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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カナダにおけるハムスターでの野兎病発生事例について

[場所] 
[年月日] 2004年10月19日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成16年10月19日)

(健感発第1019001号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 標記については、今般、カナダ公衆衛生当局により、カナダ国内で生産及び販売されたハムスターにおいて野兎病の感染が確認されたとの国内向けの注意喚起がありましたので情報提供します。

 これまで、当課で行った調査では、本件に関連したものを含めたハムスターのカナダから日本への輸入実績は認められませんでしたが、輸入動物に起因する感染症発生防止に資するため、下記のとおり、本情報を動物の輸入、販売を行う動物等取扱業者に情報提供し、引き続き安全な動物の輸入、販売に努めるよう指導してください。

 なお、家庭等でハムスターを始め感染症を媒介する可能性のある動物を飼育する者に対しては、引き続き動物由来感染症に関する正確な知識の習得について周知を要請します。


   記

1 カナダにおける発生状況の概要について(別添1「カナダ政府公衆衛生当局公表」参照)

 (1) カナダマニトバ州の動物卸売業者が販売したハムスターから野兎病が検出された。

 (2) これまでのところ、本件に関係したハムスターによる人の健康危害は確認されていない。

 (3) カナダ政府は、ハムスターが販売された特定の州の住民のうち、過去3ヶ月以内にハムスターを購入した者に対し、野兎病の感染について注意喚起を行った。

2 日本国内の動物等取扱業者への指導について

 カナダにおける本事例について情報提供を行い、当方で作成した「動物等取扱業のための野兎病Q&A」(別添2)を配付の上、今後とも輸入動物の一層の衛生管理に留意するよう注意喚起を行われたい。

 また、ハムスターを含む齧歯目や兎目の動物の輸入及び販売を行う動物等取扱業者に対しては、野兎病等の感染症を疑う動物が確認された場合は保健所等に相談するように指導されたい。


[別添1]

2004-52

October 2, 2004

For immediate release

Advisory

The Public Health Agency of Canada Advises of a Potential Health Concern Related to Dwarf/pigmy or Regular Hamsters

OTTAWA-The Public Health Agency of Canada is advising Canadians in British Columbia, Alberta, Saskatchewan, Manitoba and northwestern Ontario who have purchased a dwarf/pigmy or regular hamster in the past three months of a potential health concern.

Ill hamsters from a pet distributor in Manitoba have tested positive for Type B tularemia. It is a rare and usually mild disease in humans that can be treated with antibiotics. In rare cases, some forms of tularemia can be fatal.

The purpose of this advisory is to ask people who have purchased a hamster in the past three months to contact their health care provider if both they and their hamster have experienced illness.

"We believe the risk to human health is low, but if people have sick hamsters and are feeling ill themselves, we want them to advise their health care provider," explained Dr. David Butler-Jones, the Chief Public Health Officer of Canada.

Ill hamsters, along with other small mammals(chinchillas, guinea pigs, gerbils, degues)that were included in shipments with the hamsters, were sent to pet stores in British Columbia, Alberta, Saskatchewan, Manitoba and northwestern Ontario. At present, there is no indication of illness in the other animals. The British Columbia Centre for Disease Control, Alberta Health and Wellness, Saskatchewan Health, Manitoba Health, the Ontario Ministry of Health and Long-term Care and the Public Health Agency of Canada are working together closely on this investigation.

Tularemia is a bacteria found naturally in wild animals, particularly rodents. Human tularemia disease is rare and is not known to spread from person to person.

Tularemia is usually transmitted by contact with infected animals or their cages/immediate environment. This means:

- being bitten or licked by the animal,

- handling or cleaning the animal, its toys, cage and feeding equipment,

- breathing in air contaminated with the bacteria, or

- eating or drinking contaminated food or water.

Symptoms of tularemia may include ulcers on the skin or mouth, swollen glands and painful lymph glands, sudden fever, chills, headache, diarrhoea, muscle aches, dry cough, progressive weakness, joint pain, sore throat and swollen and painful eyes. Symptoms usually appear three to five days after exposure to the bacteria but can take as long as 14 days to appear.

If your hamster appears sick or dies, and within 14 days you also feel ill, see your health care provider. Be sure to let your health care provider know why you think you may have been in contact with tularemia. Advise your health care provider to speak with your local or regional public health office.

Pet stores should closely monitor their hamsters and notify their local veterinarian if they observe illness and higher than usual mortality.

Handling sick/dead animals and their accessories

When handling sick or dead animals or items from their environment (cages, toys, dishes), wear gloves made of rubber, latex or other water-proof material. Commercially available dishwashing gloves that have no tears are adequate. Remember to wash your hands thoroughly with warm water and soap or an alcohol hand gel after removing your gloves and after every contact with the sick animal or its environment. If your hamster dies, you should double bag it and dispose of it in the garbage or bury it deep enough(1 metre)that it will not be dug up by other animals.

The cage and animal accessories should be washed in hot soapy water using any commercially available household disinfectant. Rinse the cage in a 10% bleach solution(one part household bleach, nine parts water).Let the cage air dry for at least 10 minutes. A 70% solution of alcohol can then be used to further clean the area and reduce the corrosive action of the bleach. Consult your pet store before using the cage for another animal.

Equipment, including cages and toys, can be disposed of in regular household waste. All the items should be cleaned using the procedure described above before disposal. When handling litter, if possible, wear a mask. Wrap contaminated litter in plastic prior to disposal. Do not attempt to disinfect the litter.

After handling animals, or after being licked or bitten by a household pet, be sure to always wash your hands thoroughly with warm water and soap or an alcohol gel. The same should be done after handling pet toys or cleaning bowls or cages used by animals. Hand washing is the best way to prevent the spread of disease.


カナダ保健省公表資料(仮訳)

2004-52

2004年10月2日

緊急発表

勧告

カナダ公衆衛生局はドワーフ/ピグミーハムスターあるいは普通のハムスターによる健康懸念の可能性について勧告します

オタワ―カナダの公衆衛生局は、ブリティッシュコロンビア、アルバータ、サスカチュワン、マニトバおよび北西オンタリオにおいて過去3ヶ月にドワーフ/ピグミーあるいは普通のハムスターを購入した方に健康懸念の可能性があることを勧告いたします。

マニトバのペット販売者が販売した病気のハムスターからタイプBの野兎病菌が検出されました。野兎病は、ヒトにおいては稀な、通常は軽い疾病であり、抗生物質で治療できます。稀に致命的になる場合もあります。

この勧告の目的は過去3ヶ月にハムスターを購入した人に対し、その人自身及び購入したハムスターにおいて体の不調を経験している場合は、かかりつけ医師と連絡をとるように求めることです。

“私たちは、人間の健康への危険は低いと信じます。しかし、飼っているハムスターが病気で、自分自身の体の具合が悪ければ、かかりつけ医師に助言を求めて欲しい”とデヴィッド・バトラー=ジョーンズ博士(カナダのチーフ公衆衛生オフィサー)は説明しています。

病気のハムスターは、他の小さな哺乳動物(チンチラ、モルモット、アレチネズミ、デグー)とともに、ブリティッシュコロンビア、アルバータ、サスカチュワン、マニトバおよび北西オンタリオのペットショップへ出荷されました。現在、他の動物に病気の兆候はありません。ブリティッシュコロンビア疾病管理センター、アルバータ健康増進局、サスカチュワン保健局、マニトバ保健局、オンタリオ長期介護保健局およびカナダ公衆衛生局は、この件を緊密な協力の下に調査しています。

野兎病菌は野生動物、特に齧歯類において自然に見つかる細菌です。ヒトの野兎病はまれで、人から人へ広がるとは考えられていません。

野兎病は、通常、感染した動物自身あるいはそれらのケージや身近な環境との接触によって伝播されます。これは次のことを意味します:

・ 動物によって噛まれたりなめられたりする

・ 動物、その玩具、ケージおよびえさ箱の取り扱いや清掃

・ 細菌で汚染された空気を吸い込む、あるいは、

・ 汚染された食物あるいは水を食べるか飲むこと。

野兎病の症状として、皮膚や口の潰瘍、リンパ節の腫脹あるいは疼痛、突然の発熱、寒気、頭痛、下痢、筋肉痛、乾性咳(痰を伴わない咳;訳注)、進行性の衰弱、関節痛、咽喉痛および眼の腫れや痛みなどが出現することがあります。これらの症状は通常バクテリアへの曝露の3~5日後に現われますが、14日間かかることもあります。

もしあなたのハムスターが病気になったり死んだりし、14日以内にあなたが体調不良を感じたならば、かかりつけ医師の診察を受けてください。なぜあなたが野兎病菌に接したかもしれないと思うのかを、かかりつけ医師に必ず知らせてください。地方公衆衛生当局に通報するよう、かかりつけ医師に助言してください。

ペットショップは所有するハムスターを綿密にモニターし、病気に気づいたり死亡率が通常より高い場合、地元の獣医師に通知するべきです。

病気や死んでいる動物およびそれらの関連物の取扱い

病気や死んでいる動物あるいはそれらの動物の飼育環境にあった物(ケージ、玩具、皿)を扱う場合には、ゴム、ラテックスあるいは他の防水素材で作られた手袋を着用してください。市販の破れていない食器洗い用手袋で結構です。手袋を脱いだ後や病気の動物あるいはその飼育環境にあった物に触れた後は、暖かい水と石鹸で、あるいはアルコールハンドゲルで十分に手を洗うことを忘れないでください。あなたのハムスターが死んだ場合、二重の袋に入れ廃棄物として処分するか、それが他の動物によって掘り出されないように十分に深く(1m)埋めるべきです。

ケージと動物に使用した物は市販の家庭用消毒剤を使用して、熱い石けん水の中で洗うべきです。10%の漂白剤(1割の家庭用漂白剤、9割の水)でケージを濯いでください。ケージを少なくとも10分間乾かしてください。その後、さらにそのエリアを清潔にするために、かつ漂白剤の腐食作用を少なくするために70%アルコールが使用できます。別の動物のためにケージを使用する前にペットショップに相談してください。

ケージと玩具などの飼育道具は、通常の家庭ゴミとして廃棄することができます。すべての物品は上記の手法を用いて清潔にした後に処分するべきです。動物用ベッド(床敷き;訳注)を扱う場合、可能な場合はマスクを着用してください。汚染した動物用ベッドを処分する前にプラスチックで包んで下さい。動物用ベッドを消毒しようとしないでください。

動物を扱った後や、家庭のペットになめられたり噛まれた時は、暖かい水と石鹸、あるいはアルコール・ゲルで必ず手を十分に洗ってください。ペット用玩具を扱った後や、動物が使用したボウルやケージを清掃した後も同様にすべきです。手洗いは疾病の拡大を防ぐ最良の方法です。


[別添2]

動物等取扱業者のための野兎病Q&A

今般、カナダ国内におけるペット用ハムスターの野兎病発生事例を踏まえ、ペット動物の安全確保のために、動物の輸入者、販売者など動物等取扱業の方に野兎病に関する正しい知識と現状について理解を深めていただきたく、厚生労働省において、次のとおり野兎病に関するQ&Aを作成しました(平成16年10月19日)。

1.野兎病について

Q1 野兎病とはどのような病気ですか。

A1 野兎病菌を原因とする感染症で、本来は、野ウサギや野ネズミなどの野生の齧歯類の病気であり、ヒトに対しては感染動物との接触などにより感染する動物由来感染症の一つです。

Q2 ヒトや動物での発生はこれまでどのような地域で報告されていますか。また日本でも報告されていますか。

A2 ヒトの野兎病は、北半球で確認されており、米国では、毎年200名程度が感染しています。我が国でも以前は感染した野ウサギからヒトの感染が確認されていましたが近年ではまれです。

 また、動物での感染事例として、近年米国において、プレーリードックがこの病気に感染していたことが報告されています。なお、我が国でも、野ウサギなどの一部の野生動物から野兎病が確認されています。

Q3 ハムスターが野兎病に感染する原因と、感染した場合、どのような症状が見られますか。

A3 野兎病が野ネズミなどの齧歯類で確認されている地域では、野兎病に感染した野ネズミとの接触により、あるいは、野兎病菌を持っているダニなどの吸血によりハムスターなどの齧歯類が感染することが考えられます。また、過去に海外で発生した、シリアンゴールデンハムスターの繁殖場での流行時には、身を縮ませる、毛を逆立てるなどの症状を呈した後48時間以内に死亡したとされています。なお、症状で野兎病であることを断定することは困難であり、通常より死亡率が高いなどの異常が発生した場合、保健所や獣医師に相談する必要があります。

2.ヒトの感染経路、症状、治療について

Q4 野兎病はどのようにして感染しますか

A4 ヒトは感染した動物(野ウサギ、野ネズミなどの齧歯類)に直接接触することにより皮膚から感染する他に、野兎病菌を持ったダニなどにヒトが刺されることで感染することがあります。また、海外では汚染した生水の摂取や汚染された塵芥の吸入で感染した事例もあります。

Q5 ハムスター以外から野兎病が感染することはありますか。

A5 野兎病に感染した野生のネズミ、リスなどの齧歯類、ウサギから直接あるいは、これらに感染した動物に寄生したダニやノミなどにヒトが刺されることにより感染します。

Q6 野兎病は、ヒトからヒトへ感染しますか。

A6 通常、ヒトからヒトへ感染することはありません。

Q7 野兎病にかかった時はどのような症状がでますか。

A7 突然、悪寒、波状熱(39~40℃)、頭痛、筋肉痛、菌の侵入部位に近いリンパ節の腫脹と疼痛などの症状を示します。また、野兎病菌が侵入した皮膚(傷口や咬まれた部位)に潰瘍もできます。

Q8 野兎病に感染した場合どの位で症状がでますか。

A8 感染してから症状が出るまでの期間(潜伏期間)は1~7日間ですが、通常3日間程度です。

Q9 野兎病の症状は通常どの位続きますか。

A9 抗生物質の投与を2週間程度行えば、症状はなくなります。

Q10 野兎病の治療方法はありますか。

A10 全身治療の方法として、抗生物質のストレプトマイシンが良く効きます。また、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、マクロライド系抗生物質が有効です。局所治療としては、膿瘍となったリンパ節を穿刺し、排膿(3~4日ごと)し、ストレプトマイシンの局所注入又は病巣の掻爬(そうは)を行います。

3.輸入あるいは、国内の販売施設等で飼育されるハムスターへの対応

Q11 ハムスターは、カナダをはじめとして世界からどの程度輸入されていますか。また、現在、動物等取扱業で飼育しているハムスターは大丈夫でしょうか。

A11 我が国には、平成15年には、年間約50万匹のハムスターが輸入され、その殆どが欧州からの輸入でした。また、今回、野兎病が確認されたハムスターも含め、カナダからの輸入は認められませんでした。

 このことから、現在、販売等のために飼育されているハムスターについて、特段の対応の必要はありませんが、動物等取扱業者の責務として、今後とも輸入・販売されるハムスターの衛生管理に努める必要があります。万一、動物等取扱業者で飼育されているハムスターに異常を認めた場合には、保健所に相談すべきです。

Q12 ペットショップなどで飼育されているハムスターで野兎病に関して注意すべきことは、ないでしょうか。

A12 所有するハムスターを綿密に観察し、病気に気づいたり死亡率が通常より高い場合は、保健所や獣医師に相談すべきです。

Q13 今後、販売のために輸入や国内で繁殖・飼育するハムスターに対してどのような対策が必要でしょうか。

A13 ハムスターを含めた齧歯類によるヒトの野兎病感染を防止するためには、まず、野兎病に感染のおそれのある、野生で捕獲されたウサギや齧歯類の輸入や保管を避けるべきです。

 なお、厚生労働省は、ハムスターを含めた齧歯類などの輸入動物を原因とする感染症の発生を防止するために、平成17年9月1日より、動物の輸入届出制度を実施します。届出に際しては、狂犬病の症状を示していないこと、野兎病を含めペストなど計7種類の感染症が発生していない施設で出生以来保管されていたことを証明する輸出国政府機関発行の証明書の添付が必要となります。当然のことながら、輸入届出制度開始以前であっても、こうした野兎病感染防止対策のとれたハムスターを輸入すべきです。