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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ウエストナイル熱の流行予測のためのへい死カラスの調査について

[場所] 
[年月日] 2002年11月20日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成14年11月20日)

(健感発第1120002号)

(成田空港検疫所、横浜検疫所、名古屋検疫所、関西空港検疫所、神戸検疫所、福岡検疫所、那覇検疫所各検疫所長あて健康局結核感染症課長通知)

 ウエストナイル熱の我が国への侵入監視に資するため、現在、自治体において、標記調査の整備を進めているところであるが、貴検疫所においても、下記のとおり調査に協力を御願いする。


   記

1 目的

 ウエストナイル熱は、近年その流行域を米国等に拡大しており、我が国もその侵入に備えた監視体制を構築することが必要となっている。そこで、ウエストナイル熱を媒介する蚊の侵入が最も想定される国際空港においては、蚊の調査に加え、米国で蚊の調査と同様にウエストナイル熱の流行予測に有効とされている、カラスの死亡を指標とする監視体制(いわゆる歩哨動物サーベイランス)を構築し、得られた結果を、他の定点観測地点での結果と併せて(注1)、国立感染症研究所において分析し、ウエストナイル熱の流行予測の一助とするものである。

2 方法

 調査を実施する検疫所(注2)においては、空港内の関係機関の協力を得て、へい死したカラスの監視ネットワークを構築する。具体的な方法は以下のとおりとする。

 (1) 空港内で公団警備会社等の関係機関が実施する毎日の巡回において、カラスの死体を確認した場合、その数を記録するよう、検疫所から関係機関等に依頼する。

 (2) 関係機関等で記録された情報を、1週間単位で、検疫所宛てに報告するよう依頼する。検疫所で集計したうえ、当分の間は検疫所業務管理室宛に報告する(注3)。

 (3) 万が一、疫学的に、ウエストナイル熱が疑われるカラスのへい死数の上昇等が確認され始めた場合は(注4)、検疫所において検査に適する新鮮な死体を採取し、速やかにドライアイスで冷凍状態としたものを検査施設に送付する(注5)。

(注1) 現在、東京都等の協力を得て、都内7ヶ所の公園において、カラスを歩哨動物としたウエストナイル熱のサーベイランス体制の検討を開始している(厚生科学研究班 班長:山田感染研獣医科学部長)。

今後、その結果を踏まえ、全国的なサーベイランス体制の整備を図る予定。

(注2) 成田空港検疫所、名古屋空港検疫所支所、関西空港検疫所、福岡空港検疫所支所及び那覇空港検疫所支所

(注3) 厚生科学研究班(班長:山田感染研獣医科学部長)により検疫所等で直接入力できるWebサイトを立ち上げる予定

(注4) 別添「ウエストナイル熱とカラス」を参照するとともに、検疫所業務管理室を通じて結核感染症課と協議すること。

(注5) 横浜及び神戸検疫所輸入食品・検疫検査センター


参考

山田研究班について

「動物由来感染症対策としての新しいサーベイランスシステムの開発に関する研究」

(平成14年度厚生科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業)

主任研究者:国立感染症研究所獣医科学部 山田部長

分担研究者:国立感染症研究所ウイルス第1部 倉根部長、その他

連絡調整 :厚生労働省健康局結核感染症課獣医衛生係


(別添)

「ウエストナイルウイルスとカラス」

 ウエストナイルウイルスには多くの哺乳動物並びに鳥類が感受性であるが、ニューヨークで発生したケースではカラス(American Crow, Covus brachyrhynchos)が最も高い感受性を示し、ウエストナイルウイルスにより死亡した可能性のある鳥の1/3から1/4を占める。カラスにおけるウエストナイルウイルス感染も疫学的には他の感染症と同様、流行は時間の経過にともなって、病気あるいは死亡数が徐々に増加し少なくとも数週間に亘って継続すると考えられる(図参照Eidson M.et aL,Emerg Infect Dis,7,615―620,2001)。一方、生物化学テロの場合は発生数が時間軸に対しにシャープなピークを示し、自然発生の感染症とは異なるパターンを示す。1999年のニューヨーク州におけるカラスの病気あるいは死亡数調査においては、71,332羽の殆ど(62,339羽、87.4%)は単独で発見されており、複数(2から100羽)で発見される場合でも平均は2.8羽である。

{グラフは省略}

 日本の主なカラスであるハシボソガラス(C.corone)、ハシブトガラス(C.macrorhynchos)がアメリカガラスと同様の感受性を示すかどうかは不明だが、もしアメリカのカラスと同等の感受性を示すのであれば、カラスの死亡動向調査はウエストナイルウイルスの国内侵入を察知するのに有効な方法と考えられる。

 もし他の死亡原因が考えられず、疫学的見地から何らかの感染症の自然発生が疑われるカラスの死体発見が継続する傾向がある場合、検査可能な新鮮な死体(死亡後24時間以内であり、腐敗したり蛆がわいたりしていない)であれば、できるだけ早く解剖し、脳、心臓、腎臓を摘出し、ウイルス分離あるいはRT-PCRにてウイルス感染の有無を検査する。すぐ検査出来ない場合には-20℃以下で保存し検査にまわす。また今後落ちカラスについては野鳥の会などの協力を得て可能な範囲で追跡することが望ましい。

(国立感染症研究所獣医科学部長 山田章雄)

参考文献

Edison M. et al., Emerg. Infect. Dis., 7, 631-635, 2001