データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] SARS対策について(SARS対策第19報)(SARS類似コロナウイルスが分離された中国産の野生動物への対応について)

[場所] 
[年月日] 2003年5月26日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成15年5月26日)

(健感発第0526003号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 SARS対策については、「ハノイ・香港等における病院内での原因不明の重症呼吸器疾患の集団発生に関するWHOの緊急情報について」(平成15年3月12日健感発第0312002号)等により、貴管内の関係機関への周知等の対応をお願いしているところである。

 今般、WHOが、SARSコロナウイルスに類似したウイルスが、中国南部の野生動物から分離されたとする香港と中国の合同調査団の報告をもとに、当該動物の取扱者等への注意喚起の必要性等を公表(平成15年5月23日付け第64報(別添))したことから、我が国においても、以下のとおり対応することとしたので、貴自治体においてもご協力御願いする。

 なお、WHOは、現時点では、当該中国産の野生動物がSARSの流行に関連したことが証明されていないとしていることから、今次の対応については予防的措置であることをご留意ありたい。

 また、これまでも厚生労働省においては、野生動物が保有する病気については不明な点が多いことから、特に輸入野生動物の家庭での飼育を避けるよう、ポスター、ハンドブック、ホームページ等により啓発を行ってきたところである(注)。貴管内においても一層その啓発に努めるよう御願いする。

 本通知については、関係省庁をはじめとし、日本獣医師会、日本動物園水族館協会、全日本動物輸入業者協議会等にも通知したことを申し添える。

(注)

・「動物由来感染症ポスター」 :平成15年3月20日事務連絡参照

・「動物由来感染症ハンドブック」:平成15年4月15日事務連絡参照

・「ホームページ・動物由来感染症を知っていますか」:平成13年7月26日

 事務連絡参照(URL http://www.forth.go.jp/mhlw/animal)


   記

1 当該中国産の野生動物を取扱う場合の注意喚起について

 貴管内で下記(1)の対象動物をペット飼育等取り扱うことがある場合は、下記(2)に基づき関係者に注意喚起すること。

 (1) 対象とする中国産の野生動物種(別紙)

  ①ハクビシン(masked palm civet)

  ②タヌキ(racoon-dog)

  ③中国イタチアナグマ(Chinese ferret badger)

 (2) 取扱上の注意事項

  WHOは、予防的措置として、これらの動物やその体液、排泄物等に触れる可能性のある者に対し注意喚起を行うべきとしていることから、現時点においては、飼育者等に対し、当該動物を取り扱う場合にあっては、体液等への直接接触を避け、飼育環境の清潔に努め、飼育環境の清掃作業等の後には手洗い等を励行するよう、指導すること。

  参考:

   1 動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003(平成15年5月16日付け結核感染症課事務連絡)

   2 ペット動物由来の感染症対策について(昭和63年12月26日衛乳第93号)

2 当該中国産の野生動物の国内での飼育等の状況と輸入状況の把握について

 (1) 貴管内における当該動物の飼育等に関する情報については、別紙にて当課まで連絡ありたい。なお、別紙については追って事務連絡するので、その間は適宜対応願いたい。

 (2) なお、当課では、関係機関、輸入団体等を通じ、当該動物の輸入状況の把握を行うと共に、その新たな輸入については自粛するよう関係団体等に要請しているところである。今後、新たに得られた情報をもとに、貴職に実態把握や注意喚起等の対応を要請する場合もあり、その際はよろしく対応方御願いしたい。

3 その他

 (1) 日本には、古来からハクビシン等が分布していることが知られているが、今次WHOが公表した健康危険情報が、これらの日本産の野生動物に直ちに当てはまるものではない。

 (2) なお厚生労働省では、厚生科学研究においてSARSの研究を行うこととしているが、ハクビシン等の動物についても、必要な調査を行う予定である。


(別添)

World Health Organization

Update 64 - Situation in Toronto, detection of SARS-like virus in wild animals 23 May 2003

Comments on the reported isolation of viruses related to the SARS coronavirus in wild animals in southern China

Research teams in Hong Kong and Shenzhen, China have today announced the results of a joint study of wild animals taken from a market, in southern China, selling wild animals for human consumption. The study detected several coronaviruses closely related genetically to the SARS coronavirus in two of the animal species tested (masked palm civet and racoon-dog). The study also found that one additional species (Chinese ferret badger) elicited antibodies against the SARS coronavirus. These and other wild animals are traditionally considered delicacies and are sold for human consumption in markets throughout southern China.

All six of the civets included in the study were found to harbour SARS coronavirus isolated in cell culture or detected by a PCR molecular technique. The animals also seroconverted and their sera inhibited the growth of SARS coronavirus isolated from humans. Vice versa, human serum from SARS patients inhibited the growth of SARS isolates from these animals.

Sequencing of viruses isolated from these animals demonstrated that, with the exception of a small additional sequence, the viruses are identical with the human SARS virus. Information on the potential role of animals in the transmission of SARS is important to overall understanding of SARS. Much more research is needed before any firm conclusions can be reached. At present, no evidence exists to suggest that these wild animal species play a significant role in the epidemiology of SARS outbreaks. However, it cannot be ruled out that these animals might have been a source of human infection.

As a precautionary measure, persons who might come into contact with these species or their products, including body fluids and excretions, should be aware of the possible health risks, particularly during close contact such as handling and slaughtering and possibly food processing and consumption.

The study provides a first indication that the SARS virus exists outside a human host. However, many fundamental questions remain. Samples were taken from one market only. Studies need to determine how widespread the SARS virus might be in animals in Guangdong and elsewhere, and if these animals can excrete virus in an amount sufficient to infect humans. Furthermore, the possibility of animal-to-animal transmission has to be investigated. For example, the presence of virus could result from consumption of an infected prey.


(参考:国立感染症研究所仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)多国同時集団発生の報告

(5月23日、更新第64報)

トロントの状況と野生動物でのSARS様ウイルスの検出

 中国南部の野生動物からSARSコロナウイルスに関連したウイルスが分離された報告に対するコメント

 中国の香港と深川の研究チームは本日、中国南部で食用の野生動物を売っている市場で入手した、野生動物に関する共同研究の成果を発表した。この研究では、検査したうちの2種の動物(ハクビシンとタヌキ)から、SARSコロナウイルスに遺伝的に近い幾つかのコロナウイルスを検出した。この研究ではまた、もう一つ別の種(中国イタチアナグマ)がSARSコロナウイルスに対する抗体を持っている事も発見した。これらと他の野生動物は、伝統的に珍味と考えられており、中国南部中の市場で食用として売られている。

 実験に用いられた6匹のハクビシンすべてがSARSコロナウイルスを持っており、ウイルス培養あるいはPCR法によって分離、検出された。これらの動物はまた、抗体が陽性となっており、その血清はヒトから分離されたSARSコロナウイルスの増殖を阻害した。これとは反対に、SARS患者血清はこれら動物から分離したSARSウイルスの増殖を阻害した。

 これら動物から分離したウイルスのシークエンス(遺伝子配列)は、短いシークエンスが付け加わっている以外は、ヒトのSARSウイルスと同一であることが示された。

 SARSの感染経路において動物が果たす可能性のある役割に関する情報は、SARS全体の理解に非常に重要である。どのような確固たる結論にも達する前に、さらに研究を重ねる事が必要とされている。現時点では、これらの野生動物の種がSARS集団発生の疫学に置いて、いかなる重要な役を演じたのかを示唆する証拠がまったくない。しかしながら、これらの動物がヒトの感染症の原因であったかもしれない可能性は、否定してしまう事はできない。

 予防的措置として、これらの種や体液や分泌物を含むその産生物と接触する可能性のある個人は、特に取り扱い時や屠殺時、可能性として食品加工処理時や摂食時などに、可能性のある健康リスクに十分注意しなければならない。

 この研究は、SARSウイルスがヒト以外の宿主に存在する最初の示唆を示した。しかしながら、多くの根本的疑問がまだ残っている。対象は一つの市場からだけ集められている。研究により、広東省や他の地域でSARSウイルスが動物間にどれだけ広く広がっているかを特定し、これらの動物がヒトを感染させるのに十分な量のウイルスを分泌することができるのかどうかを知る必要がある。さらに、動物間の感染伝播があり得るのかについても調査が必要である。たとえば、ウイルスの存在は、感染した獲物を摂取しただけであることも考えられる。


(別紙)

Paguma ハクビシン属

Pagama laryata ハクビシン

masked palm civet(英)

インド、ネパール、チベット、中国(北は河北まで)、挟西、台湾、海南島、ビルマ、タイ、西マレーシア、スマトラ、北ポルネオ、南アンダマン諸島。日本にもいるが、移入されたものかどうか不明。樹上生活。

体調63cm、尾長59cm、体重4.8kg。体毛は一様に灰色あるいは黄褐色から黒色まで、地理的な変異がある。

顔面は暗色だが、鼻すじの白いすじと眼の下と耳の前方に斑点があり、目立つ。尾の先端が白いことも多い。

Nyctereutes タヌキ属

Nyctereutes procyonoides タヌキ

raccoon dog(英)

極東アジア、シベリア東部、中国、日本、インドシナ半島北部、ヨーロッパに移入されている。疎林や森林ぞいの渓谷。

体長50~60cm、肩高20cm、尾長18cm、体重は最大7.5kg。体毛は、胴体は長いまだらの黒褐色、顔は黒、四肢はつやのある黒、尻尾には黒いしまがある。

妊娠期間は60~63日。寿命は不明。5亜種がある。

Melogale イタチアナグマ属

Melogale moschata シナ(中国)イタチアナグマ

Chinese ferret badger(英)

中国、台湾、アッサム、ビルマ、東南アジアに分布

出典:世界哺乳類和名辞典(平凡社)