり、また消毒その他の必要な措置を講ずること。
イ 医師より届出があつた場合
医師より患者又は保菌者として法に基づく届出があつた者については、直ちに隔離収容その他の措置を講ずるとともに地方衛生研究所で細菌検査を行い確認すること。なお、防疫活動は届出と同時に開始すること。
ウ 医師より通報があつた場合
医師より要観察者として通報があつた場合には、直ちにイに準じて細菌検査を行うこと。この場合における防疫活動開始の時期は、原則として地方衛生研究所における細菌検査で患者と決定された段階とするが、必要と判断される場合には患者としての決定以前から防疫活動を開始すること。
エ 家族等より通報があつた場合
家族等よりコレラ様患者として通報があつた場合には、直ちに適当な医療機関を受診するよう指示すること。受診の結果、医師より患者又は保菌者として法に基づく届出があつた場合にはイに準じて措置し、医師より要観察者として通報があつた場合にはウに準じて措置すること。
(五) 通報の実施
ア 患者等初発の通報
都道府県内に初めて患者等が発生した場合は、次の経路により、直ちに電話等により報告を行うとともに、都道府県内の関係機関にも通報すること。
市町村――保健所\
\
都道府県――厚生省
/
保健所――政令市/
イ 初発以後の通報
アの通報を行つた後には、発生地市町村名、患者累計数その他必要な事項を発生終息まで毎日電話等により報告すること。
(六) 患者等発生に伴う防疫措置の実施
ア 患者、保菌者及び感染の疑いのある者に対する措置
患者及び保菌者は、直ちに伝染病院隔離病舎等に隔離収容の措置をとること。
要観察者はできる限り観察収容することとし、やむを得ない場合においてのみ健康監視とすること。
接触者は健康監視とすること。そのうち濃厚接触者については細菌検査を連続的に実施し、また必要に応じて自宅待機等の行動制限を行うこと。
イ 隔離収容等の措置の解除
患者及び保菌者に対する隔離収容の解除は、臨床症状が消退して後抗菌製剤投与継続中に行う細菌検査で陰性が確認された段階で抗菌製剤投与を中止し、その四八時間以上後に行う細菌検査(二四時間以上の間隔で行うもの。以下同じ。)で三回連続陰性となつた段階で行うこと。
要観察者に対する観察収容等の措置の解除は、臨床症状消退後七二時間(臨床症状消退の翌日以後に抗菌製剤投与を受けた者については、投与中止後四八時間)以上後に行う細菌検査で三回連続陰性となつた段階で行うこと。
濃厚接触者に対する健康監視の解除は、感染機会後(その後抗菌製剤投与を受けた者については、投与中止後)七二時間以上後に行う細菌検査で三回連続陰性となつた段階で行うこと。
その他の接触者に対する健康監視の解除は、感染機会後(その後抗菌製剤投与を受けた者については投与中止後)一二○時間以内にコレラ様症状を発現しなかつた段階で行うこと。
ウ 疫学調査及びこれに伴う措置
患者等の確認と同時に、直ちに疫学調査を開始し、調査の結果判明した患者等及び感染の疑いのある者等については、速やかに必要な措置を講ずること。
エ 清潔方法、消毒方法等
清潔方法及び消毒方法は、赤痢の場合より広範囲かつ濃厚に行うこととし、コレラ防疫対策地域においては溝渠、下水、公衆便所の消毒を十分に行い、また屎尿は消毒後に適切な処分をするようにすること。
汚染され、又はその疑いがある物件については、移動を禁止し、検査の上消毒、廃棄、その他必要な措置をとること。
コレラ防疫対策地域においては、ハエ、ゴキブリ及びネズミを中心として徹底的に駆除を実施すること。
オ 飲料水その他家用水の安全確保
コレラ防疫対策地域においては、以下の措置を講ずること。
水道については、塩素消毒を強化するとともに、水道従事者及びその家族の健康調査を行うこと、衛生上改善を要する施設を発見したときは、所属の改善が完了するまでの間、給水を停止するよう指導すること。
井戸については、検査及び消毒を強化し、不良井戸は使用を停止し、施設を改善させること。
溜池及び流水については、全面使用停止とすること。やむを得ず使用させる場合は、十分な消毒の後に使用させること。
カ 食品衛生対策の強化
コレラ防疫対策地域において、食品及び食品関係施設の監視指導を強化するとともに、必要に応じて食品関係従事者及びその家族の健康調査を行い、汚染されまたはその疑いのある食品の排除に努める等所 要の措置を講ずること。
キ 漁撈、遊泳若しくは水の使用の制限又は停止、及び飲食を伴う集会の制限又は禁止
海域又は水域が汚染され、又はその疑いがある場合においては、汚染の拡大及び新たな汚染を防止する措置を講ずるとともに、他の防疫措置のみによつては流行を阻止し難いと認められるときは、連絡協議会の意見を聴き、必要な範囲及び期間につき、漁撈、遊泳若しくは水の使用を制限し、又は停止すること。
また、コレラ防疫対策地域においては、特に必要と認められる場合には飲食を伴う集会を制限し、又は禁止すること。
(七) 衛生教育及び広報活動の実施
テレビ、新聞、パンフレット等により広報活動及び地区組織活動を強化して、衛生教育の徹底を図ること。特にコレラ防疫対策地域においては、各個人にまでコレラに関しての正しい知識及び予防方法等の徹底を図り、不必要な不安、動揺を与えないよう配慮するとともに、各個人の衛生措置の有効化を図ること。
(八) 予防接種の実施
予防接種法第九条による緊急時予防接種の実施は、厚生省と協議の上、特に必要と認められる場合に限り実施すること。
(九) その他
ア 防疫員の派遣命令
患者等発生都道府県においては、他都道府県からの防疫員の派遣について、必要がある場合には速やかに厚生省に要請を行うこと。
イ 官立施設内で患者等が発生した場合
官立施設内で患者等が発生した場合において、当該施設の長からその防疫措置に関して協力要請があつた場合には、都道府県及び市町村はこれに十分協力すること。
ウ 列車、船舶、航空機等で患者、保菌者、汚染物件等が発生した場合の措置
列車、船舶、航空機等で患者等、感染の疑いのある者又は汚染の疑いのある物件のあることが判明した場合は、関係機関に連絡の上必要な措置を講ずること。
五 報告書
発生状況、防疫対策、経過等に関する報告書を、発生終息後速やかに作成し厚生省に提出すること。
別紙
コレラ疫学調査実施要領
第一 総括的事項
一 目的
この要領は、コレラの患者等が発見された場合、速やかにその発生規模及び汚染範囲をは握するとともに、感染経路及び感染源を明らかにすることにより、防疫活動を迅速かつ効率的ならしめ、更に将来のコレラ発生時の防疫対策に資することを目的とすること。
二 定義
「コレラ防疫対策実施要綱」において定義した用語は、この要領においても同様に用いること。
三 その他
(一) 検疫調査については、質問票を用い、原則として戸別訪問により次の調査を行うこと。
ア 現症調査
調査日現在におけるコレラ様の臨床症状の有無を調査し、異常のある場合にはその経過を詳細に調査すること。
イ 既往調査
調査日を基点として、おおむね過去一○日間におけるコレラ様の臨床症状の有無を調査し、異常のあつた場合には、その経過を詳細に調査すること。
(二) 行動調査については、質問票を用い、原則として戸別訪問により次の調査を行うこと。
ア 発症前五日間(保菌者にあつては、検体採取日前五日間)の行動調査
飲食状況、立ち寄り先を中心に調査すること。飲食状況については、朝食、昼食、夕食のみならず、摂取したすべての飲食物について詳しく調査し、特に飲食を伴う集会には十分留意すること。立ち寄り先については、コレラ汚染地域への旅行の有無及び旅行先で行動を共にした者の有無、及び立ち寄り先を汚染した可能性の有無に十分留意すること。
イ 発症後(保菌者にあつては、検体採取日以後)の行動調査
汚染範囲をは握するため、行動状況を詳細に調査すること。
第二 調査方針
一 検疫により患者等が発見された場合
(一) 患者又は保菌者が検疫所の措置場等に隔離収容されている場合
厚生省から同行者(患者又は保菌者と旅行中の行動を共にしていた者をいう。以下同じ。)又は同乗者(帰国の際の交通機関に、患者又は保菌者と同乗していた者をいう。以下同じ。)についての通報を受けた都道府県は、同行者に対しては検病調査及び検便を、同乗者に対しては検病調査を行うこと。
患者又は保菌者による汚染が疑われる地域を有するとの通報を厚生省から受けた都道府県は、必要と認めるときは当該地域に対する環境汚染調査及び感染が疑われる人々に対する健康調査を実施すること。この場合、検疫所長が疫学調査を実施するときは、都道府県知事は当該検疫所長と十分協議の上緊密な協力体制の下に実施すること。
(二) 健康監視に付されて既に入国している者が、後に患者又は保菌者と判明した場合
厚生省から通報を受けた都道府県は、(一)の調査を行うとともに、入国後の行動調査により汚染範囲を推定して調査し、及び濃厚接触者に対しては検病調査及び検便を、その他の接触者に対しては検病調査を行うこと。また、厚生省及び当該検疫所と十分連絡をとり必要資料の提供を受け、当該患者又は保菌者の旅行中の行動について飲食状況を中心に調査し、感染経路及び感染源の解明に努めること。
(三) 汚染物件が発見された場合
厚生省及び当該検疫所と十分連絡をとり、必要資料の提供を受け、汚染物件が既に国内に入つている場合には詳しく追跡調査を行うこと。
二 検疫以外により患者等が発見された場合
(一) 輸入例であると判明された場合
患者等の行動調査及び流通経路についての調査を行い輸入例であると判断される場合は、検疫により発見された場合に準じて調査を行うこと。
(二) 国内における二次感染及び感染経路不明の場合
国内において二次感染が発生したと判断される場合及び感染経路不明の発生例の場合には、都道府県は疫学調査委員会を設置し、以下に示す「疫学調査の実施」に沿つて調査を進めること。
第三 疫学調査の実施
一 発生規模及び汚染範囲のは握のための調査
(一) 行動調査
患者及び保菌者を主とするが、必要に応じて要観察者も調査対象に加えること。
(二) 検病調査及び検便
濃厚接触者に対しては検病調査及び検便を実施し、その他の接触者に対しては検病調査を行うこと。
患者又は保菌者の所属する集団(学校、事業所等)及び患者又は保菌者が参加した飲食を伴う集会の参加者に対しては検病調査を行い、共通感染源として疑われる施設の従業員等に対しては適宜検便を実施すること。
患者又は保菌者の住居周辺の住民に対しては検病調査を行うこと。下水、便所等により井戸、水道の汚染及びその他汚染経路による汚染が疑われる場合は、それらにより感染の可能性があると認められる者に対しては検便も実施すること。
(三) 医療機関に対する調査
医療機関の協力を得て、当該地域における最近(おおむね一○日間)の原因不明の下痢患者(特に無熱性下痢患者)をは握し、必要に応じてそれらの者に対して検病調査、検便、行動調査を実施すること。
(四) コレラ菌による環境汚染調査
コレラ菌による汚染が疑われる便所、屎尿浄化槽、溝渠、下水、河川、海域、飲料水、食品、水産物等について、コレラ菌等の検索を繰り返し実施すること。
(五) 地域抽出調査
推定される感染経路を考慮し、汚染の可能性が高い地域及び低い地域(対照地域)からそれぞれ数か所の地域(地区、町、集落等)を抽出し、その地域に対しては検便、環境汚染状況調査等を徹底して実施すること。
二 流行状況の調査、検討
(一) 基礎資料収集のための調査
上水道、井戸水等の使用状況、下水道等し尿の処理状況、食品の主要流通経路、過去における消化器系伝染病の発生状況等について調査を行うとともに、地域の特性をは握するため、食生活を中心とする生活習慣感染の場となりやすい施設(学校、事業所等)人口構成、産業構造、交通網等についても調査を行うこと。
(二) 患者及び保菌者の個人票の作成
個人票の作成に当たつては、次の事項を記載すること。なお、記載事項に関しては、秘密厳守に十分の注意を払うこと。
ア患者(及び保菌者)番号 イ真性、疑似及び保菌者の別 ウ菌型 エ氏名 オ性別 カ生年月日 キ住所 ク職業、勤務先及びその所在地 ケ既往歴 コ発症年月日(保菌者にあつては、検体採取日) サ発症日 以後の経過、措置及び転帰 シ検便結果 ス環境状況 セ同居者 ソ行動調査の結果 タ推定される感染経路 チその他の特記事項
(三) 患者等の発生状況の検討
ア 日別発生度数分布
患者については発症日、保菌者については検体採取日を基準とした分布を作成すること。
イ 家族集積性
ウ 地域集積性
行政区域のみならず、水系、食品流通経路等を考慮して地域分布を検討すること。また、地域別発生状況の時間的観察にも留意すること。
エ 特定集団における集積性
学校、事業所、特定の飲食店、飲食を伴う集会等における集積性を検討し、飲料水及び食品(特に給食)について調査すること。
オ 特殊例の検討
特殊例(例えば、推定される汚染食品のみを食べた者、推定される汚染経路からの感染が考えられない者等)については、感染経路解明の鍵となる場合が多いので特に詳細に調査、検討すること。
カ 性別、年齢別及び職業別分布
キ その他
三 感染経路及び感染源の解明
(一) 感染経路の解明
流行状況の検討により、感染経路を推定すること。
共通経路感染型と推定される場合は、マスターテーブルの利用等により感染源の追求を行うとともに、単一曝露か連続曝露かの検討を行うこと。
連鎖感染型と推定される場合は、何により媒介されたかの検討を行うこと。
以上の検討の結果から、共通経路感染と連鎖感染とがどのように組み合わされた流行かをは握すること。
(二) 水系による感染の場合
上水道、簡易水道等及び井戸については、その維持管理に関する調査、細菌学的検査及び滅菌状況の詳細な検討を行い、その汚染経路について追求すること。井戸等と下水系との関連についても調査、検討を 行い必要に応じて標識物質(食塩、色素等)の投入試験を実施すること。
(三) 食品による感染の場合
ア 特定の施設に集積性が認められる場合
従業員の検病調査及び検便を実施し、及び調理場の衛生状態を調査することにより、感染源となつた者又は飲食物の発見に努めること。
イ 特定の食品に集積性が認められる場合
流通経路の調査を行い、必要あるときは関係者の検病調査及び検便を実施し、設備及び使用原材料の調査を行うこと。