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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針について

[場所] 
[年月日] 2002年7月9日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成14年7月9日)

(医政研発第0709001号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局研究開発振興課長通知)

 臨床研究の実施においては、人の尊厳、倫理に関して各実施機関の倫理審査委員会での承認等を受ける等適切に実施することは言うまでもないが、異種移植においては、さらに、異種動物に由来する感染症について留意することが必要であることから、平成12年10月31日厚科第575号・研発第21号「異種移植の臨床研究の実施に関する留意事項等について」により、適切な対応を求めているところです。

 今般、厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業において、別添のとおり「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」が作成されました。ついては、貴管下関係施設における異種移植の実施に関し、移植患者、医療従事者等への異種動物由来感染症の感染及び伝播を防止するため、別添をご理解の上、十分な対策を実施するよう貴管下関係者に対し周知徹底をお願い致します。

別添

異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針

平成13年度厚生科学研究費厚生科学特別研究事業

主任研究者 吉倉廣(国立感染症研究所長)

[目次]

前書き

1 総則

 1.1 目的

 1.2 定義

 1.3 基本原則

 1.4 指針の見直し

2 異種移植の実施及び審査の体制

 2.1 異種移植チーム

 2.2 総括責任者

 2.3 移植実施施設の長

 2.4 審査委員会

 2.5 移植実施施設

3 移植実施計画書の内容及び審査

 3.1 移植実施計画書の内容

 3.2 移植実施計画書の審査

 3.3 インフォームド・コンセントの方法及び内容

4 ドナー動物

 4.1 ドナー動物の条件

 4.2 動物飼育施設

 4.3 ドナースクリーニングの考え方

 4.4 集団又はコロニーの品質管理

 4.5 動物個体の品質管理及びスクリーニング

 4.6 異種移植片の採取・調製及びスクリーニング

 4.7 ドナー動物の記録及び試料

 4.8 その他の基準

5 移植後の感染対策

 5.1 移植患者

 5.2 移植患者の接触者

 5.3 移植実施施設における感染対策

 5.4 移植患者等の記録

6 公衆衛生上の管理

 6.1 報告制度

 6.2 試料等についての照会

前書き

 免疫抑制剤等技術の進展により人から人への同種移植は定着し、待機患者が増加する一方で、慢性的に臓器の提供数が少ない点が問題となっている。そのようなことから、近年のバイオテクノロジー等の進歩とあいまって、異種移植という新しい治療法の開発が促された。例えば、動物細胞を利用した体外灌流装置等が開発され、海外では多くの実施例の報告もあり、同種臓器移植までの橋渡し又は急変時の対応策として、期待されている。また、遺伝子改変によりヒトの補体活性化抑制遺伝子を挿入したブタが作られており、異種抗原を発現しないブタを作出する試みもあり、ブタの細胞、組織又は臓器をヒトに移植する可能性も現れてきている。

 しかしながら、異種移植に用いる細胞、組織又は臓器に随伴した異種動物由来感染症については、ウシ伝達性海綿状脳症(BSE)からの新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)等動物由来の感染症の発生や、ブタ細胞と共培養したヒト細胞にブタ内在性レトロウイルス(PERV)が感染したことを指摘する研究等があり、現時点では未知の感染症の発生及び伝播が起こらないことを保証できる段階になく、同種移植とは異なる予測困難な問題が残されている。異種移植に由来する未知の感染症に対する公衆衛生学的対応として、米国、英国を初めとするいくつかの国々において、指針が作成され、また国際機関においては国際的な情報交換及びサーベイランス体制の必要性が唱えられるなど、国際的に異種移植における感染症問題が注目されているところである。

 医療機関等において通常行われる臨床研究は、それぞれの研究実施機関等に設置されている審査委員会(Institutional Review Board:IRB)において、技術的及び倫理的な面についての適切な審査が行われた上で実施されている。しかし、異種移植では、上記の問題への対応及び国際協調の観点から、その実施について、公衆衛生上、一定の指針を示す必要性があることから、特に指針を作成するものである。移植実施機関等において指針を参照し、最大限の感染症対策を行いつつ、国内外で異種移植に関係する問題が発生した際には的確な対応が取れるような体制を確立することが必要である。

 国際的なサーベイランス体制については、国際機関において検討されているところであり、その具体的な進め方については、各国が協同して検討しようとしている段階である。国内においても、異種移植の実施に関する情報を得た場合の取扱い等については、国際動向に適切に対応することが必要である。

 国内では、技術面、倫理面等について十分な審査を行うことのできる審査委員会を有し、且つ十分な技術力を擁する数機関で異種移植の研究が検討されている段階であり、まだ異種移植の実施が急増する状況にはない。今後、規制の変化、技術の進歩等により、幅広い医療機関において実施できるような状況になれば、指針の見直し、学会等での登録・情報収集、実施前の審査、感染症対策に関する移植実施施設の査察等新たな対応の実施についての検討が必要になると思われる。

 本指針は、公衆衛生学的な見地から、異種移植に関係する感染症拡大に関する問題を扱うものであり、言い換えると異種移植に起因し出現するかもしれない感染症に対してこれを見逃し、感染が拡大することの無いようにすることを目的とする。従って、異種移植そのものの有効性、倫理性等の確保及び移植患者における感染症一般の予防を目的とするものではなく、また「遺伝子治療臨床研究に関する指針(平成6年2月厚生省告示第23号)」他、臨床研究に関わる指針が適用される場合については、これらの指針を併せて用いることが重要である。

1 総則

 1.1 目的

 公衆衛生学的な観点から、異種移植に起因する未知の感染症に対して、感染及びその拡大を防止することを目的とする。

指針に示された方法以外の方法であって、公衆衛生上、指針に示された方法よりも感染症予防の観点から科学的に妥当なものがある場合には、その根拠を示した上で、その方法を採ることができる。

 1.2 定義

  1.2.1 異種移植

   (1) 本指針において、異種移植とは、次に掲げることをいう。

   a ヒト以外の動物に由来する生きた細胞、組織又は臓器をヒトに移植、埋め込み又は注入すること。

   b 体外において、ヒト以外の動物に由来する生きた細胞、組織又は臓器に接触したヒトの体液、細胞、組織又は臓器をヒトに移植、埋め込み又は注入すること(接触には、共培養による間接的な接触を含む。)。

   (2) 従って、動物由来のものであっても、それ自身が生きていない物、例えば、心臓弁、インスリン、血清アルブミン等の材料又は薬剤をヒトに使用することは、異種移植に含めない。

  1.2.2 異種移植片

  ヒト以外の動物に由来する物であって、異種移植において、ヒトに移植される、埋め込まれる若しくは注入される、又はヒトの体液等と接触する細胞、組織又は臓器をいう。

  1.2.3 ドナー動物

  異種移植に用いる異種移植片を提供する動物をいう。

  1.2.4 ドナースクリーニング

  動物が、異種移植片を提供するための適格性を満たしているかどうかを決定するための診断及び検査を行い、適格性を判断することをいう。

  1.2.5 微生物学的監視

  ドナー動物、移植患者及び医療従事者等に対して、血清学的検査等適切な方法を用いて、感染性病原体の感染の有無を継続的に調べることをいう。

  1.2.6 医学的記録

  移植患者についての、異種移植実施前後における健康状態及び微生物学的監視の結果を記録したものをいう。

  1.2.7 健康管理記録

  ドナー動物個体又はその集団若しくはコロニーの由来(交配に関することを含む。)、品種、医薬品の投与歴、飼育状態、微生物学的監視(検疫を含む。)等の結果を記録したものをいう。

 1.3 基本原則

  1.3.1 異種移植を実施する前提

  ヒトの細胞、組織又は臓器を患者に移植する同種移植は、既に臨床の場で定着しているが、その需要に対して供給がはるかに少ない。そのような問題を背景に、異種移植についての研究が進展してきたところである。

  しかし、異種移植については、ドナー動物に由来する病原体の移植患者への感染及び伝播による公衆衛生学的な危険性を、現在の医学では完全には排除し得ないおそれがあるため、サーベイランス等感染症対策を十分に行うことができることが実施の前提となる。

  1.3.2 薬事法との関係

  薬事法の対象となる場合には、これに従うこと。薬事法に規定されない部分等については、本指針を参照されたい。

  1.3.3 遺伝子治療

  遺伝子を導入した異種移植片を使用する移植等のうち、遺伝子治療臨床研究に該当する場合、「遺伝子治療臨床研究に関する指針(平成6年2月厚生省告示第23号)」等に従うこと。ただし、ドナー動物に由来する感染症に対して、その感染及び伝播を防止する目的から、併せて本指針を参照されたい。

  1.3.4 その他の指針

  薬事法及び遺伝子治療臨床研究に関する指針の他、遵守するべき指針等がある場合、当然のことながらそれらに従うこと。

  1.3.5 個人情報の保護

  異種移植に関係する者は、取り扱う際に知り得た移植患者に関する個人情報を漏らしてはならない。また、その職務を離れた後でも同様である。

 1.4 指針の見直し

 本指針は、科学技術の進歩、異種移植片等の取扱いに関する社会情勢の変化等を勘案して、必要に応じて適切な場で見直すことが必要である。

2 異種移植の実施及び審査の体制

 2.1 異種移植チーム

  2.1.1 異種移植チームの業務

  総括責任者のもとで移植実施計画書を作成、遵守し、異種移植を実施すること。また、移植実施後の監視等を適切に実施すること。

  2.1.2 異種移植チームの構成

  異種移植を実施する場合、ドナー動物と移植患者の感染性病原体を検出できる十分な専門的知識と技術を有することが必要である。したがって、担当医のほか複数の専門家からなるチーム(以下「異種移植チーム」という。)によって行い、当該チームは、下記の条件を満たすこと。

   (1) チームを総括する責任者(総括責任者)をおくこと。

   (2) 移植手術についての責任医師が含まれること。

   (3) 次に掲げる専門家が含まれること。

    a 人畜共通感染症、微生物学を熟知した感染症専門家

    b ドナー動物種の畜産学と感染症(特に人畜共通感染症)を熟知した獣医師

    c 院内疫学又は感染防止専門家

    d 臨床微生物検査の専門家

 2.2 総括責任者

 総括責任者は、次の業務を行うものとする。

  (1) 移植実施計画書を作成し、異種移植を実施する医療施設(以下「移植実施施設」という。)の長の了承を求めること。

  (2) 移植実施計画書の変更等について、移植実施施設の長の了承を求めること。

  (3) 異種移植チームを総括し、専門家に必要な指示を行うこと。

  (4) 移植実施施設の長に対し、必要な報告を行うこと。

 2.3 移植実施施設の長

 移植実施施設の長は、異種移植の実施について次の業務を行うものとする。

  (1) 異種移植を行うことの適否についての審議を行わせるため、移植実施施設に審査委員会を設置すること。

  (2) 総括責任者から異種移植の実施又は変更の了承を求められた際に、異種移植の実施について審査委員会に意見を求め、その意見に基づき、総括責任者に必要な指示を与え、移植実施計画書等に反映させ、実施の適否を判断すること。審査委員会が異種移植を実施することが適当でない旨の意見を提出した場合、実施を了承しないこと。

  (3) 異種移植の実施の適否の判断について、書面により、総括責任者に伝えること。

  (4) 総括責任者等から報告を受け、必要に応じ、総括責任者等に指示を与えるとともに、厚生労働大臣に対し、報告を行うこと。

  (5) 審査委員会の記録を含め必要な記録及び試料を適切に保管し、公衆衛生機関から求めがあった場合に、開示すること等の協力をすること。

 2.4 審査委員会

  2.4.1 審査委員会の業務

  審査委員会では、移植実施施設の長から異種移植の実施について意見を求められた場合、倫理的観点のほか、移植患者及び移植患者と接触を持つ者との間での感染症への対策、移植患者とドナー動物との間での感染症への対策及びドナー動物の管理について審査を行い、意見を述べること。

  2.4.2 審査委員会の設置

  審査委員会は、移植実施施設の長が設置するもののほか、次に掲げる審査委員会で代えることができる。

   (1) 当該移植実施施設の長が他の医療機関の長と共同で設置した審査委員会

   (2) 民法(明治29年法律第89号)第34条の規定により設立された法人が設置した審査委員会

   (3) 医療関係者により構成された学術団体が設置した審査委員会

   (4) 他の医療機関の長が設置した審査委員会((1)に掲げるものを除く。)

  2.4.3 審査委員会の構成

  臨床試験等を審査する既存の審査委員会の要件に加え、以下に掲げる要件を満たさなければならない。

   (1) 移植患者及び移植患者と接触を持つ者との間での感染症への対策を審査するため、移植患者及び移植患者と濃厚な接触を持つ者(医療従事者、家族、友人、近隣の人々等)に対する感染の潜在的危険性を評価できる専門家を有していること。

   (2) ドナー動物から移植患者への感染症への対策を審査するため、ウイルス学及び臨床検査診断学、疫学、危険度評価法を含むヒトと動物の感染症について熟知した専門家を有していること。

   (3) ドナー動物を審査するため、ドナー動物のスクリーニングの頻度、検疫等の管理条件に関する疫学的事項を十分に評価できる専門家を有していること。

   (4) 異種移植チームに含まれる研究者は、委員として審査委員会に参画しないこと。

   (5) 委員会の活動の自由及び独立が保障されるよう適切な運営手続が定められていること。また、委員会の構成、組織及び運営並びに公開その他審査に必要な手続に関する規則が定められ、透明性が確保されていること。

  2.5 移植実施施設

  移植実施施設は、次に掲げる要件を満たさなければならない。

   (1) 移植実施施設は、ヒト及び動物に由来し、通常では存在しない病原体を分離同定する能力を保有する研究室と積極的な協力体制をとらなければならない。

   (2) 移植実施後も引き続き移植患者の管理、試料の保管・管理等が可能であること。

   (3) 移植実施機関は、実施する異種移植に関連する同種移植が存在する場合には、その経験、専門知識及び設備を有すること。

3 移植実施計画書の内容及び審査

 3.1 移植実施計画書の内容

 移植実施計画書には、以下の内容を含めること。

  (1) ドナー動物集団・コロニーについての品質管理に関する事項:参照4.1、4.2、4.3、4.4

  (2) ドナー動物個体の品質管理・スクリーニングに関する事項:参照4.1、4.2、4.3、4.5

  (3) 異種移植片の採取・調製に関する事項:参照4.6

  (4) 異種移植片のスクリーニングに関する事項:参照4.6

  (5) 移植患者のインフォームド・コンセントの方法・内容に関する事項:参照3.3

  (6) 移植後の移植患者の監視・管理(モニタリング)に関する事項:参照5.1

  (7) 移植患者の接触者への十分な説明に関する事項:参照3.3、5.2

  (8) 移植実施施設における感染対策に関する事項:参照5.3

  (9) ドナー動物と移植患者に関する記録・試料に関する事項:参照4.7、5.4他

 3.2 移植実施計画書の審査

 移植実施計画書は、異種移植チームのすべてのメンバーによる内部審査終了後、移植実施施設の長の了承を求め、審査委員会の審査を受けなければならない。

 3.3 インフォームド・コンセントの方法及び内容

  3.3.1 インフォームド・コンセントの方法

  異種移植の実施にあたっては、予測される医療上の利益や危険性、移植患者の医学的記録や管理、個人情報の保護等について、ヘルシンキ宣言(2000年10月エジンバラ修正)及び本指針の趣旨を踏まえ、次項に示した内容を含めて、移植患者に文書を用いた適切な説明を行い、移植実施及び関連する事項について文書による同意を受けること。

  3.3.2 インフォームド・コンセントの内容

  移植患者に対する説明事項のうち、異種動物由来感染症に関する事項として、少なくとも以下の事項を含めること。

  (1) ドナー動物に由来することが判明している病原体による感染の可能性。

  (2) 異種動物由来の未知の病原体の感染の可能性。その危険性が未知であること、どんな時期に発症するか、また、どんな病状を示すか予測できないこと。

  (3) 異種動物由来病原体は、移植患者に接触する家族や性的交渉相手等体液に接触する可能性のある者に感染する可能性が否定できないこと。

  (4) (3)に示す接触者への病原体の感染は、例えば、性的交渉時には体液に対するバリアーとなる用具を使用すれば危険性が低下すること、乳幼児、妊婦、高齢者、慢性疾患患者及び免疫抑制状態にある者には危険性が増すこと等の感染の伝播の防止に関すること。

  (5) 異種動物由来病原体に感染する可能性について、移植患者は、その接触者に十分に説明する責任があること。

  接触者への説明内容には、以下の事項を含めること。なお、移植実施施設は、移植患者が接触者に説明する際に用いるための説明資料を作成すること。

   a 異種動物由来病原体に感染する危険性が不明であること。

   b ヒトからヒトへの感染性病原体を感染させる可能性のある行為(例えば、無防備な性的交渉、授乳、同じ注射針を用いての薬の使用等血液又は体液への接触を伴う行為)についての情報及びその危険性を最小限に抑える方法。

   c 移植患者又は接触者に原因不明の症状が見られた場合、移植実施施設の担当医に直ちに報告する必要があること。

  (6) 入院中の隔離の必要性(予想される隔離期間)と退院後の特別な注意点(食事、旅行等)。

  (7) ドナー動物となった動物種と移植患者とが、互いに生物学的な危険因子となる可能性があり、その危険性を最小限にするため、退院後に注意が必要となること。*1*

  (8) 長期間、微生物学的監視を行う必要があるため、おそらくは一生の間、定期的に、及び必要に応じて組織や血清を採取して検査を行う必要があること。また、微生物学的監視を目的とする検査を含む移植実施後の診察のスケジュールはできる限り明確にしておかなければならないこと。異種移植チーム内で相談した上で、診察のスケジュールを決定し、担当医は予め移植患者に伝えること。

  また、移植患者又は接触者に重篤又は原因不明の病気が現れたときは、直ちに移植実施施設の担当医に報告しなければならないこと。

  (9) 採取された試料及び医学的記録を移植実施後50年間保管し、診療、研究及び感染症の原因究明の目的で使用すること。

  (10) 移植患者は、移植後全血、血清、血球、骨髄液、さい帯血、臓器、組織、乳汁、卵子、精子、その他身体のどの部分もヒトへの使用を目的として提供してはならない。

  (11) 将来、出産する場合は、受胎から発育期間、出産及び授乳の際に、子供に異種動物由来感染症が生じることを否定できないこと。

  (12) 長期間の健康管理のために、移植患者は、往所、電話番号等の変更があった場合、必ず移植実施施設の担当医に連絡すること。

  (13) 死後、剖検を実施し、臓器等が採取・保存され、研究及び感染症の原因究明の目的で使用されること。また、剖検を実施する必要性を、家族に伝えておくこと。

  (14) すべての医学的記録は、関係する公衆衛生機関(厚生労働省、国立感染症研究所、保健所、関係する医療・研究機関)に開示する必要があること。ただし、移植患者のプライバシーは最大限守られること。

  (15) 異種移植片が拒絶又は摘出された場合であっても、上記のすべての項目が適用されること。

{*1* 例えば、ドナー動物となった動物種と移植患者が接触する場合には、異種移植片及び移植患者が、接触した動物種の感染性病原体に暴露される可能性が増大する。同時に、健康な当該動物にとっては、異種移植片を持つ移植患者が、動物に発病させるベクターになることがあり得る。}

4 ドナー動物

 異種移植を行い、免疫抑制状態にある患者では、既知の人畜共通病原体だけでなく、動物の体内に常在する微生物や共生生物がヒトに病気を起こす可能性がある。従って、移植に用いられる場合、異種移植片の病原体の検査を徹底的に行うべきであるが、異種移植片そのものに徹底的な検査を行うことは技術的に困難であることから、以下に示す事項を実施することにより、感染性病原体が移植患者に感染する危険性を最小限に抑え、公衆衛生上の感染症の発生防止につなげることが必要である。

 4.1 ドナー動物の条件

  4.1.1 原則

  異種移植片は、閉鎖環境で繁殖・飼育された由来が明確な動物から得られたものでなければならない。

  動物は、ドナー動物又は移植患者に感染する危険性のある感染性病原体をできる限り有しない閉鎖系の集団又はコロニーから得なければならない。

  ただし、閉鎖系のよく管理された環境で飼育された集団又はコロニーであっても、予定する異種移植手術に適した状態であることが確認できた個体のみを使用しなければならない。

  4.1.2 動物種の選択

  動物種の選択にあたっては、内在性レトロウイルス等の動物種ごとの微生物学的特性を考慮すること。

  4.1.3 留意事項

   上記の観点から、下記の事項に留意すること。

   (1) 野生又は野外で生活していた動物は、ドナー動物としてはならない。

   (2) 輸入動物又はその一代目の子孫については、その動物が国内で入手不可能な種又は系である場合に、ドナー動物とすることができる。なお、輸入動物の使用については、ドナーとしての特性が当該動物飼育施設により証明されている場合に限る。

   (3) プリオン病(例えば、伝達性海綿状脳症)が報告されている種をドナー動物とする場合は、脳神経系疾患がないことが証明され、食餌源もよく管理された閉鎖集団から入手したものでなければならない。また、そのような種の動物については、プリオン病の発生が認められた国又は発生の危険性の高い国を原産国とする動物の細胞、組織又は臓器を異種移植片としてはならない。

   (4) 屠畜場の動物は、一般に、閉鎖系で飼育されておらず、また、健康管理記録を得られないこと等から、屠畜場から得た動物の生きた細胞、組織又は臓器は、異種移植に用いてはならない。

   (5) ヒト以外の霊長類をドナー動物とすることは、現在のところ、微生物学的特性に不確実な点があることから適切でない。

   (6) 開放的な管理(例えば、柵内での放し飼い)を受けていた動物は、節足動物や他の生物と偶発的に接触することにより感染性病原体に感染している可能性があることから、ドナー動物としてはならない。

   (7) ワクチン接種を受けたことのある動物個体は、抗体検査等の微生物学的監視を混乱させる可能性があるため、ドナー動物としてはならない。また、ワクチン接種は、集団又はコロニーの品質管理が適切でなかった場合に必要となる物であることから、そのような集団等に由来する動物個体をドナー動物とすることは、望ましくないためである。

   (8) 帝王切開により摘出され、アイソレーター内で飼育した外来性の病原体に対する無菌状態を保たれた動物個体(無菌動物)、又はそのような動物を基に閉鎖環境で繁殖を継続されたコロニーの動物個体(SPF動物)の作出と維持管理技術が確立された動物種については、無菌動物又はSPF動物を用いること。

 4.2 動物飼育施設

  4.2.1 動物飼育施設の要件

   ドナー動物を飼育する施設(以下「動物飼育施設」という。)は、次に掲げる要件を満たさなければならない。

   (1) 当該動物飼育施設は、「動物の保護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)」を遵守し、「実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)」に準拠すること。

   (2) 当該動物飼育施設は、該当する異種移植チームの適切なメンバーによる監査委員会(以下「監査委員会」という。)の査察を受けること。

   (3) 当該動物飼育施設は、標準操作手順書、書式化された動物の健康管理簿及び微生物学的監視システムを有すること。

   (4) 当該動物飼育施設は、当該動物種の感染症を熟知した獣医師をスタッフに有し、微生物検査室と積極的な協力体制を維持すること。

  4.2.2 標準操作手順書

   (1) 動物を飼育する施設の標準作業手順には、次に掲げる事項について十分に記述されていなければならない。

    a 動物の導入基準

    内部で出産した場合を除いて、育種コロニーに導入するすべての動物は、あらかじめ定めた検疫室に、一定期間隔離しなければならない。適切な動物の育種生殖の点からは、人工授精、胚移植、早期離乳、子宮切開又は子宮摘出,養親などの処置を行うことで感染性病原体の感染を最小限に抑えることができる。

    b 疾病及び微生物学的監視の基準

    微生物学的監視については、4.3、4.4及び4.5を参照し、適切な方法を採らなければならない。

    c 罹患動物の隔離と排除の基準

    d 施設入域者の健康診断と微生物学的監視の基準

    e 施設の入退時の管理法

    f 施設の清掃方法

    g 飼料、水、用具及び医薬品等の出所と供給について

    医薬品や他の添加物を含めたすべての餌成分はドナー動物の少なくとも1世代前から記載されていなければならない。低温殺菌した乳は使用してもよい。プリオン関連疾患や遅発性のウイルス感染の防止及び他の感染性病原体の感染の予防に重要であることから、餌中に動物性物質(低温殺菌された乳を除く。)が使用されていないことの記載が特に必要である。プリオン感染は臨床的な潜伏期間が長く、発症すると重症となり、現在の検査法では早期の検出が難しいことなどから、その危険因子を除去することが重要である。

    h 節足動物や他の生物の駆除法

    i 動物の輸送に当たっての配慮

    個々のドナー動物の最終スクリーニングと品質管理や異種移植片の採取・調製を行う間の施設内での動物の輸送は、連続的に一匹ずつ輸送するよりも、各段階でバッチごと又は全動物まとめて行うほうが、感染性病原体と接触する可能性を少なくすることができる。動物の1バッチを輸送した後は、動物飼育施設の検疫区域及び異種移植片調製区域は、次の動物バッチを受け入れる前に洗浄し、消毒する。

    j 死体の処置

    k 供給したドナー動物の記録方法

    移植に供する各動物、異種移植片とした細胞、組織又は臓器の種類、量及び送り先の移植実施施設名を明記したドナー動物供給記録システムを維持しなければならない。

    l 保管する試料の範囲及びその保管方法

    m 保存する記録及びその保存方法

    次に掲げる記録を保存し、これらの記録に含まれる情報を容易、正確、迅速に照合するために、各情報がリンクされるような動物の番号付け等による個体識別法を施行しなければならない。

     (a) 供給した動物の誕生以来の健康管理記録

     (b) 動物集団の健康管理記録(餌の記録を含む。)

     (c) 動物から異種移植片を採取・調製又は輸送するに際して行った標準作業手順の記録

  (2) 動物飼育施設が業務を取り止める場合は、(1)l及びmに規定する試料及び動物健康管理記録を、それぞれの移植実施施設又は保存業務を引き継ぐ施設に移管すること。

 4.3 ドナースクリーニングの考え方

 ドナー動物の母集団、個々のドナー動物及び異種移植片における既知の感染性病原体に対するスクリーニングについては、次に掲げる要件又はこれと同等以上の要件を満たす方法を採ること。

  4.3.1 開発における非臨床試験の実施

   異種移植片を用いた臨床治療法を開発する際には非臨床試験を行わなければならない。非臨床試験では、異種移植片内の微生物の同定は、そのドナー動物種に特異的に行わなければならない。また同定された微生物がヒトを発病させる可能性があるかどうかを検討しなければならない。ドナー動物種の細胞、組織又は臓器に存在する内在性レトロウイルスや持続性ウイルス感染のヒトへの病原性の解明は特に重要である。これらの非臨床試験によって臨床使用に向けた異種移植片の品質管理のための適切なスクリーニング検査法を定めなければならない。

   なお、ブタについて、スクリーニング検査法を定める際に現時点で考慮しなければならない病原体を別添1に掲げるので、参照すること。ただし、検査を省略する場合は、省略できる科学的な根拠に基づかなければならない。

  4.3.2 検査法の見直し

  異種移植チームは、スクリーニング方法の適切さに対して責任を有することから、動物集団又はコロニー、個々のドナー動物及び異種移植片における既知の感染性病原体の検査法は、ドナー動物種と臨床での使用法に合わせて確立され、感染症の知識の進歩にあわせて随時更新しなければならない。

  4.3.3 採用前の検査方法の評価

  動物集団又はコロニー、個々のドナー動物及び異種移植片の感染性病原体検出のためのすべての検査法は、採用に当たってその感度、特異性及び精度について十分に実証されていなければならない。開発途上の検査法については、スクリーニングの補助として行い、結果を評価しなければならない。

  4.3.4 具体的な検査方法

  非臨床試験では、異種移植片からの試料をヒト末梢血単核球を含めた一連の適切なウイルス等を検出できる指標細胞との共培養試験を行い、内在性レトロウイルスや、他のヒトに感染する可能性のある異種動物由来ウイルスの増殖と検出を試みなければならない。共培養における一連の指標細胞の選択は、異種移植片とその臨床使用法に基づいて決定されなければならない。

  例えば、ヒトの中枢神経系に関連した異種移植の場合、神経向性ウイルスを検出するために、異種移植片から採取した試料と当該ウイルスを増殖させる可能性の高い細胞株とを共培養すること、また無作為継代培養、細胞障害性や病巣形成の観察、逆転写酵素活性測定及び電子顕微鏡観察などが適切な方法と考えられる。そのような培養に加え、免疫学的あるいは遺伝子工学的手法(酵素抗体法、免疫蛍光抗体法、サザンブロット法、ポリメラーゼチェーン反応(PCR)法、RT-PCR法等)、又は近縁種を用いた生体内(in vivo)での培養技術などが有効である。潜在性ウイルスの検出は、化学物質又は放射線を用いて活性化すると容易になることがある。また、可能性のある細菌の検出には、確立したPCRプライマーが使用可能であり、異種移植片のスクリーニングに用いることができる。

 4.4 集団又はコロニーの品質管理

  4.4.1 品質管理における基本的要素

   異種移植に用いるドナー動物源としての集団又はコロニーの品質管理のために推奨される基本的要素は次のとおりである。

   (1) 集団又はコロニーが閉鎖系であること

   (2) 感染性病原体についての適切な微生物学的監視プログラムがあること。

   集団又はコロニーの健康維持と微生物学的監視プログラムは、その特殊目的に見合ったものである必要があり、動物飼育施設の標準作業手順に明記されなければならない。これらの手順は監査委員会又はそれに相当する委員会により承認されなければならない。集団又はコロニー及び移植用に供給される個々の動物の健康管理記録は動物飼育施設において移植実施後50年間保存しなければならない。

  4.4.2 記録する管理内容等

   動物飼育施設では、採血、生検等の非経口的処置を行う場合には、滅菌済み器具を用いて無菌的に行う等標準的な方法を用いた獣医学的管理(例えば、寄生虫の駆除)に基づいて、集団又はコロニーの健康管理を実施し、健康管理記録として記録すること。また、集団又はコロニーの健康に影響を及ぼす可能性のある事象も、併せて記録する(例えば、施設の環境維持装置の破損、病気の発生、動物の突然死)こと。特に、スクリーニングにおける血清反応の検査結果の解釈に必要であるため、スクリーニング検査計画は詳細に記載する。

  4.4.3 病原体の検査の計画

   標準的な獣医学的管理に加えて、集団又はコロニーについては臨床的に症状を示さない感染性病原体の進入を監視すること。標準作業手順書には感染性病原体の検出に用いる身体所見並びに臨床検査の種類及びスケジュールを含む監視計画について記載しなければならない。

  4.4.4 検査する感染症等

   集団又はコロニーに対して実施する検査は、国内に生息する同じ種の飼育動物に存在が確認されている人畜共通感染症を重視すること。ただし、国内では見られないか、又は野生で生活している動物にのみ認められる病原体については、繁殖元の検査や集団又はコロニーの閉鎖系の維持が十分になされていれば、個々のドナー動物について広範囲にわたる検査の必要性は少ない。集団又はコロニーの地理的な由来は、当該集団又はコロニーに存在する病原体の可能性を考察する上で有効な情報である。ドナー動物の発祥地や飼育地で流行している地域固有の感染性病原体についても十分な知識をもった獣医師と相談することが必要である。

   検査に関する留意事項は、次のとおりである。

   (1) 微生物学的監視プログラムの一環として、集団又はコロニーから無作為抽出した動物から定期的に血清試料を採取しなければならない。これらの試料はその種で問題となる感染性病原体及び疫学的暴露の可能性がある病原体について検査されなければならない。個々の動物において臨床的な兆候が見られたときは、更に血清学的検査又は病原体分離培養検査を行わなければならない。集団の中で一匹だけの動物が感染した場合であっても、残りの動物について包括的な臨床的、疫学的調査が必要である。

   集団あるいはコロニー、個々のドナー動物、移植患者又はその接触者に、不測の病態が見られた場合の検査に備え、血清試料は、動物飼育施設において移植実施後50年間保管する。

   (2) 急性感染症を引き起こす病原体が検出された場合、その動物を集団又はコロニーから排除し、検査するとともに、集団又はコロニーに対しては、当該病原体の潜伏期を越える期間にわたって、当該動物の母集団における感染の有無を監視する微生物学的監視体制をとらなければならない。

   (3) 胎児死産又は流産を含むすべての原因不明又は不明確な動物の死については、解剖の上、十分に検査し感染に起因するか否かを評価し、記録しなければならない。

   (4) モニタリングのため、集団又はコロニーの一部の動物を死亡するまで飼育しなければならない。当該動物を生涯観察することにより、臨床症状が現れにくく、潜伏感染する又は発症が遅延するプリオン病のような疾患を検出できる可能性を増すことができる。

  4.5 動物個体の品質管理及びスクリーニング

   個々のドナー動物の品質管理のため、健康管理記録には、品種、由来、医薬品使用歴を含めることが必要である。検疫期間中、ドナー動物には、異種移植片の臨床での適用に影響を及ぼし得るすべての感染性病原体についてスクリーニング検査を実施しなければならない。具体的には以下の事項を遵守すること。

  4.5.1 検疫期間

   個々のドナー動物は異種移植片採取前に、少なくとも3週間の検疫期間を設けなければならない。ドナー動物が集団又はコロニーから輸送される直前に暴露した感染性病原体による急性疾患は、この間に発症すると思われるためである。この検疫期間は、ドナー動物の母集団又はコロニーの特性や微生物学的監視状態、臨床上の緊急性を考慮して適宜変更すること。検疫期間が短縮された場合、その理由を書面で明記し、感染の危険性が増加し得ることをインフォームド・コンセントの文書に明記しなければならない。

   検疫期間における留意事項は以下の通りである。

   (1) 検疫期間中にドナー動物候補には感染性病原体(細菌、真菌、寄生虫、ウイルス)の有無を確認するため、獣医師等により血清学的検査、病原体分離培養検査、血球数、末血スメア、便の寄生虫検査を行わなければならない。ウイルス性病原体で人畜共通と認知されてはいないが、ヒトやヒト以外の霊長類の細胞に生体内(in vivo)や共培養(in vitro)で感染することが報告されているものについては、十分に考慮すること。遺伝子組み換え(recombination)若しくは相補(complementation)により、又はエンベロープが異なるタイプの細胞に感染するウイルスのものと置き換わることにより、ウイルスの細胞指向性が変化すること(pseudotyping)が認められるものには特に注意しなければならない。これらの検査はなるべく移植に近い時期に実施するのが望ましいが、少なくとも臨床使用の前に結果が判明していなければならない。

   (2) 急性感染症を引き起こす病原体が検出された場合、その動物をドナー動物としてはならない。当該動物が由来する集団又はコロニーに対しては、当該病原体の潜伏期を越える期間の検疫を実施し、当該動物の母集団における感染の有無を監視する微生物学的監視体制をとらなければならない。

   (3) 最初のスクリーニングと品質評価が完了してから3カ月以上の期間が経った場合(例えば、計画した異種移植片が使われなかった時又は同一動物から2番目の異種移植片を得る時)、又は動物が検疫後、異種移植片を採取するまでの間に非検疫動物と接触した場合は、再度ドナー動物候補のスクリーニングが実施されなければならない。

   (4) ドナー動物を輸送することによって、閉鎖コロニーで確保された無感染状態が損なわれる恐れがある。ドナー動物を微生物学的に隔離するために、輸送状況に細心の注意を払い、輸送中の病原体への暴露を最小にとどめること。ドナー動物が到着した後、長期間の検疫(最低3週間とする。適当な根拠がある場合には、短縮してもよい。)と厳密なスクリーニングを行うこと。異種移植片は、動物飼育施設で採取・調製され、移植に用いる形で輸送することを推奨する。

  4.5.2 異種移植片の無菌性の確保

   調製されたすべての異種移植片は、可能な限り無菌状態でなければならない。潜伏期間中の微生物(ウイルス等)が同定されたドナー動物の使用は避けること。ただし、微生物が気道や消化管など解剖学的に特定の場所で検出された場合であっても、異種移植片にその病原体が存在しないことが確認されていれば、その動物の使用を中止する必要はない。

  4.5.3 記録の閲覧及び保存

   個々のドナー動物及びその集団又はコロニーの健康管理記録は、監査委員会が閲覧可能でなければならない。個々のドナー動物の健康管理記録と、集団又はコロニーの健康管理記録は、正確に相互照会ができるようにすること。それらの記録は、候補動物の選出や、異種移植片の採取・調製前に閲覧できるようにし、また、過去にさかのぼって検索できるように移植実施後50年間保存すること。個々のドナー動物の記録のコピーは、異種移植片に添付され、移植患者の移植実施後50年間保存する医学的記録の一部として保存されなければならない。

  4.5.4 異種移植片を摘出した後に病原体が検出された場合の対応

   動物飼育施設は、異種移植片を供給した後に供給源の動物個体又はその母集団に感染性病原体が同定された場合(例えば、モニタリング用動物に遅発性のプリオン病が発症したような場合)、移植実施施設の長に直ちにその旨を通知しなければならない。

 4.6 異種移植片の採取・調製及びスクリーニング

   4.6.1 採取・調製を実施する区域

   異種移植片の採取と調製は汚染を最小限に抑えるため無菌条件下で行わなければならず、そのための適切な措置を講ずること。例えば、作業に必要な施設又は設備を設け、これらの作業区域は、施設内の他の作業区域と区分されていること。

   また、取り違えや細菌、真菌、ウイルス等の感染の危険性を減少させるために、複数のドナー動物からの異種移植片を同一室内で同時期に取り扱う行為、交叉汚染を引き起こす危険性のある保管方法を採らないこと。

   4.6.2 スクリーニングの実施等

   異種移植片についは、機能を損なわない範囲で可能な限り生検を実施し、移植前に感染症に関する適切なスクリーニング検査と組織学的検査を行い、その結果を記録しておくこと。すべての検査結果は異種移植片の臨床使用前に動物飼育施設の責任者によって確認されなければならない。

   4.6.3 標準操作手順書の作成

   採取・調製及びスクリーニングにおいて行われる各操作について、標準操作手順書を作成すること。採取・調製操作及びスクリーニングの精度管理を確認するため、あらかじめ予備的操作等により評価しておくこと。

   4.6.4 異種移植片の移植前の一時的な保管

   異種移植片を移植前培養により、一時的に保管する場合、ウイルスやマイコプラズマの同定を含むスクリーニング検査により、無菌状態が維持されていることを確認しなければならない。異種移植片に病原体が混入したことが疑われ、疑いを否定できない場合には、その異種移植片を移植に使用しないこと。

   4.6.5 異種移植片を採取した後のドナー動物

   異種移植片を採取した動物については、肉眼的および顕微鏡的な病理検査、微生物検査を含む全身剖検を行うこと。異種移植片がドナー動物を生存させたまま得られた場合、その動物の健康状態を終生監視しなければならない。安楽死を含めその動物の死亡時には、異種移植片の採取・調製から死亡するまでの期間にかかわらず、全身剖検を行うこと。剖検の結果は、当該動物の一生涯の健康管理記録に記入し、移植実施後50年間保存しなければならない。剖検の所見で、移植患者の健康に関連があると思われる感染があった場合(例えば、プリオン病の所見)、その動物に由来する異種移植片を提供したすべての移植実施施設の長に直ちに報告すること。

  4.7 ドナー動物の記録及び試料

   ドナー動物の健康管理記録(特に、検査に関する記録)と試料は異種動物由来感染症発症時の公衆衛生学的調査と微生物学的監視のために必須であり、次に掲げる事項を遵守し、移植患者の医学的記録とドナー動物の健康管理記録及び保管試料は、迅速かつ正確に照合できるよう、系統的に保管しなければならない。

   4.7.1 保管の責任者

記録と試料の保管は、動物飼育施設の責任で行い、管理及びその取扱いの責任者について、移植実施計画書に明記すること。施設の廃止等により保管場所を変更さざるを得ない場合には、移植実施施設の長の了承を求めた上で、新たな保管の責任者を決定し、引き続き適切に保管するよう措置すること。

   4.7.2 記録の保存

   供給源の集団又はコロニーの健康管理記録、個々のドナー動物の健康管理記録、異種移植片のスクリーニング記録は、移植実施後50年間保存しなければならない。

   個々のドナー動物に関する健康管理記録の要旨及び異種移植片のスクリーニング記録のコピーは、移植患者の医学的記録の一部として移植実施施設で保存すること。

   4.7.3 試料の保管

   過去にさかのぼって公衆衛生学的調査検討をするために、異種移植片の採取・調製時に採取したドナー動物の試料は、移植実施後50年間保管しなければならない。保管されたドナー動物の試料はいつでも取り出すことが可能で、ドナー動物の健康管理記録及び移植患者の医学的記録との照合が容易でなければならない。

   4.7.4 保管する試料

   各ドナー動物の血清と血漿については、少なくとも1本あたり0.5ccとして5本ずつのサンプルをそれぞれ保管すること。白血球については、1×107細胞程度を少なくとも3サンプルを凍結し、保管しておくこと。可能なら白血球からDNAとRNAを抽出し、分注し、保管する。更に、主要臓器(例えば、脾、肝、骨髄、中枢神経系)のパラフィン包埋、ホルマリン固定又は凍結固定した組織試料を、異種移植片の採取・調製時にドナー動物から作製しておくこと。

  4.8 その他の基準

   上記の事項に加え、施設の構造設備や品質管理等については、「薬局等構造設備規則(昭和36年厚生省令第2号)」、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則(平成11年厚生省令第16号)」及び「医療用具の製造管理及び品質管理規則(平成7年厚生省令第40号)」を参考とすること。

5 移植後の感染対策

 5.1 移植患者

  5.1.1 移植患者の微生物学的監視

  移植患者の移植後の微生物学的監視は、異種動物由来感染性病原体の一般への伝播及び遺伝子を介した伝播を監視する上で重要である。この微生物学的監視の実行と記録作製は移植実施施設の長の責務であり、移植患者の一生涯にわたって続けられなければならない。以下に、適切な監視方法を述べる。

   (1) 異種動物由来感染症に関連する可能性のある病原体について、移植後、定期的に調べること。

   (2) 異種動物由来感染症について過去にさかのぼって検査できるよう、移植の内容に応じて、その種類と量を検討し、必要な検査試料を採取し、保管すること。これらの検査試料は公衆衛生学的調査のために用いられることを明確にしておくこと。

   一般的には、血清、血漿、末梢血単核球を採取、保管する。少なくともクエン酸又はEDTAで凝固阻止した血漿について1本あたり0.5ccとして3から5本を、以下に示す時期に採取し保管する。また、生きた白血球(1×107細胞程度)を少なくとも2サンプル凍結し、保管する。さらに、白血球(1×107細胞程度)から抽出したDNA及びRNAを分注し、保管する。採取された異種移植片の組織試料(例えば、異種移植片の拒絶後又は移植患者の死亡時)も保管する。

    a 移植前1カ月おきに2回。これが無理な場合には、できるだけ時期をずらして採取する。

    b 移植直後及び1カ月、6カ月後

    c 移植1年後及び2年後

    d その後の試料は移植患者が生存する限り5年毎に採取する。特に必要な場合には、移植実施計画書に基づいて、又は移植患者の医学的経過により、さらに頻繁な採取を行うこと。

   (3) 移植患者が死亡した時は、少なくとも、急速冷凍固定試料、パラフィン包埋用試料、電子顕微鏡用試料等として剖検時に異種移植片から採取し、また、死因となった臨床症状に関連したすべての主要臓器の試料も採取する。これらの試料は、公衆衛生学的調査のために移植実施後50年間保管する。採取する臓器等については、死因に応じて異種移植チームにおいて決定すること。

   (4) 移植実施施設の長は、記録や試料を継続的に正確に保管する責任を負うことから、長期間の保管を確実にするように、適切な装置(例えば、監視警報装置付き冷凍庫の使用、別個の冷凍庫に標本を分割して保管する。)を用いて保管し、移植患者の医学的記録及び供給したドナー動物のデータと迅速に検索、照合できるようにすること。

   (5) 非臨床試験等により移植実施前及び移植実施後に、異種移植片に異種動物由来病原体の存在が判明した時又はそれが疑われた時には、移植患者に、微生物学的監視プログラムに沿って臨床検査を実施しなければならない。この検査の目的は、一般へ感染が伝播する前に移植患者に潜伏している感染を検出することである。移植した組織中に存在することが判明した異種動物由来病原体の検索を、移植患者の血清、末梢単核球又は組織について移植後定期的に行わなければならない。微生物学的監視は、術直後にはより頻回(例えば術後2、4、6週間目)に行う必要があるが、その後臨床症状が認められなければ頻度を減らすことができる。未知の病原体を検出するための遺伝子の検出も有用である。臨床症状がなくても持続性潜伏性感染を起こすウイルス(例えば、ヘルペスウイルス、レトロウイルス)を検出するための検査も実施しなければならない。対象とする異種動物由来ウイルスと同等のウイルスがヒトにも存在する場合、両者を区別する検査法を採用しなければならない。移植患者の免疫抑制状態によっては血清学的検査が信頼できないこともあり、細胞との共培養法に適切な検査法と組合せて実施することも考慮する。移植実施に際して計画した検査法の感度、特異性及び精度は、予め評価し、移植実施計画書に記載しておくこと。

   (6) 臨床症状から予想される異種動物由来感染への対策のために、保管された試料を検査する際は、公衆衛生学的重要性を評価するための疫学調査を併せて実施すること。

   (7) 何らかの理由により、移植実施施設において、移植患者の定期的な検査ができなくなる場合には、別の医療施設において実施するよう措置すること。なお、引き継ぐ医療施設は、検査及び試料の保存、施設内の感染対策等移植後の感染対策について移植実施施設と同等の対応を実施できる施設でなければならない。

 5.2 移植患者の接触者

  3.3.2(5)に掲げたとおり、移植患者は、その接触者に対して感染症についての十分な説明を実施すること。移植実施施設においては、その説明に適切に協力すること。

 5.3 移植実施施設における感染対策

  5.3.1 感染対策実施法

   (1) 適切な手洗い、バリアーによる予防、針及び他の鋭利な器具の使用と廃棄時の注意などを含む標準的感染予防対策を医療従事者に徹底させること。

   (2) 予防的隔離(例えば、空気感染、飛沫、接触の遮断)については、移植実施施設の感染症専門医と異種移植チームの感染症専門家の判断に基づいて行うこと。入院中の予防的隔離の内容は、異種移植の種類、免疫抑制の程度、移植患者の臨床状態等により異なるものであることから、感染防止対策については移植実施前に検討し、さらに患者の病状の変化、退院並びに再入院又は感染症の確定診断があったときに再検討されなければならない。予防的隔離は、疑われる異種動物由来感染症が判明し完治するまで、又は疑いがなくなるまで続けること。

   (3) 異種移植チームは、医療器具の使用法と消毒又は殺菌法及び感染性廃棄物の処分について、異種移植の特性を十分に勘案した手順書を作成し、守らなければならない。

  5.3.2 急性感染出現時の手順

   流行性の急性ウイルス感染において、病原体が分離同定されることは一般に多くはない。移植患者には、これらのウイルス感染とともに、同種移植での移植患者によく見られる感染症と同じ危険性もある。このことに鑑み、標準的な診断法によって移植患者の病態の明らかな原因が判らない場合には、体液及び組織試料の検査をさらに厳密に行うこと。移植実施施設の感染症専門医は、下記事項に留意の上、異種移植チーム及び疫学の専門家、獣医師、臨床微生物学者等協議して、診断及び適切な感染防御に務めること。

   (1) 免疫抑制を受けている移植患者では、抗体を検出する血清学的診断法では感染症を同定できないことがある。この場合、共培養検査、遺伝子検出法等の他の技術を用いることにより疾患を診断できる可能性がある。従って、移植実施施設には、培養(in vitro)及び生体内(in vivo)、生体外(ex vivo)の方法でウイルス性病原体を検出できる設備がなければならない。未知の異種動物由来病原体の検出法については、医学と獣医学の両方における感染症専門家、未知の感染性病原体検査の専門家、ウイルスに関する生物学的安全性の専門家などと協議して行われなければならない。

   (2) 移植患者に、異種動物由来感染症、同種移植で予期できない感染症又は公衆衛生学的に問題となり得ると思われる感染症が疑われる時には、急性期と回復期の血清試料を感染症専門医又は院内疫学専門家の判断に基づいて保管すること。これにより、過去にさかのぼった研究が可能となり、臨床症状の原因を診断できるようになる。

   (3) (2)の場合には、総括責任者は、移植実施施設の長へ報告すること。

  5.3.3 医療従事者

   異種移植に伴う危険性の教育と医療従事者における感染の微生物学的監視を実施するための健康管理計画をつくる必要がある。労働安全衛生法又は国家公務員法に基づく人事院規則10―4(職員の保健及び安全保持)に準拠し、動物飼育施設、動物病院又は屠畜施設において実施されている安全管理基準と同等の管理を行った場合、移植前に動物の組織や臓器を取り扱う医療従事者における感染の危険性は、前者の危険性を上回ることはないと思われる。しかし、移植後に移植患者を直接的又は間接的に診療又は看護する医療従事者への危険性は推測できない。就労内容の制限や免疫力の低下した従業員の配属は施設の長の責任で決定しなければならない。健康管理計画には次のことを含まなければならない。

   (1) 医療従事者の教育

   すべての移植実施施設は、各業務に見合った適切な職員用の教材を作成すること。

   これらの教材には、異種移植の過程とその過程に関連する既知及び未知の感染の危険性について明記すること。移植患者と医療従事者の間に起こりうる人畜共通病原体及び院内感染病原体への暴露と伝播を最小限に抑えるために、感染の危険性が最も高いと考えられる医療活動の手法については、特に強調しておくこと。標準的予防対策に従うことについても記載すること。個人的なバリアー用具(例えば、手袋、ガウン、マスク等)の使用、及び、たとえ手袋をしていたとしても移植患者との接触の前後での手洗いが重要であることについて詳細に述べておくこと。感染性病原体が一般大衆に感染する危険性についても記述すること。

   (2) 医療従事者の微生物学的監視

   異種移植チームの医療従事者あるいは移植患者を診療又は看護する医療従事者、異種移植片や移植後の移植患者の生体試料を扱う検査室員等から対照血清(すなわち、異種移植片や移植患者と接する前のもの)を採取して保管しておくこと。

   保管血清は、感染性病原体に暴露した時に採取された血清と比較するための対照に用いる。

   (3) 医療従事者の感染性病原体への暴露後の評価と管理

   針刺し事故のような感染性病原体の感染の可能性にさらされた場合、当該医療従事者の病原体暴露記録を作成すること。

   医療従事者には感染性病原体への暴露が発生した時には、異種移植チームの感染症専門家に直ちに報告するように指導すること。

   記録には、日付、暴露の種類、関わった異種移植の過程、移植患者情報、暴露後にとった処置(例えば、カウンセリング、暴露後管理、追跡調査)、その後の経過等を明記すること。この記録は、医療従事者が職場を変えた場合、又はその施設が異種移植を中止した場合でも、移植実施後50年間は保存しなければならない。

   病原体に暴露した医療従事者には、予期せぬ病態が起きた際、医学的評価を求めるため、異種移植チームの感染症専門家に報告することを義務付け、適切な指導が受けられるようにしておくこと。報告を受けた場合は、異種移植チームにおいて検討し、適切な指導、管理を行うこと。

  5.4 移植患者等の記録

   5.4.1 記録の保存

   移植実施施設の長は、次に掲げる記録を移植実施後50年間保存し、管理すること。これらの記録は常時更新し、正確に相互照合ができるものでなければならない。系統的にデータを維持することは、有害事象が発生した際にその原因を疫学的に究明する上で役立つ。

   (1) 異種移植のすべての過程を記した異種移植記録

   責任者、個々のドナー動物とその飼育、採取及び調製施設、移植の日付と方法、移植患者とその臨床経過の要旨、移植患者と接触のあった者、それぞれの異種移植手術に関与した医療従事者について記載すること。

   (2) 病原体暴露記録

   院内において移植実施計画書に関連し、また異種動物由来感染の危険性のあるすべての暴露事象の日付と関わった人及び状況を記載すること。

   (3) 各移植患者の医学的記録

   移植患者の医学的記録には、4.5.3に規定する個々のドナー動物の健康管理記録のコピーを併せて保存すること。

  5.4.2 保存施設の変更

   何らかの理由により、移植実施施設において、前項に掲げる記録の保存ができなくなる場合には、別の医療施設において実施するよう措置すること。なお、引き継ぐ医療施設は、記録の保存に関して移植実施施設と同等の対応を実施できる施設でなければならない。

6 公衆衛生上の管理

 6.1 報告制度

  6.1.1 実施についての報告

  異種移植の実施により発生する可能性が否定できない既知及び未知の異種動物由来感染症に対する対応の在り方について、国際機関等により監視(サーベイランス)制度の必要性が唱えられていることを踏まえ、移植を実施した場合は、公衆衛生上の感染症拡大防衛のために必要な情報を国に報告することとする。

   (1) 報告責任者は、移植実施施設の長とする。

   (2) 報告は、移植の実施より7日以内に行うこと。

   (3) 報告先は、厚生労働省医政局研究開発振興課とする。

   (4) 報告内容

    a 移植実施施設の名称、住所等連絡先及び異種移植チームの総括責任者の氏名

    b 移植患者の性別及び年齢

    c 移植に至らしめた疾患名、ドナー動物名及び移植した細胞、組織又は臓器の名称

    d 移植患者及びドナー動物の記録及び試料の保管場所の名称、住所等連絡先(変更があった場合は、その旨を速やかに報告すること。)

  6.1.2 感染症発生時の報告

   異種動物由来感染症、同種移植で予期できない感染症又は公衆衛生学的に問題となり得ると思われる感染症が疑われる時には、診断及び適切な感染防御に務めるとともに、速やかに6.1.1(3)と同じ部署に報告すること。

   なお、同部署への報告のほか、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)において求められている報告が必要な場合は、別途同法に従った報告を行うこと。

  6.1.3 報告におけるプライバシーの保護

   可能な限り移植患者のプライバシーの保護に留意すること。また、一般に危険が及ぶことを防ぐことに必要がない限り、報告された内容は、一般に公開されることはない。

 6.2 試料等についての照会

  各項目に定めた記録及び試料については、厚生労働省、保健所等が照会した際には、直ちに確認できるよう管理しておくこと。


〔別添1〕OnionsD.,Cooper DK.,Yamanouchi K.et.al.An approach to the control of disease transmission in pig-to-human xenotransplantation.Xenotransplantation7(2),143―55(2000)

ドナーブタからヒトへの感染の危険性が排除されるべき病原体リスト注1,注2

(下線部はZOONOSIS)

〔ウイルス〕:

ブタパルボウイルス、ブタヘルペスウイルス、アフリカブタコレラウイルス、ブタポックスウイルス、ブタエンテロウイルス、ブタ水疱病ウイルス、ブタ水疱疹ウイルス、水疱性口炎ウイルス、ブタコレラウイルス、日本脳炎ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタインフルエンザウイルス、口蹄疫ウイルス、脳心筋炎ウイルス、狂犬病ウイルス、ブタアデノウイルス、アストロウイルス、ゲタウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、レオウイルス、ブタサイトメガロウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎、ブタ呼吸器型コロナウイルス、ブタルブラウイルス、カリシウイルス、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス、ブタE型肝炎ウイルス、メナングウイルス、ニパウイルス、ハンタウイルス、東部・西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ボルナウイルス、アボイウイルス、ポリオーマウイルス、ブタ内在性レトロウイルス

〔細菌〕:

エルシニア菌、気管支敗血症菌、クロストリジウム属、結核(ヒト型、ウシ型、鳥型菌)、サルモネラ菌、大腸菌、炭疽菌、ブタ丹毒菌、パスツレラ菌、ブタ赤痢菌、ヘモフィルス菌、ブドウ球菌、ブルセラ菌、ヘモパルトネラ、マイコプラズマ属、リステリア菌、アクチノバチルス菌、連鎖球菌、緑膿菌、ブタアクチノミセス、アクチノバチルス属、キャンピロバクター属、クラミジア、コクシエラ、ローソニア、レプトスピラ属、ブタエペロスロゾーン

〔真菌〕:

真菌類、トリコフィトン属他皮膚糸状菌

〔原虫〕:

トキソプラズマ、コクシジウム、パランチジウム、クリプトスポリジウム、サルコシスティス、パベシア、トリパノソーマ属、ブタ回虫、トキソカラ、エキノコッカス、紅色毛様線虫、蛭状鉤頭虫、肺虫、糞線虫、有鉤条虫、繊毛虫、毛様線虫、ブタ鞭虫、その他外部寄生虫

〔海外からの導入を含め、最も厳密にコントロールされているミニブタに残っている可能性がある微生物〕:

ブタサイトメガロウイルス、ブタガンマヘルペスウイルス、ブタサルコウイルス、ブタ内在性レトロウイルス1,2、ブタスピューマウイルス

注1 本リストは、ブタについてのスクリーニング検査法を定める際に現時点で考慮しなければならない病原体を掲げたものである。掲載されている病原体に関する検査については、科学的な根拠がある場合には、その実施を省略することができる。

注2 本リストに掲載されている病原体について検討を行うことは、移植患者への安全確保に必要なことであると同時に、移植患者等に予期できない重大な感染症が発生した場合に重要な意味を持つと考えられる。特に、予期できない感染症に関しては、予めリストに掲げた病原体について検討、検査し、移植患者への感染の危険性を排除しておけば、発生した感染症が未知の感染症である可能性が高いという判断につながり、すなわち、公衆衛生上の適切な対応の決定を速やかに行うことに役立つものと考えられる。


平成13年度厚生科学研究補助金(厚生科学特別研究事業)

異種移植の臨床研究の実施に関する安全性確保についての研究班 名簿

(敬称略)

井上一知 京都大学再生医科学研究所生体医学応用部門教授

小澤敬也 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門教授

加藤尚武 鳥取環境大学学長

金澤一郎 東京大学大学院医学系研究科教授

倉田毅 国立感染症研究所副所長

清水実嗣 独立行政法人動物衛生研究所所長

鈴木盛一 国立小児病院小児医療研究センター実験外科生体工学部部長

古川博之 北海道大学医学部置換外科再生医学講座教授

丸山英二 神戸大学大学院法学研究科教授

吉川泰弘 東京大学大学院農学生命科学研究科教授

吉倉廣 国立感染症研究所所長(班長)

(オブザーバー)

野本亀久雄 九州大学名誉教授