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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国における人でのサル痘(Monkeypox)の発生について(ペットのプレーリードッグを介した人への感染事例)

[場所] 
[年月日] 2003年6月10日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成15年6月10日)

(健感発第610002号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 今般、米国CDCが、国内の3州(ウィスコンシン、イリノイ、インディアナ)において、サル痘に19名が罹患し、いずれの患者もサル痘に感染したプレーリードッグと接触して感染した疑いがあることを公表しました。これを踏まえ、我が国においても、下記の情報提供等の対応を行うこととしましたので、御了知の上、関係者への周知等、よろしく対応方お願いします。

 なお、本通知については、財務省、農林水産省、環境省の他、日本医師会、日本獣医師会、全日本動物輸入業者協議会等にも通知したことを申し添えます。


   記

1 CDC報道公表とサル痘(Monkeypox)の概要について

 (1) 本件を報じるCDC報道公表(6月7日付け)及びその仮訳(別添1)

 (2) サル痘の概要(別添2)

2 我が国で飼育されているプレーリードッグとの関連

 米国におけるサル痘の患者発生は、本年5月に米国内のペット業者が取り扱ったプレーリードッグとの接触に起因したとされており、本年3月1日以降、感染症法に基づいて我が国へのプレーリードッグの輸入は禁止されていることから、現在国内で飼育されているプレーリードッグが本件に関連しサル痘に感染しているおそれはありませんので、保健所等への相談に対しても、その旨回答して頂くようお願いいたします。

3 輸入野生動物の家庭での飼育について

 厚生労働省においては、野生動物が保有する病気については不明な点が多いことから、特に輸入される野生動物の家庭での飼育は控えるよう、これまでも、ポスター、ハンドブック、ホームページ等により啓発を行ってきたところです。本件の発生を踏まえ、貴管内においても一層その啓発に努めるよう御願いします。

4 我が国におけるサル痘の患者発生の対応について

 我が国においては、これまでサル痘の発生は報告されておりませんが、念のため、貴管内の医療機関において、米国でプレーリードッグやガンビアネズミと接触等した後に、発熱、発痘等のサル痘を疑わせる症状を呈した患者の発生があった場合には、その旨、当課宛てに報告いただくよう御願い致します。


(参考)

CDC報道公表にあったガンビアネズミについて

(1) 米国でサル痘に感染したプレーリードッグは、発症があったガンビアネズミとともに飼育されていたとされています。

(2) ガンビアネズミは、サル痘の流行地域である中央及び西アフリカにも生息していることが知られていますが、同地域からの、ガンビアネズミを含む野生げつ歯類の我が国への輸入については、これまでのところ本年1月~5月では確認されておりません。

(3) しかし、米国における本件の発生を踏まえ、中央及び西アフリカからの当該ネズミを含むげっ歯類の輸入については自粛するよう、動物輸入団体に対し要請致しました(別添3)。

※同旨の通知は社団法人日本医師会感染症危機管理対策室長、社団法人日本獣医師会会長にも発出された。


(別添1)

Press Release

June 7, 2003

Contact: CDC Media Relations

Public Health Investigation Uncovers First Outbreak of Human Monkeypox Infection in Western Hemisphere

Public health officials from the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) and the states of Wisconsin, Illinois and Indiana have reported the first outbreak of human infections with a monkeypox-like virus to be documented in the Western Hemisphere. Thus far, 19 cases have been reported: 17 in Wisconsin, one in Northern Illinois, and one in Northern Indiana. All patients who have become ill reported direct or close contact with ill prairie dogs.

CDC is advising physicians, veterinarians, and the public to report instances of rash illness associated with exposure to prairie dogs, Gambian rats and other animals to local and state public health authorities. CDC also has issued interim recommendations for infection control calling for health care personnel attending hospitalized patients to follow standard precautions for guarding against airborne or contact illness. Veterinarians examining or treating sick rodents, rabbits and such exotic pets as prairie dogs and Gambian rats are advised to use personal protective equipment, including gloves, surgical mask or N-95 respirator, and gowns.

The prairie dogs were sold by a Milwaukee animal distributor in May to two pet shops in the Milwaukee area and during a pet “swap meet” (pets for sale or exchange) in northern Wisconsin. The Milwaukee animal distributor obtained prairie dogs and a Gambian giant rat that was ill at the time from a northern Illinois animal distributor. Investigations are underway to trace the source of animals and the subsequent distribution of animals from the Illinois distributor. Preliminary information suggests that animals from this distributor may have been sold in several other states.

Human monkeypox is a rare, zoonotic, viral disease that occurs primarily in the rain forest countries of Central and West Africa. It is a member of the orthopox family of viruses. In humans, infection with monkeypox virus results in a rash illness similar to but less infectious than smallpox. Monkeypox in humans is not usually fatal. The incubation period is about 12 days. Animal species susceptible to monkeypox virus may include non-human primates, rabbits, and some rodents.

Scientists at the Marshfield Clinic in Marshfield, Wisconsin, recovered the first viral isolates from a patient and a prairie dog. Through examination with an electron microscope they demonstrated a poxvirus.

Physicians should consider monkeypox in persons with fever, cough, headache, myalgia, rash, or lymph node enlargement within 3 weeks after contact with prairie dogs or Gambian giant rats.

eterinarians examining sick exotic animal species, especially prairie dogs and Gambian giant rats, should consider the possibility of monkeypox. Veterinarians should also be alert to the development of illness in other animal species that may have been housed with ill prairie dogs or Gambian giant rats.

Local, state, and federal agencies and private institutions that have participated in this investigation to date have included the Marshfield Clinic and Marshfield Laboratories, Froedtert Hospital and Medical College of Wisconsin, the City of Milwaukee Health Department and at least 10 additional health departments in Wisconsin and Illinois, the Wisconsin Division of Public Health, Wisconsin Department of Agriculture Trade and Consumer Protection and Wisconsin State Laboratory of Hygiene, the Illinois Department of Public Health, the Illinois State Department of Agriculture, the Indiana State Department of Health, and the US Department of Agriculture.

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Note to Editors: For electron microscope images, please see http://research.marshfieldclinic.org/crc/prairiedog.asp For additional information about monkeypox, see http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no3/hutin.htm CDC Monkeypox website

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CDC protects people's health and safety by preventing and controlling diseases and injuries; enhances health decisions by providing credible information on critical health issues; and promotes healthy living through strong partnerships with local, national, and international organizations.


[CDC報道公表(仮訳)]

2003年6月7日 CDC広報部

公衆衛生当局、西半球で最初のヒトのサル痘感染を発見

 疾病対策センター(CDC)とウイスコンシン州、イリノイ州、ならびにインディアナ州の公衆衛生当局からの報告によると、西半球で最初のサル痘様ウイルスによるヒトの感染流行が発生した。現在まで報告された症例数は19例で、うち17例がウイスコンシン州、1例がイリノイ州北部、残り1例がインディアナ州北部における発生である。これらの患者は全員、発症プレーリードッグとの直接または密な接触があったとされる。

 CDCは、医師、獣医師ならびに一般市民に対して、プレーリードッグやガンビアネズミ(サバンナアフリカオニネズミ)、またはそのほかの動物との接触が原因と考えられる皮疹があらわれた場合には、最寄りおよび州の公衆衛生局へ届け出るよう求める。また医療機関に対しては暫定的な措置として入院患者の治療は空気感染および接触感染予防のための標準措置に従って行うよう勧告する。獣医師が齧歯類ウサギ類およびプレーリードッグやガンビァネズミのようなエキゾチックペットの治療を行う際は手袋、N―95外科用マスク、およびガウンを着用して個人的な防護措置をとること求める。

 原因となったプレーリードッグは去る5月、ミルウオーキーの動物商によってミルウオーキーの2カ所のペットショップに卸したものとウイスコンシン北部で行われたペット交換会で販売したものであった。この動物商は問題のプレーリードッグをガンビアネズミとともにイリノイ州北部の別の動物商から入手し、その時点で既にガンビアネズミは発症していたとされる。このイリノイ州の動物商が動物を仕入れた先および販売先に関しては現在調査中である。現時点では、イリノイ州の動物商からは他州の数カ所へ販売された可能性が指摘されている。

 ヒトにおけるサル痘感染は希にみられる動物由来ウイルス感染症で、おもに中央アフリカおよび西アフリカの熱帯雨林の国々で発生している。このウイルスはオルソポックス科に属する。ヒトのサル痘感染では痘瘡に類似した皮疹が認められるが痘瘡に比べて感染力は弱い。

 通常ヒトのサル痘は致死的ではない。潜伏期間はおよそ12日である。サル痘ウイルスに感受性のある動物にはサル類、ウサギ類、および一部の齧歯類が含まれる。

 マーシュフィールド病院(マーシュフィールド、ウイスコンシン州)で患者およびプレーリードッグから最初に分離されたウイルスは電子顕微鏡観察の結果ポックスウイルスに属することが証明されている。また、PCR法により得られたウイルス遺伝子の塩基配列から、ウイルスがサル痘であることが示唆されている。

 医師は、プレーリードッグまたはガンビアネズミとの接触後3週間以内に発熱、咳、頭痛、筋痛、皮疹、またはリンパ節の腫大を訴える患者を診察した場合には必ずサル痘を疑う必要がある。獣医師は、病気のエキゾチック動物特にプレーリードッグやガンビアネズミを診察した場合にはサル痘の可能性を考慮する必要がある。この際獣医師は病獣と同居していた可能性のある他の動物にも感染が広がっていないか注意する必要がある。

 本調査は以下の公立または連邦政府機関ならびに私立機関によって行われた。マーシュフィールド病院とマーシュフイールド研究所、フレテルト病院とウイスコンシン医科大学、ミルウオーキー市衛生部、ウイスコンシン州およびイリノイ州内の10カ所以上の衛生部、ウイスコンシン州衛生部、ウイスコンシン州農業貿易および消費者保護部、ウイスコンシン州衛生研究所、イリノイ州公衆衛生部、イリノイ州農務部、インディアナ州保健部、ならびに米国農務省。


(別添2)

サル痘(monkeypox)

 サル痘ウイルスは、1958年にコペンハーゲンにシンガポールより輸入されたカニクイザルから分離されたことにより命名された。天然痘撲滅計画の中で西アフリカのヒトの感染例が発見され、注目された。

病原体:オルソポックス属に属するサル痘ウイルス。痘瘡ウイルスとはウサギ皮膚に発痘する点で異なる。

疫学:中央及び西アフリカ(コンゴ民主共和国(旧ザイール)、コンゴ共和国、ガボン、コートジボワール、シエラレオネ、カメルーン、中央アフリカ共和国、リベリア、ナイジェリア)の熱帯雨林に分布する。アジアのサルの感染例が報告されているが、それ以外のアジア産の野生サルの抗体陽性例は認められない。わが国での記録はない。

感染機構は接触感染による。流行地の住民はサルを含む野生動物を食用などの目的で捕獲、解体することにより感染すると考えられる。ヒトからヒトへの感染も起こる。

病原巣としては、流行地のサル類で抗体が検出されず、またウイルスの分離にも成功していないことからサルが病原巣とは考えにくい。リスの1種(Funisciurus anerythrus)よりウイルスが分離され、リスなどのげっ歯類が自然宿主と考えられている。

(1996~1997年のアフリカでの流行)

1996年と1997年の夏にザイールなどアフリカの13の村の住民のあいだでサル痘と思われる流行が発生した。患者からはサル痘ウイルスが分離されている。この発生ではヒトからヒトへの伝播が認められ、それまで散発していた発生例と比べると伝播様式が変化した可能性もある。それまでは動物からヒトへの散発的な伝播が主であった。ただ死亡率は今まで報告されている10%と比べ3%と低い。患者のほとんどは14歳以下で種痘はなされていなかった。

症状:ヒトでは痘瘡に類似し、発熱、発痘を主徴とする。15歳以下の子供に多く発症が認められ(80%以上)、死亡率は約1~10%である。

診断:オルソポックスとしての診断は血清学的、ウイルス学的に容易である。しかしサル痘としての特異的診断はラジオイムノアッセイ、単クローン抗体、電子顕微鏡により行われ特定の研究室でのみ可能である。ウイルス遺伝子を増幅し、その塩基配列を決めれば確定する。

治療:特異的な治療方法はない。

出典:獣医公衆衛生学、感染症予防必携、Report of a WHO Meeting(Technical Advisory Group on Human Monkeypox. 11-12 January 1999)


(別添3)

○米国における人でのサル痘(Monkeypox)の発生について(ペットのプレーリードッグを介した人への感染事例)

(平成15年6月10日)

(健感発第0610002号)

(社団法人日本動物園水族館協会会長・全日本動物輸入業者脇議会会長・全国ペット小売業協会あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 今般、米国CDCが、国内の3州(ウィスコンシン、イリノイ、インディアナ)において、サル痘に19名が罹患し、いずれの患者もサル痘に感染したプレーリードッグと接触があったことを公表しました。これを踏まえ、別添のとおり情報提供等の対応を行うこととしました

(別添参照)。

 つきましては、本件について、貴会会員へ情報提供方いただくと共に、中央及び西アフリカからのげっ歯類の輸入については、当分の間、自粛いただくようお願いいたします。あわせて、本年5月以降、当該地域からのげっ歯類の輸入に関する情報がございましたら、当課までご提供願います。

 本通知については、各自治体をはじめ、関係省庁、関係機関等にも通知したことを申し添えます。


○米国における人でのサル痘(Monkeypox)の発生について(ペットのプレーリードッグを介した人への感染事例)

(平成15年6月10日)

(健感発第0610002号)

(財務省関税局業務課長・財務省関税局監視課長・農林水産省生産局畜産部衛生課長・環境省自然環境局総務課長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 今般、米国CDCが、国内の3州(ウィスコンシン、イリノイ、インディアナ)において、サル痘に19名が罹患し、いずれの患者もサル痘に感染したプレーリードッグと接触して感染した疑いがあることを公表しました。これを踏まえ、別添のとおり輸入者団体に対し、中央及び西アフリカからのげつ歯類の輸入の自粛要請いたしました(別添参照)。

 つきましては、本件について関係者への情報提供方いただくとともに、当該動物の輸入情報がございましたら、当課まで提供方よろしくお願いいたします。

 本通知については、関係省庁をはじめ、日本動物園水族館協会、全日本動物輸入業者協議会等の関係機関にも通知したことを申し添えます。